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人々の悲鳴や叫び声、それに合わせて色々なモノの轟音が響き渡る。
女性の助けを求める声。
子供の泣き叫ぶ声。
大の大人の男の悲鳴と怒声。
誰かが逃げろと叫ぶ。
そしてそれらの声とは全く違う声。
「来やがれこの野郎!」
「お前達の相手はコッチだ!」
時折聞こえるのは自警団やら傭兵やら冒険者達の勇ましい声。
対照的に市民達はパニックを起こしているらしく、それらを諫めて迅速に逃がす騎士団の声が聞えて来る。そして騎士団の後方に控えているのは魔術師団だろうか?魔術的な文様を纏ったものやら護符を持つもの、杖を翳す者もいる。
多少記憶と違って居る気がするが、何処かで見た光景だ。
何処で。
乙女ゲーム?
違う。
これは…
何人もの冒険者が、傭兵が、騎士達が逃げ遅れた人々を逃しつつ、混戦状態で戦って居る。
上空からのワイバーンの群れには弓兵達が射貫いたり、魔術師達が魔術か魔法を駆使して撃退し、羽根の無く飛び立つ事が出来ない陸上を蠢く魔物達は剣や武器を手に取った人々が相手をする。
そうだ、何故忘れて居たのだろう。
この光景はセピア色の光景では無いか。
「レナ?」
ジーニアス兄さんの声が聞える。
でもさ。
この色合いだった時に見たモノを思い出す。
【あの時、”私は”何を見た?】
騎士団らしき装備を身に付けた人は町民を逃しつつ迫る魔物を切り、更に迫る魔物を傭兵や冒険者らしき人々が交じり混戦状態と化す。
その最中、見知った色彩の人物が私の視線の端を突っ走って行く。
あの色は…
【確か――…】
あの時見た光景そのままの状態が視界に入る。
セピア色から現実の色彩に戻った色は酷く砂埃と血潮が舞う色合いで、混戦し逃げ纏う人々は決死の表情で走って行く。
その人々の方向とは真逆に逆らう様に走る少女、アメリー・メメントリー準男爵令嬢。
乙女ゲームの世界ではヒロイン、この世界ではちょっと暴走気味な彼女が庇う様に一人の倒れている少年、先程豪華な馬車で最後に乗り付けて来た隣国の王子の元へ駆け付ける。
少年の名はアレクサ・ロー・ウィックロー。
ジン・アメイジング様の従弟で乙女ゲームの攻略対象者の一人であり、この少年は選択により死亡率が非常に高い一人でもある。
乙女ゲームに置いてヒロインが狂気に陥り狂ったアレス・バーンド様に殺される率が高い様に、この隣国の王子であるアレクサ・ロー・ウィックロー様も陰謀や国家、はたまた肉親や親族から殺される率が非常に高い。何せ生まれが非常に複雑であり、隣国の王子でありながら隣国の王家によって隠されて居る血筋の問題があり、そのお陰で未だに王太子として名乗れて居ない。
国王の息子がアレクサ様一人しか居ないのにも関わらずなのに。
…勿論乙女ゲームでの知識だけど。
現実は私は其処まで勉強が追い付いて居ないので、残念ながら無知状態なので知らないんだよね。
この世界は本が高価なせいで隣国の事とかまで勉強するのも追い付いて居ないし、実家が幾ら貴族とは言え貧乏でまともな教育もさせて貰って居ないからこの世界の常識は兎も角、貴族の常識等ゼロ。全く無い状態から学ばねば為らず、正直前世込みで一般人だった私にはとてもじゃないけど色々キツイ。話し方から始まって、挨拶の仕方や食事の作法に貴族の子女の服装の作法、トドメは前世も現在も一度もしたことも無いダンス。
何もかも知識が足り無さ過ぎる。
そんなこの世界での私の事情はその辺の棚にでも放り投げて置いて、今は目の端に居るアレクサ・ロー・ウィックロー様の事だ。
彼は幾多ある殺され方の一つとして、乙女ゲームでの私にとって恐怖の対象者でもあるアレス・バーンド様にも『当然』の様に殺される。
