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壊し屋アモン  作者: イナナキゴロー
壊し屋アモン
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バスト

巨躯の女マシラ。


監獄離島からの脱獄をへて彼女は今、

カッパービーチ脇のお洒落なカフェテラスにいた。


調達したドレスに身を包み、さきほど自分で作製したカフェラテを

飲んでいる。


避難措置が取られ彼女以外人気のなくなった街は、

さながら彼女の所有物のようだった。


そこへアモンが現れる。


屈強揃いで名を馳せるパレナ警察の猛者たちさえ歯が立たない

超規格外な暴力装置マシラを捕獲しにきたのである。


アモンの姿を認めたマシラはゆっくりと立ち、

口角を上げてにたりと笑った。


「待ってたわ…」


「噂はかねがね♪」


マシラにアモンとの面識はない。


だがマシラはアモンの到着を待っていたのだ。

投獄された屈辱、長い拘禁の苦痛、男社会であるパレナへの反発。

その他もろもろの感情をぶつけるに相応しい強靭な復讐相手を。


直後、雷光のように動いたマシラは、脇の設置型ベンチを片手で引き剥がし

それでアモンを殴りつけた。


木と鉄製の枠で作られた100kgはあろうかというベンチ。

これで強かに殴られたのだ。

常人であれば昏倒どころか、即死クラスの衝撃だろう。


しかしアモンは、リラックスポーズでそれを受け、微動だにしない。


「あはっ♪やるじゃんあんた!」


マシラは続けざまに拳足でアモンを襲った。

当たればコンクリートブロックさえも砕く拳である。

決まれば電信柱さえも、へし折る蹴りである。


その、さながら暴風雨のような連撃は次々とアモンへと

繰り出され、そのすべてがヒットした。


しかし、アモンは動じなかった。


かわせないのではなく、さばけないのでもなく、

単純にかわさないのだ。つまり彼にとってマシラのこの一連の攻撃など

かわす必要さえもない微風のようなものだった。


「くっ、舐めるんじゃない!」


アモンの尋常ではない頑強さに焦るマシラが繰り出したのは

目突きのフェイントからの金的蹴り。


目つきの対応で生じる隙を狙った本命の金的である。

まだ彼女が幼く非力であった時代の得意技。


大変強力で効果的な技ではあるが、言い方を変えれば

少女時代の技を繰り出さなければならない事態にまで追い込まれている

ということであり、この時点でアモンとマシラの実力差は決定的であった。


「…ウッ!?」


金的を放ったマシラの動きが途中で止まる。

アモンが右の手に握っているものが何かを認識したからだ。


アモンが握っていたのは左の胸。マシラの乳房。

それを万力のような力で締め上げたのだ。

男勝りな女マシラもこれには思わず声をあげた。


マンモグラフィー検査というものがある。

乳房に異常が無いかを診断するために、透明な板で乳房を潰す

検査方法なのだが、激痛のため2回目の検査を躊躇する女性も多いという。

それほどまでに痛覚が集中している箇所、それが女の乳房である。


「きゃあああああああッ!!」


まるで生娘のような悲鳴を上げ痛がるマシラ。

それは許しを求めた懇願。

どんな気弱な男でもしない媚の悲鳴。そしてそれはマシラの限界でもあった。


「わ!わかった!私の負けッ!だからもうやめてよお!」


すべての動作、行動を左の乳房を抑えられたことにより封じられているのだ。

降伏以外に方法はなかった。


痛がるマシラを解放するアモン。

直後、マシラは、下卑た笑みを浮かべアモンに組み付く。

手には、さきほど拾ったトレーが握られていた。


「これだから男は扱いやすくて助かるわあ♪」


「ソフトリィ&ウェットリィ《やさしく たおやかに》…」


「これぞ、必殺ッ」


音速掌打(ソニックショット)ッ!!!」


奇襲に成功したマシラは、アモンに向けて切り札を放つ。

辺りに響く爆音と衝撃が周辺店舗の窓ガラスをことごとく割った。


…が、アモンは山のように動かない。

音速のスピードで放たれた掌打である。

さすがのアモンでもまともに受けて無事で済むはずがない。


そうアモンは、獣の勘で危険を察知し、雄の本能で音速掌打が突き込まれる前に

己が腰を高速で突き込み真空の間合いを潰したのだ。

これにより衝撃はほぼ相殺、霧散し事なきを得た、というわけである。


「な…ば、バカな…ひぃ!」


切り札を防がれ、腰砕けとなったマシラは

なすすべもなく地面を引っかいて逃げた。


それを許すアモンであろうはずもなく、

後ろから組み伏せられ、攻められた戦士マシラは

もはや、ただの女と成り果てていた。


数日後、監獄離島の一室にマシラの姿があった。

表面に深いくぼみを刻まれた強化ガラスに囲まれながら。


手には筆を持ち、どこか恍惚の表情を浮かべている。

そんな彼女の書いた半紙には"雌伏(しふく)"と書かれていた。


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