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今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】  作者: 柚ノ木 碧(活動休止中)
1章 今日も学園はゴタゴタしていますが、私は厨房の仕入れ作業に勤しみつつ鑑賞し、本日も萎えています。
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「レナちゃーん、注文の品が玄関に来たからチェックと書類に記載お願いね」


 今日も今日とて厨房にて、日々の糧を得る為にエッチラオッチラと献身的に働き中。

 ああ今日も元気に業者さんが搬入に来たけど、多分終わったらウチの食堂で特例駆使してデザート食べて行くんだろうなぁ。


 うちの職場の食堂(生徒にはカフェテラスと呼ばれているが、おば様曰く「食堂と厨房よね」との事)は一般の方の入店は学園関係者以外基本お断りしている。理由はお貴族様が学生に多いので、何かしらの面倒事を避ける為だ(時と場合により特例はある)。だけど業者は特別にOKとなって居る。何せ暑い日も寒い日も雨が降って居ても雷が鳴って居ても、重い品をわざわざ運んでくれるのだ、それぐらいは神様だって許可するのさ!と言う校長の粋な鶴の一声で許可となって居る。


 ちなみに時折卒業生達OBが来る場合もあるが、学園関係者込みの場合が多いので御目溢しとしております。一々断るのも面倒だし、何より「懐かしい!」「美味しい」と喜んでくれる元生徒達を咎めるほどおば様達も鬼では無い。むしろ喜々として昔話しに花が咲いて話し込んでしまう程だ。

 勿論サボってませんよ?

 カウンターに取りに来た時や返却しに来た時にちょこっと話すだけだしね。


「はーい」


 元気よく返事をすると、ニコリと厨房奥にいるおば様方の一人が微笑む。

 そして一言。


「重いから気を付けてね」


 ふふふ、ここの厨房のおば様方は気心が知れててとても優しい。

 基本肝っ玉母ちゃんな人が多いしプロなだけあって手厳しい一面もあるけど、素直に付いて行くと喜ばれる事が多い。うん、レナちゃん頑張っちゃうよ。おば様方の笑みは疲れた最中の一種の清涼剤的な憩いなのだ。

 それにおば様方、私にちょっと休憩しておいでって外に出してくれたんだよね。

 この業者のチェックは涼しい玄関で過ごせるから、本来なら火を使って居る為に『灼熱に暑い』厨房からおば様達は出たい筈。だけど今日は朝からずっとてんやわんやとしていたので、時折交代で外に出してくれるのだ。だから今回の業者は私の番って事なんです。


 しっかし今日は暑いなぁ。

 せっせとよく動いて働くから額からつつーと汗が流れて来る。その汗をポケットに入って居るハンカチで拭ってから厨房にある引き戸からペンを取り出し、業者さんが居る扉へと向かう。


 あの件から一ヵ月と10日。

 色々私の周囲で変動があったけど、今日も今日で何とか苦戦しつつも日々元気に働いて過ごして居る。

 例の令嬢であるアメリー・メメントリー準男爵令嬢は郊外のかなり厳しいと評判の『修道院』に行儀見習いと言う謹慎処分を下され、僅か三日で修道院を抜け出そうとしたそうだ。

 だが其処は流石…多分アレス様の計画だったのだろうと私は睨んでいるのだけど、この国の宰相の息が掛かったモノが『偶然』通り掛かり、すぐさま連れ戻されて以前よりかなり厳しい監視が付けられたらしい。

 尚、バーンド家のモノがボランティアという名目で監視の手伝いを行った所、二度と脱走は出来なかったとか。

 何をしたのやら。

 やはりアレス様は既に壊れて居て、ヒロイン役である準メリー(アメリー準男爵令嬢の事。学園内で影で言われている渾名)に執着しているのだろうか。


 しっかしわからないんだよな~…

 ヒロインが修道院に途中で入ってしまうイベントなんてあっただろうか?現実だから違うと言うパターンかなぁ。


 ここ数日ゲーム内容を思い返してみるが、全く心当たりが無い。おまけにあの件から侯爵令嬢であるユリア様に目が合うと優しく微笑まれるんだよねぇ。美人さんに微笑まれるのは役得だから良いのだけど、問題はその婚約者であるユウナレスカ様だ。


