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第三十四話 勝利の宴会

これにて長篠の戦い編、完結です。











 武田軍の大半を撃退することに成功し、織田・徳川軍は撤退を始めた武田軍の追撃を開始した。

 数の差は圧倒的なので、もはや策など不要と全軍で総攻撃をしかけていた。


 武田軍の陽動作戦に引っかかった秀吉も持ち場に戻って半兵衛に平謝りをして許しと改めて半兵衛に尊敬の意を示すと追撃軍に秀吉も加わった。


 武田軍は重要な家臣たちを次々と失いながらも勝頼をなんとか逃がしきる。


 勝頼を討ち取ることまではいかなかったものの、痛撃を与えたと判断した信長は追撃の手を止め、完全勝利を味方へ通達し勝ち鬨をあげた。



 ここに長篠の戦いは終了した。




 織田・徳川軍は一度岡崎城まで撤退してそこで勝利の宴を夕刻から催した。


 寧々子は治に扮装していたのをほどき、長浜城からこっそりやってきた女房のふりをしている。

 女房として一通りの仕事を終わらせて宴の席を下がろうとすると誰かに視線をもらっている気がして目だけを動かしてその視線の主を探す。

 すると、主役席に座っている織田信長とバチっと目が合った。


 もしや。


 静かに近づいて酌をするふりをして声をかけてみる。




「……失礼します」

「旦那の戦勝祝いか? ねね」

「さすがは信長様、分かってしまいましたか。我が旦那様は未だ気付いておりませんのに」

「それどころかまた女房相手にへらへらしておるな、ハハッ。懲りぬやつめ。どこに大事な女が潜んでいるか分からぬというに」

「ええ、全くでございます」

「そうそう。一つ聞いておきたかったことがある。お主……」




 そこで歯切れ悪く言葉を止めながら信長は寧々子の二の腕を掴む。




「また筋肉がついたではないか。今回は何人斬ったのか」

「ふふ、そんなこれは……………………え!?」




 ニヤニヤしながらさらりと重要なことを言い放った信長に顔が真っ青になる寧々子。


 いつからバレていた?


 冷や汗が滝のように流れ出す寧々子をよそに信長は先程注がれた杯を飲み干す。




「懐かしいな。義元を討ちとる前、一人迷いと恐れを抱くひと際余の目を引く兵士がいた。最初は初陣の兵なのかと激励も込めた言葉を贈ったが、度々戦へ参加しているのを見ているうちに近しい者の妻のような瞳をしていることに気付いてな」

「目」

「最初に会った時も申したであろう? 余とお主は他と違う目をしていると。一度違う色をしていると感じたら陰りがない限り他者とは違う輝きを常に放っている。それはどんな姿をしていても、だ」

「……私の完璧な変装が実はバレていたなんて……」

「安心せよ。サルには言っておらぬ。だが……死ぬなよ? 他の何を差し置いてでもあいつの帰る場所であり続けよ」

「……かしこまりました」




 そこで信長は「行け」というような仕草をとったので、寧々子はまた静かに信長の横を辞した。

 そのまま宴会の席を去って、ある人物を探しにうろうろしていると前方から見覚えのある顔が歩いてきた。




「あっ、そこの女房殿。織田軍の竹中半兵衛殿の部隊に所属しているという治という兵士をご存じではないか!?」




 あっ、私に用事だ。

 この人、見たことある顔だと思ったら鳥居強右衛門さんか!

 よかった、あのあとも無事だったのね。


 寧々子や一周してきた家康の史実では、味方の士気上昇にはつながるがそれでも悲惨な死に方をした鳥居強右衛門だが、それを防げて無事長篠城も助かって戦も勝利して終幕を迎えられてよかった。




