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「は~ケツがいてぇ…」
「はは、同感」
途中で馬車が休憩の為に道から逸れて停止し、馬達に小川から流れて来る水を飲ませて居るのを横目に見る。王都から出発して既に数時間程、時折こうして休憩を挟んで移動するのだが、向こう側に見える工事夫達が目につく。
「あれは蒸気機関車の線路の工事だったかな?確かモイスト領まで線路通すんだったかな」
私が見てるとケイン様が教えてくれる。
「お~い今日はこの先の村で止まるってさ。次は明日の朝天候次第だけど9時に出立だそうだ」
ニキ様が御者から聞き出して私達に教えてくれる。
「村か、泊まれるかな」
「一応宿泊所はあるらしいがな、もし泊まれなかったら村が提供してくれる土地でテントで宿泊らしいな」
「へー」
以前テントは散々お世話になったなぁ。
実家の領地から出て来たばかりの貧乏庶民だと殆ど宿泊先に等に泊まれなかったから、兄と二人でテントを購入して凌いでいたっけ。…親父が兄にギリギリの資金しか出して居なかったから、当然無理の結果なんだけどね。
食事も野生の動物を途中で狩ったり、薬草や自然に生えている物で食べられるものを摘んで来たりしたし。
そこで二人を見る。うん、テント持って来てなさそうな気がするんだよね…。
「テント持って来ました?」
「「一応」」
おお、ならいいかな。
「じゃぁ私はテントで泊まるので、お二人は…「いやいやいや、値段次第で宿泊しようよ」」
どうしますって聞こうとしたら、ケイン様がそう言いだす。
「節約したいんですが」
「レナちゃん。お姉さんの情報を得るには宿泊所に入って色んな人に聞いた方が良いよ?」
それもある。でもこの先の資金の問題があるんだよねぇ。
「それに俺達は子供だから無理だが、酒場とかでの聞き込みとかも場合によりした方がいいぞ。意外と酒場で情報は得やすいらしいからな」
「でも僕達は子供だからお酒は駄目だからね?」
「解ってるって」
「ホントかな~?」
「…多分」
「コラ」
ニキ様隙あれば飲もうとしてませんよね?ケイン様とああだこうだと言いつつ、時折言葉を濁している辺り怪しい。
「ま~商業ギルドとかあれば其処に行った方がいいかもね。元々この情報はそこから来てるんだし」
取り敢えず、宿泊予定の村の宿の料金次第でという事で落ち着いた。
「一度泊まってみたかったんだよね~」
ケイン様、もしかして目的はソレじゃないよね?
* * *
「一泊1500ゴル」
「おお、結構安いな」
「食事抜きの料金か」
おおおおお。
予想外低価格に驚いたけど、王都が一番代金が高くて三万ゴルだったからその料金かと思ってドキドキしちゃったけど(貴族用の宿は別)、良かった低予算ですんだよ。
「ならここでいいか?」
一応他の宿もあったのだけど、ちょっと高かったり満室だったり変な宿だったりして遠慮したんだよね。で、周囲の村人に聞いてみたら、『水の宿』って言うトコが安くてお勧めだよと言われたので来てみたんだ。
「いいんじゃない?」
とケイン様がドアを開けると―…
パタンと閉じられた。
何故閉じた?
「ケイン?」
ニキ様迄驚いた顔をしてケイン様を見ているし。
「いや~…何か変なのが居た」
え?どー言う事?
恐る恐る今度は私がドアを開けると―…
パタン。
「…お前もか」
うん、だってね。
「お客様いらっしゃぁああああああい!」
部屋一杯に広がった象がエプロンをし、頭にはバンダナを巻いてスカートドレス?を着てハタキを持って立って居たから。
そしてその象がドアをあけ、
「ぎゃあ!しまった獣化しちゃったままだよ!」
…あ、獣人なんですね。しかも象さんか。成程納得。
「すいませんお客様、驚かせてしまって」
シオシオとした態度で先程とは違い、小さくなった身長150センチ程の女の子が目の前に居る。けど、こうして見ると獣人とは思え…否、良く見たら耳が少し大きめでパタパタと動く。うーんダン○を思い出してしまうけど、この世界だと違うんだろうなぁ。
「私この『水の宿』の女将をしております。今夫を連れて来ますので暫くお待ち下さい」
あ、女将なんだ。てか少女かと思ったら成人してたのか。
女将が去った後にケイン様が「吃驚したね~」と朗らかに笑う。うん、確かに驚いた。
「獣人だからこの料金なのかもな」
とか言うから思わず聞き返してしまったら、
「獣人はあんまり儲ける事は考えて無いからね。ギリギリ生活出来れば幸せってのが多いんだよ。特に大型の獣に為れる獣人はそんな思考をしてるみたいだよ」
だからこそ王都にあまり居ないんだと言われ、成程と思う。
それと王都だと差別する人も結構いるからねと言われ、納得してしまう。異世界でも元の世界でも人種差別はあるんだよね。私個人としたら生きてれば皆同じって思うけどね。
「当宿は基本獣人の私達が経営してます。お客様、獣人は大丈夫ですか?」
最初宿の主人と言う男性に言われてしまい面食らう。
何でも獣人が駄目な人が居る場合があるので、最初入って来たお客様には全員こう言うのだそうだ。
「俺は気に為らん」
「僕も~って言うか寧ろ主人のもふもふ尻尾触りたいぐらい」
「私も平気です」
途中ケイン様が主人の尻尾、犬の獣人らしく説明をしながらフリフリしている尻尾が堪らないと告げると苦笑された。
私も尻尾触りたいけど、象さんな女将さんとニキ様から変な威圧が掛かって居るので黙ってます。
と言うか、ニキ様恐いのでヤメテ下さい~っ!