 この国の第二王子様でプリン好きな隠れ甘党の王子様。

 あれからユリア様との仲が緩やかに復帰して来ているらしく、私とユリア様が微笑み合って居ると急に割って入って来る。しかも特に用事も無いのに無理やり中途半端に割って入って来るからその度にユリア様に怒られて、子犬の様に項垂れてションボリしてしまう。あれ、きっと尻尾があったら垂れているぞ。想像してしまうとオカシイのでその事をユリア様に報告したら、丁度合間に割って入って来たユウナレスカ様を叱った後、口元を抑えてプルプルして居た。


 きっと想像してしまったんだねユリア様。

 そしてほんっと子犬みたいだよユウナレスカ様。


 お陰で最近ユウナレスカ様の事を影でこっそりと「スカちゃん」って呼んでしまって居たんだけど、おば様方にばれてしまってから厨房全員で「スカ様」って言う渾名を付けられてしまったよ。


 第二王子様なのに「スカ様」。

 うん、ユリア様に対してのみの子犬なスカ様。

 もしくはスカちゃん。


 これも後日ユリア様に伝えたら、「ぷぷ、か、可愛い…」って言って震えてた。

 その日からユウナレスカ様が急に私達に割って入って来てもユリア様が妙に優しくなってしまって、今度は尻尾をフリフリ状態になって上機嫌になるあたり、益々ワンコ!


 おまけに可愛いと愛玩に目覚めた(?)ユリア様。

 実習で作ったカップケーキをユリア様から貰えたと、至極ご満悦で私に何故かユウナレスカ様は得意気に自慢。その後食堂でユリア様と共に食べている所を目撃してしまったんだけど、ほんっと尻尾フリフリ状態で食堂のおば様方まで肩プルプルして震えて笑い、「可愛い」を連発して居たよ。

 良かったねスカちゃん!

 決してこの名前、当人の前では言えないけどね。





 え?先日貴族云々の養子の話があっただろうって?

 ああ、あの話は―…


 長女シドニー、私の姉の妊娠が発覚した事で一時的にお流れになった。

 ニキ様が何故か私の本名を既に知って居て(何時、何故調べたし)、超貧乏な末端貴族の男爵令嬢の三女だって解った途端用務員のお兄さん、この国の国王の弟の息子の五男坊が即座に入学させようとした。だが何故か此方の事情まで知って居たニキ様に止められた。


「ダメだ、今レナを入学させると洩れなくアレイ男爵が口を出し、粘着して搾取しに動く」


「…詳しく」


 そこで話すニキ様って、うわ…我が父親ながらエゲツナイ性格してたんだなって事が判明。

 何故そこまで知ってるかって事を話すニキ様。

 娘の私が知らないことまで知ってるのってどうなの?それだけ親父がアホなんだろうか。うん、アホなんだろうな。

 ニキ様に聞いた所、一時期お父様世代のお貴族様では”愚行”の意味で有名だったみたい。

 そしてやっぱり親父、母様の弱みに付け込んで強引に結婚して男爵の地位を獲得したらしい。らしいってのは違うな、ほぼ確定みたい。だって親父の実家既に没落している。

 結婚する前は辛うじて貴族の末に居たらしいのだけど、借金まみれで二進も三進も行かない状態だったのを同じく貴族の末のかなり末の男爵家の母様の家に目を付け、「結婚してやるから」と強引に…。

 母さん、男見る目無かったと思って居たけど単に悪い男に目を付けられてしまったのね。しかも結婚後父親の実家の借金返済に領土の幾つかを勝手に隣の領土の伯爵に売り付け、足りない分はお金を借りてその返済に二女を宛がったと。

 もうね、色々と救えない。

 借金の代わりの人身御供は我が国では違法ナノデスヨ、知ってましたかクソッタレクソ親父。あ、ついクソ二度付けちゃった。


「二女は当時まだ成人前、立派な法律違反です。しかも結婚するならまだしも妾なのです」


「なんと…」


 二女のデュシーお姉ちゃん踏んだり蹴ったりだろうな。

 私は二女が妾に出されたから今後の自分も同じ道になりそうだったので逃げ出したけど、二女は逃げる間もなく連れ去られてしまった。多分何もわからないままだっただろう。何せウチの女子は全員学を学ばせて貰えなかったから。

