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「あ~と、そうじゃなくてだな」
「はい?」
照れくさそうに此方を見て、それから目を反らして。また此方を見て、更に……うん?照れてる?何で?と何度も瞬きを繰り返していると、ニキ様がようやっと口を開く。
「こうしてレナと二人でゆったりと歩いてくれるのが嬉しくて、そして俺の瞳のドレスを選んで着てくれたのが嬉しくて、そして…美しく着飾ってくれたレナが側にいて」
「はい」
何だかちょっと気恥ずかしい。
確かに瞳の色のドレスを選んで丈を合わせて貰ったし、化粧だって滅多にしたこと無いからどうしたら良いのか分からず、ユリアにどうしたら良いのか聞いた。そうしたらバーネット様のお屋敷に居るメイドさん達から化粧の腕が良いと紹介されたメイドさんにお願いをし、施して貰ったのよね。
更に今後自分でも出来るようにって色々やり方を学んだけど、これに関しては恐らく無駄になると思う。既にもうニキ様の隣にいて頭の中がパーンッ!って音がするくらい弾け、やり方をすっかり忘れてしまったのですよ、トホホ。
うう、この化け方覚えたいのに~っ!
化粧を美しく施され、鏡を見た瞬間思わず「誰?この鏡に写っている美少女」って思った位なのに!慌てて口には出さなかったけど、一人だったら絶対呟いてたよ。
普段の何処か田舎の小娘みたいな箇所が全て無くなり、髪の毛だってきっちりと結われて何処の深窓の御令嬢?と言える程に変貌を遂げた私、レッティーナ。正直ココまで化けたら誰しも気が付かないのでは?と思ったのに、皆は即私だと分かった辺り……
自分がそう思う程化けてないのかな?
それとも口を開いたらモロバレな感じ?
でもひたすらニキ様が褒めてくれるし、ユリアも綺麗素敵と喜んで居たから程々には美しく施されたのかも知れない。…普段がド田舎の小娘風なのが濃厚なだけで。
トホホ。
帰る前にあのメイドさんにもう一度お願いして、化粧の技術を学ぼう。せめてこの、肌が輝くように艶めくクリーム何処で売っているのか聞こう。是非欲しい。お給料で買える範囲なら、だけど。
…持って生まれた貧乏性故あまり高価なのは…あ、今回罰で兄さんに請求しても良いかな?うふふふ…って、これって贅沢。でもなー…最近オルブロンが「綺麗になれるの欲しい!なんか無い!?」って聞いてくるから、お土産に買って行っても良いかも知れない。
…まだ八歳の子供だけど、あの手この手?でフォーカス様に好かれようと必死に為っている様は、我が妹ながらに可愛いものね。
兄さん達は複雑そうな顔をして居るけど、私は応援しちゃうよ!
「レナ」
…あ。
今はニキ様の側に居るんだったーっ!
何他の事考えてるのよーっ!
「他の事考えてたろ?」
「え、あ、はい。すいません…」
ううう、言い当てられた。折角ココ数日ぶりに会えたって言うのにご免なさい。上目遣いでニキ様をチラリと見れば、目を細めて柔らかい眼差しで見詰められている。
その顔反則ですっってばー!
何ですかなんですか、美麗過ぎでしょ!
何14歳で既にこれでもかって色気纏っているんですかーっ!
しかもそんな状態で此方を見てって、心臓もたない!
頭爆発しそう!
ドキドキしちゃうよ!
落ち着け私!
落ち着けタワシ!
いやこの世界にはタワシは無い!
デッキブラシの小型版みたいなのはあるけどもって、話し逸れたー!
「レナさっきから一人百面相してる、可愛い」
「はぅぅぅぅ…」
思わず繋がれていない方の手で口元を抑えて羞恥で悶える。
ううう、ニキ様さっきから何なのー!的確に私の羞恥を煽ってくるし、色気はダダ漏れだしでこのまま私ココに居たら死んじゃう!
ニキ様に骨抜きになっちゃう!
そして悶え死ぬぅ!
「そうか、俺自身にはそんな色気?なんてもんは無いが、レナが的確に羞恥に陥るぐらいに悶えるなら、それはそれで嬉しいかな」
って、口から言葉が漏れてたーーっ!
ニキ様クスクス笑ってるし!
あああ、その顔も素敵…っ
…あ。
ジーニアス兄さんの殺気がビシバシッと背中を射抜いて来る!
「もう少し奥に行こうか」
「はい…」
兄さんにはオルブロンのお土産と私の化粧品を追加で購入させるという罰にしようと誓うのだった。
* * *
会場から少し離れたおかげで兄さんの視線も令嬢達から突き刺すような視線も何もかも無くなり、安堵の息を吐く。中々どうして変に気負って居たようだ。
もう、兄さんの馬鹿。罰をもう一つ加えてやるか?と思案していると、
「…疲れたか?」
「ええ、まぁ。着慣れないドレスを纏っていますし、靴も少々…」
ヒールをドレスを纏う都合上履いたのだけど、踵がはっせーんちぃー!ハイヒールって奴ですかね?結構疲れます、これ。
するとニキ様が周囲をキョロキョロと見渡し、
「あっちに確かガゼボがあったな」
そう言って私の手を引いてニキ様はゆったりとした歩調で歩いてくれる。
「あの」
「うん?」
「長い間会場抜け出していて良いんですか?その、モニカ様の身内なのに…」
「ああ、それな。どうせ親父が居るから。今回は甘えさせて貰おう」
ん?どゆこと?
