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壊し屋アモン  作者: イナナキゴロー
壊し屋アモン
34/78

スティール

アモンvsザケル


男が宙を舞っていた。


ザケルである。

それも自らの力ではなく、アモンという男に

足首を捕まれ振り回されているのだ。


85kgの男を片手で振り回すという異常。

アモンの膂力は尋常ではなかった。


アモンは少し逡巡した後、地面に叩きつけるべく

ザケルの軌道を変えた。


その時、脱力状態で力を温存していたザケルは

捕まれていた足首をアモンの親指の下側の方向に半回転させる。


結果、見事にザケルはアモンの手からの脱出に成功。

地面にすべるように着地した。


軌道変更で親指の力が緩む瞬間を狙ったのだ。


さらに人体構造上、親指の下方向へは抜けやすくなっている。

それを絶妙なタイミングで突いた形である。


再び向かい合う両者。


アモンは歓喜していた。


虎も鮫も巨象も本気を出せる力はなかった。

巨凶の男ブッチャーも満足できる相手ではなかった。


しかし、それよりはるかに非力なこの男が

こうまで自分を追い込んでくる。


探し求めてきた好敵手の登場。

その事実に歓喜したのだ。


アモンはゆっくりとパンプアップ。

着ていたTシャツが弾けた。


そこには人類最高峰といっても過言ではないほどにまで

張り詰めた鋼の筋肉があった。


さきほどよりも二周りは膨らんで見える。

ようやく体が温まってきたのだ。


大きなエンジンを動かすには時間がかかる。

つまりはそういうことである。


しばらくして準備の整ったアモンは猛然と

ザケルに向かっていった。


ザケルも雰囲気の変わったアモンの様子に気押されながらも

それを磐石の態勢で迎え撃つ。


そして再び疾るザケルのカウンター。

必殺のピオリムパンチ。


だが、アモンは倒れなかった。


首だ。

極度に発達した首の筋肉が

ザケルのパンチの威力を完全に殺していたのだ。

これが本来のアモンの筋肉。


ザケルはパンチの余力で前方に大きく体勢を崩した。

絶体絶命のピンチである。


だが、とっさにその崩れた体勢を利用して浴びせ蹴りをアモンに見舞う。

攻撃のためではない。間合いを離すためだ。


ザケルは蹴りの反発力を利用してなんとか後方へと逃れた。

相手の虚を突いたからこそ成功した軽技。

もう二度と通用しないであろう。


しかし驚くべきはアモンの鋼鉄の筋肉。

もはや顎への攻撃は意味をなさない。


そしてその拳の威力…


ザケルは肩口から出血していた。

カウンター時に交錯した拳が当たったのではない。


アモンの拳が大気を打ち

その際に生じた衝撃波がザケルを傷つけたのだ。


何という剛拳。何という力。


歓喜して笑うアモンとは対称的に

ザケルは引きつった笑みを浮かべた。


しかし、すでにアモン攻略法が頭の中に出来ている

ザケルは落ち着いた様子で

そのボクシングスタイルの構えを変えた。


それは拳法の構えであった。


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