19
「お早う御座います。皆様良く眠れましたか?」
グラシアさんがそうニッコリと微笑む。
だがその手が血塗れていて。
あらやだって位に惨劇が周辺に散らばって居た。
どうしてこうなったし。
翌朝。
起きると神妙な顔付でモニカ様が1枚の手紙を読んでおり、皆が起きるとフォーカスさんが戻るのを待たずに朝食を取らず早々に宿を出た。その後街の屋台に赴いて朝食を取り、ついでに幾つかの食料を確保してから門番が待って居る場所へ出向いた。
其処には浮かべた笑みを隠そうとしてるのか、妙な顔付き…笑みを浮かべているが目だけはイヤらしく笑って居る、70人近い人数の門番達。
盗賊団に縄を掛けて連れ帰るだけにしては妙に多い人数。
更に数人門番って言うより盗賊って言った方が良い風体の輩が居るんだけど、その者達があからさまにモニカ様をジロジロみたり、私を(主に胸部)を見たりして不快極まりない。
「明らかに」
「だね~」
ニキ様とケイン様の顔も不愉快を現している。
そんな最中、門番達が乗った数台の馬車を案内しながらも馬車を走らせて行く。
「あんな不快な視線で見られる等王宮以来ですわ」
うへ、モニカ様王宮でそんな目で見られているの?どんだけ王宮って人外魔境なんだよ。
「違う、モニカおば「お姉さま」…モニカお姉さまの場合、独身ってのが問題なんだ。おまけに騎士団団長の妹で魔術師団の副団長だからな。地位と権力が欲しい強欲な貴族達が狙うのさ」
うえ。
何て言うかお疲れ様です。
と言うかニキ様の言葉を遮る辺り、おば様って言われたく無いんですね。わかります。
「あんな人の力と地位と身体と顔しか見て無い、強欲で実力の伴って居ない中身の無い男なんてまっぴら御免だわ」
そう言って踏ん反り返るモニカ様にニキ様はあきれ顔だ。
確かに私もそう言った男性とはご遠慮したいです。ええ、プラスロリコンなら是非蹴りを入れたい程に。
でも貴族の結婚って家同士の利益云々が絡んで来る筈なのに、モニカ様やニキ様にはそんな感じが見受けられない。
以前ユリア様が「レスカの忠臣予定の人達の中には、私達貴族にしては珍しい自由恋愛主義な方が居るのですわ」と言って居た。その時の眼差しがとても羨ましそうで。でもその後に「でもそれですと私、レスカの婚約者には為れませんから今のままが良いですし、私今とても幸せですわ」と眩しい笑顔を浮かべて笑っていた。
その時ユリア様の背後から"こっそりとストーカー"(…。)していた某第二王子の顔が真っ赤に染まって湯気が出て居るのを見て、ユリアに見られ無い様に引きつった笑いしか浮かべられなかった。
ノロケ半端無い!
そしてユウナレスカ様、悶えて地面に踞るのは王子としてどうなんだ?と言うか、あんまりもんどりうってると、ユリア様に気が付かれるんじゃない?もしかして気が付いてるかも知れないけども。
相変わらずユリア様に対してチョロヒーロー過ぎる。
と思ったのはまあ…仕方がないよね?
「そんなだからドコゾのアホ伯爵に「ふん、行かず後家か。第二夫人か妾に貰ってやるから優しい俺に感謝しろ」なんて言われるんですよ」
うわ~何それ痛い人だなぁって、何か聞いたような台詞な様な。
「あの頭の中身が無いゲシュウ・ロドリゲスのクソ男ですわね。ほんっと、陛下の御前で無ければその場で火柱にしてやりましたのに…残念でなりませんわ」
やっぱり。
あのゲシュウ次期伯爵、方々で尻に火を付けて居ないか?
そのうち爆発しちゃうんじゃないの?しかも物理的に。いやこの場合は魔法的に?
「やっとけば良かったのに。そうすればレナ達がこんなに苦しむ事も無かった筈だ」
「そうね、ほんっとやっとけば良かったわ。でも今は良い材料が揃いつつあるからね、合法的に始末出来るわ。ふふ、次会ったら問答無用で焼き付けてやる」
うん、やっぱり魔法的に付けちゃってるね。
でもその前に、
「その際には一発殴らせて下さい」
あら?って顔されたけど、でもデュシー姉さんにされた事を思えばこれぐらいはしても良い筈。
いえ、寧ろさせて下さい。
「ふふ、なら最高に良い舞台に仕上げて見せるからね?」
そう言って「待っててね」と言われて、実にチャーミングなウインクを一つ貰ってしまった。
よし、王都に戻ったら強化魔法の訓練もっとやらないとね!
