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「は~今日も何とか終わったー!」
お疲れさーんと言うおば様方の声を背後に、午後から来る人と交代で本日のお仕事は終了。食堂の方は夕刻からのディナーの仕込みにこれから大忙しになる。
「レナちゃんお疲れー!今日は玄関の掃除を頑張ってしてくれたからって事でお手当付くってさ!」
「おお、それは嬉しいですね!」
喧嘩の片付けは嫌だけどね。
「ははは、まーもう勘弁して欲しいもんさ。そうだ、これ悪いけど片付けて貰っていいかな?かなり重いから十分気を付けて」
そう言ってゴミが入った袋を渡された。
今日は私の当番の日だったっけ。と、受け取ると、
「お、おも…」
丈夫な麻で出来た袋に入って居る厨房のゴミは何時もならそうでも無いんだけど、今日は一段と重い。何が入ってるのさ~!当然生ごみさ~!と無意味な事を思いながら、仕方なしにズルズル時折引き摺りながら、えっちらおっちら時折ヨタヨタしながらも近道である中庭を通りつつゴミ置き場に引き摺って行くと、
「アレス様ぁ」
ぶほ。
本日何度目だっけ?ってぐらい咽そうになった。
慌てて口を押えて咄嗟にしゃがむ。そしてキョロキョロと周囲を見渡す。
今確かに準メリーの声が聞えたよね?しかも甘ったるい、ものっ凄っく、もう無駄に異様に尚且つあざとく甘えるような声で。
うひぃぃ、鳥肌立っちゃったよ。
チキン肌だよ、二の腕何かボツボツだよ!
この中庭は学生寮から離れて居るから、部屋で沙汰があるまで謹慎中の筈の準メリーの声が聞えることは無い筈。という事は、どう考えても寮から抜け出して来ている。周囲を見渡しても姿が見えなかったので声がする方につつつつつ…と移動し、レッツゴー忍び足スタイル。
勿論ゴミ袋は置いて来ましたよ。重いし運ぶには引きずるしか無いし、匂いでばれたら困るしね。
見付かったら開き直って準メリーを指摘して難を逃れよう。
卑怯ですが何か?
校舎の壁を伝って行くと見えて来ました。
デートですか?中庭のガゼボですね。
今は春の終わり辺りだから、アレス様とのイベントって何かあったかなぁ。む~…確か溺愛系か、一歩間違えたら「デッド オア アライブ」状態のイベントであった筈。
でもなー何か引っ掛かる。何だったっけかなぁ。
「酷いんですのよ、私をまた一人部屋に謹慎させて閉じ込めて置くだなんて」
「はは、まぁそれは仕方ないよね。アメリーはここ暫く鬱憤が溜まって居たからね」
「そうなんですの。まさか私が居ない間にこうも状況が変わってしまうだなんて…」
ウルウルとした瞳でアレス様にしな垂れ掛かる準メリー。それを優しく抱くアレス様ってあれぇ?アレス様がスッと横に避けたよ?避けながらも片手で準メリーの肩を抑えている。これは誰かに見られたら困るって思って居るのかな?
「もう、酷いわアレス様」
「まぁそう言うな。もし誰かに見られたら君が困るだろう?それに謹慎中だと言うのに抜け出してしまって大丈夫かい?」
「だってアレス様とお約束していたのですもの。だったら抜け出すなって言う方がおかしいわ」
おいおい。準メリー、前回の事も反省して無いじゃないか。こりゃまた謹慎させても反省するフリだけして抜け出すんじゃないかなぁ。今思うと随分とお花畑なヒロインだよねぇ。
「それはそうとアレス様、こんな所に呼び付けて一体何の御用ですの?」
うは、すんごい甘い声。これ多分…
「前に言ってたよね、これを君に」
やっぱりおねだりしてたんだー。そしてプレゼントを差し出されると引ったくる様に手に取る準メリー。ねぇ、それ幾ら何でも無いんじゃない?そしてあっという間に箱を開けてって結構デカい箱だなあ。
「まぁ、まぁ!素敵!」
薄桃色のドレスを自身に当ててウットリとするご令嬢。
でもさ、ここで開いてみるなんてちょっと…ねぇ。
外だよ?ドレスに汚れ付かない?と言うか先にお礼言えってば。
「それを着て夏の学校恒例のパーティーに出て欲しいんだ」
先日ニキ様が言っていたな。夏に自由参加のパーティーがあるから、淑女としての訓練がある程度済めば参加しないかって。
仕事が終わってから勉強や訓練させられたのはこの為?候補が居ないから誤解させない様、私にエスコート相手させる為だったのかな?と思ったら、
「レナは特殊な魔力があるから今年入学出来なくても来年強制入学になる。ならばその前に下地を付けて置いた方が後々楽だからな」
とのこと。私学校に行ってないから色々勉学に関して不自由なんだよね。特に歴史。何も学ばせて貰って無いから平民でさえ当然知ってることも私は何も知らなかった。これにはニキ様とフォーカス様の開いた口が塞がらなかったもんね。「今迄のレナの境遇を考えてみれば当然だったな」なんて、ニキ様から言葉を貰ってしまいましたよ。ただね、王家の歴代の王様の名前と歴代の主要な人々や全ての国の名前は覚えて居たので驚かれた。
これは領民のジージのお陰。小さい時私が暇そうにしていたり、畑仕事をしていた時、ジージが何時の間にか来ていて常に歌って教えてくれたから。当時はただの歌だと思ってたのだけど、今思うと学ばせて貰って居たんだよね。有り難うジージ。
ちなみに前世のお陰で簡単な算術はパーフェクトでした。ふふふ、これしか役に立たない前世チート。泣ける…
其処でふと思う。ニキ様もしかして魔術科に在籍するのは大半が貴族だから対策を取ってくれていたのかな?
