表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能の器と忘却魔法  作者: 昏月 うつろ
第1章 万(よろず)と始(はじめ)
2/3

万(よろず)と始(はじめ)

すべてのことには始まりがある。それは永遠に続くものがないという当たり前の話なのだが私が(よろず)と出会ったのは完全に事故だった。


「いたぞ!奴だ!」

「多少怪我させても構わん!他の組織に奪われる前に確保しろ!」

街中で突然男たちに囲まれたと思えば訳の分からないことをいわれどうやら隣の青年の巻き添えになったことだけはなんとなく呑み込む。しかし、この青年は驚きこそすれなんでこの状況になっているのか全く身に覚えがなさそうだった。

「うーん?俺って何かしましたかね?」

「……わ、僕に聞かれても困る」

「あはは、そりゃあそうだ。けれど目の前のおじさんたちは話し相手になってくれそうにないからねぇ」そういいながらお茶を啜る青年に私はちょっと感心しながらも巻き込まれないためにこの場を離れるかこの青年を助けようと頑張ってみるのか迷う。特別喧嘩が強いわけでもない私がでしゃばるのはよくないのは重々承知の上だがこの青年、どうにも気になるのだ。

「何をごちゃごちゃ話してやがる!お前らやっちまえ!」男たちの一人が語気強く命じると応、と周りの男たちが次々に刃物を取り出す。ひやり、と私の中で警鐘が鳴る。

「ふむ、どうやらこちらの人たちは敵のようだね。」ここにきてようやく青年も危機感を持ったようだった。だが残念なことにそのまま何かを思い出そうとするように目を閉じてしまい、今まさに襲われようとしてるのにあまりにも無防備だった。私は咄嗟に青年を突き飛ばし、「何してるんだ!早く逃げて!」と叫んだ。青年は少し驚いた様子で私を見た後、何故かにっこりと微笑んでみせた。

「君、気に入ったよ。名前はなんていうんだい?」

正直な話、この状況で名前をきいてくるなんて馬鹿じゃないのかと思った。

私が絶句してる間に男たちは青年を囲み今度こそと刃物を振り回す。男たちの輪から外れた私は今度はみていることしかできなかった。

「えーと、なんだっけな。なんとなく思い出したけど名前が出てこない。」この期に及んで青年はまだ何かを思い出そうとしていてもう駄目だと思ったその時、文字通り、男たちが宙を舞った。

「な、なんだと!?」途端に狼狽える偉そうな男。

「やっと思い出せた。〈忘却魔法 旋風の舞〉」

青年のその言葉と共にもがいてる男たちには目もくれず偉そうな男に対峙する。

「俺の忘却魔法を受けたくないならこいつら連れてとっとと失せるんだな」

「お、覚えてろよっ」少し顔色の悪くなった偉そうな男が起き上がった仲間の男たちに引き上げるぞと声をかけて帰っていく。私はさっきまでピンチだった状況からの逆転に少しぽかんとしてから強いんだったら最初から本気を出せと言いたかった。

「君、大丈夫かい?よかったら名前を教えてくれると嬉しいんだけど。いつまでも君のままじゃ不便だからね」そういって青年は私の機先を制して手を差し出してきた。私は言おうと思っていた言葉を飲み込んで手を借りて立ち上がる。

「ありがとうございます。わ、僕は(はじめ)っていいます。あなたは?」

「始か、いい名前だね。俺の名前はちょっとど忘れしちゃってね。君がつけてくれると嬉しいな」

自分の名前をど忘れしてるって人をみたことがなければ自分に名前をつけてくれって人をみるのも私は生まれて初めてで思わず絶句してしまったのだった。


~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~


「あなたって何ができるの?」と青年にきいたことがある。初めて出会った時も男たちを返り討ちにしていたし行動を共にすると度々耳にする忘却魔法。どんなものか私自身興味があった。

