第一話 転生しても変わらないものは変わらない
ようやく出すことが叶いました、前作に続く新タイトルでの新作です!
平凡な姉弟の再会(略)のあらすじ。
集団通り魔に襲われて死んでしまった平凡な姉弟の寧々子と三吉。
寧々子が転生したのは豊臣秀吉の妻・ねね。
三吉が転生したのは関ヶ原の戦いで有名な秀吉の子飼い武将・石田三成。
二人がこの時代で生まれた年は二十年ほどの差があった。
そのためすぐに再会することはなく、後に生まれる三吉は姉も転生していることを全く知らなかった。
寧々子は、ねね本人と接点があったことから転生理由と目的を知り、来たる運命を変えるための準備と戦に参加するなどして戦国観光 (笑) を着々と進めていた。
三吉は転生について何も知らないまま自分の置かれた現状を把握したあと、石田三成としての道を歩むつもりだったが、初めての友人を得ていろいろ考えた結果、自分の思う通りに生きてみることにした。
それぞれが別の環境で紆余曲折して生きてきたものの、二人は無事再会。
目的を共有し、共にねねから託された願いを叶えるために行動を共にする。
これはそこから始まる物語。
三吉が平馬と共に寧々子の部屋に侵入してから一か月ほどの月日が経った。
石田佐吉が弟だとわかった寧々子は、それまで度々不在にしていた城に留まるようになった。
夫婦の時間を与える意味も込めてややに休みを渡し、ややに代行させていた城や城下の管理を自らこなす。
寧々子が城を不在にしがちだったのは実際に城下に出て町人に紛れて町の様子を把握していたのもある。
また、秀吉が信長に従軍して京に上洛した間に数人の側室を娶っていた。
一夫一婦制の現代で生まれ育った寧々子には自分以外の妻という存在が何人もいることに戸惑いを感じずにはいられなかったので、あまり城にいたくない気持ちもあった。
「いい加減この気持ちにも決着をつけないといけないんだけどぉ~生きてきた時代が違いすぎて難しいよねぇ~」
「……もしかして愚痴を聞かせるために僕は呼ばれた?」
寧々子に仕えている侍女から呼ばれていることを伝えられた三吉は、寧々子の部屋を城内の人間も少なくなる夜更けに訪れた。
すると自室の前の縁側で片膝を立ててそれに酒が入った椀を持った腕を乗せ、片足をぶらぶらさせた寝間着も着崩れている、姫どころか女人らしくもない姫が待っていた。
これが前世の姉の姿なら色気もなにもないただの干物女子にしか見えないのだが、転生したねねの姿なのである。
そんなひどい姿恰好をしていても、月明かりに照らされているせいもあってか、めちゃくちゃ綺麗に見えて三吉の心は形容し難い気持ちが渦巻いていた。
「だって前世のこと知ってるのはあんただけだもの~。あ、あとねね様か。でもねね様はそんなホイホイ会える人じゃないし~」
「ええい、酔っ払いめ。大体、結婚済みの貴婦人がこんな時間にそんな状態で僕といるところ見られたら僕も姉さんもただじゃ済まないぞ」
「だ~か~らぁ~人払いしてるじゃん。秀吉もどーせ他の嫁んとこいってるわぁ」
「姉さんが構ってやらないからじゃないの」
「構おうが構うまいが、子供できないんじゃあこの時代の男にとっては価値が低いのよぉ」
子供、という単語を聞いて三吉がしまったという顔をして俯く。
寧々子の言う通り、子が成せない女はこの時代では生きづらいのだ。
きっと周囲の寧々子に対する風当たりは強いものだろう。
「なんでお前がそんな暗い顔してんだよ~。いいから飲みなさいよ~」
そう言いながら三吉の分が注がれた杯を手渡してくる寧々子から受け取って三吉はそれを一気に飲み干す。
ここで飲んだお酒が初な三吉は、前世でも一度も飲んだことがなかったので初めての味に「うっ」と声をあげる。
その様子に寧々子は笑った。
「三成になったということは、うたという人とお前は結婚するんだな。まさか弟の結婚を見ることになろうとはね~」
「だ、誰その人」
「そのままよ。特に逸話はなかったはずだからどういう人かは分からないけど、三成の子供はそれなりにいたから仲良くしていたんじゃないかしら。他に妻はいなかったはずだし、今の私からしたら羨ましいわね~。大事にしてあげてね」
「まだ出会ってもいないんですけど……」
歴史に詳しい姉でさえ詳しいことを知らないという、石田三成の妻。
どんな人なのだろうか、と少し考えるが、変に期待して知った時にがっかりすることでもあれば相手に失礼なのですぐに考えることを辞めた。
それまでだらしなく座っていた寧々子が急に「あーあ」と声をあげながら後ろへ大きく腕を広げて倒れ込む。
ほんとに前世との違いが見た目だけで中身に何の変化がないんだなと再実感する三吉。
「向こうが女作りまくるなら私も浮気しちゃおうかしら~」
「いいんじゃないの? どっちも浮気するなんてまさに似た者夫婦じゃん。有名人になれるよ」
「なるほど。それもアリだわ。手始めに信長様でも誘惑してみようかな」
「真っ先に旦那の上司にいくとか、悪女の素質あるな!! 姉さんそんなに恋愛に積極的な人だっけ!?」
「いやーー、前はオタクだったもんで恋愛よりも創作するのが楽しかったから全然恋愛してなくて分からないんだよねぇ。自分がどんなタイプなのか」
「少なくとも僕よりは積極性がありそうだということは読めた。元々なんでも行動派だもんね」
そういうと三吉は空を見上げる。
彼にしてみれば、姉のそういう行動派なところはすぐ慎重に考えてしまって動かない自分とは対照的で羨ましい要素だ。
しかし寧々子は、それを聞いてから表情をみるみる無へと変貌していく。
空を見上げている三吉はそれに気づいていない。
「でもねぇ、両親がだんだん仲悪くなったじゃん? あれ見ちゃうとさぁ……結婚はおろか恋愛にすら希望持てないよねぇ。ここ来てからも、ねねに転生した以上は秀吉と結婚するのが今の私の運命か~、と考えて最初は性格悪くないしこっそり戦場で一緒に戦った時もいいな~と思ってプロポーズオッケーしたけど、いつのまにか奥さん増えて子供一人できてるし。歴史って、人ってそう簡単に変わらないよなぁ~」
「でも別に嫌われてるわけじゃないじゃん? 前に姉さんが城を不在がちだったときすごく会いたそうだったけど」
「戻ったらこのザマじゃん。やっぱ信長様んとこ行こうかな。どのみち会いに行こうとしていたし。お前も来なさい。供に選んどくから」
「何しにいくのさ」
「浮気」
語尾にハートが付きそうな甘い声で言われ、三吉は鳥肌立つ。
面倒なことになったと思ったが、問題行動でも起こされたら面倒なのでついていくことに了承した。
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