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バーネット様とモニカ様の衝撃の婚約発表を聞き、その三日後の昼日中。
ちなみに私、あれから何故か館の皆が忙しくしていて、ニキ様所かジーニアス兄さんにも会えていない。何故かレスカ様だけには毎日会えているけど。
後は護衛に付いているコリンさん位。
今朝の朝食さえユリアとだけしか会えなかったし。
ニキ様の場合、うっかり会っても何を話したら良いのか分からないから困るのだけど。
だって、へ、返事まだし、ししし、してないし?
流石に結婚はまだ無理ですしって言わないと不味いよね。
まだ13歳だもの。
前世の記憶的には犯罪だよ。御巡りさん此方ですって案件です。でもこの世界は御巡りさんは居ないし、何より貴族の結婚って…
駄目だ。
この世界の常識的な貴族の結婚年齢知らないや。
前世の方だと某ボルジアのルクレツィアさん、13歳で結婚していたんだよね、確か。まさか13歳でもOKとか言う?言っちゃう?心情的にはもう少しお互いの事を知り合いたいから、間を開けて頂きたいんだけどって、あはは…
私ニキ様の事受け入れる気で居る。
思考がソレ前提で動いている。
それでも時間を下さいってちゃんと言おう。
令嬢としての知識も何も私は持って居ないのだから。せめて学園に入って勉強したいし、だ、ダンスだってその、ね?ニキ様の足を踏まないように踊りたいもの。
カーテシーだってちゃんと出来るようになりたい。あれってどうしても足がぷるぷるしちゃうんだよ。慣れないからなんだろうけど、小さいうちから慣らしていくと自然と出来るように為るって言うし。
その証拠にオルブロンは綺麗なカーテシーが出来る。
体幹の問題なのもありますわよ、と言っていたのはビンセント先生の台詞だけど、オルブロンはダンス軽いものなら即出来てしまっていて驚いた。多分当人のやる気なんだろうなぁ…
「フォーカス様に恥をかかしたくないからね!」
と言って健気だし。お蔭で最近はフォーカス様と一緒の所を見掛けると、最初何処か硬かったフォーカス様の表情が和らいで居るのがわかる。
「フォーカス様って、絶対オルブロンちゃんに既に攻略されてるわよね~いやーん流石オルブロンちゃん!私も見習わなくては!」
ってビンセント先生言ってたけど、その直後ディラン兄さんが速攻で逃げたのを私は何処か隠れて見守っております。
ええ。
大丈夫、だよね?
ビンセント先生女の子のが好きって言ってたし。
…ディラン兄さんが憩いだっていってたけども。
それはさて置き。
本来なら3日位で王都に帰還する筈だったのだけど、急遽発表されたモニカ様とバーネット様の婚約発表で延びに延びて一週間位、下手すると10日位滞在する事に急遽なった。
つまり非公式ではあるが、婚約発表の場に出席せよという事。無論全員参加、拒否権は無い。更に言うとモイスト家からはご当主が無理矢理にでも駆け付けて来ると。
うわーい何か会い難い。
そりゃあ王都にあるというモイスト家のタウンハウスに行くよりは遥かに良いけど。
嫌ですよ?
ジーニアス兄さん曰く、玄関やら廊下やらにずら~と並んでいると言う西洋鎧の集団とご対面するのは。そして時折悪戯としてご当主であるアルビオン様が入っていて、素知らぬフリしているっていうのは見たくないです。
もしかしてニキ様もやったことあるんじゃないだろうか。
前に一度聞いてみたら目を反らして素知らぬフリをした辺り、絶対やったよね?隣りにいたケイン様が爆笑していたし、恐らく正解なんだろう。そしてレスカ様は何故ジト目でニキ様を見ていたのか。
「幼少時、私とユリアがそれでからかわれた」
根に持たれて居るようですヨ!