* * *
あれから何度か村や町に立ち寄り宿泊先の商業ギルドや宿屋の人に村人達等に情報を求めたが、それらしき人が居ると言う所へ行くと別人だったり見間違いだったりと一向に見付からない。
そんな訳で未だ見付からないまま、等々モイスト領の中心都市近くまで来てしまった。
「なあ」
「はい」
ぼーと流石に疲れた頭を冷やそうと、馬車の窓から外を眺めているとニキ様が声を掛けて来た。
「探しているレナの姉のデュシーは食うに食えなくて出て行ったんだよな」
「そう聞いてます」
人により若干情報が違っているが、大体はそんな感じだ。
ちなみに私が身内だと情報提供者に教えてしまうと、単に出て行ったと言った具合にソフトな表現になってしまう。恐らく私の外見が子供だからと言うのと、身内だからと女の子だからと言うのがあるのだろう。
ちなみにニキ様達が聞くともっと悲惨だ。
「金銭を一切寄越さないっていうのはねぇ」
今ケイン様が言って居た事がその内の一つ。
他にも何も知らなかったと言う姉に…かなり手荒な事をして手籠めにしたと言った事を元使用人からの証言諸々等を掴んでいる。
「金銭を貰って居ないっていうのと赤ん坊付き。ならそんなに動けないんじゃねーか?」
「確かにね。だからと言って実家に帰ったってのは無いと思うよ。流石にそれ位の危機管理能力はあるだろうし」
あの親父の事だ、姉のデュシー姉さんが帰宅したとすれば即刻捕まえてまたロドリゲス家に突き出すだろう。
「うーんもしかしてまだロドリゲス領地に居たりして」
「それはねーんじゃねーの?」
姉の失踪は私達に知れた時既に貴族社会に浸透しており、その際ロドリゲス家にかなり不利な噂として広がった。…多分その噂の出所は、ここに居る二人ケイン様とニキ様、それとユウナレスカ様ではないかなぁって実は思って居る。特にユリア様に理由を話して夏休みに遊びに行く事を断った際、ユリア様が目に涙を浮かべ心底心配されたのだけど、その際にボソっとユウナレスカ様が「あの外道め…ユリアを泣かせおって、許さん」とちょっと違った方向に怒り心頭していたので。
多分ユリア様が涙を浮かべたのが許せなかったんだろうね。
ユウナレスカ様、最近益々ユリア様に心底惚れ過ぎてて怖い位だよっ!
そしてその姿を見てぷるぷる震えてるユリア様。
てっきり怖いのかと思ったら、「やだ、恥ずかしい」って照れていたよ。
…ケイン様とニキ様があほらしって顔で無言で居たのが居た堪れなかったです、ハイ。
「僕は勝手な推測だけど、モイスト領に居るんじゃないかなって思うんだよね」
「理由は?」
「元々ロドリゲス領で最後見掛けたのは「逃げ出した」、でしょ?でもロドリゲス領では見付かって居ない。それに今の貴族社会に置いて『妾の失踪』、しかも一切の生活資金を寄越さなかっただなんて恥以外何物でも無いしね。もしロドリゲス家がお姉さんを見付けたら隠さないで公表するだろうし、何よりさっきの村でも聞いたけどロドリゲス家が捜査網を拡大して探しているって」
一応世間的な意味合いもあるかも知れないけどねとケイン様はいい、
「でも良かったね、産まれた子が女の子で。これがもし男の子ならゲシュウ・ロドリゲスの後継ぎが正妻から生まれて居ないから、お姉さん逃げたくても逃げられなかっただろうしね」
もしくは産まれた子だけ取られて居たか。
その可能性があったよと言われ、ゾッとする。
昔は結構そう言う事が多かったらしいって、コワイよお貴族様。
そしてニキ様、田舎はまだあるらしいなって、それってロドリゲス家の事だよね。あ、家の実家もか。
うへぃ…
「取り敢えず今日はモイスト領の中心に行こう」
既に時刻は正午過ぎ。
幾ら夏場で日が落ちるのが遅いとは言え今日は身体を休めた方が良いと言うニキ様の助言を元に、情報収集は明日からという事にした。
モイスト領の乗り合い馬車の終着地点に付いた頃には既に三時を過ぎていた。
「あ~疲れた。レナちゃん大丈夫?」
比較的荷物の少ないケイン様が私の荷物を持ってくれて馬車から降りる。
ちなみにニキ様は他の馬車の御者に話し掛けており、少ししてから私達の方へ歩いて来た。
「今日はどの馬車も終了らしいな」
一応軽く周囲に姉の事について聴き込みもしてみたが、ココでは大した情報は無かったらしい。
「とは言ってもこの人混みだからな、多過ぎて誰が誰だか見分けも付けにくく見落としが多いだろうし。ま、今日はこの後何か食おうぜ、俺腹減っ……げ」
急に固まったニキ様の目線の先を見ると―…
ん?