「んー何ができるかというと何でもできる、かな?」

「そんなに忘れっぽいのに何でもできる?」

「あはは、始ちゃんは痛いところ突くなあ。けど忘れっぽいのは忘却魔法の弊害なんだよ」

「弊害?」

「俺は万能の器って呼ばれていていってしまえば〈すべての才能に恵まれている〉。ただその才能を活かすためには人の人格や性格、記憶っていうのは枷にしかならなくてそれだけだと人格や性格に合った才能しか活かせないんだ」

「ちょっと待ってすべての才能に恵まれているってどういうこと」

「例えば手先が器用って才能があるとするとその才能を持っている人は手先が器用になる。勿論その才能があれば熟練の人の技を苦もせず使えるって訳じゃなくて最短の苦労で成果を出せるって意味だよ。けどその才能も手がろくに動かせない人が持っていても活かすことができない。私の万能の器はすべての才能を活かすことができる身体ですべての才能に恵まれている。やろうと思ったことに対して最短の苦労で身につけることができる。それが万能の器の概念だ。」

「つまりそれがあなたが襲われている理由?」

「まあそういうことかな?けど彼らが考えているのは忘却魔法との併用だろうね」

「忘却魔法」

「さっきもちらっといったけど万能の器を活かすためには人格や性格、記憶が邪魔になるんだ。それがあるとせっかく才能があっても自分から才能を狭めることだってあるからね。行動選択が限られてしまうのは万能の器としては不本意な訳。」

「せっかく才能があるのに自分から狭めることなんてあるの?」

「よくあることだね。例えば人助けを今まで生き甲斐にしていた人にある時人殺しの才能が目覚めたりする、そうなるとその人は今までの生き方を変えられないからその才能を自分から殺してしまうんだよ。だから忘却魔法でそれらを忘れて必要な時に必要な人格や性格、記憶を呼び出す。それが俺の考えた忘却魔法だよ」

忘れっぽいけどねと青年は話を締めくくる。そういいながらも笑う彼はどこか寂しそうにみえて私は初めて会った時に名前を決めてといわれたことを思い出した。

「決めた。あなたの名前は(よろず)でいい?」

「おや、名前をつけてくれるなんて嬉しいなあ」

どうやら万という名前に不満はないようだった。

「じゃあ改めてよろしく」

「こちらこそよろしく」


~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~


万のごたごたに巻き込まれた私は一先ず落ち着けるところで話をしようと提案されて私の家まで案内することになった。

「いやー悪いね、俺は一文無しでこの街に来たみたいで」そういいながらからっぽの小銭入れをひらひらと振ってみせる万は悪いという割には全く悪びれた様子がなかった。私としては巻き込まれたことといい文句のひとつもいいたかったところだが、悪気のなさといい人懐っこさといい無邪気といっていいぐらい自然な万をみているとなんだか文句をいうのも馬鹿らしい気がしてため息を吐いた。

「ため息なんてついてどうしたんだい始ちゃん?」

「なんでもないです、それより始ちゃんっていうのやめて下さい」

「いいじゃないか、女の子なんだし」

「よくないです、僕はかっこいい男の子を目指してるんですからちゃん付けはおかしいです」

「んー、確かに髪短いし目付きもちょっと悪いけどそれ以外は可愛いと思うんだけどなあ」

万に可愛いといわれて思わず背筋がぞわっとする。

「……その、苦手なんです。可愛いっていわれるの」

「苦手か、それならしょうがないね。忘れなければ気を付けるよ」

「忘れなければって……」

「あはは、忘れっぽい性分でね、どうしても忘れちゃうことがあるんだ。」

そうなったらごめんねと万は笑う。その笑いに少しだけ寂しさみたいなものを感じて私は言葉を返すのをやめた。私にも可愛いといわれたくない過去があるように万にも忘れることに関して何かしがらみがあるのだろうと察したためだ。