ニキ様そっぽを向くだけじゃなく、悟りを開いた様な顔をして居た。多分他にも何かあったな、あの顔は。
意外と悪戯っ子だったようだ。
「レナ、溜息を付くと宜しく無くってよ」
「あはは、あー…だってぇユリア、何度目だっけかな、このカモーリに来てからパーティー出席するの」
「二度目ですわ。いい加減慣れなさいませ。コレからもこう言った事柄は増えていくものですわ」
「うう、元貧乏男爵家出身者はこの感覚慣れたくはないよ~」
アレイ家から家出と言うか夜逃げというか着の身着のまま(と言う程物を元々持って居ないけど)逃げ出し、学園の厨房で働き、ジーニアス兄さんが爵位を持つようになってからこっち、前世庶民+お貴族様の慣れない環境の連続で日々大変目まぐるしい。
貴族と言っても男爵家だから大分緩いらしいけど。
先日の王都での、ジーニアス兄さんとコリンさんのコンビ無双のせいで通常の男爵家よりかなり華やかな状態に本来なら陥る筈だったらしいけど、兄の性格とレスカ様の牽制のお蔭で大分マシになっているとか。
お貴族様ってぇ…
一体誰が想像出来ただろう。まさか私が別の姓になってアレイ家を脱する事が出来、末の妹のオルブロンまでその恩恵を受ける事が出来るように為る等。
…色々私が忘れていたって言うのもあるのだけど。
いや~よもや乙女ゲームでのジーニアス兄さんの姓が変わっているとか、具体的な話がゲーム中無かった様な、あったような。だってね、乙女ゲームでジーニアス兄さん登場する時はスタンピードが終わった後で、その時は既に苗字が違っていたからね。
うむむむむ…
「普通王都に住む貴族という者はこういうモノですわよ?」
「なら私は田舎に引っ込みたいです。まったりしたい、怠惰と言われても良いです」
「困りますわレナ、私と御喋りしたりして過ごせませんわ」
「それはやだなぁ」
「でもアレですわね。ニキ様とご結婚なさったらモイスト家の領地に引っ込む事になりますでしょう?私は恐らく王城の離れの離宮か、それとも別の領地を賜ることに為るのかまだ分かりませんが、その時は必ずレナの元に遊びに参りますわね」
「ぶふっ!話飛びすぎっ」
ユリアの結婚は確定だとしても、私の場合はそんな約束はして居ない…今の所。
確かにニキ様から「結婚しよう」と言われたけれど、貴族の結婚など本来は慎重にすべきだし、何よりウチは元実家が問題ありすぎてどうしたら良いのか兄二人と共に思案中。
この件に関してはオルブロンは除外している。
ほっとくと諸々やらかしそうって言うのが三人共通の認識デスカラネ。と言うか確実にヤラカスから、あの子。
そしてデュシー姉さんは心労を掛けさせたく無いので話して居ない。今はそれより肉を付けさせたいからね。
ほんっと、あの実父と長男は此方に迷惑ばかりかけやがって…禿げろ!と幼い時から日々祈っているんだけどね。
ねぇ神様、もしこの世界に本当に居るならそろそろ実父を禿げさせてくれても良いのよ?寧ろ歓迎するよ?デュシー姉さんの分と私の分とオルブロンの分の合計三人分で追加で願いを叶えても良いのよ?何なら母様の分も上乗せして。勿論追加分は長男カイデンも完膚無きまで禿げろって事だけど。
更に欲を言うと、ゲシュウも禿げてくれないかな~とか思って居ますけどね。
「そんな事は無いですわ。大方ニキ様の事ですもの、結婚なんてしたら人前に出そう等とは致しませんわよ?あの方意外と独占欲強そうですし」
「いや、そのね。私とニキ様が、その、ねぇ」
「何言って居るのです、レナ。結婚してくれだなんて羨ましい台詞を頂きましたのに」
「ねぇ、もしかしてユリアってば嫉妬してる!?だから私に意地悪してる?」
「まぁ、どうしましょうレナ。私意地悪してまして?」
「してるしてる、せーいっぱいしてるー!」
「あら嫌だわ、ほほほ」
「そんな上品に笑っても誤魔化されないからー!」
「まぁ、うふふ。どうしましょう、私楽しくなってしまいましてよ?」
いやいや、ユリアさん、ユリアちゃん。そんな楽しそうに微笑まないで欲しい。つい許したくなってしまうから。
「でもねレナ、今回のパーティーはあくまでも身内と言うか私達の様なお客も招待されましたが、少数で小さく開くものですから格式ばっておりません。ですから慣れていらっしゃらないレナは是非参加すべきですし、良い機会です。オマケにここ暫くニキ様に会えていらっしゃらないのでしょう?成らばいい機会ですし、ニキ様との仲を進展してしまいなさい。そして少しでもここにいらっしゃる周辺貴族達に顔を覚えて貰なさい。『ニキ様は私のモノです』とね」
「ゆ、ユリアァァア!?」
「あら、牽制は必要ですわよ?私とて毎回毎回大変なのですから。それにニキ様は騎士団団長の息子。将来有望株で狙っている貴族の子女多数ですのよ?キャムデン辺境伯も昔からニキ様に婚約の打診をしていらしたようですし。とは言え当の本人がレスカに夢中ですが」
今小声で迷惑ですけどってユリアの愚痴が出た。
非常に珍しい。
学園で私の見て居ない時に牽制と駆け引き(?)が頻繁にあり、面倒だったとは聞いていたけど今でも裏で駆け引きがあるとかなんとか。
恐ろしきは女のなんとやら、ですね。
うわーソレ考えると私も参加せねばならないのか。ああ、嫌だよぅ。
「言っときますけど此れから他人事では無くなりますのよ?おまけにニキ様は第二王子レスカの親友で、将来王族から臣籍降下される際、公爵家を賜る当主であるレスカの家臣予定者です。第一王子で王太子であるガーフィールド様程は熾烈ではありませんが、尚更他人事では御座いませんのよ?」
おうふっ!
