28. 肉巻ききのこの生姜焼き
「くーるくる、くーるくる」
愛らしい子供の声が、仕込み作業を心なしか捗らせている。
あぁん、可愛いよー!
『くーるくる♪』とにこにこしながらカウンター越しに私の作業を覗き込んでいる。
本日のメインは、エリンギと細切りの人参を豚ロースの薄切り肉で巻いたものだ。
ちなみに細切りの人参は柔らかくならない程度に軽く茹でてある。
崩れないようにキュッと締めつつ巻いていく単調な作業な訳だが、運良く妖精くんが現れたので、私としても退屈せず肉巻き作業を進めている。
「きれいにくるくるできるんだねぇ」
「ふふ、まぁねぇ」
凄い凄いと言わんばかりの目線に、ちょっとドヤってしまう私。
素直な称賛はいくつになっても嬉しいんです。
「それをやくの?」
「そうだよ、これを焼いて特製の生姜焼きだれと絡めるんだよ」
「ふぅん?おいしそうだね!」
「完成したら味見してね」
「うん!」
可愛い応援を受けつつ、生姜を擦り下ろす作業を始める。
あぁぁぁ!何度も何度も思ってるけど、電動のおろし器が必要だよね!やっぱり!分かってる!
ある程度の量をすりおろせたら、一度保存容器に入れて冷蔵庫へ。
妖精くんに出す分のみ別にしておいて、と。
肉巻きを一つ、閉じ目を下にしてフライパンで焼く。
火が通ったら少量のだし汁、醤油、みりん、はちみつ。
ふつふつと泡立たせるように絡めて、それから生姜を投入。
さらに絡めて完成。
生姜を最後に入れるのは、生姜の香りが引き立つからだ。
…そんな気がするだけなんだけどね!
「はい、どうぞ」
「わーい!いただきます」
「あまーい、おいしいね!」
「そう?良かった」
もっもっもっ
そんな音がしそうな頬張り方で口を動かす妖精君。
こうやって見ると、本当に普通の子供にしか見えないのになぁ。
「そういえば、お気に入りのキラキラのもう一つには行ってるの?」
「うん!いってるよー」
「そうなんだ。そこは何かのお店なのかな?」
「うん、そうだよ!ちいさいにんぎょうとか、おさらとか、うーんと…あとは、いろいろいっぱいあるおみせ!」
小さい人形?
お皿?
何だろう、雑貨屋さんなのかな?
「そうなんだ、こことは違う感じのお店なんだね」
「うん!それで、めがあおいいろなんだよ!きれいなんだよ」
「…目が、青色?」
「うん」
「お店の人の目が?」
「うーんと…おみせのひとだけじゃないよ。おきゃくさんもいろんないろ」
「お客さんも色んな色…?」
「うん、かみのけがきんだったり、おかおとかがくろかったり」
「海外の方が多いエリアなのかな…?」
「それはよくわかんない。そこのおみせのひともおねえさんみたいにやさしいよ」
「そうなんだ」
「『やぁボーイまたきたの』っていつもいうの。“ボーイ”ってなぁにってきいたら、おとこのこってことなんだって」
…外国臭がすごいする。
『やぁボーイまたきたの』なんて日本で声かける人見たことないけど!
青い目の雑貨屋さんが、『やぁボーイ』って?いやいや設定盛りすぎだよね?嘘でしょ?
それよりも妖精君て日本語以外話せるの?
「妖精君は、その青い目の店員さんと日本語で話をしてるの?」
「にほんご?」
「うん、日本語。今私とは日本語でお話してるんだけど、妖精君は海外の言葉が話せるのかな?」
「わかんない。きこえるひととはおはなしできるよ」
「そっかぁ…じゃあ、たくさん色んな人とお話できると良いよね」
「うん!」
これ以上聞いても分からないなぁ。
妖精君自身分かって無さそうだし。
勝手な予想だけど、もう一つのキラキラは海外もしくは外国人の方が多く居るエリアのお店。
『聞こえる人とは話ができる』ということは、言語の種類関係なく交流が出来るって事かな…
その場合、『ボーイ』だけが妖精君に意味が伝わらなかったのが謎なんだけど…。直訳したら『男の子』だけど、この場合発した人からすると、呼びかけるあだ名の様なものに近い意味があるだろうし、そういったニュアンスを残すために『ボーイ』のまま妖精君に伝わったのかな…?
何にせよ、謎だらけだわー。
ちらりと妖精君を見ると、相変わらずもっもっもっ、と頬が動いている。
もし外国の方と交流をしているなら、魂になると人種なんて些事であるということね。
彼ら風に言えば、肉体がないのだから。
「おいしかったー!ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
「おねえさんのごはんは、やさしいあじがするね」
「そうかな?」
「ぽかぽかするあじだから、みんなにこにこするんだね」
ぽかぽかする味…?
生姜で血流が良くなった?…いや、肉体ないんだった。
まぁ、褒め言葉には間違いない、きっと。
「ご飯を食べて、皆がにこにこするのが私のやりたいことだから、嬉しいな」
「そっかー!すごくいいとおもう」
「ありがとう」
真っ直ぐな気持ちで、真っ直ぐな言葉。
謙遜なく受け取れるのは、この子の気持ちが真っ直ぐ私に届いているからだ。
最高の賛辞だと思った。
取り繕う事をしない純真さが、くすぐったくて、嬉しい。
「ありがとね」
「うん?」
再度お礼を言った私に、一度不思議そうに首を傾げた妖精君は、特に気にした風もなく「またくるね」と言ってふわりと消えた。
「またきてね」
誰もいない“ご予約席”に呟いてから、妖精君に出した肉巻き生姜焼きをパクリ。
「…うん。美味しい」
自画自賛上等。
自分が美味しいと思うものを出すのだ。
妖精君のお墨付きって黒板にも書いてしまいたいくらい。
「さすがにそれは字面がメルヘン過ぎるかぁ」
男性ばかりのこのお店で、妖精というワードはちょっとハードルが高いわぁ。
自分の思いつきにフフフとにやけながら、味見皿を片付けて厨房に立つのだった。




