30
ようやく30話。
何だか嬉しいヽ(・∀・)ノ
「しかし二十人か…給料…」
ぐったりソファーに項垂れるジーニアス兄さん。
重荷だとブツブツ呟いて居る。
「言っとくが使用人の数やら何やらは私が言い出したが、大元は父である王だからな。一度言い出すと我が父は引き下がらんので、私が纏め上げた」
ほっとくともっと増やすだろうしな、と言われ内心冷や汗が出る。
二十人でも十分多いのにってジーニアス兄さん呟いてるけど、レスカ様の40人よりマシだろ?と言う言葉で黙り込んだ。
40人ってアレでしょ?
冗談…あ、本気でしたか。
てか40人って一体何をやるのだ何を。
「それと今後他の貴族から「雇え」と無理矢理使用人を連れて来て置いて来る輩が出るかも知れぬが、決して雇うな。寝首を掻かれるぞ」
何でも既にここ、ガルニエ家は『乗っ取り』の標的になりつつあるとか。
新参者の田舎貧乏貴族が王都にタウンハウスを持つのだから、お金と爵位狙いで来るから気を付けろと。
ナンデスカ、ソレ。恐ろしい。
王都のお貴族様って恐ろしすぎる。
「特にジーニアスは独身だからな。幾ら連れて来られた使用人が美女だからって決して雇うな、気を許すな。くれぐれもハニートラップには気を付けろよ?」
「ぐぅ…」
「ジーニアス兄さんファイト!」
「うう、レナ…」
「嫌」
「まだ何も言ってないが」
「どうせ替わってって言うんでしょ?」
「ぐぐぐ…」
「ジーニアスファイトだな」
「ディラン兄さん…胃が」
ガクーっと項垂れる兄を横目にあの日の事を思い出す。
スタンピードで魔物が溢れた王都で起った日。
私は途中で怪我を負って意識を手放したのだ。
そんな人が、まして兄を退かして爵位を貰うつもりなど毛頭無い。それ以前に無理だけどね。
確かにこの国では女性が爵位をもって継承している人も存在しているらしいが、私は貴族の当主には興味のきの字も無い。それに国王に爵位を指定されたのは兄であるジーニアス。
私では無いのだから。
オマケに私が怪我を負って気を失ってから兄はブチ切れて、後輩のコリンさんと共に無双状態になったのだとか。お陰で現在の兄には二つ名が付いた。
【王都の鬼神】
この世界鬼神なんているのか!?って思ったけど、言葉としてあるのだから居るのかも知れない。見た事は無いけど。
そしてこの名の通り、その時の兄は物凄い怒りっぷりで、コリンさんが「本気で怖かった」と震えて言うぐらい凄かったらしい。
「ジーニアス、【王都の鬼神】なのだから、これから精進しろよ?」
何だろう、ユウナレスカ様の口からシスコンって聞こえた気がする。
「はぁぁ…こんな怖そうな二つ名付いちまって、嫁来るかな」
「まぁ頑張れ」
ディラン兄さんがジーニアス兄さんの肩に手を置いて慰めて居る。大丈夫だよジーニアス兄さん、何せ乙女ゲームの攻略対象者だもの。顔はとてもモテそうだしね。
それに先程すれ違った時に女性達の視線、レスカ様やニキ様にケイン様は兎も角、大人な女性の視線はほぼ兄さんに向かってたから。
一部ディラン兄さんにも来ていたけどもね。
私はそうは思わなかったけど、意外とディラン兄さんもモテるのかな?乙女ゲームでは全然出て来なかったから分からなかったけど、よくよく見て見ればディラン兄さんの顔も悪くは無かったみたい。
それを考えると学園に居た当時、我が家の長男であるカイデン兄さんがモテなかったのはきっと貧乏な実家のせい。それと父親似の性格のせいかも知れない。未だに長男なのに嫁の来てが無くて大変なんだよなとディラン兄さんが呟いて居る辺り、学園の女性達は観察眼があったのかも知れない。
(事実はアレイ家領内では女姉妹の扱いが劣悪なのが貴族内で知れ渡っていた為。それに気が付いて居ないのは、アレイ家の身内のみ(母親は別))
「王都の使用人の給金は気にするな。暫くの間は国から支給されるし、毎年貴族席の者には国から給金が出る。それにジーニアスは近衛兵になるからな、それ相当のモノが支払われる事になる」
ふえ~…とすると私の学園の給金の何倍なんだろう?
