第6話
「悠真そっちにもう一匹いったぞ!」
「任せて。 こっちは僕が抑えるから、先にクロの押さえてる方を優先して」
僕達は今、3匹のゴブリンと戦闘中だ。
一匹は雪奈が奇襲を仕掛けダメージを与えた後、リンが魔法で止めを刺したので、現在残りの2匹と絶賛戦闘中だ。
仲間がやられた事で僕達の存在に気づいたゴブリンは、すぐさま僕達を敵と認識襲い掛かってきたが、前にでたクロが盾を鳴らして相手を挑発して注意を自分に向ける。
2匹のゴブリンは見事にクロに釣られ、クロを攻撃し始めるが構えた盾でゴブリンが手に持った棍棒を上手く受け止め、もう一匹を大剣で牽制して相手に同時に攻撃を許さないよう上手く立ち回っている。
その隙に気配を消してゴブリンの背後に回りこんだ雪奈が、短剣でゴブリンの腕と足を狙う。 雪奈の場合、攻撃力が低いので直接のダメージといよりも腕や足を狙って相手の行動を阻害するのが狙いだ。
さらに、そこで雪奈に意識を向けると、今度はクロの後ろに隠れて隙を伺っていた隼人がスピードを活かして一気に距離を詰め、アーツとコンボでダメージを与えて行き、相手が攻撃に転じれば後ろに下がってクロが前に出る。
最初の失敗から、隼人は決して無理して突っ込むことはせず、周りをしっかりと見て動いている。
そうして前衛が時間を稼いでいる間に、後方ではリンが魔法の詠唱を完了させて魔法を放つ。
リンの強力な魔法により、ダメージを受けていたゴブリンがさらに一匹倒れるが、
「ギャギャ!」
増援に来たもう一匹のゴブリンが加わり、相手は再び2匹。
しかも、後からやって来たゴブリンはちょうど前衛と後衛の中間あたりから突然現れた為、クロの挑発が効かず真っ直ぐ後衛にいるリンとアスナを狙ってきた。
僕はリンとアスナの前に出て、ゴブリンを迎え撃つ。
パーティー内での僕の役割は、アタッカーでもなくタンクでもなく回復役でもない。 僕の役目は、バランサー.....前衛と後衛の中間の距離を持ち、その全てを情況に応じてこなすのが僕の役目だ。
今回で言えば、前衛を抜けて後衛に来たモンスターの足止めが僕の仕事となる。
「行かせないよ......チェーンウィスプ!」
鎖を鞭のように相手の前で二度、三度と地面を叩いて相手の意識を僕の方に向けるとゴブリンは僕に攻撃を仕掛けてくる。
ゴブリンは、緑の体に粗末な腰布を巻いただけの小さな鬼のモンスターだが、その手には剣だったり弓だったりと種類の違う武器をそれぞれ手にしている。
今回のゴブリンは剣を手に持っていて、その剣を乱雑に振りましている。
鎖を使う僕からすると、あまり近距離に近づかれると鎖を使い難くなるのところだが、
「マッドプール!」
予めゴブリンの進行方向に容易していた土魔術を発動させる。 すると、ゴブリンの足元の土がまるで底なし沼のように軟らかくなり、ゴブリンの体を土の中に引きずり込んでいく。 脱出しようとゴブリンは必死に動いているが、逆に動けば動くほど沼に嵌まっていき次第に身動きがとれなくなる。
土魔術は、他の魔法系統より使い勝手があまりよくないとされている。
このマッドプールにしても、ポイントを指定して発動させるのではなく、予め設置した場所に相手を誘いこまないと発動出来ない。 土魔術の多くは、こうした設置型や時間経過で発動するタイプの魔法が多い為、このスキルを使う者は魔法使いでも少ないそうだ。
「ファイヤーボール!」
僕が足止めしている間に、再び詠唱を完了させたリンが火の玉の魔法をゴブリンに動けないゴブリンに向かって放つ。
身動きがとれず、火の玉に身体を包まれたゴブリンはしばらくの間もがき苦しんでいたが、最後はあっけなく力尽きた。
前衛のゴブリンも、クロがしっかりと攻撃を防いで雪奈と隼人が的確にダメージを与えて無傷で倒しきってしまった。
【ゴブリンを倒した。 Lvが2に上がりました】
【固有スキル 万物創造スキルにより 精力増強ポーションを入手しました】
戦闘の終わりを知らせるメッセージが響き、同時に初めてのレベルアップがあった。
ついでに固有スキルも発動したけど.....何やら問題ありげなアイテムを手に入れてしまった......。
「お、レベルアップ来たぞ」
「うちもや。 ステータスポイントも増えてるみたいやな」
「ステ振りか....俺はしばらくはDPに振って防御力を高めるかな」
「私はやっぱり、もっと火力が欲しいのでAPかな.....」
「私はDPかなぁ.....私が崩れると回復役がいなくなっちゃうし」
「うちはAPやな。 今の戦闘で、火力足りんのがよう分かったし」
「俺もAPだな。 攻撃こそ最大の防御だからな」
