表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】  作者: 柚ノ木 碧(活動休止中)
0章 今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
1/110

「レナ、ほら始まったよ」


 ココはとある学園のとある場所。

 …なんて。


 私レッティーナ・アレイは一応は田舎貴族の端くれ。男爵家の三女なんていう、どこからどうみても家から出たら只のイチ庶民。これがせめて実家がお金持ちで兄弟が少ないなら多少は実家が頑張って学園にでも入れてくれるだろうけど、私が10歳を迎える時に父が言った言葉は非情だった。


「レッティーナは三女だからな」


 つまり女に学は必要ないと言う勧告ですね、わかります。

 おまけに我が男爵家が治めて居る小さな領土は所謂貧乏な土地。周囲はススキが生えていて、あまり良い土地では無い。何故かと言うと土に栄養が無いのか、土地が枯れて居るためだ。


 それでも幼き頃は必死になって親兄弟に付いて行って毎日土地を耕していた。一応幼いながらも魔力と言うモノがあって、それでこっそり見よう見まねで親兄弟が使って居た身体強化を独自に習得し、なんとかして必死に開拓した土地、畳20畳程度。それを6歳前後と言う幼き頃から猫の額ほどから頑張って広げて来たのに、10歳になってから取り上げられた。長男がもし病か何かあった時用にとっておく繋ぎ止め用の次男にと問答無用で。しかも無償で。私には何も、報告さえも無かった。


 駄目だこれ。

 詰んでる。

 そう悟った10歳。


 そこで悟った事、"実家では"無駄な事はしない。


 学も必要ないと部屋にあった本(私が写して作成した本)や哀れに思った領民がくれたノートに羽ペン、私がひっそりと隠していた品を全て没収されてしまい、あるのはただ、領地の農民と同じ安臭い生地で出来た着替えと下着類に1足しかない靴。

 後はハンカチ二枚。

 ブラシ?櫛さえないですよ。勿論髪結いのリボンもありません。その辺の植物の蔦でも乾燥させて自分で結えと放置されましたけど?


 そんな環境故長女はさっさと実家を見限って王都に働きに行き、その1年後に商人の旦那さんをゲット。実に裏山ケシカラン生活を送っているらしい。

 そして二女は同じく働きに家を出るのかと思っていたら、なんと隣領土の伯爵家の後継ぎへ輿入れをした。勿論妾として。

 父の借金の代償と言うか返済だと最近知った。

 だって二女が妾として輿入れ(と言うのか?)したのは何と当時12歳。成人前だよ、なんて親だよ。どう考えてもロリコン。ダメ、ロリコン、ノータッチ!

 そして二女が妾として引き渡されてから1年もしないうちに足繁く通って来るロリコン伯爵後継ぎ。

 ゾッとしたね。

 明らかに大した用事も無いのに私を呼んで、ニヤニヤと汚いイヤラシイ笑みを浮かべて見るんだ。

 流石に拙いと思った唯一まともな兄弟の三男坊、兄のジーニアスが実家を出て王都に働きに行く日、私を連れて逃がしてくれて何とか二人で王都まで逃げて来た。

 きっとあのままだと二女の二の舞だからね。


 それから二人して王都に住む長女に事情を話して暫く御厄介になったんだけど、流石に何時までも姉の所に居るワケには行かない。おまけにあの伯爵家の後継ぎがどうやら私を探し始めて居ると四女(彼女はまだ8歳だが、恐らく彼女も12歳前後で危機に陥るだろうからその前に何とか逃げて来るそうだ)から商業ギルドを通じて実家には内緒で連絡が入り、何時までも姉の所に居ると迷惑が掛かると働き口を探した。

