第十一話 火縄銃
私も実物火縄銃触ってみたい。
石田佐吉の正体が寧々子自身の実弟であることまで竹中半兵衛にバラした寧々子。
寧々子の部屋に半兵衛の複雑な気持ち混じりの叫びが響き渡る。
人払いをしていたことが幸いして誰も来ることはなかった。
「――そういう関係であったならしょっちゅう呼び出しを受けていたことにも納得しますね。取り乱してすみませんでした」
「取り乱した後に冷静な顔で言われても、取り乱したことは忘れないわよ、半兵衛」
「そのうち忘れますよ」
「何がどうしてこういう状況になっているのか説明がほしいな、姉さん」
後から部屋に乱入してきた三吉へ、寧々子は簡単にこの状況及びこれまでの戦で得ていた情報の共有をする。
一気に情報が舞い込みすぎて三吉も時々頭にハテナをたくさん浮かべるものの、知将・石田三成として生まれ変わっただけはあってすぐに理解は追い付いた。
「話は分かった。じゃあ、竹中様にも素で接していいわけだね?」
「三吉が素じゃなかった時なんてあったか? というくらいには変わってない気がするけどそうだよ」
「本性を隠しきれていないというのもどうかと思うのですが、それで寧々子殿はよかったのですか?」
「まぁいいんじゃないかな~と軽い気持ちにしか考えていなかったわ」
「そういうところは秀吉様と同じで夫婦共に軽いですね」
呆れた表情を浮かべたところで、半兵衛は三吉が持っていた物に目がいく。
「石田殿、それは?」
「あ、佐吉でいいですよ。本名も同じ読みなので。これは姉さんに頼まれて織田軍からいただいてきた火縄銃です」
「火縄銃!? ……あ、僕も半兵衛でいいですよ、佐吉殿」
三吉は持ってきた風呂敷を広げて火縄銃を出す。
それは寧々子がかつて、金ヶ崎撤退戦から京へ逃れた時に織田軍陣地へついていったときに武器庫で見かけた銃と同じものだった。
「なぜ銃など? 寧々子殿は槍や弓の扱いに長けておりますし、今更銃など持たずともよいかと」
「フフッ……いや、この時代の銃に興味があって。私のいた時代では昔の物においそれと手を触れることなどできませんでしたからね。この時代なら量産品でしょう?」
「姉さんは漫画を描くのが好きだから、こういう資料になりそうな物には特に食いつくんですよ」
「まんが?」
「あ、絵です。ただ、よくある絵ではなく……実物見た方が早いかも。姉さん、作品ないの?」
「クロッキーはしてるんだけど、いかんせん書くものが筆だからなかなか慣れなくてね。まだ作品と呼べるものはできてない」
「そのうち見られる、ということでお願いします」
「ではそのうちの楽しみに」
自分が全く知りえない文化を知ることに興味津々なのか、瞳をキラキラと光らせている半兵衛はかわいい。
「この銃、今は撃てないようになってる?」
「当たり前だよ。え? まさか撃つの?」
「実際はどんなもんかなと。長篠の戦いといえば、あの有名な三段撃ちと武田の騎馬隊でしょう? でもこの三段撃ちの実力は疑われててさ。実際一連の流れを試したある時代考証家は三段撃ちのみでは戦には勝てないと言っている。だからそれが本当か知りたくて」
「へぇ」
「ちょっっっっと待ってください。僕の存在を忘れないで、二人だけで話を進められても困ります。その長篠の戦いって信長が武田家とやりあって勝ったということですか!?」
「そうですそうです。朝倉・浅井家が滅んだから次にある大きい戦はそれですね」
「正体明かした途端、気軽に情報提供ありがとうございます!? しかし武田家には数年前に織田・徳川軍が大敗し、徳川に至っては甚大な被害を被るほどの相手です。その相手に勝つなど容易ではない。その情報、詳しくお聞かせください!」
瞬く間に軍師の顔つきになり、この先の戦について聞き出そうと身を乗り出す半兵衛。
三吉と寧々子はそれに一瞬圧倒される。
二人は前世の知識があることもあって、この時代における武田家の強さをきっと、他のどの武将たちより知っている。
半兵衛がこれほどまでに食いつきがいいのもすぐにうなずけた。
「では、これから始まる戦について私達が知る情報をお伝えします」
それは、この会話を交わした日より一年後に起きる戦であった。
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次回、長篠の戦い、開幕予定!