そ、そうでした…
「更に言いますと、レナは…あら、これは良いことかしら?」
ん?何が?
「ジーニアス様それに次男のディラン様でしたわね。お二人とも独身でとても良い状態であらせられますもの。特にジーニアス様は『独身の女』であれば確実に狙って行きますわ。有望株ですから」
あ~確かに。
それとディラン兄さんの場合、爵位持ちの当主ではないから婿にって言う所が幾つもあるのだとか。ディラン兄さんも22歳だし、婿養子を迎えたい貴族としては欲しい人材の一人らしいんだよね。実家に居た時は実父は長男カイデン兄さんの手前ディラン兄さんには教えないようにしていたけど、熱心に手紙を書いて来る家もあったし。
って、それってばラブレターだよね。
そう考えると、カイデン兄さんには一つも浮いた話等来た事が無い。少なくとも私がアレイ家に居た時から一度も聞いた事が無い。…見合い話は此方から持ち掛けるのはあったらしいけど、速攻で断られて居たのは知っている。
「ねえユリア」
「なんですの?」
「アレイ家のカイデン兄さんって…」
「女性にオモテにはなりませんわよ?」
おおぅ即答。
何でも学生時代の所業+アレイ家の借金、そして私達姉妹の身売り(デュシー姉さんと私の妾問題)。うっかりアレイ家に嫁がせて、もし産まれた子供が女だった場合、第二のロドリゲス家の様な形で借金の形に妾に出す等と言った醜聞を皆避けているらしい。
アレイ家のカルロス、それに長男カイデンは国内の貴族達、特に女性達にはあまり良くは写っていないのだとか。
それはそうだろうね…。
だからこそ未だに独身なんだろうし。普段から長男なんだからって言って威張り散らしている癖に、何時までも結婚して跡継ぎを得ないからおかしいと思っていたよ。
「それでも一部の下位の貴族の子女には程々ですが、認知度程度には気に掛けていらっしゃられる方も居られたようですよ、かなり昔の話ですが」
「昔って」
「レナ、貴族って言うのは情報通ですわ。それが例え末端でもね。何より情報が無いと死活問題となりますのですわ。そしてアレイ家は【多額の借金を抱えさせられて】おり、更には女性を、子供を奴隷の様に扱うという事等皆に知られて居るのです」
あ~それってもしかして私の事とか。
「ええ、レナ達姉妹の件ですわね」
よし、毛根から抜けてしまえ実父よ!
一本の無駄なく禿げろ!白髪になる暇さえない程に禿げろー!カイデン兄さんも共に毛根死滅しろー!
そしてユリアってばちょっと怒ってない?
「勿論ですわレナ。幾らレナと血の繋がりがあるとは言え、私の親友を虐げた人などって思いますわ」
ふぉ、まじですか。
「ええ。レナ風に言うと「マジです」のよ?さ、何時までもパーティー会場前の部屋に居ないでそろそろ参りましょう。あまり遅くなると今回近場の貴族の子女達もいらしているようですから、レスカが令嬢達に囲まれて居ないか心配ですわ」
あ、はい。牽制ご苦労様です、では私はこの辺で…
「れーな?」
ううううう…
「貴方とてちゃんと牽制しなくてはいけませんのよ?先程言いましたけど、ニキ様は元より貴方のお兄様であるジーニアス様ですが、先程既に何人モノ女性に絡まれて大変な様でしたわ」
なぬ?兄さんが!?
「今回はガルニエ家のご当主で参加しているようですが、アレクサ様の警備も兼ねて居るようです。ですのであまり強く言えないようで。始終困惑したように眉尻を下げてらっしゃっいましたわ」
こうしちゃいられない!
「さぁさぁユリア行きましょう!今直ぐ行きましょう!兄さんの仕事の邪魔をする困った娘は払わないとね。ディラン兄さんにもくれぐれも頼まれてたし!」
あらまぁとユリアに呆れられたけどそれは聞かなかった事に。
だって変な人が兄さんに始終くっついていたら迷惑以外無いものねー!オルブロンにさえ「お姉ちゃんが確り見極めてよね?うっかり変な女が入って来て、家族を引っ掻き回されるなんて事結構あるらしいんだから」なんて事迄言われちゃったし。
ここは頑張らねば!
…なんて思っていた私が馬鹿でした。
11月6日 修正
草葉の陰 ×
何処か隠れて ○
草葉の影ならレナ死んじゃうΣ(@_@;)!という報告を頂き、急遽修正。
ご報告有り難うございます(涙)。危ないあぶない…




