第五十一話 調略案
久しぶりに一話で結構かいた気がする!!
実際にどう口説いたのかわかりませんが、調べたところからの予想。
第一次上月城の戦いで、上月城主・赤松政範やその家臣の一部は自害。
城兵たちは降伏を申し出たが、秀吉はすでに何度も赤松政範へ降伏の申し出をして幾度も突き返されてきたので、城兵たちの要望を受け入れられず全員皆殺しにするつもりでいた。
そこまでの流れはまさに史実通り。
しかし、それを秀吉の軍師・竹中半兵衛が止めた。
「秀吉様。赤松政範の軍、僕にいただけませんでしょうか」
「なんじゃ急に。相手は再三わしの申し出を蹴ったものの軍ぞ。城主自害と共に殉死した者も多い。もしかしたら裏切りの火種になる可能性があるぞ」
「その意見はごもっとも。ですが、僕に、いえ両兵衛に一案がございます。彼らはそのために利用する材料です。ぜひとも」
「む?」
両兵衛と半兵衛が口にしたので、秀吉は半兵衛の隣に控えていた小寺官兵衛にも視線を送る。
それを受けて官兵衛も首を縦に振る。
「先日申しました、宇喜多直家調略に彼らを利用したく思います」
「じゃが、それは五分五分の案ゆえに半兵衛が反対しておったじゃろう」
「はい。ですが、宇喜多直家の同行が今後の戦運びを左右することは半兵衛ももとより承知でした。私のみの考えでは手札が足りませんでしたが、二人で考えましたのでもう少し勝算が上がりました」
「ほう。なるほどの」
秀吉は一瞬考える素振りを取るが、二人の真剣な表情を見比べて「分かった」と承諾してくれた。
秀吉に赤松政範の軍をもらった二人はさっそく上月城にいた赤松軍を一度羽柴秀長のいる竹田城へと連れていった。
そこで十分な食事やケガをしている者には手当をするなど、彼らを手厚く保護する素振りを見せる。
つい先日まで敵であったと言うのに、両兵衛の計らいに赤松軍も緊張を少しだけ解いてくれていた。
「――それで、彼らを宇喜多直家に献上してそんなに勝算が上がるのか?」
竹田城の一室にて、半兵衛、官兵衛、治に扮する寧々子の三人だけになると官兵衛はそう切り出した。
寧々子の知る史実においては、赤松軍の降伏嘆願が官兵衛宛てに届き、それを秀吉に報告したところ、秀吉はそれを拒否した。
中国攻めの総大将である秀吉の許可が下りなかったこと、また裏切りの火種となりうると考えた官兵衛は赤松軍をその後ことごとく殺していった。
今、目の前にいる官兵衛も、半兵衛からの宇喜多直家調略案という書簡を受け取らなければそのとおりに実行していたはずだ。
実際、先程の問いかけから疑念を感じていることが読み取れる。
「今回赤松軍を救うつもりだった宇喜多直家は自身の舎弟を援軍に選んでいる。上月城の立地もあるだろうけど、彼は武勇に秀でた赤松政範の父を自らの足で勧誘しにいくぐらいには大層お気に召していたようだし、その人の息子となればそれなりに大事な存在だったんじゃないかな?」
「人の情を突くか。お主は意外にも悪い男なのだな」
「軍師にいい人なんていないよ、官兵衛殿。特に秀吉様は性根がいい人だからねぇ。僕くらいは多少の非道を持ち合わせていないと。
また、宇喜多は現在、追放した元主君が起こす小さな反乱に結構悩まされているようじゃないか。人手が一人でも欲しいところなんじゃないかな。後は後方の安全」
「確かに、宇喜多直家は元主君を確実にしとめるために毛利と手を組んでいる。だが、その役割を毛利ではなく秀吉様が引き受ければいい」
「そうそう。織田にはそれが可能なだけの力も人手もある。官兵衛殿は織田の軍事力を借りることを推奨することで宇喜多直家を口説こうとしたんでしょ?」
「気持ちの悪い言い方をするな。だが、その通りだ」
思った通りの返答に半兵衛が得意げにふふんと鼻を鳴らす。
忘れているかもしれないですけど、この案を導き出すのに使った情報提供者は私ですからね、半兵衛。
「官兵衛殿は頭がいいし、先見の明を持ってるからこの辺りの諸将の中ではいち早く織田についたわけだけど、みんながみんなそうではないよ。宇喜多直家ほどの謀将でも織田は毛利より強いよー! なーんてことだけ言っても難航するだけだよ。そんなんじゃすぐ落ちない」
「……私からすれば分かり切っていることだ。だが、宇喜多だけではなく毛利もすぐに降伏しないのも理解ができぬ」
「んー。宇喜多はともかく、毛利は小さい豪族にすぎなかったところからこれだけ大きくなったし、息子たちも父・元就の遺言もあってなかなか絆が固いらしいからその点は結構織田を苦しめると思うよ。僕は毛利にも勝算があると思うね」
「お主はどちらの味方なのだ」
「どちらではなく、秀吉様一択だよ。さて、案をまとめると、
こちらへ降ったら元主君をしとめるための惜しみない協力及び領土安堵の確約。
また先だった人手提供として、上月城にいた赤松軍の提供。
こちらがそれで求めるのは毛利と手を切ること。
秀吉様の中国征伐に全面協力。
こんな感じだけど、どうかな?」
今、半兵衛が申し出たことはまさに佐用城攻めの前に官兵衛に渡した書簡に書かれていたことと同じ内容であった。
「この領土安堵は秀吉様に許可をいただいているのか?」
「うん。それくらいはしないと、それこそ後の火種になりかねないからね。ちゃんと納得いただいているよ」
「承諾した。では正式なものを用意して調略へ出向いてくる」
「肝心な役はお任せしてすまないね」
「言い出したのは私だ。かまわぬ。 ……が、行く前に一つ気になっていたことを聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「姫路城でもだったが、なぜずっとその女人を連れ歩いている?」
それまで気配を感じさせないように隅でじっと静観していた寧々子が兜の下でギョッとする。
半兵衛も連れが女であるところまで見破られているとは思わなかったのか、キョトンとしてしまっていた。
「その兵自体を見るだけなら性別までは全く分からなかった。お主は見目がいいから信長様みたいに男児もそういう対象なのかと考えもしたが、この数か月半兵衛と共に行動して男女で多少なりとも扱いの差があるところまでは観察できた。その兵士に対しては女人に対する態度だ」
「ええ!?」
「ええ!? てなんだ!! ――あっ」
思わずツッコミを入れてしまったが、これで確実に自分が女であることを認めてしまったことになる。
やってしまったあああああああ、と絶望にのたうち回っていると「忙しい人だな」という官兵衛の声が耳に入る。
「一応聞くが、側室か?」
「いや。僕、妻は一人。この人はまぁ、ちょっとね」
ちらりとこちらを見る半兵衛の視線が告げている。
この人相手にごまかしきるのは無理だと。
致し方ない。
嘘は、つかない。
――全部は言わないけど。
寧々子は兜を取り、カツラも外して姿勢を正す。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、小寺官兵衛殿。私は羽柴秀吉の正室・ねねと申します」
「――は?」
今度は官兵衛がキョトンとする番であった。
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次回、宇喜多直家に対面か!?
そして寧々子の正体を知った官兵衛はいかに!?