何でもかんでも自分の給金基準で考えてしまうけど、他を知らないから凡その基準が分からない。
ウンウン悩んでいると、
「レナちゃんの給金って恐らく学園の最低賃金だろうからね~えーと、使用人の役職にも依るけどそうだねぇ、メイドさんの一日の給金がレナちゃんの給金の二倍位じゃないかな?勿論貴族に仕えて居るからってのもあるからね?市井のメイドさんだともっと安いよ」
ひぇえええっ
自分基準やはりダメでしたーっ!
貴族基準たかいぃぃー!
ケイン様教えてくれて有り難うー!
「それと今回の事でレナちゃんとお兄さんには国から報奨金も入るから。正直今後レナちゃんは学園で働かなくても良い位に貰えるよ?」
「え…」
今後?
「レナちゃんもちゃんと貴族席に入ったからね。家族として数に入って居るんだよ」
「えええ」
「近衛騎士団の人には家族手当とか諸々の給金が出るからね。初年度は微々たるものだけど、何せ次期国王の弟の近衛兵になるからね、それ相当の給金になるよ」
ほぉぉぉぉ…
ってことはアレ、家族がもっと増えたらもっと貰えると?
「申請が通ればね。ジーニアスさんの場合、今の所はレナちゃんのみになるかな」
ほうほう、成程。
という事は、デュシー姉さんにその赤ちゃん、オルブロンは駄目って事なのかな。
ディラン兄さんは成人しているし、デュシー姉さんみたいに痩せぎすって感じじゃないし即働けそう。
ならば自分で稼げってなもんです。
シドニー姉さんじゃないけど、それぐらいはして欲しいものです。
* * *
その日は結局人数分のみ物置からベッドを引っ張り出し、急遽誂える事にした。
お布団はレスカ様が呼んだ、えらい高そうな裕福そうな衣服を着た御用商人の方が持って来たフカフカお布団を各部屋に整えて貰い、その柔らかな手触りに慣れておらず、逆に寝れるの?と疑問に思った。
それと使用人の人達が食堂に使うテーブルとイスを取り出してセッティングし、足りないモノ等を注文し、その度に兄二人と「お金足りるの…?」「さぁ…」とビクビクししていた。
実際商人の人が「ではこれぐらいで」と差し出された合計金額に目玉が飛び出たのだけど、その用紙にサッとレスカ様がサインを記入し、
「支払いは王家宛てに」
とあっさりと終わってしまった。
…どうしよう、怖いんですケド。
「そう怯えるなレナ、これでもこの商人は中古等を扱っているからな、比較的リーズナブルな値段だ」
何処がですか。
中古に見えないんだけど。
おまけに金額の0の数に目玉所か心臓が飛び出そうになったけど。
「所でユウナレスカ様、お庭はどういたします?此処から見える範囲でも結構荒れて居ますが」
「うーむ、どうするか」
「あ、それ、僕に任せて欲しいな~」
商人さんとレスカ様が唸っていて、この館の住人そっちのけで会話をしている(その方が非常に助かる)最中、ケイン様がはいはーいと片手を上げて立候補をしてくる。
「いいのか?」
ん?コッチを向いてレスカ様が聞いて来るけど、館の主でガルニエ家相続したのはジーニアス兄さんですので兄さんに。
って、兄さん、ジーニアス兄さん「ささ、どうぞどうぞ」って。
私達元アレイ家のモノにはこんな豪華な物は無縁だったから分からないのは分かるけど、主でしょ。当主でしょ。権限は兄さんに…ん?実家の畑の件もあるし、庭はレナの好きな様にして欲しいって。
単に実家にいた時より広大な庭をどうしたら良いのか分からなくて私に投げて無い?
