第十三話 戦のきっかけとは
長篠の戦いって、
「いえーい鉄砲隊いて無敵だし武田やっちゃおーぜー!」みたいな感じで開戦したんじゃないんですね。
これはまだ長篠の戦いのはじまりにも触れていなかった一年前。
桶狭間で今川義元を破り、朝倉・浅井両家を滅亡させた織田信長だが、それでも未だ武田家に比べれば弱小大名といわれていた。
もし武田家を敗れれば、織田家は天下に再び大きく名を上げることとなろう。
それが結果的に主・羽柴秀吉のためとなるならば、と竹中半兵衛は寧々子から長篠の戦いにまつわる話を聞いてから急いで秀吉への提案書をまとめ、提出。
これを受け取った秀吉もまた、半兵衛の考えた可能性に乗ることにして信長へ提案。
寧々子が言った武田信玄の死についてこの時点では確実な証拠がないため、信長は秀吉からこの提案を受けた時、すぐには首を縦に振らなかった。
「サル、確かにこの提案どおり、武田を敗れれば今後、余の天下に大きく影響を与えよう。
だが、朝倉・浅井家は滅亡し、余に敵対する近場の者たちは国力が弱まっている。このままなにもせずとも自滅するのは道理だ」
そういうと、信長は提案書を秀吉へ突き返した。
秀吉は残念そうにはするものの、大人しくそれを受け取る。
「それに……織田はまだ武田家に勝るほどではない」
「確かに素の戦力では織田は武田に劣りましょう。しかしこの鉄砲隊の策と馬防柵があればあるいは……!」
「……少し考える」
「ありがとうございます!」
秀吉は信長の御前を辞すと、すぐさま屋敷へ戻って半兵衛にこのやりとりを話した。
「織田信長の言う通り、彼が動く理由は今のところありません。そこが悩みだったのですよね、この提案は」
「戦は起きぬ方がいいのはわしも賛成なのじゃが、武田を敗れれば天下統一に大きな一歩じゃと思う」
「ええ。また少し考えます」
「いつもすまんのう」
「これが軍師である僕の勤めですから」
半兵衛は秀吉の部屋を出ると、そのまま寧々子の部屋へ訪れる。
外から挨拶をすると、中から「どうぞ~」と許可を出す声が聞こえたので遠慮なく部屋へ入ると、
「五光! あがり!!」
「あー! また負けた……」
「ふん、姉に勝とうなんぞ百年早いぞ、弟よ」
花札をしている寧々子と弟・石田佐吉こと佐吉がいた。
あまりの平和ボケ具合に半兵衛は一人苦笑いを浮かべている。
「どうしたの、半兵衛」
「なんか、すっかり素の状態を見せていただけるようになりましたね……嬉しいやら悲しいやら」
「喜んでおいてよ。私も弟と再会するまでねねさま以外でこんなに気軽に自分のままで話せる相手ができるとは思ってなかったからさ」
「フラットすぎないかとは思うよ、姉さん。それで他の人や秀吉様にこんなとこ見られたらどうするのさ」
「まぁそのときはそのときよ!」
「軽いですね。あ、そういう話をしにきたわけではなく、相談です」
相談、という単語に寧々子と三吉は息の合った動きで急いで花札をしまう。
まるでなにもなかったかのように姿勢を正してキリっとした顔つきをして半兵衛に座るように促す。
バッチリ遊んでいた所を見られたので今更どんな顔つきをされようが救いはないのだが。
「織田信長に例の寧々子殿が申していた長篠の戦いについて秀吉様が提案書を提出してみたのですが、やはり動きませんでした。信長には今動く理由がありませんから」
「へぇ、じゃあなんで長篠の戦いって起きたのでしょうか?」
「それを聞きに参りました」
「だってさ、姉さん」
「うーん、確か武田家が徳川家の領地へ攻めたことが始まりだったはず」
「ほう、徳川の領地へですか。それは立派な理由になりますね。織田信長にとって徳川家康は一番の盟友ですから」
半兵衛は少し考えると、急ににこやかな笑みを浮かべて寧々子に向ける。
それを見た寧々子は瞬時に嫌そうな表情をする。
こういうときの半兵衛はろくなことを言い出さない。
「寧々子様、三河にちょっとひとっ走りしてきてください」
「ほらぁぁぁ!! 言わんこっちゃない! 私をなんだと思っているのよ!」
「主の嫁、もとい僕の相棒です」
「主の嫁! 嫁! 不在がちだとまた喧嘩しちゃうよー!」
「大丈夫です、そこはねねさまの召喚術をうまく使うことにしましょう」
「え」
半兵衛の笑顔がさらに増した。
読了ありがとうございます。
ブクマ・ptよろしくお願いします!
次回、急に三河にいきますよ!




