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「開門ー!」
赤い狼煙が上がってから数分後、突如響いた声に皆が大慌てで王都の門の中へと我先にと走って行く。
緊急事態故に検問はもうしていないらしく、大きく王都の門を開いた左右横に数人の門番と王都騎士団っぽいけど着ている衣装が違う人の姿が見られる。
「あ~アレ、やっぱりレスカに仕えて居る騎士達だね」
よく見ると早朝お風呂に行った時に居た護衛さんの姿が何人か混ざって居る。
「彼らはレスカに忠誠を誓った騎士だな。アイツ、少しは腕上げたか?」
何でもニキ様や騎士団長が時折混ざって訓練をしているらしい。
「それじゃ確りと捕まって居て下さいよ」
馬車内部は特に捕まる所は無いのだけど、気持ち扉が開かない様に抑える形で鍵が掛かって居るドアに捕まって居る様にした。
王都内部に馬車ごと入って行く事は困難になっており、皆解って居るのか大通りや中の道を塞ぐように何台もの馬車を乗り捨てる。門前は急遽出来た馬車のバリケードにより、半月型に塞き止める形に出来上がった。そんな最中、私達の馬車が一番最後に道を塞ぐように馬車を止める。
「ご協力感謝致します!」
と言う声が聞え、王都の騎士達が此方に敬礼をして来る。
そしてそんな彼等の前、門の周囲を取り囲むように冒険者の格好をした―…各種様々な防具や武器を手に持った『冒険者』風の人々が前線に並び、ついで同じ防具だが手にした武器が槍や斧に手甲等と言った様々な者達が並ぶ。
彼等は皆、決死の覚悟をしている様な表情で並んで居る。
レナ達は知らないが、冒険者の皆は知って居る。最前列に冒険者の者達が並ぶ意味を。訓練されて居ないから団体戦が出来ない為、個の戦闘もしくは組んで居るチーム毎にしか戦闘経験はない。そして冒険者ランクが低ければ低い程、武器装備が貧弱の為に死に直面している事を。
実際この前線に並んで居る冒険者達の格好は様々で、高ランクの者達があえて低ランクの者達には後ろに下がる様に指示している。
それでも納得をしない低ランクの冒険者達にはこう呼び掛けているのがレナ達にも聞こえて来る。
「使い捨てにはしたくないんだ!」
「出来たら生き延びてくれっ!」
実際一部の貴族達には冒険者は死んでもどうでも良いと思って居るのが居るらしく、後方にいる騎士団とは違う装備をし、偉そうに踏ん反り返っている者が怒鳴り声を撒き散らしている。
「いいか冒険者のクズ共!お前たちと違い、高貴な貴族の血が入っている俺様を守れ!」
とか喚いて居る馬鹿がいる。
「レナちゃん、あの大声出して喚いてイッチャッテルのが軍ね」
「あのアホゥ…」
「いや、軍があの馬鹿ってだけじゃない、かな~多分、うんたぶん?」
三者三様のコメントが来たけど、恐らく似たり寄ったりなんだろうなぁ。ケイン様が「多分一部はまとも、かも?」とか小首を傾げて居る。
何でもこの国の軍は戦争をしなくなって平和になった途端、どんどん質が悪化して行ってのだとか。お陰で最近は軍=高慢な貴族が所属して居るらしく、規模縮小&予算縮小の憂いを得て居るらしく、益々所属している貴族が捻くれていって居るのだとか。
「それでも名誉回復しようと出て来るだけはマシね」
モニカ様が呆れた様に見詰めながら吐息を吐く。
見渡す限り前線には軍隊はここだけしか居ないらしく、モニカ様が「やっぱり他の軍人は来なかったか…」と呟いて居る。
「大方後方に少しだけ添えられてるか、使い捨てで急遽雇った俄か軍人か新人しか出て来ないだろうよ」
等とニキ様まで呟いて居る。
「どうでも良いけどほんっと見苦しいわね、一体誰かしら。…あ~なんだ、準男爵の息子じゃないの」
この国の準男爵とは貴族の階級の中では一番下。しかも功績を上げた者等が多いが基本一般人となんら変わらないし、準男爵の子は爵位を継げない。つまり一代限りの貴族なのである。