 レナと言う偽名を使って。

 何せ逃げ出した当時は11歳でまだまだ小さかったし、今とは明らかに違う。

 少なくとも身長と体格と髪型とそして…胸。

 フ、見ろよ世のロリコンども。

 今のカップはDなんだぜ。


 …彼氏も嫁ぎ先も決まって居ない今は全くの無意味&無駄だけどねぇ~。おまけに明らかなイヤラシイ笑みや視線が、全てこの年齢の割に無駄に育ってしまった部分に集中するから正直面倒なんだけどさ。








「ほんと、良くやるよね~」


 そんなワケで現在姉の嫁ぎ先と商業ギルドからの推薦を頂いてから此方、王都にある学園に入学…なら良かったんだけど、働きに来ました、はい。

 入ったのは12歳の頃だったから周囲にかなり心配させられました。何せ学生は私より年上でしたし、そんな中エッチラオッチラよたよたと歩きながら働く私はちょっとした和み要員になったらしく、良く男子学生どころか女子学生、何故か教職員まで時折見学に来ていました。

 ニヤニヤした顔付のいやらしそうな男性教職員共には心の中で『憎きロリコン』『滅びろロリコン』『頭皮に禿の呪いを』『お前の分身私の頭部でどついたろか』…最後の所は今は身長が伸びたので違いますが、今でも時折思います。


 それはさて置き。今は私の職場である食堂の一角で、華やかな装飾があるとある優雅な場所にて場に似つかわしくない事態が起こっております。喧嘩ですか~女の争いですよ、しかもお貴族様ですね、これは。


 最近注目している方々、いい意味では無い注目なのですが…

 勿論注目しているのはこの職場である厨房で働いている同僚のおばちゃま方です。何でもここ数年見た事が無い程素晴らしい貴族の坊ちゃん嬢ちゃんらしいのですが、やることがまぁ…


 筆頭が。


「またお前か」


 この発言をしたのがこの国の第二王子様である、ユウナレスカ・アナジスタ様。冷たい発言をして呆れた顔付をしていますが、実は隠れて反省していたりしています。婚約者の強気な態度に辟易しているのは確かなんだよね。幼い頃からずっと叱咤してくるので正直苦手意識が強いんですよ、確か。とは言え嫌では無いんだよねこの王子様。


「またとは何ですか。私は貴方様方の目に余る素行をわざわざこうして注意しているのですわ」


 そして第二王子の現婚約者である確か…ええと、侯爵家の令嬢、ユリア・ブルックストン様。性格は上記の台詞の通り中々の強気な令嬢様。だけど裏ではコッソリ泣いてるんだよ。知ってるかいそこのボケナス頭の子息共。婚約者のユウナレスカ様を心底心配しているのわかんないのかね~?あんなに綺麗な令嬢なのに。ただまぁ目力があるから少々怖いってのはある。何せとても残念な事に吊り目だからキツイ印象を相手に与えてしまうしね。そこさえ何とかなれば全体のキツイイメージが払拭されるのになあ。

 それによく見ると羨ましいぐらいに綺麗な金髪に緑の瞳。気位は高いかも知れないけど、凜とした佇まいがあり中々見目美しい御令嬢ですよ。


「失礼。目に余る?それは貴方だけではありませんか?」


 このちょっと嫌味ったらしい言い方をしているのがこの国の宰相の息子であるボケナス、じゃなかった禿要員…いや~私が将来禿げろって呪いを掛けて居る御子息のアレス・バーンド。

 上位貴族様だけど、こいつ嫌いなんだよね。毎朝こっち見てはニヤニヤと私の年齢にしては大きく育ってしまった胸をみてニヤツイテる助平だ。しかも目を逸らさないと来たもんだ。どんだけ飢えてるんだよ、クソ愚息め。


「アレス、言葉が過ぎる」


 咎めているが決して止めない。この発言をしたのがこの国の騎士団の息子、ニキ・モイスト。正確な名前はニキータ何とかとか言うらしいけど、残念ながら私はそこまで詳しくは無い。ただコイツもちょっと苦手だ。理由は遭うと必ず私の顔をじ…と見て来るから。

