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「先輩!」
着替えてから部屋を出ると、私の部屋の前に控えて居たメイドさんのヴェロニカさん、それともう一人…
「お嬢様、私の名前はユイです。宜しくお願い致します」
名乗りをしてくれて助かったー!
昨日全員の使用人さん達から挨拶と一人ひとりキチンと名乗って貰ったのに、流石に覚えて居なかったんだよね。
20人だもの、一気に覚えるのは大変だよ。
このユイさんっていうメイドさんは他の二人よりも身長が高い。聞いた所175あるとか。しかもモデル体型でスラットして居て素晴らしい。しかも出てる所は確りと出て居る。
なんてバランスだ!
正直羨ましい…
「うう、エロカワロリな巨乳と、女の羨望な羨ましい体型の人が目の前に…」
パーシャさん落ち着こう。
そしてヴェロニカさん、拝むな。
ヴェロニカさんだって少しふっくらとして女性らしくて可愛らしいと思うよ?
「明日から、いいえ今からダイエットだわ」
ブツブツ呟くヴェロニカさんに目がイッチャッテル?パーシャさん。中々癖の強いメイドさん三人娘が私担当になった様だ。
「先輩!お願いします!」
さて、デュシー姉さんはもう起きたかな?赤ちゃんの顔と様子も見たいし、三階に一度行くべきかな?それにディラン兄さんは何処に泊まったのだろう。
ジーニアス兄さんは私と同じ二階だと思ったけど、今居るのかな?それとももう居間か食堂かな?
「先輩ぃぃ~~!」
「お嬢様…」
あーうん。
叫んでるね~。
ははは。
せめてもの救いは玄関前で叫んでいるわけでなく、玄関の中で叫んでいるみたいだって事かな。
仕方が無く様子を見に二階の踊り場まで行って其処から顔を出すと、ジーニアス兄さんの後輩、先日のスタンピードで兄と共に無双したと言うコリンさんが…
土下座!
どゆこと!?
コリンさん何でジーニアス兄さんの前で土下座!?
「お願いです先輩!僕を先輩と共に居させて下さい!」
え、え?
ちょ、誰?今「○モ展開キター」とか言った人。
「腐女子万歳!」とかも聞こえた気がするけど!?そんなんじゃないと思うんですけど。少なくとも兄は。コリンさんは正直知らないけど。と言うかこの世界、その単語通じるの?
「コリン…」
「僕は先輩を尊敬して居るんです。先輩の力量を技量を、そして心意気をとても尊敬しております。その先輩から職務とは言え離れたくありません!」
ぶふっと直ぐ傍に居たメイドのパーシャさんが「やば、出血死しそう」と。
鼻血でてるー!?
もしかして腐女子と言ったのこの人ー!?
「落ち着きなさいパーシャ」
「ゴフ、我が人生に悔い無しで御座る」
「貴方何処の人よ」
鼻血を出して床で悶絶して居るパーシャさんに向かって、私付きのメイドであるヴェロニカさんにユイさんが呆れ果てて居る。
鼻を抑える為にハンカチでパーシャさんは抑えているけど、大丈夫なのかな。
「この子良く鼻血出すので」
「しかも盛大な勘違いで」
鼻血を良く出すらしいって、レスカ様なんて人連れて来てるの。この場合レスカ様の父親、国王様であるアレキサンダー様かも。
随分と濃い人を選択したなぁ。
「お嬢様、この子こんな変わった娘だけど、メイドとしての技能は高いから」
「そうです、鼻血塗れは日常かも知れませんが」
「煩悩に忠実なのです」
鼻血否定しないんだ。と言うかヴェロニカさんもユイさんも慣れてるんだ。
何て言うか仲良し?
「そう言えばお嬢様、私達メイドに対して『さん』付けはいりませんので」
「主人であるお嬢様に仕えるメイドには呼び捨てでお願いします」
「そうでちゅ、ふが…」
三人、途中鼻血で残念な状態になってしまっているパーシャさんにまでこう言われてしまって、仕方が無しに渋々了承する。
でも心の中で"さん"を付けて思って居るのは良いよね?
