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16. 豚肉の唐揚げプレート



今日もランチタイムは中々の客足。

田舎だから近くに飲食店が少ないのも良い。

ただ、うちのランチは田舎の割に価格が高いのかもしれない。

だれだって、安いに越したことはないのだ。





「ランチ二つ」

「かしこまりました、少々お待ちください」

「ここのランチさぁ、500円とかになんないわけ?高いよ」

「…すみません。500円では出来かねます」


そんな鉄のハートを持たなきゃ言えないような発言をしたお客様。

おそらくだけど、ここらへんの人じゃない。

初めて見る顔だし、二人組、営業マン。

うち一人が、やれ遠いだとか、こんなところまでだとかボヤきながら入店してきた。

靴がピカピカ、スーツもネクタイ細めな意識高い系とみた。

もう一人は普通のサラリーマンだ。少しおどおどとした印象を受けるのは、一緒にいる人間に影響されてのことなのか。

こんなクソ田舎でランチに900円も出すの不本意です〜と言わんばかりの態度。

そりゃね、都会のランチ競争厳しいところなんかはランチ安いけど、こちとら弱小自営業なんだってば。

わいわいと良い雰囲気だった店内が、途端にピリッとして少し静かになる。


「ぼりすぎなんじゃないの〜?なぁ?」

「いや、どうすかね…美味しそうだから良いんじゃないですか…」


私に絡みつつ同行者へ同意を求めるが、おどおど君は意外にも同意せず、店内のランチを食べている人達のお皿を見ながら美味しそうだと言ってくれた。


「はぁ?こんなの900円も出すのお前」

「え…出しますよ」


いやいやいや、お店の人(私)目の前に居るんですけど。

しかも、その言葉は店内の他のお客様に非常に失礼だ。

500円で済ませたければ牛丼チェーン店でも行ってこいや!

おどおど君には申し訳ないが、この勘違い男にはお引き取り願いたい!言ってやんよ!!


「つまんねぇ事言ってねぇで吉牛でも行ってこいよ、お前の言う通り500円でメシが食えるぞ」


……今の言葉は私では無いです。

全く思ってたことは一緒なんだけどね。

声の方を見ると、そこには、

ミート兄貴!

やっぱりあなたは兄貴キャラだった!



「はぁ?なんだよ」

「だから、500円しかねぇんだろ?吉牛あるからそっち行ってこいって言ったの。俺は知らねぇやつに金は貸さない主義だからな」


心底呆れたような顔で、こちらを見つつもう一度言ってくれた。

おどおど君は、「えー…吉牛はやだなぁ…」なんて小さくボヤいている。君、さては意外と図太いな?

しかし意識高い系の人、ミート兄貴に500円しか持ってないと思われとるがな。

ミート兄貴って私が心の中で兄貴と名付けてるだけあって、なんか包容力ある、邪気がない、そういう印象の人だ。

多分本当にお金足りなくて駄々をこねてるんだって思ってそう。


逆に、ミート兄貴と一緒にご飯食べてるいつもの二人、メガネ君とチベスナ君がすごくニヤニヤしてる。

この二人は、普通に嫌な感じで絡んできてるって分かってて、ミート兄貴の発言を面白がってるんだな。

そりゃニヤニヤしたくもなるよ、こんなに格好つけてるのに所持金500円疑惑。



「ごっ、500円しかないわけないだろ!」


…だよねー。


「なんだよ、じゃあメシ食えるじゃん!良かったなぁ、ここのメシうめぇからな!」

「………あぁ」

「やったー。じゃ、ランチ2つ、俺大盛りで」


事を荒立てずに人の毒気を抜くってすごいなぁ。

おさまりがつかなかった意識高い系の人が周りの空気に気付いて、ミート兄貴の言葉に矛をおさめた。

おどおど君、「やったー」じゃないよ。

「俺大盛り」じゃないよ。君の連れでしょうが。

とは言え、大事にならずお店の雰囲気も回復したのは良かった。

ミート兄貴の方へ頭を下げると、ニッとでも聞こえるような爽やかな笑顔が返ってきた。

…今度サービスするね。



さて、厨房へ。

本日は豚肉の唐揚げです。

下味をつけておいた小間切れ肉をクルンと空気を入れつつ丸めて油で揚げる。

鶏肉を使うよりも火の通りが早いのが良いんです。

しっかり漬け込んでいるから、揚げた時にすごく良い匂いがするんだよねぇ。香ばしい!