視線合わせ無い様にする辺り、図星だよね。
それなら私の好きな様にやらせて貰おうかな。
「出来たら端っこに薬草畑を作って欲しいんだよね~。許可貰えるなら庭にある壊れてるガゼボ無料で修理するよ?」
「お前最初からソレが狙いだな?」
「ふっふっふ~だってこんなに広くてとても状態の良い肥沃な土なんだもん。手付かずで王都でこの状態なんて稀少だよ?だったら活用すべきでしょ?」
全くとニキ様とレスカ様に呆れられながらも、ニコニコして居るケイン様。
やってくれると言うなら文句は無いけど、うーんどうしよう。
「育成の仕方とかは使用人に教えておくから任せて置いて。それと育ったら買い取るから。いいお小遣いになると思うよ?」
デュシーさんの身の回りのモノとか、赤ちゃんのお洋服とか買えるし~って、ケイン様誘導上手いな!正直私のモノとかは給金貰っていたからあまり心揺さ振られないけど、デュシー姉さんとか赤ちゃんとかの品はカナリ心惹かれます。ええ。
だって姉さん碌な服持って無さそうだったもん。
王都に来る旅路で狩った魔物を現金化し、年数経ってボロボロだった服を中古品を購入したんだよねってディラン兄さん…。
もしかしてディラン兄さんも強い?
「分かりました。でもちゃんと何処から何処まで何を植えるって相談して下さいね?気が付いたら全部薬草園ってのは駄目ですよ?」
「ぎくーっ!それは流石にないよ~」
無いなら何故最初にぎくーって言うのやら。
口に出して言う辺り冗談だと思うけ……ああ、何やら「せめて半分、ああでも景観が良くないか~でも肥沃な土地。それにあの一角、マンドラ…ゴホン」って怖い事言ってるけど!?
もしかしてマンドラゴラですか!?
そんな危険なモノ赤ちゃんが居る屋敷では育てませんっ!寧ろ赤ちゃんが居なくても育てる気はありませんけど。
ケイン様、「えー!」じゃないでしょ。危険すぎるでしょ。
絶対にダメです!
「えええ、アレ凄く高価なのに…」
これ注意しないと本気で植える気だったな。横でニキ様がゲンナリした顔付で居る辺り、昔何かあったんじゃなかろうか。
「今年の俺の誕生日に贈って来たアレかよ…」
割と最近だったことが判明。
ケイン様恐ろしい子っ!
と言うか人の誕生日に不幸になる品を贈るとかって…
ジト~とケイン様を見ると、『ニヒヒ♪』と悪戯が成功した様に笑っている。
「大丈夫だよ、ニキの場合は根をキチンと処理して刈り取って居たじゃないか」
「マンドラゴラって根の部分が貴重なんだろうが」
「葉の部分も貴重な薬だよ~煎じると風邪薬や喉に良い薬になるんだからね。それに良く言ってたじゃないか、喉が痛いって」
「あの時は風邪気味だったからだ」
「なら~丁度良かったじゃない?」
「葉の事知らなかったら意味ないだろうが…」
ガックリと肩を落とすニキ様。
思わず同情してしまうけど、これって確実にケイン様が揶揄って遊んでるんだよね。で、何か魂胆があると。
ケイン様の性格上、絶対何かしらの復讐っぽいんだよね。
「じゃ、今度から僕の館の薬草園になって居る果物類勝手に食べないでね?あれ、食用にもなるけど薬に使う品なんだから。無いと結構困るんだよ?」
「すまなかった、もうしない」
「分かれば宜しい」
…やっぱり。
えっへっへと此方を見て微笑む悪戯っ子の顔付なケイン様。
それに対してガックリと余計に肩を落とすニキ様だった。
どうでも良いけど、誕生日…何時だったのかな。
こう話すって事はとっくに過ぎて居るのだろうけど、ちょっと気に為ってしまう。
知ったからと言って今更どうこうは出来ないんだけどね。
次は閑話になります。
やっと○○が登場します。
本当はもっと早目に出したかったのですが、如何せん攻略対象者じゃ無いために出せず…。
さて、誰でしょう?(笑)
今回小話は御休みです(´・ω・`)