「勿論心の中で思うのも禁止ですよ?」
おおぅ、口に出してしまっていた様で。
「お願いしますね」と確りと約束させられてしまった。
慣れない事出来るかなぁ…
* * *
「ジーニアス兄さんにコリンさん、早朝から一体どうしたの?」
まぁ大体予想が付いてはいるのだけど。
恐らくジーニアス兄さんがレスカ様の近衛兵になった事で騎士団から抜ける為、コリンさんが猛抗議(?)に来たのだろう。
そう言えばコリンさんって準男爵になったんだよね?
屋敷とか貰ったのかな?それとも名前だけだろうか?今度ゆっくりと時間が取れたら聞いてみよう。
今は無理そうだしね。
「それがなぁ…」
うん、兄さん朝からグッタリとしていて疲れ切った顔付になっているね。
コリンさんはコリンさんで必死な形相だ。
因みに階段上、つまり約一名未だに床とお友達状態で蹲っているメイドが居るけど、それは無視でお願い致します。
鼻血出してるけど。
ジーニアス兄さん、目線で「あれは?」って伺って来ないで。説明がし難い。
「今朝騎士団の詰所に行ったらジーニアス先輩が移動だと言うじゃないですか!理由を聞いたら近衛兵だなんて!そんなの酷いです!僕は先輩の太刀筋に、その勇士に何時か追い付きたいと励んで来たのに!」
あ~…
コリンさんや、落ち着いて下さい。
そして階段上から興奮し過ぎて出血が止まらないのか、血が滴って来てる気がするんだけど大丈夫なんだろうか。
ハンカチだと足りないと、咄嗟に廊下の隅に仕舞ってある掃除道具から雑巾持って来て、それで抑えてるって大丈夫なの?
下ろし立ての新品だから大丈夫って、それってどうなのよ…
後でちゃんと消毒(?)するって言ってるけど、本当?
ユイさん消毒するのは階段と雑巾ですからって、パーシャさんを消毒すべきでは?え、ヴェロニカさん、「そうですね、頭の中身を消毒致しましょう」って。
何それ怖…
「先程説明しただろう。国王であるアレキサンダー様からの通達で決まったんだ」
「そんな!僕はどうしても先輩の傍が良いんです!」
「そう言われてもな」
ううううと呻いて項垂れるコリンさん。
うーん、そんなにジーニアス兄さんの事を尊敬して居るの?先日の件で無類の強さを二人で発揮したと聞いたけど、兄さんそんなに強かったのだろうか?
つい口に出したらジーニアス兄さんがガックリと項垂れた。
えーと、何かごめん。
「何を言ってるんですかレナさ…レッティーナ様!先輩はそれはそれはもう、怒れば鬼神の如く周囲の魔物を一刀の元で真っ二つに切り裂き、歩けば周囲の魔物が恐れをなして気絶し、失神し、失禁する。それ程の偉人なのです!」
「あのなぁ」
「しかも、しかもですよ!逃げ纏う人々に優しく手を貸すその心意気!そして何よりも優しい。こんなー」
「やめい」
ジーニアス兄さんがぱこんっと抜けた音をさせ、力一杯力説しているコリンさんの後頭部を軽く殴って黙らせる。
「せんぱい~~」
確かにこんな恥ずかしい台詞、目の前で聞いたら恥ずかしくて仕方が無いよね。
私なら悶えちゃうよ。
うわーはずかしー!とか言って頭抱えて蹲っちゃうかも。
「ふぇし、でしゅたら騎士団を辞めてジーニアス様の元で務めたら宜しいのでは無いでしょふふか?」
もごもごと雑巾で鼻を抑えていたパーシャさんが行き成り提案、と手を上げて喋ったのですが、いやーそれは駄目でしょ。何よりお給料が貰えないのでは?
