20. 店主の休日(午前)
窓から見える空は、薄曇り。
大気の状態が不安定…と朝のお天気予報で言っていたなぁ。
せっかくの日曜日。
つまり定休日だ。
でもなー…どうしようかな。
とりあえず、朝カフェに行こう。
「いらっしゃいませ。店内ですよね?」
「はい、本日のコーヒーお願いします。トールで」
田舎とは言っても、実はカフェはあるんですよ。
とは言え、大手チェーン店ではないカフェ、しかも朝からやっている所はここら辺ではこのお店しかない。
カウンターで先に注文して、受け取ってから席につく。
一人がけのソファ席に座り、コーヒーを一口。
コーヒーは好きだ。
インスタントコーヒーはあまり好きじゃない。
缶コーヒーは、正直嫌い。
なんか、缶コーヒー独特の臭みがあるような気がして飲めない。
かと言って、こうやってカフェにきて、このコーヒーはこうだ!とか薀蓄言うつもりもない。
“好き”か“嫌い”かの話である。
酸味が強いコーヒーは避けがち。苦味が深いものは好き。
後味がフルーティーなものも好き。
コーヒーは見た目は黒い飲み物なのに、豆や焙煎で全く違うものになって興味深い。
…まぁ、深煎りで〜とか言われても分からないから、結局飲んで『これ好き』となるかどうかである。
8時からオープンのこのカフェは、オープンしたばかりの時間には人が少なくて良いんだよね。
落ち着く…。
バタバタと過ごして居たけど、お店も慣れないながらどうにかなってる。
人間やれば出来るものだ。
以前の私なら、通勤の為にとっくに家を出て電車に乗っている時間だ。まぁ、日曜日は前の会社もお休みだったけど。
5時に起きて6時に家を出て、8時頃会社に着く。
18時に退社出来ればラッキーだけど、なかなかそうは行かなくて、20時退社だと帰宅は22時を余裕で過ぎる。
電車の接続のタイミングか悪いのよね、夜時間。
今考えれば、なんて無駄な通勤時間。往復4〜5時間て。
そりゃ、それに見合うお給料もらってれば良いけど、そんな事もなく。
若い頃は体力あってどうにかなったが、30代になって、顔は常に疲れてるし、自分磨きに使う時間あるなら寝たいと思っちゃうしで、良い事無かった。
解き放たれた、自由感すごい。
今思えば、退職届を渡した時の支店長の表情ったら、酷かった。
かなり止められたけど、辞めてよかった。
あの時の支店長の顔を思い出して、フフ…と一人笑ってしまった。
「あれ、ちょっとお久しぶりじゃないですか?」
遠くから投げかけられた言葉に、ふと顔を上げると、そこには顔見知りのカフェの店員さんが居た。
「あ、おはようございます。さっき居なかったので、お休みかと思ってました」
「いや、自分、早番のちょい遅出勤番なんです」
ちら、と時計を見た店員さんにつられて、店内の大きな掛け時計に目を向けると、もう9時まであと15分だった。
「ちょい遅出勤番?時間あえてずらす感じですか?」
「そうです!」
この、犬系カフェ店員さん、コーヒー大好き愛してる結婚したいって感じの変態である。
色々コーヒーの説明してくれるけど、美味しければ良い派なので全く情報は私の頭に入っていない。ごめん。
こんな見た目だけど、焙煎もやってるこのお店の店長である。
ちなみにオーナーさんとは私も地元なので顔見知りだ。
そうだ、せっかく顔見知りの人を見つけたし、お店の宣伝しておこう。
「そういえば、私お店始めたんです」
「え!コーヒーのですか?」
「違います」
コーヒー愛が深すぎてツライ。
「春眠亭っていう、ランチタイム限定のご飯屋さんなんですけど」
「あ!知ってる!」
「え、まじですか」
「はい!何度か行こうとして、売り切れてました!」
「ゴメンナサイ…」
わー…売り切れ遭遇組がこんな所にも…。
暇な日だってあるのに、何故こう……タイミングぅぅぅ!
「あそこ自分の友達の会社と家が近くて、美味いって聞いてるから気になってたんですけど、お姉さんのお店だったんですね!」
「そうなんです。そう言っていただけて大変ありがたいです。一人でやってるので、材料なくなったら時間早くても終わりにしちゃうんです…すみません」
「いやいや!それっていい事じゃないですか!自分もお店がやってるときに行けるよう頑張ります!」
「ありがとうございます…」
9時を過ぎるとカフェにもお客さんが増えてくる。
日曜日の朝、ゆっくり美味しいコーヒーを飲みたい人は意外と多い。
さて、私もそろそろお暇しますかね。
飲み終わったものを返却エリアに返す。
「ごちそうさまでした」
店員さんに声をかけて、「ありがとうございました!」の声に背中を押されながら店を出た。
大気が不安定だと言われていたけど、カフェから出たらすごい青空で、間抜けにも口を開けたまましばらく空を仰いでしまった。
「空が、あおい」
息を大きく吸い込んで、吐く。
草の匂いがする。
「岩盤浴でも行ってくるかなー」
鼻歌混じりに車に乗り込み、片道30分かけて岩盤浴へ行こうと決めた。
良い天気だろうがあまり関係ないけどね、岩盤浴。
デトックス〜デトックス〜。
しっかり満喫した岩盤浴。
お店を出たら土砂降りだったけど、
全然気にしないよ!
大気が不安定、確かにね!
お天気予報士さん、さすがっす!




