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小さな我が家の中央に立って周囲を見渡す。
前世で言う所のワンルームって奴だ。
部屋の大きさはベッドを入れて四畳半位かな?この世界に畳は無いから大凡なのだけど、それでも一人で使えるこの広さが私はダイスキだ。何せ幼少時の実家の部屋は、四畳ぐらいの部屋に女姉妹三人無理矢理入って居たものね。末の妹のオルブロンだけは小さかった事もあって、両親の(狭いけど)部屋に居たからかなりマシだったけど。もしオルブロンまで来て居たらもっと狭くて大変だっただろう。
学園は等々夏休みへと突入した。
無事王都に辿り着いた時、どうせならと念願だった乙女ゲームの世界に酷似したこの世界でゆったりと、ヒロインと攻略対象者達の『うふふ、あはは』な恋愛事情をこっそり覗き見して置きたかったのだけど事情が事情だ。
仕方ないと腹を括る。
正直ヒロインであるアメリーとはあまり期待出来る展開が行われる気がしないのでこれはこれ、仕方が無いなとは思う。けどアレス様とは順調に(?)イベントをこなしている様なので、其処の所は是非頑張って欲しい。無論デッド・オア・アライブ状態の回避を切実に願って置くけども。
幾ら何でも手足を切断ジ・エンドはないもんね…。
さて、鑑賞できなかったのは兎も角。腹を括った理由は、この夏休みの間休職願いを届け出たからだ。学園長や同じ職場のおば様方全員にきちんと理由を話して置いたので大丈夫だろう。折角慣れて来たので出来れば夏休み中も見て置きたかったのだけど、どうやらユウナレスカ様やケイン様にニキ様の三名はヒロインである準メリーとは今後何かあるような気がしない。
勿論ゲーム的要素で強制イベントとかがあれば今後分からないのだけど、1年目の夏休みではユウナレスカ様にケイン様、ニキ様にアレス様の4名だと大したイベントが発生しない。
精々夏休み後半のパーティー位だろうか?それでも来年があるし、今年は覗くのは諦めよう。
ならば丁度いい。一気にやりたい事をやってしまいますか!
「は~…気合気合!んじゃ、行きますかっ」
パンパンと自身の頬を両手で叩いて気合を入れてから部屋を出る。
今迄住んで居た部屋に鍵を掛けて確認し、いざ出発。
簡単な旅装束とリュックを背負って学園を後にし、何時もの様に職員用の門から外へ向かう。
目指すは王都にある馬車乗り場。
近頃は港町へ向かうのが流行りで蒸気機関車の方が人気があるけど、私の向かう先は港街では無い。何時か行ってみたい気もするけど、それは姉であるデュシー姉さんが見付かってからだ。
「あ、おねーちゃん!」
「オルブロン?」
えへへー!と笑顔を振りまいて子供特有の甲高い声で笑い、大きく手を振る妹の傍に行く。すると人混みを掻き分けて兄であるジーニアスが騎士の格好のままで此方へ向かって来る。
「レナ」
「ジーニアス兄さん?」
「ほら、餞別だ」
手に渡された袋からチャリンと言う音がする。
多分だけどお金だろう。
これ、と口を開こうとしたらその口を手で押さえられた。
兄であるジーニアスの口からシーって言う音と茶目っ気タップリのウインクを一つ寄越される。
全く、下手な乙女ゲームの攻略者よりも大人の色気がある。我が兄ながら困ってしまうモノである。
「無理するなよ」
そう言って軽く頭を撫でられる。
うん、と頷くと末妹のオルブロンが、
「ほんとーなら私も行きたいけど、どう考えてもただの子供の私だからおねーちゃんの邪魔になっちゃうしね」
何でも王都に来る時に実感したらしい。
まだ八歳の子供の体力だとどうやっても足手まといになると。
「レナおねーちゃんみたいに身体強化が出来ればいいんだけど、私出来ないからね。それだとどうやってもお姉ちゃんに負担を掛けちゃうもん」
オルブロンは最近魔法が使えると解って来たけど、まだまだ睡眠の魔法しか使えて居ないらしく、今は軽く勉強中らしい。前にシドニー姉さんが出産が落ち着いて来たらオルブロンを王都の学園(私が勤めている学園より一つ下のお子様達が通う学校。前世で言うなら小学校みたいなモノ)に通わせると言って居たので、私が入れなかった分ドンドンと実力を伸ばして行って貰いたい。