 なんでじゃ。一度は顔に泥でも付いてるのかと思って聞いてみたら、何故か挨拶だけして去って行った。

 全くわからん。きっと不思議ちゃんなんだな。


「アレスにそれ言っても多分聞かないよ~」


 このやや甲高い声はこの国の魔法省に勤めて居る魔法大臣の息子であるケイン・ノスタルジア・ジアス。こいつだけ何故名前が長いかと言うと、貴族の正式な跡取りがこのメンバーでは唯一仮にだけど決まっているのがこの愚息のみだからだ。


 なお第二王子は別枠。彼は学校を卒業して成人し、結婚してから家名を貰い受け、それから家臣になり公爵へと臣籍降下する予定らしい。この面倒な手続きを終えないとただの爵位が無い王族といった扱いらしく、あまり…王家での扱いも第一王子程は良くない様だ。


「まぁユリア様!ようこそいらっしゃいました。良かったら私のお隣に」


 あ~…始まった。

 このメンバーの中で唯一の格下の爵位の家柄であり、またこの騒動の中心人物で空気を読めない人の面を被った令嬢はアメリー・メメントリー準男爵令嬢。


 うん、準ね、準。

 私より格下だよっ!

 と言うか準だと一代限りだから後継ぎが余程の功績が無いと次は爵位が無い。

 つまりほぼ庶民だ。

 それなのにその、ドレスやらアクセサリーやらは一体全体どうしたと言うのだろうか。

 そして空気の読め無いスキルは半端無い。上位である筈のユリア様に隣の席、しかも食堂の入り口付近側を叩いて「ここにお座りになって」と示している。

 …有り得ない。

 準男爵令嬢が、侯爵家の爵位の上の御方に自身より下に座れと示唆する等。うわぁ…ここからじゃユリア様の表情は見えないけど、修羅場過ぎるわっ!


「(準メリー、実家はさほど裕福じゃない筈だけど)」


 アメリー準男爵令嬢、私達が務める厨房では『準メリー』と勝手に命名されている。学校の職員達にもその様にヒソヒソされていたりする程の有名人だ。

 何故その様な事態に陥って居るかと言うと、あの『お金持ちのご子息』しかもイケメン限定に甘ったるい声を出し、雌犬宜しくすり寄るその姿に皆呆気に陥って居ると言う訳だ。

 現在絶賛逆ハーレムを形成中らしく、始終誰かしらイケメンが蔓延って居る。

 実に裏山ケシカラン。


 そういえば準メリー、某女の先生が一人の時を狙って注意したのだが、完全スルーをし、後日その女の先生は別の辺境の学校へと飛ばされた。あそこ飛び地だからキツイのよね、魔物も道中出るしと言われて押し黙ってしまったのは秘密だ。

 だってそこ、実家の領地だったんだもの。と言うか学校在ったのか…くそぅ、クソったれ父親め。

 私に隠してたな?


 この事を知った私、私の”所在地と名前を無記名”で実家に猛然と苦情抗議の怪文書を送りつけたのだが、帰って来たのは「女に学は不要。こんな手紙を寄越すなら輸送費を送り付けろ馬鹿娘」と言う散々なネタ結果を長女に送り付けて来たらしい。

 ウチの父親、三女の私が字を書けるとは思って居ないからな。しかも流暢に嫌味ったらしい語尾を含んだ言い回しを書いて送り付けてやったから、姉に対して「女に必要でない碌でもない学を嫁に学ばす男と一緒になったのなら、その分の金を寄越せ」と書き付けて来やがった。


 普通貴族の親なら例え事後でも体裁を繕ってでもおめでとうの言葉と支度金を送るものだぞ?

 それが金の無心ってクズ過ぎるだろう。

 貴族の常識ってモノが無さすぎる。

 元がどこぞの準男爵の五男坊だったと聞いたことがあるけど、養子に収まったとは言え横暴過ぎる。本来なら養子の父が頭が上がらない筈の母親が「こんな何も無い領地で申し訳ない」と委縮してしまっていて何も言わないので子供からどんどん搾取する様になってしまっているってどうなのよ。ええい、父よ禿げろ!


