11. こんもり焼き肉定食
『メニューはこれだけ!
店主の本日のおすすめご飯
こんもり焼き肉定食
味噌汁ご飯つき
※大盛り、ご飯おかわり無料
900円』
生姜焼き妖精君を見送り、本日も春眠亭オープンの時間となった。
本日のこんもり焼き肉定食は、特製だれに絡ませて焼いた薄切り肉を、その名の通りこんもりと山になるよう盛り付けている。
同じプレートに、春眠亭レギュラーの座を勝ち取っているポテトサラダとレタスを添えて。
カラカラカラ
「いらっしゃいませー」
お、ポテサラ君…と、会社の人かな?
「お姉さん、俺ランチの大盛りね!井山は?」
「あ、俺も大盛りで…今日はポテトサラダついてます?」
「今日はついてます!大盛り二つ、かしこまりました。少々お待ちくださいね」
ポテトサラダがついてることを伝えると嬉しそうに頷いた、そのポテサラ君の名前が“イヤマ”さんと言うことが発覚。
こういうとこから名前が知れて行くのか…常連さんとお店の間は。
そうこうしている間に目が回るようなピークの時間に。
本日のご飯は持っていくと皆さん「おぉ!」と反応いただき、誠にありがとうございます。ふふん。
普通よりは確かにお肉の量が多いですが、薄切り肉なのでよっぽど重たい訳でもないんです。
それでもお肉がこんもりしているのを見ると、テンション上がるよね〜。
隠れ大食いのポテサラ君ことイヤマさんは、大盛りご飯をさらにおかわりして帰って行った。
しかも今日は先輩のオゴリだったようだ。
ポテトサラダもついてたしオゴリだしでツイてたなポテサラ君。
…って、私は何目線なのか。
とにかく、
また食べに来ておくれよ、イヤマさんとその先輩。
「ありがとうございましたー!」
そういえば、今日のメニューは絶対あの3人組、特にその中でもミート兄貴が喜びそうなのに。
今日は姿が見えないし、来れない日かな…?
と、思った矢先にまた入り口の引き戸が開く音がした。
「お姉さーん!大盛り三つ〜!」
「…いらっしゃいませー!少々お待ちください」
あの3人、フラグ回収が早すぎる。
私の心が読めるのかってレベルでタイミングが良い。
でも来てくれてありがとうございます。
「今日は焼き肉定食、フゥー!」
「疲れた時には肉、フゥー!」
「…ふぅ」
他のお客様も喋ってるガヤガヤした店内で、3人の会話が聞こえてしまうのは、面白いからつい耳を傾けてしまっているせいだと思う。決してうるさい声量ではないし。
ちなみにチベスナ君だけ「フゥー!」じゃなく「ふぅ(溜息)」ね。この温度差よ。
用意してお届けすると、予想通り3人のテンションはぶち上がったように見えた。
「ちょっとした山!」
「肉の山!神だよお姉さん!」
「タレがうまい」
…そんなに喜んでいただけるなんて、作り手冥利につきます。
カラカラカラ
「いらっしゃいませー」
「一人なんですけど…」
「はーい、カウンター席へどうぞ」
珍しい。女性のお客様だ。しかも綺麗な。
悲しいかな男性客だらけの当店で、綺麗な女性が来たら、そりゃみんな見るよねー。地味に集まる視線に、女性はちょっと居心地が悪そうだ…。
お冷を持っていきつつ、女性を他の視線から庇う様に立つ…そして店内を見回しニッッコリ。
サッと視線を外していく男性の皆様。
うむ。空気が読めてヨロシイ。
「当店ははじめですよね?メニューは一つしかないんですけど、大丈夫ですか?」
「はい、外の黒板見たんで…ずっと来たかったんですけどなかなか来れなくて…」
「!嬉しいです、ありがとうございます!うちは男性のお客様が多いので…」
話しつつ厨房へ戻り、対面しながら私は手を動かす。
「いつもランチタイムに美味しそうな匂いしてましたもん。我慢できずに一人で来ちゃいました」
「ありがとうございます」
最初は少し遠慮がちに話していたようだが、少しずつ警戒を解いてくれているようだ。
少し笑顔が見れた。
美しい笑顔、ありがとうございます。
「あの………でお……」
「え?」
厨房側に少し乗り出して声を潜めて話し掛けてくれたが、こちらは換気扇だとか、フライパンを火にかけていたりだとかの音で良く聞こえない。
「おおもりで、お願いします」
諦めて普通の声量で言ってくれたのは、女性にとっては少し恥ずかしく思う人もいるかもしれないご注文だった。
ちなみに私は全然平気タイプ。
彼女の頬は少し赤かった。
「かしこまりました!」
見かけによらずイケるね、お姉さん。
『こんなにいっぱい食べられなぁ〜い』的な女子より好きよ!
たくさん食べて!
「お待たせ致しました…ごゆっくりどうぞ」
持っていくと、こんもり盛り付けしたお肉を見て、
「わぁぁ!」と目を輝かせてくれた。いやん可愛い。
セミロングの髪の毛を降ろして来店されたけど、食べる時にはクリップで簡単にハーフアップにしていた。
その動作も、食事中の周りの人の迷惑にならないように身を屈めるように最小限の動きでサッと。
すごく気が付く方なんだな…。素敵。
髪の毛バサーッなりながら食べるの嫌派ね、分かる。
個人的にだけど、たまに、耳にすらかけずに髪の毛がバサーッとなりながら食事をとる人見ると、心の中で引いてしまう。
ヘアスタイルにこだわりがあるんだろうなって思うんだけどね、
それ髪の毛も口に入っちゃってるんじゃない?って思うとちょっとご飯が美味しく食べられないというか…。
美味しく食べたいので、そういう方はそっと目線を逸して視界に入れない様に努めます。
パクパクと想像よりも早く、そして美しく食事をする女性を視界に入れつつ、
『綺麗なお姉さん、常連さんになってね…あだ名考えておくね…』と強く強く祈る私であった。