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第四話 寧々子の申し出

織田信長に対する評価は昔もですが、今もきっと人ぞれぞれですよね。

でもこういう人が一人はいないと腐りきった時代ってきっと変わらないんですよね。









「ん? 後ろに控えている者に新顔が見えるな」




 寧々子と利家が信長と挨拶を交わしていると、寧々子が紹介するより先に信長が三吉の存在に気付く。

 自分のことと即座に理解した三吉は、ビシィッと姿勢を正して固まる。

 自己紹介を自分でした方がいいことを頭では分かっているのに、織田信長に視線を向けられるとどうしてか固まってしまい、頭が真っ白になってしまう三吉。



 織田信長。

 かつてはうつけと呼ばれ、あまり良い噂を耳にしない織田家の問題児。

 しかし桶狭間の戦い以降、数々の戦で数多の武将を破り、足利義昭を上洛させて今や最も天下に近い武将である。

 人々からの信長の評価は、信奉する者、魔王と呼ぶ者、とさまざま。


 利家や寧々子は昔から付き合いがあることと、純粋に尊敬しているので信長に恐怖は感じていない。

 それは先程部屋へ取り次ぎをした蘭丸や寧々子の夫である秀吉も同じ。


 三吉はまず信長と初対面であることと、教科書や授業で見聞きした過激な人物であるという刷り込み教育、部屋に入った時の険しい表情、これらの要素が組み合わさって怖い人と無意識に認定してしまった。


 黙ったまま身動きの無い三吉へ、信長が近寄っていく。

 一歩、信長が踏み出す度に冷や汗が一粒ずつ流れていくのを感じる三吉。


 信長が三吉の目前に立つ前に、割って入る影があった。




「お久しぶりです、信長様」

「……竹中半兵衛か。相変わらず綺麗な顔をしておる」

「お褒めに預かり恐縮です」




 信長はただ普通に挨拶をしているだけなのだが、半兵衛からはとげとげしい雰囲気がだだ洩れている。



 織田信長と竹中半兵衛の関係は、今は半兵衛の主の主なのだが、かつては敵対関係にあった。

 半兵衛は信長の正妻・濃姫の実家である斎藤家を滅ぼした張本人で、半兵衛は元はと言えば斎藤家に仕える武将であった。

 まったく敵視するなという方が厳しい話である。


 だが半兵衛はそのことに関して怒って信長を嫌っているわけではない。


 単純に、ただ嫌いなのだ。

 己の邪魔をする者をすぐ血祭りあげる信長の気性が。


 信長から家臣になれ、というお願いが来たにも関わらずその話を蹴るくらいには嫌いだ。


 嫌いなだけなので三吉みたく怯えることはない。




「信長様、新人が怯えているのに不用意に近づくのはいかがなものかと思います」

「まだなにもしていないというのになぜ怯えるのか」

「さぁ? 信長様の所業をよい形で捉えていないからではないでしょうか」

「……ほう?」




 半兵衛にすれば庇っているつもりなのだが、逆に火に油を注ぐようなことになっている。


 より睨みをきかせた信長に見られることになって三吉のライフはゼロへ到達しかけている。




「こら、半兵衛! なんでそんなに信長様に突っかかっているのです。あと佐吉も何をそんなに怯えているの」

「……むしろあなたはなんでそんなに親し気なんですか」

「……もしやお主、余とねねが仲がいいことに焦ったのか?」

「は?」




 三吉の予想もしていなかった斜め上方向に話がズレたことに驚いてつい、良くない聞き返し方をしてしまった。

 信長と三吉の間に割って入った半兵衛も「え」と小さく声をあげている。




「ねねは美人に育ったからな。不用意にサル以外の男の心も掴んでしまったのだな。罪な女だ」

「信長様―? 私が誘惑した話になっていますが、その者と私はそういう関係ではありませんよ? 佐吉は秀吉のところに最近入った小姓です」

「サルの小姓ならば、ねねとなぜここにいるのだ? そこが疑われる要素になる」

「私がお願いしたのでございます。最近夫の浮気が目立ちますし?」

「浮気ィ?」




 今度は信長の方が素っ頓狂な声をあげる番だった。

 それまで皆から離れていた利家も輪に入って寧々子の話に耳を傾ける。




「そうなんです。大出世して城を持ったと思ったらあちこちで女は作るわ、いつのまにかその相手の一人と子供ができるわで、あの城は私の家であるはずなのに居づらくて仕方ありません」