 尚姉は学校がある事は知って居たらしい。

 長男と次男は後継ぎとその次席だからと王都の寮に入れて居たのは知って居たけど、三男である兄は継げないならと庶民が通う領地の学校へと合間に通わせていたらしく、姉がその姿を何度も見ていたと。くそ~知らなかったよ。上の兄弟達とは年齢が離れ過ぎていたし、私の場合遊ぶ事さえ許されず畑仕事や家事をやらされていたから…

 ちょっと、ちょっとぐらい学校ってのに行ってみたかった。

 だって『異世界』の学園だよ?庶民のだって通ってみたかったよ。

 出来なかったから未だに独学で学ぶしか無いのって結構辛いモノがあるんだよ。


 おっと、話が逸れてネガティブキャンペーンし過ぎちゃったな。


「(レナちゃん、準メリーに馬鹿な愚息の誰かが貢いでるって噂だよ)」


「(あちゃ~マジっすか)」


 何とも羨ましい。

 というかおば様方や。馬鹿な愚息は軽い口調で「恐らくアレスちゃんよ~」ってばらしてるしっ。

 あの愚息は確かにちょっと胸を押し付ければヘラヘラして貢ぐぐらいはしそうだよね。エロ助で人の胸をじっと見てる時があるし。好色め、剥げろ。でもそのお金は何処から出て来ているんだろう。幾ら実家が裕福でも『最高級シルク』を贅沢に使ったドレープのドレスなんて宰相の息子程度では出せないんじゃない?

 それこそ国庫でも…いや、まさかね。


 それこそゲームのシナリオ通りになってしまうじゃないか。

 幾らこの世界が生前の私がしていた『乙女ゲーム』に酷似しているとは言え、余にも違う部分があるのだから。そもそもこのゲームの世界はキャラクターに『悪役令嬢』は存在して居なかった。居たのは婚約者ではあったが、特に顔出しはしてこない名前だけのキャラクターだけで、ライバルと言うキャラクターは存在して居なかった。


 何故かと言うとこの宰相の愚息、これが拙いのだ。

 学園に入学してきたヒロインを視界に入れた途端、彼は暴走していく。

 これは攻略対象者全員に発生する事になっている。どうやら彼の精神は学園に入る当初の前後、もしくはその前から何処か軋んでいて壊れて居るらしい。それがヒロインの姿を見てネジが取れ、拍車を掛けて行く。


 そしてヒロインが意図して居なくても攻略対象者全員に”接触”してしまうと、次々と策略を巡らせ邪魔や接触をして来て感化させていき、攻略対象者全員を巻き込んで次々と陥落させていく。

 いい意味でも悪い意味でも。

 それこそ、この世界から消されてしまうと言う程までに。

 それぐらい彼は激しくヤバイ。

 狂って居ると言ってもいい。

 ゲーム画面に写る最終章に入った時の彼の映像はただひたすらに恐ろしかったし、何よりその手口がグロかった。国の王子さえ手に掛けてしまい最後には王子とヒロインの腹を掻っ捌いて腸を取り出し、嗤って居たのだ。これ、夢に見るよ…。悪夢だよ悪夢。

 案の定ネットで「恐ろしい」「病んでる」等と散々書かれていたんだっけ。

 そんな彼だけど、幾つか回避する事も出来る。


 単純にヒロインが攻略対象者全員に接触しない事だ。

 意図してなくてもうっかり接触してしまうと彼は暴走するし、そうなると止められない。おまけにスイッチが入ってしまうと彼の常識の認識が変わってしまうのだが…。


 もう一つがアレスのみ攻略する事。

 これはかなり甘~い激アマな展開が発生するらしく、正しく「寵愛」「溺愛」になる。が、選択肢が難しいらしく間違えるとあっという間に「デッド オア アライブ」状態が発生する。全攻略対象者の中で最難関。おまけに最後の溺愛イベント(無理ゲーと有名な程に難しい)中で起る出来事で更に選択肢等を間違えると、彼の壊れた部分が露出して手足を全て落とされて逃れられなくされて幽閉される。