皆は、レベルアップで得たステータスポイントをどちらに振るか話あっている。
ステータスがAPとDPの二つしかないので、伸ばしたい方向性は自然と必要な方に傾いてくる。
「悠君はどうするの?」
「・・・」
「悠君?」
「あ、ごめん聞いてなかった。 えっと、何の話だったっけ?」
「レベルアップで得たステータスポイントをどっちに振るかって皆で話してたんだよ。 ボーっとして、どうしたの?」
「うん。 最初の戦闘の時はいろいろあって忘れてたけど、固有スキルが発動してちょっとおかしなアイテムを入手しちゃてね......あぁ、僕はステ振りは交互にしてバランス良く上げていくつもりだよ。 何でも出来るよう、隙がないようにね」
「悠君らしいね~。 それで、さっきの戦闘でどんなアイテムを入手したの?」
僕はこれを女の子に教えていい物かと悩んだけど、結局パーティーボックスに入れてしまえば分かることなので皆にも見せることにした。
皆の視線が僕に集まる中で、僕はそれを手にして効果を説明する。
「こちらが、先ほどのゴブリンとの戦闘で入手した精力増強ポーションです。 効果は、飲んだ相手の精力を増強して興奮状態すること。 プラスして、このポーションを飲んであれをすると子供が出来る確率が上がるらしい.....まぁでも、今の僕達には必要ないよね.....」
以外にも、反応は違った。
普通こういうのを聞いて女の子は恥ずかしがるものだと思ったけど、三人でヒソヒソと話あってやる気? を漲らせている。
それに対し男連中のほうが顔を赤くしてそっぽを向いてしまっている。 どっちがどっち何だか分かりゃしない。
話に夢中になっている女子組みはおいといて、僕はもう一つのアイテムを見せる。
【ボアアーマー DP+7 衝撃耐性】
これが忘れていたけど、ボアを倒して手に入れた装備だ。
特性を活かしたということなので、ボアの長所であったあの強烈な突進を防具にしたら衝撃耐性になったってことなのだろう。
ちなみに、今僕達がしているギルドで貰った防具はどれもDP+2のものなので性能は段違いな上に、特殊効果の付いた防具は一階層ではかなりレアだ。
「これはクロが装備する方向でいいかな?」
「いいんじゃないか? 俺は動きが鈍るからアーマー系の防具はパスだし、悠真にしたって直接攻撃を受け止めるわけじゃないからな」
「だね。 クロの生存力が上がるれば、それだけパーティーの安定になるしね。 と言うわけで、はいクロ」
「遠慮なく貰おう。 これで皆をしっかりと守るからな」
クロは早速防具を着替える為にその場を離れた。
最初がボアで次が4匹のゴブリン。
本来複数のゴブリンは避けるべきだったんだろうけど、連携を見る上では挑んだ結果はまずまずで、目指す連携の形も確認が出来た。
ただ、肝心のクエストの方は殆ど進んでいないけどね......。
「悠君!」
そうしている間に、女子組みの話が終わったみたいだ。
「結論から言うと、それは使用禁止です。 悠君の子供は欲しいけど、こっちに来てまだ生活も安定してないのに子供を作るのはダメかなって...」
「そっか。 まぁ、こんな薬に頼らなくてもね....」
「とは言うもののや、今後それを使う時のことを考えて一度位は誰かが使ってみんことには効果が分からんやろ? せやから、今夜は皆でそれの実験をするからよろしく頼むわ」
「よろしくって....さっき子供が出来たらまずいって言ってたのに?」
「それはそれ、これはこれです。 幸いにも、私とアスナちゃんで避妊魔法が使えるので今日はそれを使います......」
「いや、そこまでしてこれを使わなくても......」
「ちゅうことで、さっさとクエストをこなして宿に帰ってするで!」
女の子がそんなに大声でするなんていっちゃダメだろ......。
それに、明らかに目の色が君変わってるよねたち......まるで、うえた狼のような目をして僕達を見ているけど、そこまでご無沙汰でしたっけ?
「ほらほら皆、急いでモンスターを狩るよ! 雪奈早くモンスターを探して!」
「任しとき!」
「リンちゃんは魔法の準備ね!」
「了解です!」
その後、やる気を漲らせた女子組みに導かれ、僕達は恐ろしくスムーズにモンスターを狩ってクエストを消化していった。
冒険者ギルドに戻ると、クエスト報酬とモンスターの換金もそこそこに、ギルド二階の部屋にそれぞれ連れ込まれ精力増強ポーションでお互い強化して激しい夜を共に過ごした。
文字通り、溺れるほどの夜を過ごした次の日は皆昼過ぎまで起き上がることが出来ず、結局その日はクエストにも行けず宿で休むしかなかった。
後に、精力増強ポーションはパーティー内で使用禁止になったのは言うまでも無い。