第六十話 毛利家勢ぞろい
今週は突然のお休み失礼いたしました。
久しぶりの他者視点。
まさかのあの人物が実は……。
天正六年、四月。
毛利家当主・毛利輝元が自ら軍を率いて、輝元の叔父にあたる吉川元春と小早川隆景と合流し、備中松山城にて陣を構えた。
毛利軍はこれまで、海上から荒木村重の現領地・摂津国に上陸するルート、秀吉たちが滞在する播磨国や明智光秀が攻略担当となっている備前国などを含む山陽道ルート、秀吉が独断で攻略した但馬国含む山陰道ルートの三ルートを輝元・元春・隆景の三人で分担、攻略して織田へ対抗していくつもりであった。
しかし秀吉の但馬・播磨国の迅速な攻略、宇喜多直家の離反があったこともあり、勢力を分散するよりも一個集中して要所を落としていく方針へと転換した。
そしてこの案を出したのは、寧々子たちが警戒するあの小早川隆景である。
――毛利陣中。
陣中の中央で座するのは、毛利家現当主・毛利輝元。
輝元は静かに己の前に用意されている播磨の地図を眺めていた。
そこに近づく足音が二つ。
「やぁ、輝元くん。そんな熱い眼差しで地図を見つめていたら地図が照れて燃えてなくなってしまうよ?」
「隆景ッ! あまり輝元をからかってやるな!」
「隆景叔父上! 変な物言いはやめてくださいー! 俺が変態みたいじゃないですかー!!」
「男の子って皆、変態の塊みたいなものじゃあないか。気にすることはないよ」
「その言い方だと、叔父上も変態ということになりますよー!」
「輝元ッ! 隆景は別の意味で変態的だから間違ってはいない!」
「元春兄上はひどいなぁ。ボクは別に普通ですよ?」
毛利を支える毛利両川の二人、吉川元春と小早川隆景である。
穏やかな微笑みを浮かべ、どこかミステリアスな雰囲気を纏った紳士的オジサマなのは小早川隆景。
笑顔の仮面でも被っているのかというくらい張り付けた笑顔と元気ハツラツとした口調でいる元気なオジサマが吉川元春。
齢二十八歳であるが、二人の叔父を前にすると明らかに子供っぽい態度になるのが毛利輝元。
この三人が現在、織田を苦しめる毛利の中枢たる大名たちであった。
「そんなことより輝元くん。三木城の別所長治から連絡は来たのかな」
「バッチリです! ちゃんと手筈は整っていますよ、隆景叔父上。我らの上月攻めに乗っかって裏切る予定になっておりまする」
「む? 上月城攻めに合わせてなのか? もう少し早くに離反する予定ではなかったかッ?」
「その予定でしたが、何やら状況が変わったとかで手間取っているようです、元春叔父上」
輝元の言葉に隆景が目を細める。
それは予定とは違うなぁ…… と誰にも聞こえない声でつぶやく。
「隆景ッ、何か言ったか?」
「いえなにも。状況変化……何があったのか聞いたかい? 輝元くん」
「詳細は聞いていませんが、こちらで勝手に調査したところ何やら同調する予定の国人衆が何人か急に手の平を返したそうで」
「離反するための手札が不足した、といったところかな。連絡を返しているならこちらへつくつもりなのは変わらないだろうけど、ちょっと状況が怪しくなって来たなぁ」
「どうするッ? 万が一のための用意をするかッ?」
「するにしてももう後手だね、元春兄上。もしかしたら敵軍師の策にハマっている可能性もある。まぁいい。どちらにせよ、上月城にいる尼子を滅ぼし、城を奪還することが今回の役目。たとえ別所が離反しなかったとしても播磨の要所たる上月城を得られればこちらにも利がある。そしてそれは決して不可能ではない。行こう」
「「承知」」
方針が決まったことで、元春と輝元は部隊へ指示を言い渡し、戦の準備に取り掛かる。
隆景も自身率いる部隊に必要な指示を出すと、少し外すと言い残して陣中を去り、一人になる。
味方が準備に奔走しだす中、近くの林に人目から逃れるように入りこむとちょうどいい木に背中を預けてそのままズルズルと背を滑らせていった。
「はぁ~~~~~~~つっかれた~~~~~~」
先程までの余裕のある態度から一変。
気疲れしていたらしく、全身から力を抜き出した。
「最近ボクが知っている史実とどんどん異なる方向へ変わっている気がする。やっぱここは過去じゃなくてパラレルワールド的な、別の世界の日本で、そこの戦国時代なのかなぁ」
明らかにこの時代の人間ではない発言を小声でボソボソ呟いていく。
「雑兵とかに転生すれば気楽だったのになーーーんで小早川隆景という大事な立ち位置の人間に転生しちゃうのかなぁ? そりゃ尊敬する武将だけど、頭がキレる人間演じるのはしんどすぎ。あと椅子が基本文化じゃないからずっと正座なのも無理~~~~」
独り言をつぶやきながら何故か背中を木に預けてはいるものの、空中椅子をするかのようなポーズを取り始める。
「やれやれ。他に転生している人いないようだし、前世のことなどいい加減忘れ去ってボクは小早川隆景だったんだと思い込むべきか。いやぁ、記憶あると無理だねぇ」
小早川隆景、みたいな人は自身の置かれている状況をあきらめるかのように嘆息すると懐から何かの書を取り出す。
それを大事そうに撫でて切望するかのような瞳で見つめる。
「――神様はどこにいるのかな」
半・空中椅子をしながら書を優しく撫でるその様は、美しくも異様な光景であった。
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