何だか黒い燕尾服って言うのかな?
この世界で初めて見た服装なので違って居たらご勘弁。でも前世の知識で言えば思いっきりその姿は『執事』そのもので。しかもこの市井の馬車乗り場にその洗練された貴族然とした姿は正直"違和感・場違い感"が凄まじい。皆遠巻きにして避けており、執事さんが立っている周囲が円になって結界が出来ている様に誰も寄り付かない。
一言で言うなら目立つわ!で、ある。
「坊ちゃまお帰りなさいませ、お待ちして居りました」
おおおおおっ!本物の執事の礼がきたー!
一度は見て見たかった角度…えーとなんだったっけ?その辺り知識が無い!流石辺境田舎出身男爵家三女、学習してないから分からないよ!
「俺は呼んでないんだけど」
するとニキ様が固まった状態からやっと復帰し、妙な空間になってしまっている周囲に冷や汗を流しながら文句(?)を言う。どうでも良いんだけど、ケイン様さっきから「ぶふっ」とか「流石グラシア、先回りとか凄い」とかいって笑って居る。うーんこの執事さんグラシアさんっていうのかな?
「承知しております。これは私の独断ですので」
キッパリハッキリ言い切ったよこの執事さん。
うひょー強い。目がギラリって眼光鋭いですね。年齢も40代位かな?白髪が薄っすらと入っているがきちんと櫛を通して整えてオールバックにしており、無精髭等無く引き締まった輪郭。そして中々の長身に意外とある肩幅。これは若い頃さぞかしモテたんだろうなぁ。
しかも靴は一切の汚れが無い。かなり良いトコに仕えて居るって事だよね。
「独断って…」
ガックリと項垂れたニキ様にケイン様が「勝てないね」と笑って居る。
「挨拶が遅れました。お久しぶりですケイン様」
「ああ、久し振りグラシア。相変わらず色々と卒がないね」
「いえいえ、私などはまだまだで御座います。して、其方にいらっしゃる可愛らしいお嬢様は」
ご挨拶しても宜しいのでしょうか?とニキ様に問い掛ける。
「あ~えっと、レナだ」
「レッティーナ様ですね、お話は伺っております。私はアーノルド・フレッチーノ・ドードルグラン・ブロジア・グラシアーノ。グラシアと御呼び下さい」
長っ!吃驚するぐらい長!ってあれ?爵位持ち?
「グラシアは子爵の次男なんだよ。昔からモイスト家に仕えて居る分家の一つなんだよね~」
ほうほうって、伺って居るって私の事ばらしたの?
「そう睨むな。レナの事はちゃんと話しておかないと後々面倒な事が起こった時に困るからな」
とニキ様。うんうん頷くケイン様。
「大丈夫一応僕んとこは家臣と親しか知らないから」
「俺のとこも似た様なモノだ」
肩を竦めているニキ様に執事のグラシアさんが、
「詳細は後程。今は移動いたしましょう、さぁお嬢様方は此方に」
と、ひえええええっ!気が付いたら私の荷物をグラシアさんが全部持って居たよ!一部ケイン様の荷物も持って居たようだけど、あの~仕えて居るお坊ちゃんの荷物は持たなくて良いのでしょうか?
「坊ちゃまはそんな柔な鍛え方はしておりませんので」
それで良いのか執事。
「レディーファーストですよ」
ニコリと微笑まれてしまっては反論が出来ません。
もとより反論する気が無いけどね。
と言うかこの世界レディーファーストあったのか。前世の昔の意味合いなら抵抗感あるけど、荷物を持ってくれたし『女性に優しく』な現代風な意味合いなのかな?
「ま、俺は通常運転ってことだな」
ニキ様、それって何時もの事って事だよね?
少し体調が戻って来ました(・ω・`;)
ですがまだ本調子ではありません。暫く更新諸々など無理をしない様にゆったりとさせて頂きますが、どうか宜しくお願い致します。
(๑•̀ㅂ•́)و✧
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m(__)m
領民の小話は暫し御休み致します。