 恐らく父が私達が変な知恵を付けるのを毛嫌いしたからだと今なら思う。知らないままで育て、借金の形に差し出す為にしか考えて無かっただろうしね。

 それならそれでもう少し食事の量を増やして女の子らしく育てれば良かったのだろうにね。

 ほんっとダメ過ぎる。


「他国なら幼くして嫁に出すのはあるが、その場合は成人するまで『白い結婚(片方が未成年なら、成人するまで処女・童貞を通す事)』を義務付ける。だが今の話が本当なら無かったのだろうな」


「ええ、私が知って居る限りではそんな事はありませんでした」


「更に妾か。これは発覚させているのか?」


「いえ。何せ国の端っこの端っこ、荒れた地の領土なので、皆其処まで詳しくは知らないのです」


 其処で私は「ん?」となる。

 ニキ様何故詳細に知って居る?

 私がついそんな風に顔に出してしまったのだろう、ニキ様と目が合い、ふわ…と目で笑われた。


 んんん?おおお?

 その笑みは如何いう意味ですか?

 見通してるぜこの野郎って意味なら怖っ!


「我が領土はレナの実家、アレイ家から近いのですよ」


 ほぅほぅ、ってんん、ん~…

 例の二女が妾にとられた伯爵家ばかり幼い頃気にして居たからすっかり頭に無かったけど、確かそこの伯爵家の隣、ウチのアレイ家の領土から王都に向かう途中、ジーニアス兄様と逃げてた時に立ち寄った領土では無いか!


 あの時は逃げるので精いっぱいで余裕が無くて疲れてたから良く街を見て無かったのだけど(お金も無かったし)、ウチのアレイ家の領土よりも儲けているのか市井が活気があった。その時思ったんだよね、露店からとても良い匂いが漂って来て、王都に無事に付いたら絶対に食うに困らない職業に付こう!と。お陰で今こうして学園の食堂に無事勤める事が出来たのだけど。


「おまけにアレイ家の三代程先代にモイスト家の女性が嫁いでいますしね」


 んんん?

 って事はニキ様はウチの遠縁の人って事になるのか。

 あれ、でもウチのクソ親父の事だから知ってたら借金の申し込みとかってあったのでは?


「借金の申し込みはありませんでした。恐らくレナの母上が握りつぶして教えて居ないか、それとも先代が事実を握りつぶしたかのどちらかかと」


 ちなみに知らないって事は無いらしい。

 ウチの母様、なんとニキ様の御実家に結婚前の若かりし頃何度かご挨拶に伺って居たらしい。うわ~初耳だよ。と言うか、それならウチのクソ親父との結婚止めて欲しかったヨ。強引にされたから無理だろうけど。


 それより先程から気にしてるんだけど…


「ニキ様、私に敬語はいりませんよ?」


 一応下っ端の下っ端、超末の男爵三女とはいえ貴族だけど、ニキ様は騎士団団長の息子。長男かどうかは残念ながらゲームの知識を思い出そうとしても思い出せない。多分第二王子の側近&護衛の様な立場だから騎士団の団長からも大事にされているんじゃないかなぁって思って居るんだけど、実力で捥ぎ取ったのかも知れない。


 だって利き腕の筋肉凄い。

 筋肉隆々って言葉がこう言う事かなって思う。勿論利き腕以外も凄いのだと思うけど、今は見えないからね(ニキ様右腕だけ何故か捲ってる)。

 …見えても困るけど。


 何時かおば様方が「ニキちゃん凄いのよ~」って数名ではしゃいで居たのを思い出す。何でも校庭の一角で校庭を慣らす鉄のローラー(百キロは越えてるらしい…)を片手で一人で担いで行ったのを、数十名の女子学生と共に見たのだとか。

 どんな筋力なんだよニキ様。もしかして身体強化魔法使ってる?それとも只の肉体改造で出来る技?ううむ、分からん。


「ああ、そうだな。だが」


 と言って用務員のお兄さんを見る。えーとそう言えば名前…


「フォーカスだ」


 うおぉ!

