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今回は短めです。
side…???
ナイフってのは不思議だ。
いや、武器だから不思議ってのはおかしいのかな。
刀身を光や月の明かりに照らせばキラキラと光沢を放ち、日の元の下で刀身を出せば世間的にも先端を付き付けられて居る此方の身としても決していい意味には為らない。
例えば盗賊等が手に持って振り回して居ると我が身が危険に陥りそうで恐ろしい。
対して小さな子供が触ろうとしたら、うっかりその小さな手を切りそうで危なっかしい。
それに対し何度か見知った相手で特に交流が無い様に、いや違う。まだまだ成人前の幼い子供と避けて居た相手がギラギラと光るナイフを首筋に当てて来たら…
「お前は誰だ」
此方に向けて話した相手の背後にはこの国の王都では滅多に見掛けない、珍しい獣人。
年齢的には恐らくまだ成人前だろうか。幼い顔には何も感情が無いのだろうか、全くの無表情でただただ前のみを見詰めて突っ立って居る。
その珍しい獣人が、比較的上質な生地を使った執事の服を着せられて一言も言葉を発せずに佇んで居る。
生地からして下位貴族に従って居るワケでは無く、高位貴族に仕えて居ると知れる。
ピッシリと綺麗な姿勢のまま、一切隙の無い状態で佇むその姿。
惜しい。
顔が好みだ。
私がもっと若ければ、狙って居たかも知れない。
正し、獣人で無ければだが。
麗しい目蓋。いや、涼やかな目元と言うべきか。
髪の毛は左側のみ目を隠す様に長く覆われているが他は短く切り揃えられており、全体的に冷たい印象を与える。右の目が青く、左の隠されている目は閉じられたままで眼帯を付けて居る。恐らく病か、それとも怪我。もしくは…オッドアイ。
この国のオッドアイは悲惨だ。
人間の場合はまだマシだが、マシと言えるかどうか分からない。
迫害と言えるのはまだマシな方だろう。
今の国王は禁止して居るが、何代か前の王の時代は辺境で堂々と『オッドアイ』と『アルビノ』は平気で薬の材料として狩られて居た。
特に幼い獣人の場合は悲惨の言葉に尽きる。
人間の場合とて地位の低いモノでオッドアイやアルビノの場合、片方の目もしくは腕や足を非道にも狩られて商品として売り捌かれてしまうのだから。
年齢的に幼さが残る。
もしこの子がオッドアイなら、その眼帯をずっと外さない様に。
目を見開かない様にと願ってしまう。
…幼い頃見た、忘れて居た過去である「産みの」母が狩られた情景を思い出してしまうから。
国家転覆だとか企んで居たらしい義理の母と父の事等知らぬ。
アレは人間の皮を被った獣だ。
昼夜問わず使用人も私も家畜としてとしか扱わなかった獣。
ああ、私は何をしているのか。
そんな場合では無いのに、こんな時に過去の事を思い出して居るだなんて。
呆れる位呑気な事だ。
自然と口角が上がる。
自重等知らぬ。
今この場にて首筋に当たるナイフの先、それと何故か過去の事を思い出して口角が上がる等滑稽では無いか。国の誉れである栄光の階段をゆっくりと登った筈なのに、私に与えられたのは「愛」も無く「義務」も与えられず、ただ与えられたのは虚ろな何も無い「地位」、ただそれだけなのだから。
獣人を眺める。
顔以外を見れば均整の取れたしなやかな筋肉が付いて居る。
まるで成人をした本物の執事の様だ。
この国の王都には人間至上主義な者が居るからと、王都には獣人達等は滅多な事では寄ろうとしない。差別を受けたくないのと、目立ちたくないのと更には獣人の体質を公の場に晒したく無いのだと言われている。
それなのに、その相手が冷たい刃の様な眼差しで此方を見て居る。
そう言えば幼い時に憎い義理の母と父の屋敷に居たあの執事は逃れられたのだろうか。あの者のみが「あの屋敷」にて私に優しかった。そして亡きガルニエ伯爵当主に逃がす時に託された、あの手紙は一体何時失ったのであろう。
ガルニエ家で気が付いた時には既に無く、「絶対になくさない様に」と何度も念を押されて言われていたのにと落胆したものだ。
そして獣人の少年の主人らしいアレス・バーンド、この国の宰相のまだ幼い14歳の息子が私に、ナイフの切っ先を首筋に…―
遅れました。<(_ _*)>
新章で書いて居たものを一度見直し、気に入らなくて一気に書き直しました。
そしていよいよアレスが動きます。多分。…多分。
小話に書きたかった話は幾つかあるのですが、慣れないスマホを借りて居るので更新しにくく、悪戦苦闘中の為、後程出来たら良いなと思っています。