それに準男爵になったばかりだし。
「騎士団を辞める…?」
…あ。やばそう。
何か物凄ーく目がキラキラキンキラリン。
「その手があったかああああ!」
いやいやいやいや待てまて、それは不味いでしょう!
「待て。言ってる意味が分かるのか?準男爵になったばかりだぞ。それなのに騎士団を辞められる訳が無いだろう」
「あぅ!」
途端にガーンと落ち込むコリンさん。
実に分かりやすい。
「で、でも」
どうしても先輩、この場合ジーニアス兄さんの事だけど傍に居たいと話すコリンさん。それに対して更に悶えて階段の上で「どうしよう、なにこの感情は!はぅぅぅぅ~」とバフゥっと更に出血して倒れ伏すパーシャさん。
ナニコレ。
何の珍事件。
「ジーニアス様、私如きがさしでましいですが、このお館の守りが薄いのは確かです。お嬢様方の為にも今後専属の護衛を雇わなければいけませんし、いっそ国王様かユウナレスカ様もしくは騎士団長様にご相談為さっては如何でしょうか」
ピシッとヴェロニカさんが場を纏めようと一歩出て提案する。
確かに今のままだと事態が好転する処か進展も無さそう。何より朝っぱらからこの騒動は頭が痛い(特に階段のパーシャさん。出血死するんじゃ…)。
「そうだな、このままだとどうにも為らん。後程上司に報告と言う形で良いかコリン」
「はい!出来たら先輩の館の護衛に!」
「その話は後だ」
何処と無く疲れた顔をしている兄を見て、「慕っているのは良いけど程々に」とコリンさんに告げ、早々からジーニアス兄さんは大変だなぁと思った。
* * *
昨日この館に来た使用人の中には料理人の方も居て、その人が用意した朝御飯に感激したのだけど、益々私の仕事が無いなぁ~と思う。私が作るより美味いからそれはそれで良いんだけどね。
それに他の人が作ってくれた食事、うん贅沢だ。
学園の食堂カフェテリアの賄いも贅沢だけどね。そう言えば復帰するのは何時にしよう。
そろそろ仕事復帰しても良いかと二人の兄達、朝食の席に居るこの館の主のジーニアス兄さんとディラン兄さんに相談する。
ちなみにデュシー姉さんは別室にて授乳中、終わったら此方に来るとの事で先に食べて居て欲しいそうだ。
そう言えばまだ赤ちゃんの名前聞いて居ないんだよね~。メイドさん達に聞いてもデュシー姉さんは「あらあらよしよし」とか、「良い子ね~」とか言った形でしか赤ちゃんの事を呼ばないらしく、知らないらしい。
ディラン兄さんも知らないのかな?
こう考えてみるとデュシー姉さんの事だからノンビリとしてて、まだ名前付けて居ないのかも知れないけどね。
それにしてもメイドさん達からの言葉にほっとする。
虐げられて来たと思うゲシュウ・ロドリゲスとの子供だから、ひょっとしたら姉さんが赤ちゃんを毛嫌いしている可能性もあると思って居たんだよね。
でも昨夜と今日だけの話だけど、聞いて居る限りでは大事に育てて居る気がする。
そうじゃ無ければ母乳も出ないだろうし。
…子供を産んだことが無いから分からないんだけども。
アレかな、前世でよく耳にした「この子は関係ないから」とか「私の子だから」って言う感じなのかな。
母性って奴が出ているのかも知れない。
出来たらこのままデュシー姉さんに大事に育てて貰いたいな。
父親のゲシュウは認知して居ないだろうし、このままそっとして置いて欲しい。
…フラグは立たない様に、この件はこれ以上思うのは後にしよう。
「仕事か」
「うん、厨房の仕事は忙しいからね。今は学園が夏休みだから普段よりは人が少ないからある程度は大丈夫だろうけど、二学期が始まると忙しくなると思うんだよね」