キャベツの千切りは王道の揚げ物の相棒!

シャキシャキ美味しい、胃腸のお助け役だ。


付け合せのミートソース茄子は、鶏の挽肉であっさり。

煮詰めたトマト缶をキツネ色になるまで炒めた玉ねぎとにんにく少々、小麦粉少々、醤油、はちみつで味を整える。

茄子は一口サイズにカットして炒めただけ。

ミートソースと絡めてプレートの片隅に。

千切りキャベツと一緒に食べても良いし、余ったミートソースを唐揚げに付けても良いんだぜ!

ここにミルクスープを添えて、と。


「お待たせ致しました」


先に意識高い系の人、そのあとにおどおど君の大盛りを持っていく。

まだ不貞腐れたような顔でいるけど、ご飯は美味しく食べてね。


「いただきます」


おどおど君がちゃんと食前の挨拶をしたのをちらりと見て、意識高い系の人は何も言わず食べ始めた。

色々不本意ですか…。確かに所持金500円疑惑は格好悪かったよね。ちなみに私はたまにそんな日あるよ、本当に。


まぁ、しょうがない、みんなにこのお店を好きになってもらえるわけじゃないもんねぇ。

ふぅと小さく息を吐くと同時に、


「お姉さーん、お会計〜」


メガネ君が声をかけてきた。

お金のやり取りをしつつ、言葉を交わす。


「豚肉の唐揚げってあんまり食べたこと無かったけど、うまいっすね!豚って言われなかったら鶏だと思って食ってた多分!」

「それはそれでどうなん」

「ばか舌…」

メガネ君の発言に、ミート兄貴とチベスナ君が次々とつっこむ。


「俺らまた来るんで!」

「また肉メニューをお願いします」

「パスタも…」


口々に励ますように言われ、

ジワリと温かいものが胸にこみ上げる。


「ありがとうございます!ぜひまたいらしてください!」


なんて幸せ者。

がんばるぞ、私!


3人組を見送り、それに続いて他のランチのお客様もお会計をしていく。

お昼のお帰りのピークである。

お皿を下げたり、お会計したり、お客様を迎えたりとバタバタとしていると、


「お会計お願いしまーす」

「はーい」


食べ終わったらしいおどおど君が声をかけてきた。

意識高い系の人はそのまま店を出ていってしまった。


「…お二人分でよろしいですか?」

「はい、今日は先輩のおごりなんで、お金もらったんですお釣りはもらえるんです〜」

「そうなんですね」


2000円を差し出すおどおど君に、200円が彼のものになるんだなと笑ってしまった。

ランチ500円にこだわったのに、後輩にあげる200円にはこだわらないんだ。不思議。


「200円のお返しです」

「はーい。あの、さっきすみませんでした」

「え!いえ…」

「あんなケチ臭いこと言ってましたが、結構いい人なんですよ」

「…そうなんですか」

「ちなみに、ご飯も美味しいって言ってました。唐揚げもだけど、あのシチューみたいなスープが気に入ったみたいで、俺の寄こせって言われました。あげなかったけど」


その言葉には少しびっくりした。


「…お口に合ったなら良かったです」

「本当はご飯もおかわりしたかったんですよ、先輩。でも最初に感じ悪いこと言っちゃったから、言えなかったみたいですダセェ」

「そうなんですか…」


おい後輩よ、ダセェって口に出てるよ。


「うまかったです。こっちは滅多にこないエリアなんで、また来れたら来ます」

「ありがとうございます。お待ちしております」




結局、何がしたかったのか分からない人だったけど、

誰だって虫の居所が悪いときもある。

そういう時、ご飯屋さんの給仕の人だとかに絡みたくなるんだろうか。

外食してもたまに居るよねらやたら横柄な人。

でも、横柄に接するより、気分で誰かを攻撃するより、

ミート兄貴みたいに、人の毒気を抜くように振る舞える人間になりたい。




私も見習わなくては。


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