 この戦国乱世において、武将である男が女を多く抱えることもその一人との間に子供ができることもなにも不思議はない。

 寧々子の話は、なにを言っているんだとバカにされ、鼻で笑われても仕方ない内容だ。


 しかし。






「はぁ!? 秀吉の奴、ねねを差し置いてそんなに他の女の所に行っているのか!?ありえねー!」




 まさかの寧々子の味方・前田利家。

 さすが、愛妻家として有名なのは伊達じゃない。




「ほいほいいろんな女性との間に子供がたくさんできてしまうとのちに跡継ぎ問題で絶対揉めることになります。秀吉様のそういう軽薄なところは正直僕も頭を悩ませています」




 なるほど、軍師らしい発言である竹中半兵衛。

 しかしいつ誰が死ぬか分からぬ世で子は一人でも多くいた方がいいと思われがちなのにこのご意見。



 対して愚痴を受けた側である信長はもちろん妻が何人もいるし、子供も一人ではない。

 なんなら小姓を愛でることさえする。

 秀吉とはまた違った意味で手に負えない。


 信長は皆の意見を聞いて腕を組んで顎に手を添え、悩む人のポーズをとる。




「己が城を持った途端にあれだけ追いかけたねねを置いて、他の女を求めに出るか。フッ、生意気な奴よ」




 なんと、最終的には意外にもねねの味方をした信長。

 いさめられるかとひそかに覚悟していた寧々子は信長の発言に目をみるみる輝かせる。




「そうなんですよ! なので信長様」

「なんぞ」

「私と浮気しませんか?」




 空気が凍った。



 三吉もまさか寧々子が本気でそんなことを言うとは思わなかったのか、ただでさえ信長に恐れて顔面蒼白だったというのに、寧々子の発言で心肺停止状態へ突入しそうだった。









「ハハハハハハハハハ!」









 織田信長、爆笑。


 利家は目が飛び出るんじゃないかというくらいに目を見開いている。

 半兵衛は苦笑いしたまま、口を引きつらせている。




「こんなに色気のない誘惑を受けたのは初めてだ。ほんに、お主は面白きおなごよ」

「えっ、ひどくありませんか信長様!? こっちは結構心臓がバクバクしてるんですが!」

「それはすまん。しかし、そうだな。余も最近は机に張り付いてばかりなことが多い。ここは戯れでも起こしてみるか」




 めちゃくちゃノリノリになりだした信長様に、言い出しっぺの寧々子まで「あれ?」みたいな顔をし始める。


 寧々子の知る史実であれば、ここで信長は一筆ねね宛にしたためてそれを秀吉にも見せよという展開になるはず。

 それが変わったことに寧々子は歴史の変化を感じた。



 少しずつ、歴史が違う方向へと変化している。



 それを一人、感じた寧々子は心が沸いてくるのを感じた。

 自分の努力やこれまでの失敗が、実を結んできている気がした。







「利家、半兵衛、新顔の小姓。そちたちも付き合え。余の余興を共に演じようぞ」




 ノリノリの信長様主導の元、寧々子と信長様浮気劇の幕が上がった。


読了ありがとうございます。

ブクマ・pt、入れてくださった方ありがとうございます!!感激です!!

引き続きよろしくお願いします!



今日はこちらのみになってしまうので明日両方できたらいいなと思っています!

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