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36. ホクホク長芋の梅ダレ漬け




長芋ナガイモ山芋ヤマイモの差って知ってる?

長芋は元々中国産の種らしいよ、日本で栽培してるけど。

山芋のほうが粘り気があるから、摩り下ろして“とろろ”向きなんだって。

でもね、長芋だろうが山芋だろうが正直どっちも同じに見えちゃうんだよねぇ。

しかも“とろろ”も好きだけど、火を通したものも大好きなんだよね!



「ふぅん?」



私の長過ぎる長芋談義に、くりくりのお目々をパチパチさせて相槌を打ってくれた妖精君。

…可愛い。



「ながいも?やまいも?きょうはどっちなの?」

「今日は長芋です!」

「おー!」


テンションの高い私にパチパチと拍手をくれる妖精君。

…本当に可愛い。癒やし。マイナスイオンすごい。



「長芋のヌルヌルが嫌だから、量もあるし、今日は、手袋して下拵えしまーす」

「はーい!がんばれー」

「ありがとう!頑張るよ!」



ピーラーでサッサと皮を剥いていく。

深めのお鍋をボウル代わりに水とお酢を入れて、皮を剥いた長芋を投入していく。



「おなべにいれてゆでるの?」

「違うよ、このお芋はね、皮を剥くと白い身なんだけど、時間が経つと茶色くなっちゃうのよ。だから、変色しないように魔法のお水に入れておくんだよ」

「まほう?みくこちゃんすごい!」

「ふふ」



どうして?なんで?っていう、ありがちな質問をされると答えられなくて困るから、魔法で済ませたずるい大人、私です。


皮を剥き終わった長芋達を酢水から順に出して、輪切りにしていく。

輪切りしたものは片栗粉を入れてあるバットにうつして、まんべんなく粉をマブしていく。

…片栗粉つけるなら多少変色してもバレなかったな。

家で作るときは酢水なんてつけてなかったもんなぁ、変色する前に片栗粉つけてたから。



「まぁ、いっか」

「まーいっかー」



私の独り言ににこにこしながら復唱してくれる妖精君。

…はぁ、癒やし。



「次は、梅干しー!」

「うめぼしー!」



田中家特製梅干しです。

市販品なら蜂蜜漬けじゃないものを使います。

いや、蜂蜜漬けでも良いけど、ちょっと甘いんだよね。

種を取り出し、実を包丁で叩く。

小鍋でお湯を沸かし、塩昆布を投入。塩昆布から出汁が出てきたら醤油とみりん。そうしたら火はとめておく。

家なら適当にめんつゆを使ったら楽です。

煮物じゃないから濃すぎないようにご注意を!

ほんのり琥珀色くらいがベストです。


その後に、叩いた梅干しを小鍋に入れてかきまぜる。

梅干しの塩味旨味と、塩昆布の旨味が良い仕事してくれるんだよねぇ。

そして冷まします。粗熱がとれればヨシ。



「次は、長芋をサッと揚げ焼きます」

「あげやきまーす」



フライパンに多めにごま油をひいて、両面を揚げ焼きしていく。

こんがりしてきたらバットに移して粗熱をとる。



「これだけでも美味しいんだよねぇ」

「たべたーい!」

「食べちゃう?」

「はい!」

「良いお返事だ!」



妖精君が可愛かったので、焼きたての長芋を小皿にとってご予約席に持っていく。



「はい、どうぞ」

「ありがと、いただきまーす」

「熱いから気を付けてね」

「だいじょぶ!」



フォークに長芋を刺して、パクリ。



「おいひぃー」

「ふふ、良かった」



ご予約席の隣の席に座って、私も一つ。



「んー!美味しい。何もつけてないのに」

「おいしいねぇ」

「うん、美味しいね」



片栗粉をつけて揚げ焼きしたから、香ばしくてサクっとした歯ごたえ。なのに中はホクホクなのだ。

このまま食べても間違いなく美味しい。



「でも、ここから更に美味しくなるのだ」

「のだ!」

「ちょっと待っててね」

「はーい」



立ち上がりまた厨房へ戻る。

味見をしている間に結構冷めた小鍋の梅ダレと、バットへ移した長芋達。

梅ダレを長芋の入っているバットへ流し込む。



「これで、長芋のカタクリコが梅ダレを吸ったら完成!」

「たべたーい」

「え?まだ梅ダレを吸ってないよ?」

「うん、でもだいじょぶ」

「そうなの?じゃあ持ってくね」



わくわくした顔で、“だいじょぶ”とか言っちゃう妖精君可愛い。

子供言葉って癒やされるわぁ。



「はい、どうぞ」

「いただきます」

「召し上がれ」



毎回ちゃんといただきますって言えて偉いわ…。



「おいしー!」

「良かった」



まだ全然染みてないけど、美味しい顔いただきました。

頬がふっくらした妖精君の横顔を眺めつつほっこり。



「みくこちゃん」

「なぁに?」

「あのね…」



妖精君は、持っていたフォークをカタン…と置いて、いつもとは違う、少し困ったような雰囲気で、一生懸命言葉を探しているように見えた。



「どうしたの?何かあった?」



あまりにも珍しい様子に、少し不安になり問いかける。

でも、妖精君の雰囲気は変わらず、返事もない。



「妖精君?」



長芋が気に食わなかったのだろうか、いやでも、美味しいって言ってたし…。

何か別のことがあるのか…。



「ごちそうさまでした」

「…お粗末様でした」

「みくこちゃん、おいしかった」

「あ、うん。なら良かった」

「またくるね」

「…うん。また来てね」



ニコッと微笑んでスッと消えてしまった。

無理に追及も出来ず、微笑み返すだけしか出来なかった。


カウンターのテーブルには、妖精君に出した揚げ焼きの長芋と、梅ダレをかけた長芋が小皿に残ったままで。

妖精君が使う前提の小さめのフォークもきちんと小皿の右側に置かれたままだった。


ご予約席のお客様を見送った後は、どうしてこんなに物悲しくなるのか。

それは、皆あんなにも人間味溢れる人達なのに、手付かずの料理を確認する度“生きていない”事を再認識してしまうからかもしれない。


小さめのフォークを手に取り、長芋に刺す。

ぱくりと一口。



「美味しい」



サクっとした食感

ホクホクした歯ざわり

香ばしさ

梅干しの爽やかな風味

塩昆布の柔らかな旨味



「ちゃんと伝わってますように」



浅漬けさんは、『感覚を共有してるのかも』って言ってた。

もしそうなら、私が感じるこの感覚を、ご予約席のお客様が感じてくれているかもしれないって事だ。



「あの子が、ちゃんと美味しいって感じられてます様に」



去り際が少し気がかりだけど、『またね』って言ってたし大丈夫だろう。

近々また、可愛い姿が見られる事を期待しよう。



「よし、今日も頑張るぞーってあぁー!!

 メインの準備早くやらないとヤバイ!!」




しみじみしてる場合じゃなかった。

急げ私!

今日も春眠亭を無事営業する為に!!






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