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今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】  作者: 柚ノ木 碧(活動休止中)
5章 今日も周囲も人間関係もゴタゴタしていますが、国内の紛争やら暗殺やらで物騒な最中、恋人が出来て戸惑いつつも鑑賞致します。
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 Side.モニカ



「落ちつきなさいって」


「……」


「そうやってギリギリとハンカチを私の前で噛み締めて、恨みがましい顔付きで歯軋りを起こさないでくれる?見ているコッチが鬱になるわ」


 100年の恋も覚めるわよ?と言えば落ち着いてくれるかしら?等と思ったけど、残念ながら私自身は百年も継続して恋をした事が無いからわからない。その前に寿命が来るしねぇって思うのだけど、誰かしら、こんな変な諺を言い出した人は。

 と言うか、恋もしていないのだけどね。

 流石に今言ったらヤバイだろうから言わないけど。

 私の彼に対する心情は残念ながら『恋』では無い。では何?と言われたら、相手によっては答えることはしない。


 ふふ、だってそんな私の心情は今部屋に居る相手にだけ伝えれば良い。

 とは言え今は言わないし、まだまだ秘密。


 うっかりするとすぐ興奮しちゃうからね、この人(男)は。

 全く。成人して数年経過して大人になったと思ったら、まだまだオコチャマねぇ、困ったものだわ。

 それとも男っていうのは皆こうなのかしら?兄もちょっと子供っぽい所があるけど、何せ年が離れ過ぎていて良くわからないのよね。

 後は思い出したくないけれど、貴族の子息、ヤラシイコトしか考えていない目しか向けて来ない男達は抜きにして、跡継ぎという事でニキに付けたアーノルド・フレッチーノ・ドードルグラン…グラシアのコト。本名が長過ぎて全てを思い出せないわ。私付きの執事ではないせいと、普段グラシアとしか呼んでいないからなのだけど。

 これでは駄目かしらね?後でアルビオン兄様に聞きましょう。


 …忘れたって言いそうだけどね。


 そのグラシアだとどうなのかしら?執事として寡黙に徹してしまいそうだけど、あれで中々勝負事には熱くなるのよね。兄さんと勝負した時とか沈黙を守っては居たけれど、目は黙っては居なかった。それに戦闘になるととても面白い男だ。勿論この部屋にいる興奮を冷まそうとし始めた男もとても面白い、いや、面白くなってきた男になって来たのだけど。


 私に言われてから我に返り、冷静になろうとしているという辺りが少しだけマイナスかしら?


 可愛いとは思うのだけど、それはそれ。

 母性の何たるかと言った感情はこの際抜きにし、今は別のことを優先しないといけないわ。目の前の彼は落ち着けるようになろうとしているけれど、困ったことに『今』しか見えていないわね。

 やぁねぇ、ほんっとーに困ったわ~…。


 全く、迂闊だったわ。

 私が放った火魔法で軽く火傷をしただけだって言うのに。他の怪我なんて他の怪我人やニキと比べたら軽いものよ?なのにねぇ、皆悲痛な面持ちで見るからコッチが困ってしまうのよね。

 良いじゃない、私の髪の毛が短くなったからってそんなの怪我のうちに入らないわよ。

 だけどバーネットの使用人達、特によく顔を合わせるメイド達が涙声で「モニカ様が」「主のお嬢様がっ」「ご主人様の大事な人の髪が」って泣かれるのは困ってしまったわ。

 確かに貴族子女が肩より短くなってしまったのは一寸だけ困ってしまうかも知れないけれど、これだって悪くないわよ?何より動きやすいし。むしろ活動的な私らしく無いかしら?似合うって誰か言って欲しいものだわ~。

 仕方ないから後程、公式の場のみには鬘を作って常に結い上げておこうかしらね?普段は放置で良いわね。何せ髪が短くなってしまったのも我を忘れてしまった私が原因。魔力切れ等起こして無防備な状態を作ってしまったのは、ワタシ自身なのだから。

 やぁね、私ってば修行が足りないわ。

 火傷は火属性の使い手なら『戦闘中』は結構な頻度で起こすと言うのに。火力が高い術士なら尚更。


 …精密度が高い術士なら火傷を負わないだろうって言う理屈は分かっているわよ?


