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壊し屋アモン  作者: イナナキゴロー
壊し屋アモン
36/78

ブラッド

神々の大地フーリエンで激しく打ち合う両者。


アモンとザケル。


アモンは己が力を頼りに。

ザケルは己が技を信じて。


舞う血飛沫は風に乗り

観客の元まで飛んでいく。


だが人々はそれを避けようとはしない。


命を賭けた男たちが流した血。

それはいわば聖水。


穢れを払い世を浄化する神の雫。

避けるべきものではなく、むしろ浴びるべきもの。


ギー少佐は二人の雫を浴びながら憂いた。


世が世ならザケルは軍人ではなく拳法家としての

人生を歩むべきはずだったであろうと。


この戦いにも軍人としてではなく

誇り高き戦士として臨むことができたろうにと。


たしかにザケルがスタジアムへの出場を打診したのは

ウォームのそしてギー少佐の都合であった。


大戦終結後の不平等な条約締結。

それにより高まる軍部内の不満。


散発的に繰り返されるパレナ領内での軍人のテロ行動は

それのガス抜きの意味合いが強かった。

ゆえにアモンへの雪辱戦はいわば必須事項。


そういうダーティな活動にはほぼ参加していなかった

ザケルはそのゴタゴタに今回、巻き込まれた格好だ。


だからこそ、ギー少佐はこういう不名誉な形での

ザケルの参戦を憂いたのだ。


そして、その命令を出さねばならなかった

ことを恥じてもいた。


しかしザケルの歓喜の表情を見てギー少佐は考えを変えた。


恐らくはそう今、叶ったのだ。

彼の夢が。


その時、突発的に吹く風。

婦人のスカートが少しめくれる程度の微風。


しかしその風で二人は打ち合いを止め

大きくよろめき後退した。


両者のダメージが限界を超えていたのだ。

微風さえもその身に影響を及ぼすほどに。


もうお互いにできることは後、一つか二つ。


ザケルは、両手を地面につけた。

これは構え。

彼のプライドを賭けた最後の技。


アモンもそれを受ける形で腰を低く落とし

身構えた。


両者の血濡れの顔から笑みが消えた。

一撃に賭けるための刹那の集中。


そして二頭の獣は駆け出した。


アモンvsザケル。

決着の時!


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