 そして数か月後。

 ヒロインが目を見開いて白目を剥いたままの状態で空を見詰め、切断面が壊死している様な様子で、そんなヒロインを暗い顔をしながら口元だけは実に愉快そうに抱くアレスのスチル。その周囲で騎士団の人々が驚いているって言う何とも後味が悪い絵面。

 あれ、多分ヒロイン逝ってるよね…。おまけにその時にアレスがしていた不正が発覚するとか記載されて居た。


 最後はヒロインが誰とも仲良く為らずに卒業してしまう、所謂友情系。

 このラストだけは比較的まともだけど、攻略対象者のその後が映像として流れる最中、彼だけはアレスだけは最後の最後文章のみが入る。


『お家断絶されました』と。




 ふと騒ぎの場をチラリと横目で見る。

 ゲームの攻略対象者は、えーと。



 第二王子様である、ユウナレスカ・アナジスタ様

 金髪イケメン甘い顔の青い瞳の彼。実は甘党。こっそり食堂で好物の庶民のおやつであるプリンを食しているのは何度も見掛けて居る。食堂のおば様方のアイドルである。


 御子息のアレス・バーンド様

 私が禿ろと呪いを掛けて居る相手。多分既に壊れてる気がするんだよなぁ。目付きとか怪しいし。後エロ助。私の胸を凝視するのは止めてくれ。


 騎士団の息子、ニキ・モイスト様

 何故か私の顔を凝視する人。ゲーム中だと無口で脳筋だったけど、気が付くとゲームと違って割と話して居る。やはりゲームと現実とは違うと気付かせてくれた人。



 魔法大臣の息子ケイン・ノスタルジア・ジアス様

 声が若干甲高い人。上記のメンバー内で一番身長が低く、幼く見える為にコンプレックスがある…とかゲームでは書いてあったけどどうなんだろう。


 このメンバーに居ないのは確か…


 ジン・アメイジング様

 ここの食堂に来た事がないから分からないけど、第二校舎に居ると言う隣国の偉い人の息子。偉い人って言うのは大臣だか何だったか記憶が無くて分からないから。おば様方に聞けば即解る気がするけど、私には特に接触が無いから必要無いかな。


 クリス・リストファー・クリスタル様

 この学校の保健室の先生。よくボサボサの頭で眼鏡を掛けて居る状態で彼方此方にぶつかる謎な視力の先生。理由は色の見分けが付かない視力障害と魔力が高すぎて視界を歪める為。それも波があってその時その時によって視界が変わると言うゲーム中ではそんな設定だった。現実はただのボサボサ頭の人で眼鏡は掛けて無かったけど。


 あと二人居た気がするんだけど、朧げで記憶があやふやで分からない。

 一応知って居る男性(嫌だけど長男次男の顔も)を思い浮かべてみるが該当対象者は居ない。姉の旦那って事は無いし(気の良いお兄ちゃんで結構好きだけど)、う~ん。


「レナちゃん、ヤバイよあれ」


「あ~…」


 バッチーンッ

 と乾いた音が鳴り、令嬢達がワナワナと…あれ?頬を叩かれた方の準メリーは一瞬驚いた顔をしてポカーンと口を開けてたけど、何事も無かったかの様ににこっと笑みを作って、


「ユリア様気が済みました?」


 って、こえーーーーーーっ!

 何事も無かったじゃ無かった!

 あり過ぎた!

 冷気が出てるーーーっ!

 幾ら準男爵と言えでも流石ヒロイン。規格外の魔力の桁持ちだった!

