表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/47

8. チキンかなカレー


ザー…

ヒュオォォォ…


雨です。

雨だけならまだしも風が強い。


「天気予報だと、お昼近くなれば雨は上がるはずなんだけど…」



時折吹き付ける風が、入り口の引き戸をガタガタさせるのを眺めながら本日の仕込みを始める。

この天候が長引けば、ランチタイムに大打撃だ…。

飲食店業界、意外とお天気に左右されるんだよねぇ。


まぁ、それはそれ。

雨が上がる事を信じるしかない。

今日も頑張っちゃうぜ!




*******




「よし…これでいいかな」



私の密かなお楽しみ、恒例の黒板タイム。

美味しく食べてもらえる事を祈って作ったご飯を、書き記すというのは妙にわくわくしてしまう。


『メニューはこれだけ!

 本日の店主の気まぐれご飯


 チキンかなカレーライス

 半熟ゆでたまごのせ

 ミニサラダ・スープ付

 ※ライス大盛り無料※

 900円


 NOTサラサラ,YESドロドロ!』



そうですとも。

本日のメニューはカレーです。

『チキンかなカレーライス』は間違えて書いたんじゃありません。敢えての表記なんだな。


具材は鶏むね肉、玉ねぎ、人参、じゃがいも、トマト。

すべて原型ないんです。

人参は辛うじて見えるけれど、玉ねぎとじゃがいも、トマトは溶けてしまっている。

圧力鍋を使ってしっかり煮込まれた大量の鶏むね肉は、塊では残っておらずほぐし身のような状態でルーにまんべんなく馴染んでいる。

見た瞬間、これチキンかな?って疑念をもつのでチキンかなカレーです。塊のお肉を食べたい方はごめんね!


そして、具材をめいっぱい使って溶かし込んだこちらのカレー、もちろんサラサラタイプではありません。

全部溶けてるだけあって、少し重めのドロドロタイプ。


カレーの上には半熟のゆでたまご。

殻を剝いた状態でコロンと載せて提供致します!

スプーンを入れた瞬間に、黄身がトロリと溢れますよ〜。

個人的にはこの瞬間が大好きです。

とろりとした黄身って、何故あんなに食欲をかきたてるビジュアルなのか。


でもね、殻を剥くのが本当に面倒くさいんですよ。

黄身が柔らかいから、雑に剥くと白身も殻と一緒に剝いてしまう悲劇が起こるんだよね。

自分で食べるなら別に構わないけど、それをお客様には出せないし、慎重に剥きましたとも。

今日はこの殻剥き作業が一番の手間だったことは間違いない。


カレーが濃厚なので、スープはあっさり。

キャベツとコーンのコンソメスープ。


大根の千切りに自家製すり下ろしにんじんドレッシングをかけて、ミニサラダもついてるんだぜ。


ポテサラ君…

今日も来るかは分からないけど、一応心の中で謝っておくよ。

ポテトサラダじゃなくてごめんね。



開店時間まであと30分。

依然として風の音は止まないけど、雨はいつの間にか止んだみたいだ。

外に黒板出したら飛ぶかな…

あ、固定のチェーン買っておいたのを使おう。


いそいそとミニ黒板の脚部分と、店舗の外側の引き戸付近の適当な可動しない部位を固定チェーンで連結させる。


「よし…!オッケー」

これくらいの風なら、黒板は倒れそうでも飛びそうでもないようだ。念の為固定チェーンも付けたし一安心。

モタモタしてしまったせいかあっと言う間に開店時間が迫っていた。

暖簾もかけておいたし…大丈夫だね。

風に煽られた私の髪の毛は、纏めておいたのにも関わらず見事にボサボサになった。

開店する前に軽く身嗜みを整えて…と。


ふと、つい昨日の生姜焼き事件を思い出す。

チラリチラリと例の“ご予約席”に視線を向けてしまうのは仕方がないことだ。

お天気やら店舗清掃、仕込みやらで気を紛らわせていたけれど、実は昨日からずーっと頭から離れない事案である。


昨日は見かけたのが可愛らしい子供だったから、しかもつまみ食い現場(?)を目撃したから微笑ましいと思えるけど、ホラーな貞子みたいなタイプが見えてたら、こんなふうに今日の営業なんか出来なかったはずだ。


それはそれとして。

趣味を存分に兼ねているとは言え、仕事は仕事。

風は強めのままだが、雨は止んだ。

神は我に味方した!腹ペコ達よ、来るが良い!!

いえ、来てくださいお願いします!


営業後にはオーナーに話を聞くっていう大切な予定もあるし、今日の営業が無事に終わりますように。

お客様が風にも負けず来てくれますように。





*****





「カレーにたまごって運命の相手だよな」

「分かる」

「カレーって色々種類あるけど、結局は辛すぎなくてでも後味ピリッとする、これくらい位の味が良いんだよな」

「分かる」

「ただ肉の塊は欲しかった」

「分かる」

「お前さっきから『分かる』しか言ってないけど壊れてんの?」

「それな」

「俺は食べるのに集中してんの!」


…あの3人仲良し過ぎるな。

テンポ良く交わされる会話が聞こえて笑みが溢れる。


確実に常連さんになりつつある3人組のサラリーマン。

初日にポテサラ君と同じようなタイミングで来店していたので、同じ会社かなと勝手に思っていたが、どうやら全く他人同士らしい。

ポテサラ君は一人だったり会社の先輩らしき人と来たりしているが、3人組はいつも3人で来ている。

ちなみに本日ポテサラ君は、一人で来て、ポテトサラダがない事にションボリしつつ、大盛りカレーを完食して帰って行った。


そういえば、ドラマや映画だと、常連さん同士で仲良さげに会話したり、何故か常連さんを名前やあだ名で呼び合ったりしているけど、あれってどんなシステムなの?

お名前なんていうんですかって聞くの?

ハードル高いよ!


なのでポテサラ君以外にも私は名付ける事にした。

そう、あの3人組。30代前半くらいのお3方である。

一番よくしゃべるオシャレな鼈甲フレームの眼鏡をかけているのがメガネ君。

ツッコミポジション(仮)で会話から察するにお肉が大好きな、筋肉質で背が高い人が、ミート兄貴。

色が白めでかなり痩せ型、3人の中では一番無口で黙々と食べがちそして早食いなのが、チベスナ君。…似てるんだ、チベットスナギツネに。チベットスナギツネをベースに涼やかなイケメンにした感じの顔してるんだよチベスナ君。

もちろんこれらは私の心の中だけで呼ばれる名前である。


そんな事を考えている内にあっと言う間に本日の営業は終了したのだった。


ちなみに、お天気の影響で客足が不安でしたが、特に普段と変わりなく、カレーも好評でした。


良かったぁ…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