そうして昨日の盗賊が埋められている箇所に到着すると、予想通りに門番達は本性を現したのだけど、隠れて潜んでいたグラシアさんと応援に駆け付けていた傭兵ギルド所属の人達があっという間に制圧成功させた。
そして、冒頭に戻る。
「お早う御座います。良く眠れましたか?」
グラシアさんがそうニッコリと微笑む。
だがその手が血塗れていて。
あらやだって位に惨劇が周辺に散らばって居た。
どうしてこうなったし。
「ひ、ひぃぃぃ」
今し方魔法で眠らされていた埋もれている盗賊団のお頭らしき人の頭部を問答無用でボコボコにし、周囲に血を撒き散らせた(…。)犯人であるグラシアさん。そのグラシアさんは血飛沫を頬に張り付けながらも爽やかな笑顔を顔面に貼り付け、
「さて、洗いざらい吐いて頂きましょうか。何、黙って居るのは別に構いませんが、私に甚振られて貴方の命が吹き飛ぶだけですので。さ、30秒以内に吐いて下さいね?さもなくば…」
あ。これ見たらアカン奴だ。
咄嗟に視線を外して背を向けると、誰かに抱き抱えられた。
おや、うん?
「見るな」
あ、はい。
うーん耳も塞がれてしまったので聞き取り難いのですが、微かに「ぐあー」とか「ぎゃあー」とか悲痛な叫び声が聞こえて来ます。と、同時に「おが、ちゃ…たしゅけ…」これって"お母ちゃん助けて"ってこと?グ、グラシアさーんっ一体どんな…あ~ニキ様「聞くな」って耳元で言うの止めて貰えませんかね?何だか鳥肌が立っちゃうんですけど。それでなくてもイヤに色気があるイケメンボイスで背筋がゾクゾクしちゃうのにっ!
「レナ…」
って、ちょっと、ちょっと~。
さっきよりギュッと力込めて抱き締めないで欲しいっ!
ぐ、ぐるし…
「ニキやばいよ力抜いて!レナちゃんが沈む~!」
ケイン様の声と言うか悲鳴?が聞こえた途端、意識が飛んだみたいです。
目が覚めた途端、今回私の意識が刈り取られた諸悪の権現であるニキ様の顔が目の前に在ったので、問答無用で撲…もとい一発殴り倒した。
ドゥッと倒れ伏すニキ様を横目に、周囲をキョロキョロと見るとどうやらココは馬車の中らしく、メイドさんが「あらあらまぁまぁ」と苦笑して居る。
それで良いのかモイスト家のメイドさん。等と一瞬思ったが、どうやら先程の事を見ていたらしいメイドさんが、「坊ちゃんが悪いのですよ」とニキ様を咎めている。
「いて~…今のは効いた」
アイタタタと殴られた箇所である左頬を摩っている所を横目で睨み付ける。
するとニキ様は肩を竦め、
「悪かったよ」
ほんとーにそう思って居ます?ってぐらい今は照れた仕草で横を向いている人を睨み付けていると、
「レナちゃん気が付いたみたいだね~大丈夫?」
馬車の扉が開いた途端、ガスッボスッと言う音と共にニキ様が馬車の床に潰れ…え?
ケイン様の足がニキ様の背中にって、これって完全に蹴り入れてません!?
「あっはっはーニキったらこんなトコに居たの~?床だと思って思いっきり踏ん付けちゃった~」
等と言いつつゲシゲシと…
これって踏ん付けたと言うより確実に蹴り付けたのでは無いの!?
「ケインてめえっ!」
「あっはっは~ニキの背中真っ黒~♪」
「おめーのせいだろー!」
「何言ってるの、抜け駆けした癖に。自業自得でしょ~」
「な、な、何言って」
二人で喧々囂々と喚いた後、ワーワー言いながら馬車の外へ飛び出して行ってしまった二人。
ええ~と、これは一体どうしたら。
「モテモテですね~」ってお気軽な声がメイドさんから聞こえて来るけど、そういう問題なのこれは。何処の三流青春映画だよ。
「あら、目が覚めた?」
騒いで居る攻略対象者二名が元気に表で走り回って居る事から、外のグラシアさんの件は済んだと見越して馬車から表に顔だけを出して見たら、直ぐ近くにモニカ様が数名の…傭兵ギルドの人かな?と話し込んでいた。
「あ、はい。何だかすいません」
「いいえ、ウチのニキが悪かったわね」
何だかクスクス笑われている気がして気まずいので、見当たらないグラシアさんの姿を探す。だがどうしても見当たらな…いや、何だか血痕が草原の中に続いて居るのですが、もしかしてこの先に居るのではナイデショウカ?
「グラシアはあの先よ」
あ、やっぱり。
血痕が続いてる先の草木がやけに動いてますものね。
で、何をしているので?
「ん~それはご想像に任せるって事で」
…。
も、もしかして埋めてる?
