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29. 茶色いおかず


 『メニューはこれだけ!

 本日の店主の気まぐれご飯


 肉巻ききのこの生姜焼き定食

 味噌汁、ご飯付

 ※ご飯大盛り、おかわり無料


 900円』




カラカラカラ


「いらっしゃいませー」

「あっ、こんにちはー!」


引き戸を開ける音に顔を向けるより早く反射的に声を出すと、聞いたことのある声が聞こえた。

と、同時に顔も上げる。


「あっ!店長さん!来てくれたんですね!」


そう。店長さんである。

私も一応ここの店長なので、ちょっとややこしいけど、来てくれたのは、犬系の珈琲偏愛者、カフェ店長さんだ。


「はいー」


かるーい感じで右手を上げる様子は人懐こく、さすが接客業をされている方って感じだなぁ。


「入り口で止まんな、はやく入れよ」

「おー、ごめんて」


ギュッとカフェ店長さんの背中を押す腕が見えて、カフェ店長さんがこれまたかるーい謝罪をして店内に足を進めると、後ろから押した腕の主が見えた。


「俺大盛りでお願いします」


姿を表すやいなや四人掛けテーブルに座りつつ、いつものように大盛りと言い放つポテサラ君。私服だからお休みバージョンだ。


…ん?

そういえば!


「この前カフェに行った時に言ってた、“ここから職場も家も近い友達”って、もしかして…?」

「そうでーす!こいつのことです!こいつ知ってます?」

「そりゃあもう!うちの一番の常連さんですもん」


カフェ店長もポテサラ君にならい、テーブルに着く。

『一番の常連さん』のフレーズに少し恥ずかしそうに頬を染めたポテサラ君は、話を遮るように「こいつも大盛りで!」と言うので笑ってしまった。


「かしこまりました。大盛りお2つですね、少々お待ちください」



さて、本日のメインは肉巻ききのこの生姜焼き。

本日の付け合せはもやしのナムル、

スクランブルエッグと春雨のサラダであーる。

庶民の味方もやしさんを茹でて、鶏ガラスープ、塩、胡椒、ごま油、にんにくの擦り下ろしとすりごま。

シャキシャキ歯ごたえがたまらんよね。

スクランブルエッグと春雨のサラダは、茹でた緑豆春雨とスクランブルエッグ、レタスを使います。

味付けはさっぱり、ポン酢、醤油、みりん、豆板醤、ごま油で。


…そういえば今日はやけに付け合せが中華もどきだったな。


お味噌汁は、玉ねぎとたまご。

玉ねぎの甘みでほっとする味になっている、はず!

玉ねぎって、汁物に使うときにすごく甘みを出してくれるから好き。

え?あなたこんなに甘かったの?って玉ねぎに聞きたくなっちゃう。切るときにあんなにも私を泣かせるのに。

これが世に言うギャップ萌というものなのだろうか。







「はい、お待たせ致しました」

「おー!うまそー!」

「いただきます」



ガツガツとご飯を食べだす男子二人を横目に、他のお客様も対応しながら厨房へ。


今日は生姜焼きなので、非常に皆様のご飯おかわり率が高い。









*******








「茶色いおかずは魔物です…!」


絞り出すように呟かれた言葉は意外と大きく、店内にいたお客様でその言葉が聞こえてしまったと思われる人々は、同意を示すように静かに頷いた。


「矢崎さん…」


そう、大盛り女子の矢崎さんである。


「店長さん、本当に、本当に不本意なんですが」

「え、どうしたんですか」


“不本意”というワードにちょっと構えてしまう。


「ご飯のおかわりをお願い致します」

「……はい」


矢崎さん、一杯目大盛りだったよね…?

しかもこの前、『太った』って気にしてたよね…?


ついおかわりのご飯を渡しつつ生ぬるい視線を送ってしまったようで、それを受けた矢崎さんが目を逸らした。


「だって…茶色いおかずはご飯が進むんです」

「…はい、お気に召していただいて何よりです」

「お昼ご飯は…たくさん食べて良いんです」

「…はい、たくさんお食べください」

「美味しいからいけないんです!」

「…はい、申し訳ありません。ありがとうございます」

「うぅー!店長本当に私太ったんです〜」



嘆きながらも食べ続ける美人。

太ったように見えないし良いんでないかい?


ふと店内の視線がこっちに向いていることに気づいて見回すと、

店内の一部男性陣が微笑ましいものを見るように優しい視線を投げてきていた。

…美人は何しても美人だからなぁ。

人間とは、正直な生き物です。



「じゃあ…茶色いおかずじゃなくて、緑系にしましょうかね…」

「えっ」

「野菜中心の「イヤ!」


嘆いていた張本人から遮られてしまった。


「茶色いおかずで良いんです!」

「あっ、はい」


やりとりが聞こえていた他のお客様達も矢崎さんの発言にうんうんと頷いている。

これは、うちのお店の方向性を気に入ってくれてると思って良いんだよね?

美人の言うことに同意しているだけじゃないよね?



「すみませーんお会計お願いしまーす」

「あっ、はーい」


ペコリと矢崎さんに会釈してから、対応に向かう。

カフェ店長とポテサラ君だった。


「お会計別々にします?」

「いや、一緒で良いです」


ポテサラ君がそう答えると、ポテサラ君から1000円、カフェ店長から1000円出される。

200円のお返しを100円ずつ二人に渡す。


「俺、茶色いおかずが好きです」


ポテサラ君の手に100円を置くと同時にそんな言葉をもらい、真剣な眼差しに笑ってしまった。


「さっきのは冗談ですよ。まぁ、気まぐれご飯なのでもしかしたら緑系おかずが出る日もあるかもしれませんけど」

「…そうですか」


そんなにイヤなのか、緑系おかず。

野菜は美味しいよ〜。まぁ、私が野菜調理すると大体茶色いおかずに変わってしまうがね、ははは。


「店長美味しかったです!うちの店にもまた来てくださいねー!」

「あっ、ありがとうございます!また私もうかがいますね」



カフェ店長は相変わらずにこにこしながら、自身の店舗の宣伝も忘れない。さすが珈琲の変態。

二人を見送ると、お会計のピークが始まり、第二波の来店ピークもあり、バタバタと時間が過ぎるのだった。



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