「何が貴族だ、一般人じゃないの。嘘付いちゃってさ」
「大方このスタンピードで功績上げて、何とか準男爵かもしくは男爵に爵位を上げようと思って居るんだろうね~」
「無理だろうな」
それとは対照的なのが傭兵ギルドの者と騎士団達だ。
傭兵ギルドの人々は皆同じバッチを身に付け、ギャンギャン騒いで居る軍の方を一瞥して無視を決め込んでいるらしく、何事も無かった様にして居る。
そして最後、殿になっているのが騎士団の者達だ。
騎士団は全員規格が統一した鞘に差した長剣を腰に身に付け、盾を手に持ち同じ鎧を着て居る。
その騎士団の者達はバリケードの前や道の前に街を守る様に数十名ずつ配置され、また門前にも覚悟を決めて並んで居る冒険者の人達の背後に備えて居る。
ぐるっと周囲を見て見るが、そこには兄であるジーニアスの姿は無い。
街の中に配置されて居るのだろうか、それともまだ編成されて居ないのだろうか。
更にレナは周囲を見るが、慌てて逃げていく人々の中に乳飲み子を抱えた人や探している姉であるデュシーの姿は無い。
「そろそろいいか!?」
列の最後に入って行ったレナ達の馬車以後は誰も居ない事を確認する様に、門番や騎士団に冒険者達の者達をぐるっと確認する様に見詰めてから門の上に配置されている弓兵達の方を見て―…
「待て!誰か来ている!」
一人の弓兵が大声で門を閉じるのに待ったを掛ける。
「何だとっ早く閉めないと」
「そうだ早く閉めろ!」
「馬車だ!」
「待て!あの馬車は…っ!入れないと問題になるぞ!」
騒がしくなった門前を後方に見詰め、急な設えで馬車で作ったバリケードから先、逃げ出す者達がパニックを起こしている為に道が塞がれており、前に進めなくなった。
その為近場の民家に逃げ込む者や屋根に登ろうとする者達が出始め、レナ達は最後だった事もあり、急遽空き家に逃げ込んだ。
とは言えこの空き家、かなりのボロで扉も一応閉めたが魔物が簡単に突破出来てしまう程に脆く、心許無い。また窓にはガラスが嵌って無く、グラシアさんの提案で皆で二階のベランダから屋根へと登ることにした。
「あの馬車、かなり高位の貴族の紋章が描いてあるわね~」
屋根の上から身を乗り出しそうな程に前のめりになっているモニカ様は何度か唸っている。
「あの模様、もしかして隣国の王家じゃね?」
「げげっそれ本気でヤバイじゃないの!」
隣国って確か―…
ジン・アメイジング様の実家がある国だよね?
えーと、ウィックローだったっけ?
ん?ウィックロー?
「ちょっと~其処の魔術師!てか部下!」
何だかモニカ様が声を掛けると「ひゃい!」って悲鳴みたいな声が上がったけど。
部下に恐れられてないモニカ様?
「あの馬車隣国のウィックローのよ!しかも王家!入れないと国際問題に発展するわ!」
「で、で、でもっ私だと権限がありませ「私の名前を出して入れさせなさい!」ひゃいぃっ!」
入れる入れないで揉めていた門前がモニカ様の声が聞えたのか、慌てて門を開いている。と言うかね、門番にまで「ひぃい」って言われている辺り、何をしたのモニカ様?
「モニカ様、これは一体どういう事でしょうか?」
等とグラシアさんの訝しむ声が聞えて来るけど、モニカ様は相変わらずスルーだ。
「後程聞きませんと行けませんね、ええ、勿論身体強化を掛けて御身体に」
ぶっ。
こわーっ!
グラシアさんボキボキと指を慣らしている辺り、コワイヨッ。
オカシイ、魔物が来ていて皆怖がっていた筈なのに、変な所で恐怖の塊が居るからちょっと心に余裕が出て来たよ!
「来たぞーっ!」
どっちが!?とグラシアさん達に向けて居た視線を慌てて門前に向けると、門の上に居る魔術師達が一斉に魔法をぶっぱなし始めると同時に、一台の装飾は兎も角如何にもな王家の文様を施した馬車が門を走り抜け、その後大慌てで門を閉めようとした途端、数匹の大型の魔物が突進し、門を塞いだ途端小型の足が速いイヌ科の魔物が突進して来た!