とか思いつつ、歩を勧めていくとガゼボが見えて来た。
あ。
このガゼボ小さくってちょっと派手だ。
シンプルなんだけど、柱も天井も全て真っ白で椅子とテーブルだけが真っ赤だ。
かと思えば所々見えにくいけど縁が金色になっており、ちょっと…ん?
「気が付いたか?」
「えーと」
何となくわかったような、そうでないような?
「ここはな、バーネットの憩いの場なんだそうだ」
「バーネット様の?」
「そ。あの見た目に反してロマンチストなんだよな~意外だろ?」
んん?
再度ガゼボの周囲を見詰める。
真っ白の建物に時折ある赤と金色。
んーーー???
「そうか、普通気が付かないよな。ここはバーネットがオバ…モニカを想う場所なんだ」
「え」
あら意外。とは口から出てこなかった。
顔には出ていただろうけど。
「まだバーネットがココの領地を継ぐか継がないかって時に建てたって聞いたな。で、分かりにくいように当人の色彩ではなく、扱う魔法の属性の色を使ったらしい」
何でも…
金色の縁 雷属性
赤い色彩 火属性
白い色彩 風属性
こうして考えるとバーネット様って愛情深いのかな?うん、モニカ様愛されまくりだね。
…ちょっと、レスカ様みたいって思ったのは内緒だけど。
レスカ様のは愛情にストーカーって言う文字が付属されておりますから。当人も認めていましたし、あのユリアに対する執着は愛情通り越して既に妄執に近いからちょっと怖い。
「風属性の色がわからんって俺に言ってきてな、俺その当時かなり小さかったから適当に「なら白でいいんじゃね?」って言ってさ。それで全体的に白にしたって言ってた」
それは本当にロマンチスト過ぎて擽ったすぎる。
その事をモニカ様が知ったらどう思うんだろう?
「モニカはその事知って項垂れてたな」
あ、やっぱり。
そしてこう言いそう。
「愛が重い」
「よくわかったなレナ」
寧ろ分かりやすいと思います。
先程からニキ様がずっと上機嫌で時折目元が優しく微笑む。今もふとニキ様を目でつい追ってしまって、目が合うと自然と口角が上がって微笑んで来る。
…うう、やばい。
好き。
その笑顔が好き。
大好き。
思いっきりそう言っちゃいそうになる。
まだニキ様の告白の返事もしていないのに…
繋いだ手、汗をかいて居ないよね?
ちょっと意識してその手を見たら、キュッと少しだけ力を入れてニキ様が握ってきた。
「レナ」
「…っ、はい」
ドキリ、とした。
だってついさっきまで笑顔だったのに、今見たら真剣な顔で見てくるんだもの。
「あーその、バーネットはココで何度か告白したんだそうだ。まぁ十年も断られていたらしいが…」
そして毎度毎度ココで項垂れて一人反省会をしていたとか。
何だか仄かに縁起が悪いような気がするんですけど。いや、でも考えようによってはこの度念願かなってって事になるから良いのかな??
「でも十年掛かってやっと実った」
『でも』じゃなくて、『十年も』じゃない?
何だかさっきから色々突っ込みたく為る。
口には出さないけど、バーネット様って絶対モニカ様に引っ掻き回されて居るよね。恐らく今後も。そして何だかんだ言ってバーネット様、そんなモニカ様の事を容認して影でサポートして行きそう。
さっきのパーティーでもモニカ様はサバサバしていたけど、バーネット様はそんなモニカ様を見て甘々な雰囲気を醸し出していた。
バーネット様、初対面の時の髭モジャなイメージがどうしても強かったのだけど、今思い出すのはモニカ様の一挙一動を見逃さない様にとしていて、アレはアレで面白い。
問題は髭が無くなった事によりそれまで興味のきの文字も無かった令嬢方が一気に落胆して居たり、逆に興味が湧いた人が居たりと一喜一憂。
更にモニカ様の事を狙っていたのか、数名の男性の貴族がバーネット様を射抜くように見詰めていたのがまた…。
ほんと、貴族の世界って魑魅魍魎が跋扈する世界だよね。
そして更に。
私の視界に見えないようにレスカ様やユリア、ジーニアス兄さんがひた隠しにしていたその背後。そんな様子に何となく察したのか、アドリエンヌ様まで私が見えないようにしてくれていた。
その遥か後ろ。
其処にアイツーー…ゲシュウ・ロドリゲスがその父親であるクワイド・ロドリゲス伯爵と共に会場に来ていた。
久し振りの月曜日更新(。>﹏<。)w
11月12日 修正
喜々様々 ×
一喜一憂 ○
何故か一喜一憂と書いたつもりが、喜々様々になっていた………
早朝に書き下ろすもんではないね。とほほ。