 でもね、戦闘の混乱時にはどの術士にも無理なの。

 敵を一気に殲滅するには、『己の身を犠牲に』して魔術を行使する術士もこの世界は多いのだから。

 それを三流と言うのなら言えばいい。

 私は三流と呼ばれても、一人でも敵を殲滅して味方を守り抜きたいのだから。

 幼い時からこの考えは変わらなかったし、それは兄である騎士団団長のアルビオンも同じ考え。多分この考え方はモイスト家の人間ならば、ほぼ全員当て嵌まる気がする。

 そして、恐らく。目の前のバーネットも同じだろう。だからこそ、私が気になって居た男なのだから。



 兎に角このざんばら状態の髪、後で手先の器用な人に切り揃えて貰わないと駄目ね。

 左右バラバラだと困るし、それこそグラシアが居れば頼むだけど。







* * *






 Side.バーネット


「彼奴等、このバーネット・カモーリ・サザーランドのやっと、やっとの思いで!長かった思いが成就した婚約者の!モニカの綺麗な肌に火傷等傷を負わせおってからに!しかも大事な髪の毛をぉぉお!殺す、殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、コロスコロスコロスころす、ころす!…って、いてえ!」


 ボスッとする音がバーネットの腹部に落ちる。

 どうやら渾身の拳が見事に腹部に収まったらしい。その場で机の上に蹲り、恨みがましくモニカを上目遣いで見つめるとニヤリと笑われた。

 その顔は己が放った魔法のせいで多少髪の毛が縮れており、後で切らないとならない。


 モニカは昔から魔法を使うと自身の身を顧みないため、この様になってしまう事が多々あった。「魔法を操る精密度が低い事と火力が高いことが原因」とはモニカが良く言うが、恐らく正解は半分では無いかと思っている。

 何せ生来の気質が跳ねっ返りのジャジャ馬なのだ。

 おまけに我を忘れて没頭しやすいタチ。

 以前等前髪を焦がしてしまい、暫くの間は人前に出る時はカチューシャや布で覆って前髪全てを隠しておでこを出していた事があった。その件があったからこそ、一時期「騎士伯のお転婆姫」等と言われていたワケで、だからこそバーネットが惚れた原因でもある。

 弱々しく大人しい女が好きではないのだ。

 おまけにこの領地で私の妻となる女は気丈な人で強く無ければ難しいだろう。

 常に周辺諸国からの驚異に真っ先に晒される港町であり、王都から一番近い地形故、優しいだけではやがて崩れ落ちてしまうだろう。それだけこの領地を預かると言うのには、責務が発生するのだ。

 伊達にこの国唯一である辺境伯の爵位を頂いているワケでは無いのだ、我が領地は。


「ハイハイハ~イっと、落ち着いて、落ち着いて。どうどう」


「私は馬か」


 両手を上げて軽く抑えつけるような仕草をするモニカをつい半目で見詰めてしまう。

 八つ当たり気味のこの仕草はモニカにはしたくないのだが、どうしても態度に出てしまう。


「今は暴走馬ソックリよ。鼻息荒く血走って歯軋りをして、そして今は机に八つ当たりをして。ね?これをどう言葉に表そうとしても「暴走馬」としか言えないわ」


「ぐ」


 正論過ぎて何も言い返せない。

「ぐ」って何だ、「ぐ」って。一文字だけかよ。


「他は何かしら?そうね、悪鬼?鹿とでも付ける?もしくは…」


 今「鬼神」と言い掛けて口を閉ざしたな?それぐらいはわかるぞ。

『鬼神』はジーニアス・アルセーヌ・ガルニエ殿の専売特許だ。

 恐らくだが、此度の件が収束したら出世しそうだな。元々国王は元ガルニエ伯爵の地位をそのまま渡そうとしたが、王にへつらう引退した筈の業突く張りの貴族、古狸の集団が反対したのだ。

「若造にはまだ早過ぎる」とか、「田舎者には無理だ」とか何とか。いい加減完全引退すれば良いのに、特にあの元カーモード子爵の狸爺共の一族。隠居先から嫌がらせのように文句を言いに来るって、どれだけ欲深く嫉妬深いのだか。

 更には元ガルニエ伯領地を没収し、我が物のようにしようと画策していたようだが、それには国王の「待った」が掛かって口先を閉ざすしか無かったようだから安心した。

 だがあの古狸の一味は油断出来ない。

 此度の件で少しでも現ガルニエ伯の足を掬おうとする気配があれば、牽制せねばなるまい。何なら威嚇もせねばなるまい。何せモニカが可愛がっている甥っ子の嫁予定の娘がガルニエ伯の兄妹だ、何らかのアピールをしておけば今後の憂いは多少なりとも少なくなるだろう。

 とは言えモイスト家も牽制しそうだな。この件は後程アルビオン殿と話し合って置こうと思う。

 その前にレッティーナ嬢の救出が先だな。


「は~ぁ…それ程悪い顔していたか?」


「していたわよ?しかも目がとても怖いわ」


「今も、か?」


「ん~…今は多少マシって感じかしら?でもまだ目が安定していないわね」


 と言って「気合いれろー」とバンバン人の頬を両手で叩くモニカ。

 おい、容赦ないな!