「ああ、その方でしたら一足先に岡崎城を発たれました。半兵衛様に別の任務を仰せつかったようで」

「なんと……徳川様の忍びの方も見かけぬし、あの二人がいなければ今、私はここにいないかもしれないというのに……礼をちゃんとすることができなんだ」




 大丈夫です、ちゃんと聞いていますよ。




「治は私の奉公先に務めております故、代わりにそのお言葉、お伝えしましょう」

「おお! それはありがたい。いつか必ず恩はお返ししますのでどうかその日まで生き延びてくださいとお伝えください」

「はい。それでは失礼いたします」




 一礼して鳥居の前を辞していく寧々子。

 その顔には優しい笑みが浮かんでいた。


 寧々子がそのあと向かった先は岡崎城の天守閣だった。

 部屋の前に着くと、本来いるはずの小姓の姿が見えないので中へ声をかけようとすると。




「入ってよいですよ」




 徳川家康の声が中から聞こえてきた。


 まるで私が来ることが分かっていたかのようだ。




「失礼します」

「やぁ、寧々子殿。人払いをしてあるので気にせず。用件は半蔵に、でしょうか」

「全部筒抜けですか。ちょっと悩みものですね、それ」

「神様相手にはどうにもできませんよ。半蔵の力についてはなにか聞きました?」

「影の能力というお話は軽く」

「では問題ないですね。半蔵、出ておいで」




 家康の声に呼応して家康の影がにゅーっと伸びていき、そこから半蔵がゆっくりと現れた。




「やぁ~お嬢ちゃん。設楽原ぶり~!」

「うわっ、なにその、布の包まれぶり!? 切り傷もいっぱい」

「まな板の姉ちゃんが容赦なくってさ~いやぁ参っちゃうよねぇ~。久しぶりにちょっと本気になっちゃったよ、あれは家康ちんの障害になる」

「じゃあ仕留めたの?」

「………………」

「ダメだったみたいだよ」




 主に結果をバラされて形無しの忍者である。




「今回いいとことダメなところ、両方明るみにされている上にうちの軍師に微妙な烙印押されかけてるけどそれでいいの」

「ええ!? あの軍師殿俺っち認めてないの!? ちゃんと言われたことはこなしたし、ついでにお嬢ちゃんのお迎えだってしたのにぃ~」

「ふふっ。随分仲が良くなったんだね二人とも。これは嬉しい限り。何かあったら遠慮なく使っていいですよ、寧々子殿」

「えっ、家康ちん、それは俺を安売りしすぎじゃない!?」

「秀吉殿とは後に因縁深い関係になるから今のうちに奥さんの方に伝手を持っておかないと」

「それ本人を前に言います?」

「アハハッ」




 楽しく和やかな雰囲気が部屋を包んでいる。


 のちに敵対することになる家康だが、こういう時間を過ごしてしまうと後にそうなることなんて欠片も想像がつかない。

 しかし戦国の世はいつ何が起きて盤上がひっくり返されるか、分からない。

 きっとこの日のことを思い返し、懐かしみながら刃を向ける日が来るのかもしれない。

 でも。

 もし、この小さな歴史改変を重ねた先に知っている未来と違う結果が待っているとしたら。



 私は、秀吉も、家康様も、三成も、手を取りあえる未来を作りたいなぁ。



 これまでねねさまの、三成の命を救ってほしい、という願いと、前世のことを引きずって弟を今度こそ救うという自分の願いのためだけに行動してきたが、今は。

 今は、この時代に生きる、私と関わる人達みんなが生きて、笑って、仲良くできるといいなぁと少し思えるようになった。


 史実では秀吉が天下統一を成しても結局再び戦は起きた。

 そうならないようにするには、どうすればいいのかな。


















 ――岡崎城内某所。




「ゴホッゴホッ」




 皆、宴会に出ているため、武家屋敷はほとんど人気がない。

 織田軍羽柴隊に与えられた寝所の一部屋で一人、苦しむ者。




「はぁはぁ……一度の未来改変がこれだけ響くとは……一回の消費量は人生の半分なのか、それとも僕の人生は元が短いのか……はぁ」




 秀吉様の天下が見られるまでは生きたかったけど、これは難しい。


 竹中半兵衛はそのまま畳の上に大の字になるように寝転がる。




“ 最後までいてくれたら、きっと、もっと平和な時代は長かったかもしれません ”




 ふと、姉川の戦前に寧々子へ自分の寿命がどれくらいなのかを聞いた時の返事を思い出す。


 ――時間がないのかもしれな。


 今度また隙を見つけて寧々子殿を詳しく問いただした方がいい。

 その上で残せることを残さなくては。




読了ありがとうございます。

ブクマ・ptよろしくお願いします!


次への不穏な種を残して新章入り!

火曜更新できたら更新するのですが、ちょっと時間をいただくかもです

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