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壊し屋アモン  作者: イナナキゴロー
ロリュー争乱編
55/78

ハート ☆

挿絵(By みてみん)

【使用素材】

GATAG <http://free-illustrations.gatag.net/>

アンデッドとか好きだからーーーッ!!!<http://lud.sakura.ne.jp/>

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女の高速度で振り回される鉄球が

花火職人の倉庫を直撃し中の花火に引火。

辺りは騒然となる。


ユアン・エーツキャコフ。

第4特務部隊に所属するロリューの軍人である。

そして狂人揃いで知られる第4特務部隊の中でも

指折りの凶人まがつびと


殺した非戦闘員の数は100を超え

一度、戦場に出れば、敵味方関係なく殺しまわる姿は

全兵士の畏怖の対象となっている。


さらに夫と子供も戯れにその手にかけており

その異常性は他に例をみない。


よく振り回せそうだからとの理由で

腕と足に鎖を通しており、振り回すたびに大量の血を撒いて

戦い続けたことから夜叉の呼び名がついた。


そんな女が振り回す鉄球。破壊球とでも形容すべき

鉄のドームがミーチャに迫っていた。


そのリーチは、およそ6m。

後ろまで入れるなら直径12mの巨大な半球であった。


触った瞬間その部分が吹き飛ばされるだろう。

一発たりとてもらうわけにはいかない。


ミーチャはユアンの腕の動きを注視した。

たとえチェーンと鉄球の動きが見えなくても

その動きは腕の動きに現れる。


どんなに速くとも

けっして見切れないわけではない。


問題は髪で操っている鉄球の方である。

首での誘導に加え、どういうわけか髪そのものが

生き物のように鉄球の操作を補助していた。


そのため鉄球の動きが不規則で読みづらい。

しかし、ミーチャは注意深く観察し

鉄球の動きのパターンをすべて憶える。


そして動く。

迅速にかつ冷静に。

無駄一つない動きでチェーンをかわしていく。


すべるような軽やかさでミーチャは破壊球の

殺傷圏内に入っていった。

拳足の間合いまで後少しという所でユアンが動く。


蹴りだ。変則的な鋭い蹴りで

接近してきたミーチャを向かえ打ったのだ。


中、遠距離技の破壊球をメインに戦うスタイルのユアンは

当然、内側に入られることを好まない。

そのために多数の鉄球を用いて、動きを読まれないように

している。


だが、接近された際の対応も準備していた。

それがこの蹴りと足につけられた鉄球である。

他の鉄球よりもチェーンを短くして取り回しを

よくしてあるのだ。


ただでさえ動きが限定される破壊球の中で

蹴り+遅れて飛んでくる鉄球はかわしづらい。

その上、左右の二段蹴りである。


合計4回の変則波状攻撃。

たとえ破壊球の動きを見切った達人クラスの者でも

かわせない必殺の備え。

事実、ユアンは数多の猛者をこの技で屠ってもいる。


だが、ミーチャの見切りはその数多の猛者を超えていた。

軽々と波状攻撃をかわすと己の間合いに入る。


これもロリューの新兵時代の指導教官であるザケルのおかげであろう。

彼から彼が忍びの技を元に創始した予測術のコツを伝授されていたのだ。

もっとも、神域の技と称される彼ほどに見切れるわけではないが

それでもこの鉄球をかわす程度には十分であった。


ミーチャはユアンの足の

甲利こうり草陰そういんという二箇所の急所を踏み抜いた。

この2箇所を神経節に沿って踏み抜くと人は反射的に

伸び上がった姿勢になる。雷光という裏の技だ。


人の打撃耐性は無意識に取る姿勢からの

力の受け流しにある。


前から後ろへ。横から横へと衝撃を

受け流すことができるように人体構造が組まれているのだ。


だが雷光は強制的に姿勢を変え、その耐性を奪う。

つまり、これから繰り出される攻撃の威力を

緩和することができないということだ。


だからこそ、この技が決めやすい。

ミーチャは渾身の右ストレートをユアンの胸部にお見舞いした。


ハートブレイクショットという

心臓震盪を狙った殺人技である。


打つタイミング、間合い、打突箇所ともにシビアであり

少しでも狂えば思った効果は出ない繊細な技。

しかし、雷光直後の無防備な状態ならば

ほぼ確実に心臓震盪を誘発できるのだ。


だが今回彼女が狙ったのはそれ以上。

全身の白筋をフル稼働させた全力打撃での心臓破壊。


凄まじい音を立てて胸部にめり込むミーチャの拳。

大量に喀血し仰向けに倒れるユアン。

戦いは終わったのだ。


正直ここまでする必要はなかった。

心臓震盪でも十分に倒せた相手であろう。

命を断つにしても無駄に陰惨な姿に変える必要はない。


しかし、ミーチャはこのユアンに言い知れぬ恐怖を感じていたのだ。

ここまでの技でなければ倒せないと思うほどに。


ミーチャは己の未熟を恥じた。

そしてゆっくりと拳を下ろす。


その時、ユアンの腕が少し上がった。

死後の痙攣というレベルのものではない。

明らかに意思のある上げ方だ。


ありえない事である。

たしかに心臓を貫いていた。


心臓を破壊されて動ける生き物などこの世に存在しない。

一瞬、頭が真っ白になるミーチャ。


その隙を突き、ユアンの片手で誘導された鉄球の一つが

ミーチャの左の乳房に深々と刺さる。

加速は不十分であったがアバラを何本か

折るには十分な威力を持っていた。


以前にも痛めたことがある箇所である。

古傷を突かれ、痛みで怯むミーチャ。


しかし、ミーチャは即座に体勢を立て直し

後から振ってきた鉄球をかわす。


その姿を尻目にゆっくりと体を起こすユアン。

目は血走り、殺気をほと走らせている。


口からは大量に出血し、胸の穴からも血が出ていた。

だが、戦闘行為にはまるで支障がないようだ。

再び鉄球を操り始めた。


その姿はまさに死肉を求めさ迷う夜叉。


左胸を押さえながら間合いを離すミーチャ。

この不死身の化け物を倒す算段もつかぬまま

第二ラウンドが始まろうとしていた。


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