死体…あ、うん。いや、良いです話さなくても。
あーあー聞こえないキコエナイ。
「いや、あれは向こう側に川が流れてて、先程の拷問で血塗れた部分を洗って居るだけだぞ」
…傭兵ギルドの皆さん、真実を有難う。
そしてグラシアさん、見掛けに寄らず容赦無いのね。
* * *
「どうやら昨晩話して居た事は『ほぼ全部』だったみたいだね~」
のほほんと話すケイン様。そして若干不機嫌な面持ちのニキ様が私と対面する形で馬車に座って居る。
あの後、盗賊団とそれに加担していた門番の人達全員を縛り上げ、応援に駆け付けてくれた傭兵ギルドの皆さんに申し訳無いと思いつつも丸投げ(?)し、只今結果を聞いております。
御者をしているグラシアさんがココに居ない為に一部割愛としている様ですが、それはそれ、かえって居ない方が良いのかも知れません。いやだって、何だか怖い事言いそうだし。主に拷問内容と言う残虐方面で。
「ほぼ全部と言うと…」
「ここの領主がロドリゲス家の子飼いで、盗賊団と裏で繋がって居て~で、今回の僕達への襲撃は逃げ出した妾のデュシーさんが馬車の中に居ると思われて襲撃して来たらしいんだよね。何せつい先日までデュシーさんがモイスト領に居たって言う情報を掴んだみたいでさ~、そんな時にモイスト領から一般の馬車が一つだけ急いで走って行ったから怪しまれたみたいでねぇ~、だから盗賊団が襲って来たと。もし馬車の中にデュシーさんが居なくても、この国では違法だけど周辺地域に僕達を奴隷として売り付けようとしてたみたいだねぇ」
「所がどっこい、その馬車に乗ってたのが俺達だったと」
「そそ。で幸いな事に盗賊団と一番密着していた街に僕達が来ちゃったモノだから、奴ら尻尾をやらなにやら一気に出してる状態で大慌てで僕らをどうにかしようとしてたみたいでね~。所詮烏合の衆の寄せ集め集団だからね、そのお陰でグラシアが証拠やら何やらと一晩で集めて来ちゃったんだよね~」
ナニソレ。
漫画でも無い様な顛末にパシパシと瞼を何度も瞬いて驚いて居ると、
「宿の水に睡眠薬入れた奴はどうやら同じ宿に泊まってた冒険者らしくてな、門番の奴らが金で雇ったらしい。後程傭兵ギルドの方で捕縛してくれるようだ」
何でも現在街に睡眠薬盛った冒険者には確りと監視が付いて居て、ココが終了次第捕縛予定だそうで。
しっかし、何から何までまるで狙った様に…ん?
狙った?
誰が?
ガラッと御者側にある小窓を開け、無言の圧力をグラシアさんに掛ける。私達の声聞こえて居たよね?さっきから様子伺って居て、小窓をほんの少し開いたの知ってるんだからね?
…グラシアさん、何故そこで目線を外すかな?ね、ね、ね?
ちゃーんと此方を見てみようか、ねぇねぇ。
「…ロドリゲス家の不穏な空気が立ち込める中、モイスト領から家紋の無い馬車が速度を出して街を出たら、そう思う可能性が高いのは想定内の内の一つかと」
ってソッポ向くのは何故かな~?
と言うか完全に狙ってたでしょ?ねぇねぇ、其処ん所どうなの?
「ニキ様」
「なんだ」
「ケイン様」
「うん?」
「…お二人共思い人は敏い人なのに、コト恋愛方面には鈍い人なのでさぞやご苦労している様ですね」
「「ぶっ」」
その後喧々囂々としてしまった場を呆れた顔付で見詰めるモニカ様、毎度のことなのかスルーしているメイドさん。手綱を慌てて掴んで御者をしているカミーユさん、飄々と場を制してしまったグラシアさんをぐるっと見詰め、私は頭を抱えた。
何だかとっても頭が痛い…
う~ん…(・ω・`)
口調とか気に入らない所があるので、後程修正するかも知れません。
次の更新はリアル事情ですいませんが、来週になります。
6/20後書き追加←
こんなんでも面白いよ!次も宜しく!と思って頂けたら、ブックマーク及び評価をどうか宜しくお願い致します
m(__)m
↓
領民A「何かの~」
領民B「どうした?」
領民A「儂、禿げて来ておらん?」
領民B「いやいや、まだフサフサじゃ…(言えない。昔レッティーナちゃんがふらんしすこざびえる等と呟いた等、口が裂けても言えぬ…)」
*フランシスコ・ザビエル
異世界の宣教師。頭の上の部分がつるんとしている(剃ってる?)のでアレイ領地の一部分(爺さん達限定)のみで有名。勿論レッティーナが原因。
これを呟かれると頭部がヤバイ証拠。
ちなみに領民Aが一番頭部が…。
・活動報告にて報告があり、フランシスコ・ザビエルは例の絵が円形で描かれており、銅像等にある御当人は禿げて無かったそうで。ナンテコッタ、教科書によく河童状態に落書きを描いて居た御気に入りの御仁が…(注意:よいこは真似はしないように)。
御報告有り難う御座いました。
m(__)m




