第六十二話 小早川隆景との対面
とうとうみんなと小早川隆景の初対面の場だーーー!!
織田についていた播磨の武将・別所長治が毛利へ寝返ったことにより、信長の命で援軍としてやってきた荒木村重と中国征伐総大将・羽柴秀吉は窮地に陥った。
その窮地における被害範囲を抑えるべく、別所長治の居城・三木城に潜入捜査完了後奔走していた竹中半兵衛と寧々子と服部半蔵。
寧々子の知る歴史では、播磨内にいる武将や国人衆のほとんどが別所長治の離反と共に寝返る、とのことだったのでなんとか播磨内の寝返り同調勢力を半分にでも減らせないかと調略の手を回したのだ。
史実では結果的に寝返っていても、別所長治の圧力に屈しただけの国人衆もいたようで、半兵衛はそういった人物をうまく活用し、宇喜多調略の時同様に安心感を織田が与えることで織田からの離反によるリスクが高いことを丁寧に、それはもう丁寧に諭して結果的に予測の半分から七割もの武将及び国人衆が織田にとどまったままであった。
そうはいっても上月城には毛利本隊が攻め入っているので秀吉を挟撃にするには十分な戦力は得られていたようで別所長治は当初の予定と数に変化はついたがそれでも離反を強行した。
しかし半兵衛の予測より状況は大分好転しているので、別所長治のみの対応ならば荒木村重もいることだし、秀吉のみでも大丈夫と考え、問題視している小早川隆景の対応に注力することにしたのだ。
上月城へ着いた一行は、城周辺を囲む毛利軍を半蔵の影の力を駆使してさらりと乗り越えて入城し、尼子氏へ謁見した。
謁見後、「尼子は毛利と繋がっている。信長様より処刑の命が下された」と方便を言って尼子当主の首を取り、城内の者たちには大人しく従うように計らった。
「本当にあっさり乗っ取ったね。まさかこんなにうまくいくとは」
「僕はこれでも難攻不落の城の一つであった稲葉山城を一度乗っ取っているんですよ? これくらい造作もありません」
「さらりと信長様の名前を出していたがそれはいいのか」
「どっちみち信長は尼子を救援するつもりが最初からないんだしそういったのと同じだよ、官兵衛殿」
「それ屁理屈じゃね、軍師殿」
尼子大将の首を取り、城兵数名を毛利への伝令に任命して「小早川隆景、尼子の首は天守にあるのでそこで待つ」と書いた書状を運ばせた。
今は返事待ちである。
「あんな雑な書状で来るのかしら」
「何言ってるんですか。雑だからいいんじゃないですか~。真実味が増すでしょう?」
「子供のいたずらと思われるのではないかと私は思う」
「まぁ待てば結果がすぐ来るっしょ。伝令の首が送られてきたりしてな」
「そうだったら行かせた伝令さんたちには申し訳ないわね……」
毛利へ伝令を送ってから数時間の時が過ぎた。
今日中には返事は来ない、と皆が判断しようとしたところに誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「し、失礼します! 小早川隆景様が一人で参られました!」
「――本当に一人か?」
「はい。城の前までは数名の兵が小言を言いながらついてきておりましたが、城内に入る際に小早川様が一人で行くと強くおっしゃって……」
「へぇ。肝が据わっているね。人望もあるようだ。どきどきの対面だね」
小早川隆景。
父・毛利元就が一代で毛利を大きくしたが、そこからさらなる発展を遂げた背景には彼の存在があったといえよう。
一体どんな人物なのか。
隆景の来訪を告げに来た兵士が来てから数秒後、天守閣にひと際雰囲気の異なる人物が入ってきた。
「――お初にお目にかかります、羽柴秀吉殿の軍師・竹中重治殿」
入ってきたのはミステリアスな雰囲気を纏った、柔らかな笑みを浮かべたオジサマ。
所作には気品も漂っており、まさに大人の男性。
寧々子以外に、官兵衛や半蔵、彼を呼んだ半兵衛も小早川隆景に見入っていた。
「小早川隆景と申します~。書状、拝読しまして、尼子の首を確認しに参りました~」
「あ、ああ、はい。これです」
半兵衛は近くにいた兵士に尼子の首が入った桶を渡して隆景の元へ運ばせる。
名乗りがぽわぽわしているので入室時とは打って変わって急にほんわかした雰囲気に包まれる。
そんな中、当の隆景は淡々と桶の中を覗き込んで首を縦に一つ頷くと「確かに」とだけ呟く。
「他にいたはずの尼子家臣たちはいかがしましたか?」
「ああ、その人の首を取った後、襲い掛かってきたので致し方なく」
「致し方なく。なるほど。尼子は完全に滅亡したとみて良いようですね~」
「おぬし、私が言うのもなんだが、このうさんくさいヤツの言うことを素直に鵜呑みにするのか」
「ボクはこれでも人を見る目はあるつもりです~。ここにくるまでに城兵たちの顔ぶれを見てきましたが、ボクがここに来たことにギョッとする人が多かったですし、予定にないことがこの城で起きたことがそこから読み取れます~」
城に入って天守に向かって歩くだけの間に兵士の感情変化まで観察するとは、さすがだ。
隆景はそこでぽわぽわした空気を払いのけるように鋭い目つきになり、半兵衛たちに問う。
「――それで、ボクへのご用件はなんですか」
空気を一人で一変させ、寧々子たちを翻弄させる隆景に皆が圧倒されかけている。
しかしそんな中、半兵衛だけは普段と変わりない様子で。
「あなたとお話がしたかったんです」
と、素直に言いのけた。
まさかそんなことを言われると思っていなかったのか、今度は隆景が半兵衛の様子に圧倒されてキョトンとしてしまった。
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