「俺は騎士団の仕事があるから長期間留守にするのは出来ないしな」
一応掛け合ってみたがやはり無理だったと肩を窄める。
それでなくても蒸気機関車の開通により、人の出入りが激しくなっている。それが王都勤めの騎士団団員と来れば1ヵ月単位で休暇を貰うのはかなり前から申請しないと出来ないだろう。
下手すると休暇でなくお暇…辞めるって事になってしまうかも知れない。それだと折角騎士団に入れた兄が不憫過ぎる。
「それじゃ、身体に気を付けてな。無理するなよ?」
「はい」
「おねーちゃん、気を付けてね~」
見送るジーニアス兄さんと末妹のオルブロンに手を振り、モイスト領の首都行きの馬車に乗り込む。夏休みに入ったばかりなのと比較的大きな都市だという事もあり、帰省客だろうか?かなりの人々が同じ馬車に乗り込む。
「モイスト行き出ます」
と言う御者の声が掛かると、一斉に5台の馬車が発車する。
長旅用の平民仕様の馬車は通常の馬車より車体が長く出来ており、これまた前世の知識だとワゴン車みたいに感じる。その分人数が乗れるけど、長く出来ている為に小回りが利きにくいんだよね。でもモイスト領行はあまり辺鄙な場所で無いので、正規の道を行くと小回りを利かせるような道が無い為に採用された車体なんだよね。
これが実家のアレイ家の領地へ向かうモノだと山あり谷ありで小回りが利かないと無理だし、正直民間の馬車が出て居ない。だからウチのアレイ家の領地に向かうには一度モイスト領へ向かってから馬車を乗り継いで、次にロドリゲス領行に乗り、そこから徒歩か自分の馬車、もしくは業者を雇って高額の支払い(行と帰りの分)をして向かうしか無い。
つくづくドが付く田舎なんだよね~ウチの実家。
おまけに王都に居た時に聞いた話だと僻地だからやたらと強い魔物が出るって話しだったし。
実際はそうでも無かったと思うよ?もっとも私が逃げて来た時はモイスト家の討伐が終了し、比較的移動しやすい時期を兄のジーニアスが狙って連れて来てくれたのだけど。
そんな少し昔の事を思いつつ、この馬車全部モイスト領行きなんだよね~と思いつつ外を眺める。王都の通りは早朝と言うだけあって馬車乗り場は混んでいたが他は閑散としている。その通りをぼんやりと見詰めていると時折見知った通りを過る。
初めて王都であるロメインに来た当初はこうやって出て行く事は考えて無かったなとか、来た時に繁盛していた店はまだ行った事無かったとか。
ふと通りのガラス戸に写った自身の姿を見て思う。
初めて来た当初と比べると随分とマシな格好になったものだなぁ。あの時は兎に角酷かった。ボロボロだったし、辛うじて浮浪児一歩手前な姿だったから門番から当初怪しまれたし。逃げて来たからと言うのもあったけど、久し振りに会った姉のシドニーに盛大に泣き付かれてしまったのだから。
「父さんはなんて酷い事をしたの」って言われて驚いたけど、今となっては…うん、やっぱりあの親父禿げろ。どうでも良いけど姉さんってば私の姿を見て泣いたけど、兄であるジーニアスは「男だからね」と言ってどうでも良いって扱いだった。
それは無いでしょうに。
後でジーニアス兄さんに聞いた事によると、やはり親父から格差と言うか差別をされてて、シドニー姉さんのが年上だったのに次男のデュラン兄やジーニアス兄さんより扱いが酷く、よく親父に「チ」って良く分からない舌打ちをされていたらしい。恐らくだけどその舌打ちって次女が妾にされたゲシュウ・ロドリゲスの好みらしい年下、もしくは見た目で無かったからでないかと思う。
ロリコンだしね…
それに比べてシドニー姉さんは比較的女性にしては長身だったし、子供体型では無く女性の身体的特徴、ハッキリ言ってメリハリのある身体つきだから興味が無かったんだと思う。
今思うとその方のが姉にとってとても良かったんだと思う。
背負って居るリュックから地図を取り出す。
とは言っても地図を購入するととても高いから自力で写し取ったモノだけど。私の手書きだから結構略しているのが残念仕様だけど、無いよりはかなりマシである。この世界と言うかこの国の地図はとても高い。さっきも馬車の乗り合い場に売ってあった値段を見て思わずサヨーナラーって手を振りそうになった。