 目潰しされるよりはマシだが、どちらにしても痛いぞ。

 私はマゾでは無いのだから、物理攻撃はやめてくれ。


「ふふ、頬が真っ赤になったけれど目付きはマシになったわね」


「私は痛かったけどな」


 ほんっと、モニカは容赦無いな。

 そんな所も惚れたのだけどな!

 叩かれた頬を両手で擦っているとクスクスと目の前で笑ってやがる。あー…その顔くそ、綺麗で可愛い。畜生、これが惚れた弱みか、全くその通りなのだから我ながら何とも言えぬ。


「さーてと、バーネットも正気に帰ったコトだし。髪を綺麗に切り揃えてからレナちゃんを奪い返して仕返ししないとね」


「髪をこれ以上切るのか?」


 これ以上切るのは駄目だと言いたいが、左右アンバランスな長さで居るのは苦痛だろう。今は片方だけ短くなった髪の毛も無理矢理結い上げて隠して居るようだが、この精巧な髪型は恐らく我が家のメイドの苦心作だろう。

 ドアの前にいる数名のメイド達が『これ以上切るの!?そんな!』と言う顔付きで涙ぐんでいる。だがな、冷静になれ。このままモニカの髪の毛を放置して置いたら、痛むのだぞ?私は嫌だぞ、そんなモニカの姿を見るのは。

 余計痛々しいじゃないか。


「家に帰ったら毎日やられた髪の毛を隠すために結い上げるなんて面倒なことは出来ないし、使用人達に手間を掛けさせるわけにはいかないわ。公式の場では鬘でも作って身に付けるわ。だけど当分の間はいっそ短くカットしちゃおうかなーって。その方が私らしくない?」


「だが…」


「大丈夫、肩の上位の長さになってしまうけど、毛根が死滅しているワケではないし、どうせすぐ伸びるわよ」


「毛根死滅…って、おい」


 先触れもせず、問答無用でバーネットとモニカが居る執務室に勝手に入って来たアルビオン。その事を咎めるようにモニカはニヤリと口元に弧を描き、


「あらやだ、アルビオンお兄様ってば気になるの?」


「俺が室内に入って来てからワザワザ「毛根」の話をし始めてだろうが」


「そうだったかしら?」


「わざとらしい」


「そう思うってコトは気にしていらっしゃる、と」


「モニカ…てめぇ」


 最近後頭部がちょっと、ほんのちょっとだけ気になるだけだ!と言い出したアルビオンに、モニカとバーネットとの二人が少しだけ沈黙が訪れる。目線が二人共に某御方の頭部に向いたのは、言わずもがな…。


 沈黙が…と数秒遅れて項垂れたアルビオンにモニカは少しだけ目を細め、


「折角バーネットを落ち着かせたのに、ノックも何もなしに問答無用で部屋に入って来るからよ」


 自業自得よと言い放つモニカに項垂れた顔を少しだけ上げ、此方に目線を送って来る。


「仕方がないだろう、バーネットに報告しないといけなかったからな」


「直接?訪れる前に先触れを寄越す等、色々あるでしょう?」


「面倒だった」


「あのねぇ…」


『貴族社会の常識として』と色々言っているが、アルビオン様は多分、貴族社会云々の辺りでモニカの話を聞いていないと思うぞ?右耳から左耳へと流れていると思うぞ。何せ目が途中から左右に泳いで、次いで目が死んだ魚のようになっているからな。

 大方説教長いとしか思っていないのだろう。

 言っちゃ悪いが自他ともに認める脳筋だし。


「モニカ話は後、あー…睨むな。二人共先に話して置きたかったからな」


「へぇ、という事は後程じっくりとお説教を受けると言うことで宜しいですわね?アルビオンお兄様」


「お、おう」


「誓うと言うことで宜しいですわね?」


「ああ」


「男に二言は無いですわね、了解致しました」


「お、おお?」


「後程、のーちーほーど、私ですと効果が無いようですし、確りとグラシアに叱って頂きます」


「うげぇ、マジかよ」


「ええ、ええ、本気ですわ。そうでもしないとお兄様は聞いて頂けないようですからね?確りと長時間に渡って説教して頂きます。勿論公務に響かないように」


「おぉ、我が妹ながら恐ろしい…」


「ところで、一体何事で此方にいらしたのかしら?まさかバーネットが落ち着いたから茶化しに来たとか言う馬鹿な理由では無いわよね?」


 コレについては「お、おぉ」と徐々に声が小さくなっていく。

 恐らく報告ついでに茶化しに来たのだろうなぁ…暇なのか、アルビオン様は。


「あーその、な。港町にアレクサの暗殺者が数十名来た」


「「は?」」



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