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40. 春巻き定食



私が春巻きの皮に餡を包む作業をしている間に、浅漬けさんは「またな」と言っていなくなってしまった。

今日はいつにも増して静かだった。

妖精くんがくると、どうしてもこっちの方が構いたくなっちゃっうけど、浅漬けさんに構いたいって言うほどの愛くるしさは流石にないわぁ。



さて、本日のメインメニューの春巻き。

皮を台の上に置いて、真ん中より少し下くらいの位置に具を乗せる。

うちのは具をたくさん入れるので、太い春巻きになります。

中身がはみ出ないように、両端をしっかり折込み巻く。

最後の端には、小麦粉のりをつけてしっかり蓋を。

ずっしりとした存在感のある春巻き。

中身は火を通してあるので、直前に揚げて提供するのだ。


本日の小鉢は、茹でた鶏肉とピーマン、人参のマリネ。

人参をピーラーでテロテロの薄い状態にして、ピーマンは細切りに。

自家製マリネ液につけておいたものだ。

自家製とか格好良く言ってるけど、単純なよくあるレシピなのだ。お酢とみりん風調味料にお砂糖、オリーブオイルとブラックペッパー。

適当な配合なんだけど、混ぜながら味見をすると失敗しません。


そして、本日の汁物は玉ねぎとたまごの中華風スープ。

玉ねぎを先に煮込んでクタクタにして甘みを出すのがポイントだ。スープにはとろみはつけずサラッとタイプで。

ちなみにこのスープのベースは、小鉢の茹で鶏を茹でた汁である。

既に旨味を凝縮したお出汁がしっかり出来ているので、しっかり灰汁をとったらここに具材を入れるだけ!

一石二鳥なメニューである。

味付けは塩胡椒少々とごま油、千切りの生姜を入れて風味を爽やかに。


春巻きの付け合せはやっぱり揚げ物のおとものシャキシャキなキャベツの千切りですよ!





『本日のメニューはこれだけ!


 ズッシリ春巻き定食(2本)

 小鉢、ごはんとスープ付!


 ごはんは大盛り・おかわり自由です!


  

       900円』



いつもの黒板に書いて店頭にセットして、と。



「今日もたくさんお客様きますように!」



さぁ!ランチタイムがはじまるぞー!!



******



「ウケる!これうちのエアコンのリモコンくらいのサイズだ」

「ん?いや、うちのリモコンはこれより小せえな」

「…メーカーや新しい古いでリモコンの大きさ違うだろ」



いつもの三人組は春巻きの大きさにキャイキャイ盛り上がってらっしゃる。


って、ん?

ポテサラ君どうしたんだ…?


先程届けたばかりの春巻きをジーッと見つめている。

お?春巻きの端をお箸でつまんで…、

具が多いから重いし、お箸で掴んで無い方の端は、具の重量で少し下がる。

パリッと揚げても具の重量が勝ってしまうのよね…ってそのままガブリ。


良い食べっぷり!

一口で噛み切れなかった筍がツルンと春巻きから引き出される。

それも一緒にもぐもぐ、もぐもぐ。

少しだけ目が見開かれて、白米、春巻きの順で食べ進めている。

お気に召したみたい、分かりやすい…!


三人組も春巻きのヴィジュアルにキャイキャイしていたが、食べだすと無言でバクバク食べ進めている。

“おいしい”の声も嬉しいけど、こういう無言の“おいしい”もすごく嬉しいものだ。


そして本日もちゃっかりカウンター席に座っている矢崎さんは、キレイな所作だけども豪快に春巻きを頬張っている。

注文の際に、

『春巻き大きいので、カットして出しましょうか?』

と念の為確認してみたが、

『いやいや!かぶりつきたいので!』

と目をキラキラさせて言われてしまった。


唯一の女性常連客と言っても過言ではない矢崎さんに気を遣ったつもりだったが、矢崎さんはやっぱり矢崎さんである。

そこが素敵なんだよね。

ちらりと視線を向けられた事に気づいたのか、矢崎さんと目が合った。



「店長さん!春巻きおいしいです!このマリネ?と相性最高!

 揚げ物だからさっぱりしていいですね」

「ありがとうございます、お口に合って良かったです」

「スープもお出汁が出てて最高!このお店本当に好きです」

「……、ありがとうございます」



にこにこして言われた言葉に、胸がグッとなった。

それを堪えて、笑顔でお礼を言えて良かった。

私の様子には気付かれなかったようで、矢崎さんはにこにこして食事を進めている。



嬉しい言葉だった。

春眠亭を好きだと言ってもらえて、おいしくご飯を食べてもらえる。

矢崎さんにとっては何気ない一言だったかもしれないけれど、

何だか今までの自分の人生が少し報われたような気持ちになった。


胸が熱い。

私の選択は間違っていなかった。

胸につられて目頭まで熱くなりそうだ。




ガラガラガラッ

「2人だけど大丈夫ですかー?」



引戸の音と同時に聞こえた男性の声で、ハッと我に返る。



「はーい!大丈夫ですよー!空いてる席にどうぞー!」



入り口へ向かいつつお客様をお迎えする。



私は今日もここで、

お客様に美味しいと言ってもらえるご飯を出すのだ。




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