 瞬時に周囲の椅子や机が凍り付いて…っ


「ひ!」


「きゃあ」


「ぐああ」


 おば様方が慌てて厨房の大鍋で「この時の為に」と沸かしていた熱湯を勢いよく厨房に冷気が来る前に床に撒き散らす。ちょっと飛び散ったりして軽い火傷を負ってしまった人も居るかも知れないけど、激しい寒気やら冷気やらのせいで凍傷に陥るよりはマシ。凍傷になって腐って使い物にならなくなって、その部分を切断しないとならなくなるより遥かに良い。

 以前別の冷気持ちの魔力がある人のせいで一時期厨房が使えなくなってしまったり、周囲の人々が激しい凍傷を負ってしまったりしたので『貴族同士の喧嘩』が始まりそうになったら速やかに鍋一杯の冷水と幾つかの大鍋に熱湯を用意するのはココの厨房の必須になっている。


「全く何処の戦場だよ!」


 思わず叫んだおば様方は悪くない。

 私もそう思うし、あの準男爵令嬢の冷気は侮ってはいけない!


「レナちゃん後は任せた!」


「はい!」


 颯爽と厨房の凍り付きそうなドアに「私の」魔力をぶつけて冷気を飛ばす。

 ジュワァと言う音を立てて瞬時に氷は溶けて行き、そのドアを厨房に居るビビーネおば様が勢いよく開けてダッシュで飛び出していく。


「ビビーネ!出来たら主任以上を!」


「わかった!」


 薬缶やら鍋やら持った厨房の逞しいおば様方。

 一体どこぞの冒険者か勇者かと思ったが、エプロンを防具に身に付けた彼女等は間違いなく厨房のおば様方。更に今はこの事態を引き起こした者達に対抗できる唯一の戦士たちである…なんて、そんなもんじゃないけど。




「くぅ、このっ」


 あちゃ~ユリア様足がすっかり凍っちゃってるよ、あれヤバイんじゃないかな。あのままなら凍傷必至だ。


「やめないかアメリー!」


 おお?って第二王子の足も凍っちゃってるし。

 ユリア様に手を伸ばしてる辺り、準メリーに陥落しているワケじゃないのかも。

 確か第二王子の魔法って氷と相性が悪かった気がするけど、なんだったっけ?勿論ゲームとは違う可能性もあるけど。


「ユウナ様」


 あ~ユリア様も第二王子に手を伸ばしちゃってるよ。

 これ、やっぱり準メリーには陥落してないよね~。

 事態は深刻なんだけど、この二人お似合いですよっと。


「アメリー落ち着け!やめるんだっ」


 騎士団隊長の息子のニキ様が説得する様に声を掛けて居るんだけど、アレス…様。

 こわ…

 にや~と笑みを浮かべてる。

 明らかに一人違う態度だ。準メリー地雷に半分足突っ込んでいるんじゃ無いかな。

 でもおかしいな、私が覚えている乙女ゲームにこんなイベント無かったよね?私の記憶違いかなぁ。


「いい加減にしないかアメリー他の生徒に被害が出始めて居るっ」


 いや~生徒は兎も角、厨房にはもう甚大な被害が出始めてますよ?知ってますか?この場所の掃除するの私達なんだよ、ねぇねぇ面倒事を増やすな!


「それに」


 ニキ様が「あ、やべ」って顔をして此方を見ました。

 ふふ~気が付きました?

