第二十八話 情報漏洩対策案
再びあの男に出番!!
織田軍が設楽原に到着し、武田の軍議が開かれた翌日。
設楽原に武田軍も姿を現した。
その数、一万二千。
武田勝頼が長篠城まで率いてきた数は一万五千なので、残り三千の軍勢は長篠城の監視に充てられている。
設楽原に現れた武田軍はそのまま織田軍が広く浅く部隊を展開しているのに習ってか、武田も織田同様に広く浅く布陣した。
それを受けて織田陣営でも徳川軍を交えて軍議が開かれた。
「設楽原に現れたということは、武田は我らと決するつもりだということだな? 信盛」
「はい。古参の将たちまで騙しきれている気はしませんが、今武田勝頼を牛耳っているのは新参者の将二人。この二人は某が織田を裏切る意志があると本気で思い込んでいるようですので」
「この数か月の間、信盛がしてきたことは実を結んだということだな。褒めてつかわす」
「はっ、ありがたき幸せ」
佐久間信盛はあくまで冷静なままの態度でいるが、声に嬉しさがにじみ出ている。
「光秀、一益。鉄砲隊の守備はどうだ?」
「万事滞りなく」
「数も不備もございません。いつでもできます」
「うむ。 ……竹中半兵衛」
突然名指しで呼ばれて半兵衛は反射的に顔を上げる。
「はい」
「この戦、提案をしてきたのはぬしだと聞いている。ここまできて、どうだ? 勝率は未だ高いか?」
「――ええ。我々の勝利は揺るぎません」
「そうかそうか。ハハハハハ! 愉快愉快。武田は我らとかなりの距離間にいる。だが、これだけ近くに来たのもまた天の導きぞ」
信長は言いながら立ち上がり、皆の前をゆっくり歩いていく。
「我々の勝利はゆるぎない。ならば、我らは一つの損害を出さずにこの戦、勝利してみせようではないか!」
信長の檄に、家臣一同「おおー!!」と声を上げた。
織田軍の士気は依然高いままであった。
軍議が終わり、半兵衛は真っ先に寧々子がいる羽柴隊が配置された現場へと向かった。
寧々子は現場で座りながら地図を睨んでいた。
近づいてくる足音を聞いたからか寧々子は半兵衛の方を振り返る。
「あ、半兵衛。おかえりなさい。軍議はどうだった?」
「順調に事が運ぶ流れにしてきました」
「運ぶように……なにか言われたの?」
「信長に名指しでこの戦が勝てるかと聞いてきたので勝てます、と」
「――そうね。そこで今更不穏であるなんて言ったらすぐさま撤退しそうだものね」
「ところで、寧々子殿はなにを?」
そこで半兵衛は寧々子が見ていた地図に目を落とすと、地図によく分からない位置関係で赤い印がつけられていた。
「この印は?」
「忍びが来るならどのルートになるかなぁと思って」
「忍び?」
「うん。半兵衛、未来視でこちらの情報が敵に漏れて大敗するって言ってたでしょう? それって忍びじゃないかなぁって」
「なるほど。一理ありますね。僕でしたら、裏切り者の路線も考えますが、それはなかったのですか?」
言われてみれば、と寧々子は一瞬思案したが、その線はないと断言した。
ほう? と面白そうな表情へと変化させ、続きを促してくる半兵衛。
「裏切りだったらおそらく武田はもっと短絡的に攻め込んでくる気がする。こんな織田のやり方に合わせるようなことしないような」
「そうですね。それに今回の戦に武田の古参武将たちは乗り気でない、むしろ制止したと信盛殿から報告がありましたし、確かにその路線は薄いですね。だから、忍びですか」
「そう。でも忍び相手に素人が勝ち切れる気もしないから、プロを呼ぶことにしました」
「プロ?」
またもわけのわからない単語が出てきたな、と言葉の意味を聞こうとしたとき。
「へぇ、あんたがあの竹中半兵衛ねぇ~」
「ひゃぁああああ!?!?!」
半兵衛の耳元にイケメンな低音ボイスがささやかれる。
それを受けて鳥肌が立って、勢いよく声主から離れる半兵衛。
一瞬あげた叫び声をかわいいと思ったことは内緒である。
「な、なんですかこのチャラチャラした人!」
「紹介するわ、半兵衛。家康様へ仕えている服部半蔵殿よ」
「チーっす!」
「え? こんなチャラチャラした人があの家康殿へ仕えている忍び? 納得がいきませんね」
「お嬢ちゃんといい、なんで俺ってこんな非難ばかり浴びちゃうわけ~?」
不満そうに言うが、こちらも何度でも言わせてもらうとこんなチャラチャラした忍びはいないと思う。
「それで徳川の忍びを呼んで一体なにを?」
「ええ。半蔵殿、再び頼みたいことがあります」
「へいへい。あんたの頼みなら家康ちんも許可だすっしょ。次はなんだい?」
「武田の忍びを絶対に見つけ出して、捕まえてほしいの」
「――なるほどね。確かに忍び相手だったら下手に素人がどうこうするより確実だね。忍びには忍びにしかわからないことがあるしねぇ~。受けよう」
良き返事を受けてパァッと表情を明るくさせる寧々子だった。
そこまで流れを見ていた半兵衛がふと、見逃しかけていた疑問を口にした。
「半蔵殿は治の正体をご存じなのですか?」
「そりゃあね。俺は、家康ちんの影だからねぇ~」
「……あのときの会話も全部筒抜けだったわけですね。あなたの能力はなんですか」
「――えっ!?」
今度は寧々子が声をあげる番だった。
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目には目を、歯には歯を、忍びには忍びを!!