その金額一万ゴル。
私のお給金現在月に九万ゴル(寮+三食食事付き)
デュシー姉さんを探し出すのにどれぐらい時間が掛かるのか、また予定外の何かしらのトラブルに会った時の為にと今ある資金は出来るだけ節約しなくては為らない。
更にオマケに一万ゴルってほぼ前世で言うトコの一万円である。
ってわけでバイバイ。写し取った地図よいらっしゃい。
この王都の平均給料は私とほぼ同じぐらいか少し安い位らしい。意外と高給取りだったよ学園の厨房。面倒事の片付けもさせられるけど、流石お貴族様が通って居る学園である。もっとも教師のがもっと高給取りだけど。
それにしてもと思う。
ユリア様にもし夏休みお時間があれば一緒に遊びません?って聞かれたんだよね。残念ながらお断りしたのだけど、ユリア様が「レナちゃんと共にまた温泉行きたかったわ」って悔しそうに言われたのでつい、「帰って来たら行きましょう!」と言っちゃった。
良いのだろうか、お貴族様なのに。
直後の「なら私が連れて行く」とか言い出したユウナレスカ様にユリア様、確りと夏休み中のデート計画されていたので良いんだろうけど。くそう、乙女ゲームのラブラブカップルさんの様子を堪能する機会だったのに。これは意地でも姉を無事見付けねば!と思う。
…お気軽に言っちゃったけど、デュシー姉さんそしてその赤ちゃん、どうか無事に居てね。
昨日初めて教会にお祈りに行ってこの世界の見た事無い神様に祈って来たけど、やっぱりもう一回祈って置けば良かったかな。
モイスト領で見掛けたと言う商業ギルドのクロッカスさんの最後の情報を頼りに、デュシー姉さんを探しに行く事を決意したのは良い。良いんだけど…。
「何故?」
私の横には平然とした顔をしたニキ様。
更にニキ様の横にはケイン様が此方を見てにこにこと笑い掛けて来る。
二人の服装を見ると平民と何ら変わらない、でもきちっとした旅装束らしく頑丈なリュックと腰には剣が携帯している。
「一度乗って見たかったんだよね~」
小さな声で一般市民のってのが聞こえて来るけど、私は遊びで行くんじゃないんですよ?
「女の一人旅は危険だからな」
だからってニキ様やケイン様が来る事は無いんじゃないですか?そう言うと、
「ふふふ、ニキは素直じゃないからね~」
「ほっとけ」
クスクスクスと肩を震わせて笑い出しているケイン様に視線を向けると、
「僕らこれでも『大事な友人』のレナちゃんの事が心配なんだよ。心許無いかも知れないけど少しは剣術を嗜んでいるからさ、護衛に雇ってくれない?ただ友情料金って事でタダにしてくれると有り難いけど」
「俺の場合は実家によるからな、ついでに護衛してやる」
「ニキ~素直じゃないね~」
「ほっとけよ」
ニヒヒヒと何処か変な笑い方をし始めたケイン様にニキ様はぶすっとした顔をし始める。
「あ、そうそう。道中は対等って事で『様』付けはなしね~付けたら罰金取るよ?」
一般人って事にしとくのだから、貴族って事は内緒だよ?と言われ驚く。ひえ。って言うか様付けないって無理ですよっ!
「無理じゃない。と言うか付けてたらおかしいだろ」
確かに市民の格好をして居たらそうなのかも知れないけど、でも…
「この旅だけでいいからさ、ね?レナちゃんお願い」
うぐぐぐぐ。ケイン様の可愛らしいお願い&ウインクを貰ってしまいました。
「まぁそんな訳だ。道中宜しくな」
そう言ってニキ様に頭をグチャグチャに搔き回されて撫でられたけど、何だかちょっと不意打ち過ぎて困惑しちゃったよ。
この先一人で移動するのは不安だったからね。
たださ、この人達ってワスレソウニなるけどお貴族様の御子息様なんだよね。しかも高位の。一般市民の感覚無くて色々ぶっ飛んだことしそうで怖いよ。
こんなんでも面白いよ!次も宜しく!と思って頂けたら、ブックマーク及び評価をどうか宜しくお願い致します
m(__)m
本日も領民話は御休みします。
体調悪いけど寝れば治るだろと数日ほっといたら悪化。あれ?と病院いったらインフルでした…。しまった、もう薬キカナイ。
そんなわけで次の更新は暫く御休み致します。
次の予定は良くなって来たら、来週の月曜日辺りにと思っております。