「げっ」
「閉めろー!」
一気に門前が混戦の様子に様変わりし、一斉に冒険者達や傭兵達が乱戦状態になる。
「ええい!まだ門が閉じぬかーっ!」
後方から先程の軍人の声が聞え、その途端ドンッと言う音が聞え―…
「ありえね~…」
「うわぁ~」
ニキ様ケイン様の見る先、門その物に先程叫んだ軍人が数名の部下を使って身体強化かな?を使って一台の馬車を投げ飛ばした。
しかも門の中央に。
ってそれじゃ門が閉められないじゃないの!
案の定門は途中でつっかえる事になり、半開きとなっている。
確かにその門は大型の魔物が入って来れなくは為ったが、恐らくは時間の問題だろう。
それに先程投げ飛ばされたその馬車は、先程大慌てで入って来た隣国の『王家』の紋章が入った馬車で…
何してるのーっ!!
「あれ庇えねーわ」
「死刑だねぇ」
だよね。
しかも中に数名の人がまだ入ってい…え?
あれ、ウィックロー王国って確か攻略対象者であるジン・アメイジング様の祖国だけど、同時にもう一人の攻略対象者であるウィックロー国王太子、アレクサ・ロー・ウィックロー様…
「げえええええっ!?人が入ってる!その馬車の中に人が入って居るよっ!」
何だって!?と私の叫びが聞こえたのか、慌てて冒険者か傭兵らしき人が馬車の扉を開くと、一人の豪華な服装の少年が転がり落ちて来る。
「このままじゃいけません!」
一旦此方を振り向くと、男装の麗人であるカミーユさんがメイドさんにグラシアさんの方を向き、次にモニカ様の方を向く。すると何も言わずにモニカ様は頷き、カミーユさんはそのまま屋根から颯爽と飛び降り戦火へと突っ込んで行った。
恐らくあの恐らく王家の関係者のような服装の少年を救うためだろう。
「軍のあほうめ」
誰が呟いたのか分からないけど、恐らくこの件が発覚すると更に軍に所属している人の肩身が狭くなるだろうし、あの人達は断罪されるだろう。部下の人達は上司に逆らえないという事で多少罪が軽くなるだろうけど、指示した人は無理だろうなぁ。
「さて、皆さんは此方へ」
今の所は地上のみ魔物が溢れて来ているが、遥か彼方から飛行タイプの魔物達が此方へ向かって来ているのか微かに見える。
数はあまり多くなさそうだが、もし飛龍の様なタイプが居たら厄介だ。
屋根を伝って移動する。すると三軒目で少しマシな建物が見えて来た。
「一先ずここにしましょう」
中は誰も居ないし、品も無い。
どうやら空き家の様な気がする。
それにしても王都なのにこんなに空き家が多くて良いのだろうか?と思って居たら、一階部分が店舗で二階が空き家となっているアパートメントらしい。
「うーんちょっと心配だから、ドア付近簡単にバリケード作っとくよ~」
ケイン様がドアを開けて一目見て判断し、ドア付近に何か小さな粒?みたいな物を撒くと次々に発芽し、蔦が生い茂ってドアに絡まっていく。
「相変わらず見事だな」
「へへへ、まぁ僕戦闘だとあまり役に立たないしね~」
それ、全面的に否定させて貰っていいでしょうか?
少なくとも牽制といって盗賊団相手に風魔法ぶっぱなした人が役に立てない筈がないよね。
案の定嘘つけとニキ様に小突かれているケイン様、それとは別にグラシアさんが窓辺により下を覗き見ている。そしてメイドさんが私達が降りて来た窓辺に移動する。
ちなみにモニカ様は腕を組んで部屋の中央に立ち尽くしている。
「不味いわねぇ…」
この部屋からでも聞こえて来る人々の悲鳴や嬌声に走る声や音。
「正直此処では大型の魔物が来たら持ちませんね」
「そうよね…」
「僕の蔦は火に弱いからね。おまけに引き千切られたら持たないかな」
「ニキ」
「俺のは土だからな、ケインの魔法とは相性が良いが万能とは言わないな」
「レナちゃんは?」
属性の事だろうか?
「ええ」と頷かれたので困惑する。
正直『身体強化能力』と『魔力の吸い取り』、この二つしか私には無いし属性といった観念はこの二つからは分からない。
「身体強化と吸い取り、うーん無属性かしら…とすると無理かしらね」
何が?と思ったら、
「伏せて!」
窓から大きな、翼を合わせると三メートルの鳥の様な魔物が突っ込んで来た!
腰、誰か復活の呪文を…
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m(__)m




