第二話 怪しい関係
いつもありがとうございます。
信長様がいる岐阜城への道中話になります。
いつの時代も人の噂の種になるものには定番がありますよね。
後日。
寧々子は必要な事を城の主要な人間にそれぞれ指示して、身支度を整えて織田信長のいる岐阜城へと向かった。
共には三吉こと石田佐吉と、何故かニコニコした表情をずっと浮かべている竹中半兵衛を主として、あとは数名の兵と侍女を連れていた。
三吉はここに半兵衛がいることが不思議すぎて彼に近づいて小声で語りかけた。
「あの、竹中半兵衛様、でしたか。秀吉の軍師である竹中様御自らおねね様のこの謎の織田家行きになぜ同行なさっているのですか? お忙しいのでは……」
「いやいや。城のことはおねね様が取り仕切ってくださるので仕事は他よりだいぶ楽だし、戦がなければ僕とてただの一人の男だよ」
一人の男、という表現に三吉は先日の寧々子の浮気発言が脳裏をよぎる。
まさか身近にいる人にもう手を出したのかと焦りを感じるが、まだそう決まったわけではないので直接聞くことにした。
「……まさか竹中様、すでにおねね様になにか言われたりされたり?」
「すでに? 何か、とは? 石田殿は何か言われたの?」
「え。いや自分は別に」
「まぁお二人は随分仲がよろしいようですし、何かあってもおかしくはありませんなぁ」
「誰と誰が、仲がいいんですか?」
「おねね様と石田殿が」
待て。どうしてそういう話になった。もしかしてこの前の夜のことが人払いされていたとはいえ、見られていたのではないのか。
これはまずいのではないかと三吉は焦って冷や汗が急にふきだしてくる。
「何やら長浜城へ来てからずっと大谷殿と共におねね様へ接触を図ろうとしていた様子だし、おねね様になにか並々ならぬ思いがある様子。しかも、お会いしてから随分頻繁に呼び出しを受けているようで? 僕でさえ、呼んでくださらないのに。秀吉様があなたに目をつけてもおかしくはないと思うよ?」
「目を……つけている? では竹中様は監視役ですか?」
「さぁて、どうでしょう」
「待ってください! 僕とおねね様ってそんな目を付けられるほどですか!?」
「ご自分の行動を振り返ってみては? 自覚がないようだけど、あまり噂の的になるのはおススメしないよ」
そこで後ろの籠から寧々子が半兵衛を呼んだので続きを追求することはできなかった。
しかし自分と姉がどうやらあまりよろしくない形で噂になっていることは間違いないようだ。
竹中半兵衛が共に来たことに寧々子は喜んでいたが、彼は秀吉からかなり信用を置かれている人だからきっと秀吉からなにか言われてついてきたのだろう。
前世では姉弟でもこちらでは赤の他人なのだ。
それを寧々子も念頭から外れてしまっていたのだ。
自分たちの行動はあまりにも迂闊だったと反省し、今後は接触を控えるべきであろうと考える三吉。
それと同時にさっきの竹中半兵衛の発言にもまた気になる箇所があった。
「僕でさえ呼んでくださらない」とはどういう意味だ!?
やっぱり姉はすでに半兵衛殿とそういう関係に!?
しかも全然噂が立たないレベルで!?