私が勤めて居る厨房がある学園。
この学園の夏休みは前世の夏休みよりも長い。恐らく貴族の子供が長期休暇中領地に帰ったりする為なのかも知れない。
それと同じく冬休みも長い。
夏休み程には長くは無いけど、短いと文句を言っている生徒を見掛けると、前世の冬休みの短さを伝えたくなる。
しかも、二学期からは先日のスタンピードの時に王都に逃げ込んで来た隣国の王子、アレクサ・ロー・ウィックロー様が通って来る筈。
だとすると、情報を掴み取った未だ婚約者の居ない貴族の子女達が挙って狙って来るだろうなぁ。隠れ肉食女子多いだろうし。
そしてそれらを巡って一悶着があるだろうから、レスカ様やニキ様にケイン様それにユリア様ももしかしたら出番があるのかも知れない。少なくともレスカ様は王家として接するだろうしねぇ。
「その最中にレナも入っているのだが」
私の事を子供だと言うジーニアス兄さんは兎も角、ディラン兄さんがニコニコとしながら答える。
「狙ったりしませんよ?」
王家、しかも刺客が送られて来る問題ありきな隣国王子。怖くて命が幾つあっても足りない程だ。先日の件でも大量の暗殺者が送られて来て居ると言うのに、うっかり関わったら何時暗殺されるかわかったもんじゃない。
それに男爵家如きが王家の跡取り息子に輿入れ等出来るわけが無い。見向きもされないと思いますよ。
「うーんだとしたらレナはやっぱりニキ様狙いかい?」
ぶ。
何を言うのだディラン兄さんは。
思わず吹き出しそうになるのを堪えて居ると、急に食堂の体感温度が下がる。
発生源は勿論言わずもがな、我がもう一人の兄であるジーニアス兄さんだ。
因みにお客な筈のコリンさんはちっちゃくなってやり過ごそうとして居るのか、先程から気配を殺して居る。凄いぞ忍者みたいだ。
ただ完全に気配を殺せていないらしく、目が忙しなくキョロキョロして落ち着かない。
きっと事態をどうしたら良いのか判断が付かないのだろうなぁ。
「ジーニアス…」
「ディラン兄さん、レナはまだ子供だ」
「だが、恋愛は良いモノだろ。それに何れは結婚をした方が良いと思うが?」
「…子供だ」
「ジーニアス…」
「こ・ど・も・だ」
「…禿げるぞ」
「ほっとけ」
「だがな、レナは女の子だ。しかも以前の様な貧乏田舎貴族と言うわけでは無い。それ相応の相手と言うのも今後出て来るだろう。そうなれば」
「まだ早い」
「はぁ、まぁ今はそれで良いだろう。だが当人の意思は尊重しろよ?」
何だかドンドン私の事を言い出す兄さん達。
心配なんだろうけど。でもね、私に言わせて頂ければ兄さん達のが年齢が上なんだから。
特にディラン兄さんもう22歳でしょ。
ジーニアス兄さんも18歳だし。
そろそろ二人共良い年なんだし、お相手の一人位居てもおかしくは無いんじゃない?私よりも兄さん達のがって私は思うんだけど?
「ティーナちゃ~ん、そう言う事は思ってても口に出しちゃ駄目よ~」
「…あ」
どうやら口に出して話して居た様で。
兄さん達が屍と化して居る。
あははは…ごめん。
そしてティーナって、デュシー姉さんしか呼ばなかった私の呼び方だ。デュシー姉さんらしい呼び方で、何だかとっても懐かしい。
「二人共ティーナちゃんの事が大好きなのね~。でも今話す事柄じゃぁないかなー」
久し振りに会った朝なんだから~って何処か穏やかなふわふわした笑顔で話すデュシー姉さんに、3人で「「「相変わらずだなー」」」なんて言葉をつい揃えて言ってしまい。
4人で笑ってしまった。
今回鼻血出してるだけになった気がする…
(´д`|||)