 私が凍って居る床を何事も無い様に徒歩で進んでいる事。

 そして私が歩く度にゆっくりと冷気が解除されて行っている事。


「お嬢様、失礼しますね~」


 と言った瞬間アメリー様の身体がグラリと傾いて床に崩れ落ちた。


「魔力御馳走様でした」


 私こう見えても身体能力アップと他者の魔力を無限に吸収する能力者なんです。それぐらいしか大した魔力は使えないんですがね。








 * * *







 厨房と食堂周囲を覆うように広がった冷気と氷を溶かして片付けていると、事態を聞き付けた『用務員のお兄さん』がやって来た。

 なんで用務員?と思うなかれ、彼こそは暇してるこの国の国王の弟の息子…なんだよなぁ。それなら公爵じゃない?って思うでしょ?でも彼5男坊で爵位がはっきり言ってない。そして性格もとても几帳面で真面目で職務に実直なんだけど、「用務員以外したくない」と言う大変な変わり者。そんな彼だからこそ嫁が中々来ないと言うもっぱらの噂なんだが、お貴族様は兎も角市井にいけばモテルモテル。今は"表向き"では爵位が無いとはいえ、かなりな御家柄のせいか相当お顔が良いんだよね。


 ちなみにおば様曰く、彼の兄弟の長男は後継ぎで次男は教会のお偉いさん、そして三男は隣国の公爵へと婿養子に行き、四男は…えーと冒険者って自由だな。で、彼も五男という事で好きな様にさせて貰っているらしい。

 時折親が様子を見に訪ねて来るらしくて可愛がられていると言うおば様情報があるんだけど、うちの職場のおば様達ほんっと情報通だな!下手な情報屋よりも詳しい。あれかな?昔何処かで読んだご近所のちょっと噂好きのおば様みたいにみえるけど、実は名探偵って言うヤツですか?あれ結構好きだったなぁって話逸れたわ。


「成程ね」


 私達が掃除している横で次々と当事者達(準メリーは魔力を根こそぎ吸い取ってしまった為に回復するまで気絶中の為に除く)から事情を詳細に聞き出し、用務員のお兄さんは次々とメモって行く。


「あの、アメリーは」


「魔力が無くなっただけだ。ま、あの準男爵令嬢にはいい機会だな」


「いい機会って」


 あ~アレス様が心配そうなそぶりで聞き出しているけど、なんとなーく怖いや。目がね、他と違うんだよ。顔付は心配そうなそぶりなんだけど、目付きだけが喜々としている。


「謹慎一か月ってとこだな」


「謹慎…」


 今度はユリア様が驚いた様に口を開けて居る。

 それより痛々しいから是非治療をさせて欲しいとウチの厨房の治療魔法が少しだけ出来るおば様が問答無用でユリア様の足を持ち上げて治療しているのがスゴイ。あれ、荒業だよね。令嬢の許可等無用って感じで問答無用でガバッて足を持ち上げたから。

 多分正面にいたユウナレスカ様や詳細を聞き出していた用務員のお兄さん辺り、下着が…あ、見えないか。凄いな~ユウナレスカ様。咄嗟に用務員のお兄さんの目を手で隠したよ。動きが機敏だな。そして自分は…数秒凝視して、慌てて『私達』のジト目に耐えられなかったのか目を逸らしたよ。見たね、ユウナレスカ様。

 責任とってユリア様を娶れよゴラァ。

 とは口が急けてもイエマセン。

 そしてそのユリア様と言えば治療の手際に注目をしていて気が付いて居ません。

 割と鈍感だねユリア様。

 ちなみに私は白いドレープが見えました。フ、役得です。女だけどあんな御綺麗な下着にドレス、是非一度は着てみたいです。まぁ無理なんだけど。


 しっかし謹慎と告げられてユリア様は黙ってしまいました。

 責任を感じたのかな?確かに最初に手を上げたのはユリア様ですが、でも常識的に言って下位の者がやって良い事と悪い事があるわけで。その辺は真面目にお貴族様の御嬢様の教育をされてないので残念ながら私にはわからないんですよ。


「(レナちゃん、食堂の方はもういいわ。それより厨房の方お願いできる?)」


「(わかった、そっち行くね)」


 粗方食堂に残って居る準メリーの魔力は吸い尽したので徐々に氷結が溶け出している。

 基本この国の人が持っている魔力と言うのは少し異質だ。

 通常この星の精霊が居る国だとまた違った質があるらしいのだけど、この国の特に貴族の出だとその人が生きている限り、またはその場から魔力を排除しない限り何時までもその場に残る。何故なのかは分からないが、昔からこうなっている。