だとしたら僕より竹中様の方がハイクオリティな関係すぎるでしょう。
もしかしたら今、自分は(責任を丸投げして)姉のせいで二人の男に目をつけられているのかもしれないと思うと、前世で通り魔に刺された箇所がズクズクと痛むような気がした。
寧々子に呼ばれた竹中半兵衛は寧々子のいる籠に近づいて馬から華麗に降りる。
すると中から寧々子が顔を出した。
ちょいちょいと手招きをしているので周りにはあまり聞かれたくない話なのだろう。
「いかがされました、おねね様」
「あまり佐吉をいじめないでもらえますか? あの子はまだまだ子供なのです」
「おねね様はご自分にかかっている彼と怪しい関係であるという噂をご存じなのですね。からかいがいがないですね。全く、僕は秀吉様になんと説明すればいいんですか」
「浮気ばかりする天罰とでも言っておいてください」
「……子が生まれぬ以上、側室は必要になります」
「みんなが言いにくいことをズバッと言いますね、半兵衛殿は」
「ずば?」
「聞き逃してください」
あまりにも普通に使えてしまうから時々ボロが出てしまいそうだ。
三吉が近くに来て、前世のまま話す機会が最近多かったから余計に型崩れしてしまったいる。
これはこれで自分の首を絞めているな。
「では僕から一つお聞きしても?」
「なんでしょう」
「彼には、話しているのですか? あなたの隠していること含めて、全て」
「ええ」
「あっさりですね。もう少し隠すそぶりを見せるかと思いました」
「半兵衛殿には隠しても見通しそうですもの」
「それを聞いて、頻繁に会っていたことには納得しました。でも秀吉様をごまかすことまでは出来ませんよ?」
「よいです。さっき言ったように天罰と伝えてください」
やれやれと額に手を当てて呆れる竹中半兵衛。
にこっと笑みを送り、戻っていいですと声をかけて籠の窓を閉めようとするとそっとそれを半兵衛が止める。
「事情は納得しましたが、僕が先にあなたと会って組んだのに後から現れた彼に全部持っていかれるのは妬けますね」
「……半兵衛殿?」
「おねね様、僕のこれ、忘れていませんよね?」
そう言いながら半兵衛は自分の束ねている髪を指さす。
それを言われると寧々子も弱いのか、顔を引きつらせる。
「あまりこういう手段で人を脅したくはないのですが、これでも軍師です。おねね様、あなたが抱えるその秘密は僕の命と比べてどれくらいの価値があるのでしょう?」
「今まで全然そういう脅し方してこなかったのになぜ急に!?」
「この成り故に昔から侮られがちですが、皆さま僕が男であることを忘れすぎです。だから相手よりこちらに主導権があるのが好みでしてね?」
「なるほど? 私に主導権があるかのように仰せですが、ほんとにそうでした!?」
「知る者と知らぬ者では事情が異なります。我々は相棒として数々の戦も共に乗り越え、一度共に運命を変えることまでした仲なのに、未だ信用が置けませんか? あとそれは人の命より大事なものですか?」
「くっ、畳みかけるように罪悪感をつついてきますね……。わ、わかりました。確かにその一件は私に非があります。少し猶予をください……」
確実にすべてを話すと約束したわけではないが、その返事だけでも満足したのか半兵衛は「お待ちしております」とだけ言って籠の窓から手を離して馬に乗りなおした。
軍師、おそるべし。
目的の岐阜城に到着した。
籠を下りた寧々子はアポなしで来たので、門兵に織田信長へ取り次いでもらおうとすると後ろから声をかけられた。
「あれ? ねねか?」
「……これは、利家様!」
「おお! 久しぶりだな!」
偶然にも、門前で前田利家に会えた。
前田利家。
秀吉の親友とも呼べる長年の友人で、槍の又左の異名を持つ血気盛んな武将で織田家の家臣だ。
かつては訳あって信長の怒りを買って浪人となったが、今では特に戦ではとても頼りにされている。
「どうしたんだこんなところで? 秀吉は一緒じゃないのか」
「ええ。信長様に少し個人的にお話があって」
「信長様に用か! 俺も信長様んとこにこれから行くつもりだったから一緒に行こうぜ!」
「なんという偶然。ありがとうございます、お供させていただきます」
こうして利家についていく形で岐阜城へ入城を果たしたのだった。
読了ありがとうございます。
ブクマ・ptよろしくお願いします!
明日は前作の番外編を更新予定です!
こちらは明後日を予定しております。