第五十五話 長浜へ一時帰還 後編
みんな大好き、アイツが出番ですよ!
後の禍根を絶つべく、尼子氏はこのまま見殺しにしてしまうのがよいのでは? と考えている寧々子の意見に半兵衛は悩む素振りを見せる。
半兵衛の立場的には主である秀吉が尼子氏を救いたいと言うのならばそれを叶えるのが仕事だ。
しかし秀吉は今回の中国攻め以前、上杉と対峙していた柴田勝家の援軍として一度越後へ送られたにも関わらず戦況のひどさに一足先に撤退し、信長に大層怒られて謹慎処分を受けた。
さらに中国攻めにおいても播磨攻略のみを命じられたにも関わらず、但馬も攻略。
成功したので現在こうして褒美をいただける状況にあるが、失敗すれば織田を追い出される自体になってもおかしくはないギリギリの立場にある。
自重してくれと言うのは簡単だが、言って止まる人ならばこうはなっていない。
半兵衛も言われたこと以上のことをやることは決して悪い事ではないと考えているので全力で止めたことはないが、一応本当にいいのか、という問いかけは毎度してきていた。
「織田家中における秀吉様の立場が現在とても微妙なこともあるので、今回は大人しく信長の命令に従って尼子を見捨て、秀吉様が無事に戦線離脱することのみに注力した方がいいかもしれませんね」
「そうね。それと、もう一つ。私は尼子よりも別所長治や荒木村重の方が厄介だと思う。中国攻めが長引き、毛利との直接対決を遠のかせる一端を担っているといっても過言ではないと思ってる」
「この二人、結構前から信長に与していたはずですが、今更なぜ離反などと?」
「史実では本願寺顕如に調略されたとあった。各地の有力武将たちに掛け合って信長包囲網というのを作った人だと」
「ああ! 僧兵とかいう矛盾を生み出した、お坊さんとは思えないほど私利私欲にまみれた人ですか!」
ま、間違ってはいない……。
適切かつ直接的表現だが、間違ってはいない。
さすがは半兵衛。
「あの人は親が朝廷の人でしたよね。そういう立場というか血筋が厄介ですね。殺したんですか? その人」
「いいえ。信長様は朝廷のとりなしというか勅命もあって同盟を結んだの。そして秀吉の時代まで生きて亡くなった」
「普通に天寿を全うしたのですね、変な人ほど長生きだな」
皮肉まじりに言っている気がするのは気のせいではないのだろう。
本来の自分の死がすぐそこまで迫っており、生き永らえることができるか否かの瀬戸際にいるのだから無理もない。
「朝廷って天皇様がいるところでしょ? その人が信長様を敵とみなしたのなら他の人がそれに同調してもおかしくはないよね」
「三吉。おそらく他の武将たちは本願寺の血で同調したわけではないと思う。普通に信長様が脅威なんだ。君だって恐れただろう?」
「僕は姉さんがあんなに信長様と親しい方が謎だよ」
「昔から付き合いがあるからあまり怖いと思わないのよ。とにかく、この本願寺てやつをどうにかできないかしら。もしくは荒木村重と別所長治を接触させない」
「ずっと両者を見張ることはできませんからね。なかなか難しい。遠くから同時に観察できる能力者でもいればいいんでしょうけどね」
久しぶりの能力者という単語が出てきて、すっかり忘れていたがそういう手も使えることを思い出す。
遠くから同時に観察できる能力者。
・・・・・・。
「チィーッス! 服部半蔵でーす! お嬢ちゃんに呼ばれて助けにきたよん!」
無言の間。
あきらかに嫌そうな顔をしている半兵衛に、何だこの人と半蔵へ白い目を向けている三吉。
久方ぶりの服部半蔵登場である。
寧々子が三河にいる家康の元までワープし、頼んで連れてきたのだ。
「チョットチョットチョット~! なにこの白けた出迎え! 呼ばれて来たのにこんな対応されたら俺っちしょげちゃうよ~」
「いや、私も弟も半兵衛も、あまり接点がないタイプなもので……」
「へぇ~。この少年の中身がねねっちの弟くんねぇ」
「待って姉さん。何でこの人僕のこと知ってるの」
「家康様の忍者だからよ」
「ああ……」
「ヘイヘイ! それで俺っちが呼ばれた理由はぁ~?」
「服部殿にお聞きしたいのですが、あなたは以前長篠で、自身の能力 “影” を酷使して見張りをすると言っていましたよね?」
半兵衛がチャラチャラした空気を一蹴するように本題へと入る。
それを受けてちゃんと真顔で対応を始める半蔵。
「ああ、言ったしやったけど。見張ってほしいヤツでもいんの?」
「二人、中国地方にいるわ」
「中国!? 西!? いやいやさすがにあれやるのに家康ちんなしはキッツいなーー」
「家康様連れてこうか?」
「いやそれは認められないなぁ。いくら同盟相手とはいえ、ほいほいうちの主をあちこちに連れ出せねぇよ」
「三河で家康様の側にいれば中国地方、いえ日ノ本全ての影を辿って視ることは可能なのですか?」
半兵衛の問いに一拍の間ができる。
どうやら半蔵は断定する答えを告げることをためらっているようだ。
それもそうだろう。
これで「はい」と言えば、家康は三河から半蔵を使って全てを覗き見ることができるのだ。
しかし半蔵の能力抜きにしても能力者の情報であれば全て筒抜けなのでどう考えても家康様はチートだしラスボス感。
「――さぁ。やったことないからね」
嘘か、誠か。
それを見破るには完璧すぎるできた仮面を顔に張り付けている。
半兵衛はそんな半蔵に近寄り、眼前にまで顔を近づける。
「では、今回やっていただきましょう」
「―――」
「半兵衛怖い!! 半蔵、無理言っているのは承知なんだけど、中国攻めが早く完了したらそれだけ犠牲になる民が減るし、早く信長様の天下になってほしい家康様や秀吉にとっても嬉しいでしょう?」
「――まぁ、家康ちんからはお嬢ちゃんの力になれって命令だし、やってみるだけやってみるさ」
「ありがとう!」
こうして次なる中国攻めへの備えができた。
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