「それはそうと君はここで一人で暮らしてるの?」

万が家をきょろきょろと見回しながらきいてくる。私は話題が変わったことに少しほっとして万の質問に答えることにした。

「ここで暮らしているのは私だけです。父も母も今はもうここにはいません」

「ふーん?それにしては広い割にはずいぶん綺麗だね。まるでちょっとしたお屋敷みたいだ」

「なんで綺麗なのかはここで暮らしてる私にもわかりません。ただこの家は街の人から〈幽霊屋敷〉って呼ばれています」

「幽霊屋敷、ね」そう繰り返すと万はすっと目を細めた。

「何かあるんですか?」

「いや、なんでもないよ。それよりおいしい果物があるんだ。よかったらご馳走するよ」そういって万は鞄から黄色い果物〈メピーロ〉を取り出す。

「それはメピーロ!?」

メピーロといえば王宮貴族が好んで食べるこぶし大の果物だ。その甘さは果物の中でも郡を抜いており、メピーロが買える家は上流階級の仲間入りといわれるほど高価なものだった。勿論、街の市場でもおいそれと売り出しているようなものではなく私は思わず生唾を飲み込んだ。

「メピーロっていうのかい?」そういいながら万は私に向かってひょいと放ってみせた。

慌てて受けとる私をみて万は無邪気に笑っていて。

「……メピーロを他の果物みたいに投げるな!」

私は万にメピーロが如何に貴重で庶民の手に入らないものなのか、そのメピーロを他の果物みたく投げるとは何事かと小1時間に渡り説教した。

その説教を受けて「なんでそんなもの無一文の俺が持ってるんだろう」とかいっていたがこっちが聞きたい。


~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~

万に説教を終えて謎のメピーロは丁重にお返しすることにした。メピーロなんて食べるのは庶民の私には恐れ多いしそれで舌が肥えてしまって他のものがおいしく食べられなくなるのも困るし、無一文の万から高価なものを受けとる訳にもいかないと思ったからだ。万も説教が身に染みたのか食べようとは思わないらしくメピーロを売れるところを探すことになった。

「いやー悪いね、始に案内ばかりさせて」

「ここに初めてきた万があちこちいっても迷うだけだと思う、それに僕も闇市は詳しくないし、場所をなんとなく知ってるぐらい」

「闇市か、どんなものが売られているんだい?」

「こんなもの欲しがる人いるのかってぐらいよくわからないものからメピーロみたいな庶民に届かないものまで幅広く売られている、らしい。買うのはお金さえ払えば何でも買えるしいわくがあっても大概買い取ってもらえる、らしい」

「なるほどね」

「万は闇市とかいったことあるの?」

「あるかないし覚えてないしもしあっても忘れてるからあんまり関係ないな」

「そんな忘れてることを自慢しなくても」

「あはは、まあ物は試しでいってみよう」


闇市に着くとやはりそこは普通の市場と雰囲気が違って訳ありっぽい人たちや暗い雰囲気の人たちがちらほらとみられた。そんな中でも臆することなく闇市の売り物を物色する万の無邪気な様子は、あからさまに目立っていた。


~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~


万に説教を終えて謎のメピーロは丁重にお返しすることにした。メピーロなんて食べるのは庶民の私には恐れ多いしそれで舌が肥えてしまって他のものがおいしく食べられなくなるのも困るし、無一文の万から高価なものを受けとる訳にもいかないと思ったからだ。万も説教が身に染みたのか食べようとは思わないらしくメピーロを売れるところを探すことになった。

「いやー悪いね、始に案内ばかりさせて」

「ここに初めてきた万があちこちいっても迷うだけだと思う、それに僕も闇市は詳しくないし、場所をなんとなく知ってるぐらい」

「闇市か、どんなものが売られているんだい?」

「こんなもの欲しがる人いるのかってぐらいよくわからないものからメピーロみたいな庶民に届かないものまで幅広く売られている、らしい。買うのはお金さえ払えば何でも買えるしいわくがあっても大概買い取ってもらえる、らしい」

「なるほどね」

「万は闇市とかいったことあるの?」

「あるかないし覚えてないしもしあっても忘れてるからあんまり関係ないな」

「そんな忘れてることを自慢しなくても」

「あはは、まあ物は試しでいってみよう」


闇市に着くとやはりそこは普通の市場と雰囲気が違って訳ありっぽい人たちや暗い雰囲気の人たちがちらほらとみられた。そんな中でも臆することなく闇市の売り物を物色する万の無邪気な様子は、あからさまに目立っていた。

