第六十三話 天守で雑談
説明が多い気がしてすみません!!
上月城を尼子から奪取し、小早川隆景との対面が叶った寧々子たち。
何かの取引か、和睦の交渉か、尼子氏の首を差し出すと言った以上は何かしらの要求をされるだろうと踏んでいた小早川隆景に、竹中半兵衛は「ただ話がしたかった」と告げる。
呆気にとられた隆景は、思わず「話が、したい?」とだけ反芻する。
「はい。無論、僕にも立場がありますので軍事的なことも話すつもりですが、まずは雑談を交わしたいです。かの毛利元就が自身の息子たちの中で己が知を託すにふさわしいと考えたあなたを知りたい」
「そんな大げさです~。僕が末っ子で、長きに渡って家にいたこともあるからでしょう。父上が真に託したかったのは隆元兄上だったでしょ~から」
毛利隆元は、現在の毛利家当主・毛利輝元の実の父にして毛利元就の長男。
小早川隆景や吉川元春からは実の兄にあたり、今はこの世にいない。
武に秀でた元春、知に秀でた隆景と、軍事的部分において秀でた才覚のある弟たちに比べ、隆元は無才覚で優柔不断、今でいうネガティブ気質と自他共に武将に向いている人間ではなかったと言われている。
しかし政治的才覚はあったようで、内政や財務管理に関してはことさら才能を発揮した。
元春や隆景に比べれば目立った才覚ではなかったものの、縁の下の力持ちだった兄を二人は尊敬しており、だからこそ兄の死後に毛利を継がせたのは尊敬する兄の息子であった輝元だった。
「そうなんですねぇ。そのお兄さんは今どちらに?」
「もう、手が届くことのない地へ一足先に旅立ってしまったので~私達はその兄上が残した息子を大事に育てることしかできません」
「育てようという気持ちがある辺り、良い人だったのでしょうね」
「ええ。ボクは、兄上の良い部分を最初は全然気づけなかったので~、償いも兼ねています。本当にすごい人と言うのは目立たぬところにいるものです~」
隆景の言葉に何か思うところがあったのか、半兵衛は口をつぐんだ。
近くにいる寧々子や官兵衛、半蔵にもそれぞれ思うところがあったのか、皆一瞬表情を変える。
「さて、雑談はこれくらいでいいのでは~? お話なら共通の話題があった方が話しやすいでしょう~。そして単刀直入に聞きます。要求はなんですか~?」
長くとどまる気はない、という意志を見せるかのように本題へと入っていく隆景。
もう少し雑談らしい雑談を交わしたかった半兵衛だが、相手の意図が読めないわけではないので隆景の望む通りに本題へと移った。
「織田へ降伏する気はありませんか」
「ありません」
即答である。
微笑みを浮かべているが、瞳には強烈な意志を感じる。
「尼子の首を差し出したからと言って、いいですよ、と言える要素には遠いですね~。毛利は、かつては織田と友好的関係を築いていましたが、その関係に終わりを告げるようなことを先にしてきたのはほかならぬ信長です~」
隆景の言う通り、織田はかつて毛利と友好関係にあった。
毛利は尼子氏を破り、瀬戸内海の西部分の制海権を保有していた強大な勢力であったため、信長は敵に回すことを恐れた。
しかし自身の領地近辺の状況が好転し、室町幕府将軍・足利義昭を京から追放できるまでに勢力が拡大してから一変。
政治・軍事・経済すべての観点からみて、西国を平定することが必要になった織田はそれまで友好関係にあった毛利を裏切るかのように、毛利家を脅かす諸大名に協力的な行動をとっていった。
そのため毛利は、西国へ逃げてきた将軍・足利義昭の嘆願もあって織田に敵対することとなったのである。
つまり、客観的に見ると、織田から手を出してきたので織田が悪い。
降伏しろ、などと、どの面下げて言ってるんだ? と言われても仕方ないくらいのことだ。
「そうですね~。信長の首を持ってくるのであれば、降伏してもいいですよ」
「僕はそれでもいいんだけどねぇ」
「こら、半兵衛」
「ん?」
つい、いつものようにツッコんでしまった寧々子は「はっ」とする。
今は一兵士であることを忘れていたようだ。
「女人~? なぜ女人が兵士の恰好をしているのですか~?」
「―――」
「――この男にくらいはよいのではないか? 宇喜多にも顔合わせしたのだから」
「官兵衛殿、そういう部分ゆるゆるすぎない? まだちょっとしか話してない相手にさ」
「隠すつもりならそもそもこの場に出すべきではない。私でさえ見破ったのだ、この男に見破れぬはずがない」
「ええと、よくわかりませんが~ボクを買いかぶりすぎですよ~。その方が女人なのは今気づきましたから」
隆景の言葉を疑うかのようにジロジロ眺める官兵衛を半兵衛がドウドウといさめる。
「まぁ同じ軍師ですし、腹割って話したいのが僕の本音ですからいいでしょう。この方は今回の中国攻め総大将を務めている羽柴秀吉の正室・おねねさまになります」
「――結局こうなるのね」
呆れながら兜を取ると、共に縛っていた髪が解けてバッサアと広がる。
あまり気付かれぬように兜を深く被っていたので、実は隆景の顔をちゃんと見れていなかった寧々子はそこでまじまじと隆景を見つめる。
対する隆景も寧々子に見惚れているようだった。
「改めまして。ねねです。素性を偽り、挨拶が遅れましたこと、お許しください」
「――本当に奥方?」
「はい」
「なんと――――――軽率な」
「っ!」
隆景は驚きの声を上げたかと思いきや目に見えぬ速さで腰につけていた刀を抜き、寧々子へ突き刺した。
――否。
すんでのところで隆景の速さに対応した半蔵が手持ちの短刀で割り込み、隆景の刀を滑らせて上に押し上げたので貫くまでに至らなかった。
しかし迂闊にもちゃんとした鎧つけていなかった寧々子は、左胸部分の着物が切れてしまう。
切れた部分から見えたのは、素肌、ではなく、一冊の薄い書。
書はそのままドサッと音を立てて床に落ちる。
それを視認すると、寧々子は一拍固まったのち、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
大声をあげて書物を光の速さで取り、破けた着物部分を手で押さえながら天守を全力疾走で出ていった。
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