「最も教育が早々に済み次第、学園に入学させる気だがな」
等とフォーカス様。
ですが私の父親の件が片付かないとどうにも出来ないのでは?
「追々対策を取る」
「それでなくてもレナの親父さんは色々とつつくとボロが出て来るからな」
え、ニキ様そうなの?
「簡単なのはフォーカス様が爵位を貰ってレナを養子にする。面倒なのはレナの親父さんを徹底的に砕いていく、かな」
一応あんなのでも私の父親なんだよね。ほんと、あんなのでも。ハゲにするのは良いけどね。
それに領地の母様と領民達のことも気になる。
…御手柔らかにお願いします。
「私は爵位はいらないがな」
フォーカス様そう言う人でしたね、そう言えば。
「最悪モイスト家に養子に来ればいい。親父がハシャギそうだな…」
ニキ様のお父様、うちの母様が初恋の人でしたものね。
「ああそうだ、パーティーはカフェテリアのおば様達夫妻で毎年何人か参加してるぞ。もし参加がしたくて尚且つ相手が居なくて、ニキの相手が嫌なら私がしてやるぞ?」
はい?
フォーカス様が?驚いて何度も瞬きしていたら、ニキ様とフォーカス様の二人が怪しい笑みを浮かべて睨み合っていた。
…何故?
「ええ、分かりましたわ!あ、でも私…」
準メリーの声に我に返った。
今は先日の事を思い出してる場合じゃなかったわ。
でもな~パーティーか。ドレスコードあるよね?今は何度か御古を借りてるけど、私には買えないよ。アクセサリーなんて1つも無いし、靴も無い。あるのは普段しているシドニーお姉ちゃんが買ってくれたリボンのみ。不参加決定的だよね。
「分かってる。なに、私が口添えして”せめて”パーティーには出させてもらう様にしよう。私も君がそのドレスを着ている姿を見たいからね」
「まぁ、うふふ」
それから暫くして、謹慎中だからと慌てて箱を抱えたままで逃げる様に去る準メリー。
碌なお礼言って無いよね?もしかして何時もこうなの?
それってアレス様、良い様に使われてない?おまけに頂いたのにエスコート云々とアレス様が途中まで話したら、遮る様に「それじゃ帰るわ!」って。流石にアレス様も呆れて冷めるんじゃないかなぁ…。
ひっ。
ウンウンとアレス様の事を考えて居たら一瞬アレス様が此方を向いて笑った。
ば、ばばばばばれて、る?ねぇねぇヤバイ?私ヤバイ?
内心かなり焦っていたら、此方に背を向けた。
…。
良かった、ばれて居ないのかな?
このままここに居ても仕方ないしと未だ佇んだままのアレス様に背を向け、抜け足差し足とソロソロと足を動かして移動する事にした。
「ふふ、馬鹿な女」
何処からともなく冷ややかなアレス様の声が聞えた気がして、慌てて振り向くが誰も居ないことを確認し、急いでその場を駆け出して逃げ出した。
…ちゃんとゴミは捨てに行ったけどね。
これで1章は終わりです。
次は暫く御休みしてネタを練らせて頂きます。
昨日UPするつもりだったのですが、修正入れたら何故か倍の文章になってしまい…。それと説明不足な部分(レナの勉強を何故始めたのかと言う部分)を無理矢理今回入れました。
書き忘れとか酷くてスイマセン。
こんなんでも面白いよ!次も宜しく!と思って頂けたら、ブックマーク及び評価をどうか宜しくお願い致します
m(__)m
↓
領民G「はぁぁ~」
領民ABC「「「おう、どーしたジージ鍬持ったまま立ち尽くして」」」
領民G「いやの~領主様ん所の嬢ちゃん達元気しとっとかの、っての」
領民C「ジージ何時も領主様んとこの娘っこさ歌謳ってやっとったの」
領民AB「「んだんだ」」
領民G「ありゃの~歴史の授業替わりじゃ。なんせ領主様学ばせてやっとらんかったしの。可愛そうじゃ」
領民B「それでか。そう言えば家のかっちゃ(嫁)も裁縫とか教えとったな」
領民A「おらのかっちゃも料理とか共にやって教えてたの」
領民C「おらほは簡単な文字の読み書きだの。家に本が偶々数冊あったからの。でも領主様にバレると不味いから貸せんかったのは可愛そうじゃった…」
領民ABCG「「「「はぁ~…」」」」
領民A「何か辛気臭くなったの」
領民B「じゃな」
領民C「んだんだ。それじゃ~辛気飛ばしにアレやるか?」
領民G「アレとは何かの?」
領民A「ジージは知らんかったな。何簡単じゃ、領主様んとこ向いてな」
領民B「儂らがハゲになりませんように!ってやるだけなんじゃ~」
領民C「んだんだ」
領民G「そかそか。じゃ混ぜて貰うかの」
領民A「んじゃやるぞ~せーの」
領民ABCG「「「「儂らがハゲになりませんように!」」」」
領民G「(どうでもいいんじゃが、儂ジージじゃなくてジジなんじゃがの。レーちゃんのお陰ですっかり定着してしもうたわい)」
領主「何かまた領民に拝まれてるような?」