「おっちゃん売りたいものがあるんだけどいいかい?何かここで買っていくからさ」

「チッ……面倒事じゃねぇだろうな?」

万に声をかけられた闇市の商人は迷惑そうな様子を隠そうともせず万を値踏みする。

「大したものじゃないんだけど普通に売ると余計な勘繰りされると思ってね」

そういいながらメピーロを何気なく1個渡してみせる。

「ほう、中々の上物だな。どこで手に入れた?こんなところではメピーロあるところなんて隣街の王族がいるとかってお屋敷ぐらいじゃないか?盗みでも入ったか?」

「いやーそれが何で持ってるのかわからなくってね、少し気味が悪いから売ろうと思って、俺みたいな庶民が持ってて怪しまれるのも嫌だし」

「だからって闇市に持ってこられても俺らも怪しいと思うし面倒事の臭いがぷんぷんするけどな」

「あはは、これを売ったら数日以内にはこの街も出るし果物だから腐る前にってところかな。買ってくれないなら買ってくれないで普通に食べるさ」

「メピーロを普通に食べるってどんだけのお坊ちゃんだよ……しゃあねぇ、買ってやるけどメピーロは需要があんまないからな、安いぞ?」

「別に構わないさ、こういうのは持ちつ持たれつだろ?」

「全く、変な客だな」

安いといいながらも1ヵ月ぐらいは遊んで暮らせそうなお金を渡され、万は最初にいった通りおっちゃんの店で適当に買い物をすると来るときとは逆に他の店を物色することなく一目散に闇市を出ていった。後で訳をきくとお金を持っている客がぶらぶらしてたらスリにあうからだそうで意外としっかりしてるんだなと思った。忘れっぽさと用心深さは関係ないのかもしれない。

ただ、この後私の家に帰ることはできなかった。帰り道で偉そうな男に見つかってしまったからだ。


~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~


偉そうな男が現れたのは闇市からの帰り道、人通りのほとんどない裏道でのことだった。

「やれ!」目の前に姿を現すと同時に命令を下し、即座に手下の男たちが万へと攻撃を始める。これには万も対応しきれないようで距離をとろうとするも四方からの攻撃を避けるのに手一杯で現状を打開できないようだった。今は闇市で仕入れた荷物も担いでいるのでそれも万に不利に働いているのだろう。私も一緒に戦おうと思ったが万も男たちも手慣れているようにみえて、武器もなしに突っ込むのは愚策と思われた。なので戦闘に参加せずにじっと万を観察している偉そうな男に対峙する。

「偉そうに命令してるけど何が目的なんだ」

「ふん、用事があるのはあの男だけだ。小僧は黙ってろ」

「その小僧一人黙らせられないのにずっと偉そうにしてるのか?」

「……小僧、口に気を付けろよ。俺をそこら辺のちんぴらと思ったら痛い目にあうぞ」

「口だけ達者なのはどっちだろうねぇ」

殊更気に障るように小馬鹿にする。案の定偉そうな男もその手下たちも意識がこっちに向き、若干万に余裕が戻ってきたように見受けられた。このまま時間稼ぎをして忘却魔法さえ発動すればまた逆転のチャンスがある。

「痛い目にあわなければわからないようだな……とでもいうと思ったか?」

偉そうな男がにやり、と笑う。

「小僧のあからさまな挑発に乗るほどこの俺は安くない。時間だ、やれ」

偉そうな男が手下に合図すると同時に万の死角にいた男がすかさず万の頭を殴り付け、昏倒させる。倒れた万を他の手下たちが抱えあげると突然馬車が走ってきて万だけを馬車に乗せるとほぼ立ち止まることなく馬車が去っていった。私はあまりの急展開に驚き、最初に巻き込まれたいざこざから半日と立たずにここまで準備する相手に舌を巻いた。どうやら本当に舐めてかかってはいけない相手のようで偉そうな態度と何ら遜色のない手腕だった。

「じゃあな小僧、お前のお陰であの男の注意を上手く逸らせた」

その言葉と共に撤退を始める男たち。私は万を追うこともできずその場に立ち尽くすしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