 私が思って居る事が分かるのですか!あれだ、きっと…


「顔に出てるぞ」


 あ、さいですか。そうですよね。

 …チ。

 人の心の中を読むと言う神がかり的な魔法でも使うのかと思ったのに。


「チってなんだチって」


 用務員のお兄さん、フォーカス様は”今”は爵位が無い為に苗字が無い。本人にそう告げられたけど、何か引っかかるんだよねぇって思ってたら、


「レナ気を付けろよ、フォーカス様は爵位を蹴った変人だからな」


 ぶへっ!

 蹴ったってぇえええ!


「面倒だからいらん」


 おぉぅ、潔い返事きました。


 何でも爵位があれば大好きで"やりたい職業"である用務員が出来んと蹴り飛ばしたのだそうだって、どんだけ用務員のお兄さんしたかったのだ。雑用で大変だろうにって言ったら、


「そこが良い」


 と一言。

 うん、ニキ様すげー顔顰めた。

 きっと心の中は私と同じで「変人め」って思って居るに違いない。

 アレだ、以心伝心?

 …類友とか同類とかだったら嫌だなぁ。


「それにしてもニキはやけにレナの実家、アレイ家に詳しいな」


「毎年手紙を送っても、1度たりとも返事を寄越さないので困って居るからですよ」


 何でも年に二度程、国から街道に出る魔物を狩るのを領土持ちの貴族が討伐する事になっているのだけど、我が家のアレイ家は完全スルーをここ数十年しているらしい…。


 って、おやじぃいいいいいい!

 それ駄目じゃないか!

 きっと親父の事だから、手紙を出す料金が勿体無いとか言う下らない理由で出さないのだろう。確かにウチの実家は辺境だから、料金が通常より掛かる。おまけに何処から手紙を出したら良いのやら。唯一知っているのは通いの商人さん達に心ばかりの代金を払い、隣のロリコン伯爵領から商業ギルドを使って出して貰うと言うこと位だ。何せウチの領には貧乏過ぎて商業ギルドの支店が無いからね…とほほ。


 だから「魔物が出る危険な場所」っていう認識がされているんじゃ!とか思って居たら、


「仕方無しにウチのモイスト家が肩代わりに毎年二度程討伐を行っているのだ。だがな、全く礼も何も言って来ない。どうなっているのかってここ数年うちの者を使って探りに出して居たら、二女が妾に出されたと。全く」


 何でもニキ様のお父様、現領主様で騎士団の団長様、かなり前からアレイ家が貧困しているのを知って居たので婚約の打診を何度も行って居たのだとか。


 って、親父ぃいいいいいいいい!

 それ駄目な奴じゃないか!

 それにもしかしたら我が領の借金が多少は帳消しになったかも知れないのに、極貧具合が多少は改善されたかも知れないのに、何してんだよぉおおお!


「婚約の打診って…」


 あああ、フォーカス様が呆れてるよ!

 私でさえ呆れるよ!

 もしちゃんとアレイ家とモイスト家の婚約が成立出来て居たら、きっと二女のデュシーお姉ちゃんが妾にされるなんて事が回避できたかも知れないのに、あんっのクソ親父めぇえええっ!


「親父が嘆いて居たよ、レナのお母さんは親父の初恋の人だったから尚更みたいだな」


 ぶぶっ!

 衝撃再び!


 ニキ様のお父様、是非初恋の母上の面影のある娘を息子の嫁に欲しかったってショックを受けていたとかって、親父ほんっと何してくれちゃったの…。


「恐らく手紙は「来てない」で通すつもりで捨てたんだろうな」


 フォーカス様恐らくその通りです。きっと借金の申し込みした伯爵様の機嫌を損ねるのを恐れたんじゃないかと思います。

 伯爵の跡取り息子、ただのロリコンだけどな。


「でしょうね。でもこれで踏ん切りがついたのでしょう。今年から討伐するのを止める事にしたようです。何度も手紙を出しても返事もありませんし、いい機会でしょう」


 うわー…実家これで秘境・人外魔境決定だな。

 ってことは…


「オルブロン!」

レナは親父の頭皮を呪った!


 * * *


新しく連載が始まりました。

どうか宜しくお願い致します~。


ブックマーク及び評価をどうか宜しくお願い致します

m(__)m

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