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壊し屋アモン  作者: イナナキゴロー
ロリュー争乱編
57/78

ブレイブ ☆

挿絵(By みてみん)

【使用素材】

GATAG <http://free-illustrations.gatag.net/>

その他

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ケイヤ南西部にその男はいた。

極度に発達した前腕が特徴的な男である。


彼の名はドイ・タツェーレン。

第4特務部隊の凶人まがつびとである。


巨凶として知られる第4特務部隊の隊員は

元々は"普通"の性質を持つ人間であった。


だが禁忌の薬物ナノプローブの注入により

特異な能力と引き換えに人間性を著しく

失ってしまったのだ。


彼らはまだ幸運な方である。

被験者の5割は数ヶ月以内に死亡し、残りの5割は

現在も酷い後遺症に悩まされているからだ。


1割にも満たない稀有な成功例。

それが彼ら第4特務部隊のメンバーである。


その中でも彼は稀有な経緯を持つ男であった。

ほぼすべての被験者が軍人であり、上層部からの命令で

否応なく被験者になったのに対し、この男は民間人でありながら

自ら望んでナノプローブを受け入れた男。


時は前王フバームの治世。

闇の人間からのつてで現在では禁止されている

ナノプローブの投薬試験を知ったドイは

自ら志願して実験に参加したのだ。


理由は"より楽しむ"ため。

彼は殺人者であった。

己の快楽のために老若男女合わせて500人もの

市民を殺してきた殺人フリーク。


公にはされていないが、惨殺者Xとして

警察にマークされながらも政治的事情で

連続殺人の事実事体が闇に葬られていた。


そんな男が求めたのは、より長く、より楽しむための強靭な肉体。

そのためならば命を賭けることもいとわなかった。


そして彼は手に入れた。

紛うことなき、災厄の肉体を。


現在、彼はお楽しみ中であった。

先刻、街で遭遇したパレナの支援部隊を強襲し

逃した女2人をこの建物内に追い込んだのだ。


支援部隊は今だ市内に取り残されている人々を

保護するためにパレナより派遣されてきた部隊だ。

バザムサイドにもその旨を伝えてあり

入国の許可も得ていた。


その兵士たちをバザム配下の兵士であるドイは襲ったのだ。

彼に道理は通じなかった。


ドイの目の前には小鹿のように震える丸メガネをかけた

少女がいた。支援部隊の隊員である。

片足はドイによって逃げないようにくじかれていた。


大粒の涙を流し、声も出せないほどに怯えている。

目の前の男が仲間をその禍々しい膂力で引き裂く所を見ているのだ。

無理もないことであった。


彼女にドイはやさしく話しかけた。

そして質問する"何故、兵士の持つライフルの口径は小さいのか?"と。


銃は口径が大きいほどその威力を増していく。

より大きな弾丸を使用できるからだ。

では、何故、兵士のもつ銃の口径は控えめなのかという質問だ。


答えは、なるべく殺さないため。

戦場では死者よりも負傷者が出る方が、その処置に人員が裂かれ

相手側の損失が大きくなる。


さらに、負傷者を運ぶために寄ってきた

兵士を撃つこともできる。

殺さないことのメリットは計り知れない。


ドイもそのことを当然知っていた。

知っていて彼女にそう質問したのだ。

彼女の末端をこれから少しづつ引き千切っていくという

彼流の宣言である。


もしかしたらこの建物内に逃げたもう一人も

負傷した彼女を哀れに思ってノコノコ出てくるかもしれない。

出てこなくても、追う楽しみが増えるだけだ。


ドイは口角を挙げ狂気の笑みを浮かべた。


その現場を少し離れた倉庫内の小窓から見ていた者がいた。

もう一人の支援部隊兵士レイベッカ・アードルトンである。


彼女は涙していた。

これから自らの身にも訪れるかもしれない痛みと死の恐怖で。

そして親友の危機に何もできない悔しさで。


あの男がこれからするであろう凄惨な行為を止める術がないのだ。

ここから出て行く勇気もなかった。

ここに隠れていれば助かるかもしれないというかすかな希望を捨てることなど

彼女にはできなかったのだ。


恐くて、情けなくて、止めどなく涙が出た。

あれは人の死ではなかった。

死とはもっとおごそかなものだと思っていた。

だが違う。あれが現実。

あれが戦争。


自分はこんな場所で死にたくはない。

あんな死に方はしたくはない。

たとえ誰を犠牲にしようとも絶対に。


そう思えば思うほど、涙が止まらなかった。

もう、親友の姿も見ていられない。

彼女は、絶望と混乱の中、うずくまる。


と、その時、彼女はある"モノ"を見つけた。

彼女の視線の先にある巨大なモノ。


ここはバザム軍の軍事拠点の一つである。

ギー軍の残党に強襲されて廃墟同然の姿になってはいたが

当然、コレが無傷なまま残されていても不思議はない。


だが、彼女は運命を感じた。

何か見えない力の影を感じたのだ。


そしてその思いが彼女の体に力を戻し、

彼女の心に勇気の炎を灯した。


そして立つ。

十数秒後、彼女はドイの前にいた。


友を助けるため。部隊の仲間の仇を取るため。

そして巨凶の存在を前に踏みにじられた

自身の人間性のため。


彼女はここで命を賭ける。

次回、レイベッカvsドイ。


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