 ある人は精霊に見放された地だからだと言う人も言うし、その逆である精霊が居なくてもやっていけると思われているからという意見もある。

 どちらかは私には分からないしそう言うのは学者等のお偉いさんが研究しているらしいので、そう言った人に任せればいいと思う。

 それは兎も角。

 塵取りと雑巾を手に持ち、厨房の方へ足を向けると、


「君はちょっとコッチへ」


 何故かお貴族様で騎士団の団長の子息、確かニキ様に背後から襟首を押さえ付けられてしまった。








 * * *








 首根っこを掴むなんて猫の子じゃないんです。

 むすっとした顔でそう訴えると、


「丁度いい状態で捕まえられそうだったからな」


 と。オイコラ其処の子息っ!

 剣呑な目付きになってしまうのは自業自得だと知れ。

 そして何故用務員のお兄さんまで付いて来たかね?

 物見遊山なら余所へお願い致します。


「一応君からの聞き取りもしないとならないしね」


 むぅ…良いけど。


「あの準男爵令嬢の魔力を根こそぎ奪ったのは君だね?」


「はい」


 正直に返事をする。どうせ違うと言ってもあの場の状態を見れば一目瞭然だろう。何せ魔力で凍った床が私が歩くだけで全て魔力が消え去って行くのだから。


「それは常時発動出来るのかい?それとも故意で?」


「…?」


「レナ、その能力はコントロール出来るのかどうか聞いてる」


 ニキ様がそう言うけど、何と答えるべきか。

 と言うか私名前名乗って無いのだけど、何故知っている?

 ええいままよ、正直に話すか。


「『あの程度』ならコントロールして吸収出来ます」


「アレをあの程度とな…」


 あ、もしかして失敗した!?

 確かにあの準メリーの能力は結構高い。

 だが準メリーの能力をDとするなら、私の能力はA。Aのが高いという事は一目瞭然だ。


 準メリーの能力的にはコントロールが大雑把過ぎてまともに出来て居ない、そのせいで幾ら膨大な魔力でも『無限』に吸収出来る私には無意味。多少抵抗しようとしても今回みたいに不意を突いてしまえば通用しないし、私の場合抵抗しようとする魔力ごと吸収してしまうので意味は為さない。


「君は幾つだね?」


「…?13です」


「入学させるには後1年か」


 何だか私をほっといて、用務員のお兄さんとニキ様の二人で話し込みましたよ。


「何とか今年度中に魔術科に入れられないかね」


「年齢が…」


「貴族なら魔力持ちという事で多少早めに入学させる事が出来るのだがな」


「いっそ養女にでもしますか?」


「それは良い案だな。父と叔父にでも相談してみるか」


「出来ましたら我が父の騎士団団長にも。出来たら彼女は我が父が勤めている騎士団にて魔術師の対策に是非とも欲しい」


 何だか私抜きの話で盛り上がってますよ。


 ここは私の前世でプレイしていた乙女ゲームに似て居て。

 でも酷似しているだけでそのままって事は無いようで。

 だって、『モブでも無い』『名前さえ出て来ない』そんな貧乏貴族の男爵三女で、しかも虐げられた実家から家出したお陰で今は偽名を名乗って居る只の小娘で。

 そんな小娘がどうやら舞台に上げさせられてしまいそうで……


「さぁレナ、覚悟しろよ?」


 ニヤリと笑ったニキ様に、不覚にも心臓が飛び跳ねたのは何故なんでしょうね。


5/19 辟易修正。

メールでの指摘有り難う御座いました。

恥ずかしくてベットの上で「のぁぁああ~(´д`|||)」と転げ回りました。


12月19日修正

降格から臣籍降下へ変更。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