そのルートも多彩を極めており、ほぼ幾多あるルートの全滅を狙って居るのか?と言う位にアレクサ・ロー・ウィックロー様を攻略対象として選ぶと、諸々の理由があるのかも知れないがアレス様が全てに立ち塞がる。ルートにより時折掠った程度の事もあるが、アレス様はこの隣国の王子であるアレクサ様に因縁があるらしい。
ゲーム中では理由はハッキリと出て居なかったが、ネットの乙女ゲームのファン、一部の腐女子や腐婦人以外ではもしかしたら血縁関係があるのでは無いだろうか?と言う噂があった。
何せキャラクターの絵が細部が違うのだが、目がこの二人は余りにも似ているからだ。
勿論絵師の人が其処まで気にして居なかったのかも知れないのだけど、それにしては…と言う位に似ているんだよね。それにアレス様の父親の宰相が昔はかなりの女好きであったと言う設定が公式に残っており、何故公式に書かれているのかとファンの皆で勘ぐったもの。
最も“勘ぐる様に、煽る様に”書いたのだと言うのがファンの間では通説と言われるぐらい思われて居たけれど。
どうでも良いけどこの乙女ゲーム、呆れる位デッド・オア・アライブ状態多過ぎだよねぇ。
アレス様とこのアレクサ様。
片方は壊れ攻略対象者で、もう一人は死亡率がやたら高い王子。
お陰でファンの間では別名デッド・オア・アライブ乙女ゲームとかって皮肉があったけど。
「ダメ!アレクサ様は死なせないっ!」
「え?」
少しの間考え事に気を取られていた私は目の前の光景に唖然とする。
アメリー、もとい準メリーが倒れているアレクサ様を襲おうとした魔物を『氷魔法』で一瞬のうちに凍らせ、持って居た武器(何故か金属バットに見えるんだけど…)で殴って粉砕。
って、力技かいっ!
それで良いのかヒロイン!?
意外と脳筋なの?
見た目は可憐な乙女にみえるのにっ!
そして気絶して居るらしいアレクサ様の前に仁王立ちって、それって乙女としてどーよっ
スカート履いてるんだからせめて足、足閉じようよ!
突っ立ってるからアレクサ様がもしうっかり目を覚ましたら、うっかり頭を動かすとヒロインの下着見えちゃうんだよ!
それでなくても可憐に見える少女がバット振り翳してどっしり構えているって、何だか異常な光景なのにっ
ひと昔前の不良少女かっ!
そして魔力の調整が出来て居ないのか、次々と準メリーの周囲が徐々に凍って行って…
うげっ
地面が見事なアイスバーン状態になり、何処のスケート場だよっ!って言うぐらい見事な程にツルンツルンな地面が出来上がり、地面を行く人々所か魔物まで一斉に滑って転んでって大変な状態になってるんだけどっ!
「…なんだアレは」
ジーニアス兄さんが目を点にしているよ!
「アイツ随分と効率の悪い戦い方だな」
って、何時の間にか来ていたニキ様が呆れた声を出している。
どうでも良いけどニキ様、然り気無さを装おって居るようですけどちょっと近いです。
ジーニアス兄さんがムッとした顔で蹴り入れようと格好だけの牽制をしたので少し離れたけど、戦場で何してるんですかっ!
と言うか相手は上司の息子でしょ兄さんっ!
「準男爵令嬢だからね。学園に入るまで戦い方は習って無かったんじゃないかな?おまけに謹慎期間も結構長かったから授業もマトモに受けて居ないだろうし、尚更だねぇ~」
ケイン様まで何時の間にか来ていたけど、ねぇ、手に持って居るのは一体なに?
「え、これ?知りたい?」ってニコニコしてるけど、絵にするとモザイク処理されてしまう程の絵面の内臓っぽいモノは…
「うん、珍しい魔物が居たから問答無用で貰っちゃった♪」
そんな嬉しそうに微笑んで言われても、正直怖いダケデス。
出来たら隠して下さい、それを私の目の前からっ!
「え~」なんて言いつつ、「これ良い薬が作れるんだよ~」と言いつつ、何処からか出した袋にソレ(多分心臓…)を入れ懐にしまった。
…手は血みどろだけどね。
そんな最中、準メリーは手にした野球のバットみたいな武器を「キャーギャー」とか「イヤー!側に来ないでぇぇ!」「ギャアアア!」とか言いつつ、凍らせては振り回して粉砕を繰り返している。
お陰で周囲は地面が凍って居るから救出に行きたくても行けないし、逆に接近しようとすると足元から凍って行くから傍に行きたくても行けない。
正しく八方塞がりである。
「魔物どころか味方までかよ、見境ねーな」
ニキ様が言う通り、既に何体かの魔物を粉砕させている状態ではあるが、武器を滅茶苦茶に振り回しているお陰で体力が持たなくなって来ているのか、既に息が上がって来ている。
「初期魔法も使えないのか?」
「案外テンパっているのかも~?」
ニキ様とケイン様が言葉ではのほほんと会話しているが、一歩足を踏み出すと凍る為にこれ以上駆け付ける事が出来ずに二の足を踏んでいる。一応何度か地面を凍らすのを止めろとニキ様が声を掛けているのだけど、準メリーの耳には届いて居ないのか全く改善されない。
「それにしてもオカシイな」
「だよね~」
うん、確かにおかしい。
明らかに魔物達の動きが妙だ。
私達に幾ら『魔物除けの薬』が掛けられているからとしてもこの状況は変だと思う。
先程から周囲に居る魔物達は気絶して居る少年、アレクサ様にばかり向かって行く。
正直此方には見向きもしないのは一体どういう事なのだろうか?
「もしかして倒れている奴に『魔物除けの薬』とは逆の作用のモノが掛かって居るんじゃないか?」
「え?」
幾ら何でもそれは無い―…と思ったけど、彼アレクサ・ロー・ウィックロー様の乙女ゲームの諸々の設定を思い出すと違うとは否定出来ない。
先程の軍人が隣国の王子が乗って居る馬車を投げつけた事も合わせると、色々とオカシイ気がする。
「…成程な。そう考えると納得出来るな」
ジーニアス兄さんが私が何時の間にか話して居た独り言に納得し、頷いて居る。
ジーニアス兄さんが納得してしまうぐらいに、普段から隣国の王子はヤバイ事が軒並みあるって事なのだろうか?
ようやくアレクサ様の名前を登場させる事が出来ました。攻略対象者、此れであと一名名前が出せれば…!
そして、実は脳筋気味なヒロイン←
次も宜しくー!と思って頂けたら、ブックマーク及び評価をどうか宜しくお願い致します
m(__)m
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領民A「…」
領民G「おやどうした、こんな所で突っ立って」
領民A「いや、気のせいか今領主が御機嫌に鼻歌歌いながら通って行って。(´-ω-`;)目の錯覚かと…」
領民G「…」
領民A「G?」
領民G「それはうむ、きっと錯覚じゃ」
領民A「Gもそう思うかの?」
領民G「そうじゃ。さもなくば恐ろしい白昼夢じゃ」
領民A「白昼夢…だとぉ」
領民G「そうじゃそうじゃ、ついでに何か変なもんは見なかったかの?」
領民A「変なもん…?そう言えば、男の足が逆さまであった様な気がする…」
領民G「白昼夢じゃな」
領民A「そ、そうか…」
領民G「(まさかすぐ其処で、領主が逆立ちしながら鼻歌歌ってる等領主の尊厳の為に教えられん…)」
領主「…」
長男「親父、それ…」
領主「罰ゲームだ」
長男「"また"Gに負けたのか」
領主「ぐぐ、つ、次こそ…」
長男「そうか…(一度も勝てた事無い癖に)で、今日の勝負は?」
領主「腕相撲」
長男「…まあ頑張れ(それ、Gの一番得意な奴。Gも容赦無いな)」
小話になるとノホホンとしてるのは何故だろう。




