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第5話

 街の外に一歩でると、そこはもう僕達のまったく知らない世界が広がっていた。

 塔の中だというのに、空は青空が広がり太陽がギラギラと照りつける。 風に乗って草木の香りが頬を撫でれば、鳥の群れが頭上を飛び去って行く。 辺りを見渡せば建物らしいものは何もなく、緑豊かな草原と木々が生い茂る森が広がる。

 そんな中を、僕達六人は歩いていた。


「何か不思議な感じ。 ここが建物の中だなんて信じられないよ」


「普通にピクニックとか出来そう......」


 確かにそうだ。 扉を潜れば異世界でした.....何て、小説の中での事だとずっと思ってたけど、実際にこうして来てみると凄く不思議な感じがする。

 塔が出来て10年。

 塔から送られてくる内部の映像は、当時まだ幼かった僕達に夢を与えてくれるものだった。 屈強なモンスターを戦って倒し、見たこともない世界を旅して周り、未だ見ぬ塔の頂上を目指して冒険する人達の姿はとてもかっこよかった。

 今でもまだ、塔のことに関して詳しいことは分かっていない。 だが、謎が多いことを差し引いても、塔の世界での冒険は僕達を魅了してやまない。 


「ストップや皆」


 先頭を歩いていた雪奈が僕達を止める。

 そして、雪奈が指さした先には1m程度の猪が草を食べていた。


「あれはボアだね。 レベル2でゲージは黄だね」


 僕は鑑定スキルで得た情報を皆に伝える。

 このスキルで読み取れるのは、相手のレベルとゲージのみ。 ゲージはモンスターの強さを表すもので、相対する冒険者のレベルに応じて強さが青→黄→緑→橙→赤と変化して表示される。 基準となるのはソロでの戦闘能力で、青はソロで討伐可能、黄はソロだと互角、緑以上はソロで出会った場合余程の相性がよくなければ戦闘は避ける、橙と赤は死の危険が高くなるレベルだ。

 この場合、僕達と相手の差はそんな互角だけど、これがパーティー単位だと危険度は一段階落ちる。 なので、実質このボアはソロで討伐が可能なレベルだ。


「どないする?」


「そうだね、ここはまず奇襲を仕掛けてそれから....「おっしゃー! やったるぜ!」.....」


「あのバカはまた勝手に.....」


 作戦を決める間もなく、隼人がやる気を漲らせボアに突っ込んでいってしまった。


「仕方ない、僕達は隼人にフォローに回ろう」


 頷きあった僕達は隼人の後を追いかける。

 その間に、すでに隼人はボアの直ぐ近くまで辿りついていて、


「先手必勝! ストライクフィスト!」


 ボアの横っ腹に、隼人の放った格闘術のアーツである高速のストレートパンチが炸裂しボアを大きく吹き飛ばして大ダメージを相手に与えた。

 ちなみにアーツとは、術系の攻撃スキルに組み込まれている必殺技みたいなものだ。 アーツの使用にはMPを消費する上に、使ったアーツは一定時間の|リキャストタイム≪休息時間≫をおかないと再度使用が出来ないが、強力な技であることに違いはない。 アーツを使う技とタイミングが難しいが、逆に言えばそれさえしっかり出来れば戦闘の幅がそれだけ大きく広がるのだ。


「どうだ!見たか俺様の力を....痛っ!」


「アホ! 初手から大技使うバカがどこにおんのや! それにまた人の話を聞かずに勝手なことしよってからに...」


「説教は後。 まだアイツを倒したわけじゃないよ二人とも。 奇襲は成功したけど、逆に向こうを怒らせちゃったみたいだよ」


 起き上がったボアは鼻息荒く、鋭い怒りの目を隼人に向けると、力強く地面を蹴って突進してきた。


「クロは前に出て防御、アスナはクロに防御の補助魔法をかけて何時でもクロを回復出来るように準備、リンは魔法の詠唱急いで!」


 僕は咄嗟に三人に動きを指示したが、クロもアスナもリンも躊躇することなく動きだした。


「ブボォォォ!」


「来い」


 クロが盾を構えボアの突進を受け止める。

 クロの持つ鉄の盾とボアの牙がぶつかり、激しい衝撃音が響きクロが方膝をついた。


「クロ! ヒール!」


 それに慌てたアスナがクロに回復魔法を飛ばすと、ボアのターゲットがクロからアスナに切り替わり今度はアスナに向かって突進。


「やらせないよ!」


 僕は手に持った鎖をボアの身体目掛けて投げる。 鎖はボア身体に見事に絡みつき、鎖を引いてボアの突進を阻もうとするが僕よりボアの力の方が強く、スピードを緩めただけでズルズルとボアに引きづられる。


「ウィンドブラスト」


 そこへ、後方で魔法の詠唱が完了したリンの風魔法がボアを捉える。

 隼人の一撃で半分以上体力を奪われていたボアは、リンの魔法の威力に耐えることが出来ず、あっけなく地面に倒れた。


【ボアを倒した】

【固有スキル 万物創造スキルにより ボアアーマーを入手しました】


 ボアを倒したことを告げるメッセージが聞こえたことで、僕等はようやく一息つくことができた。 ついでに僕の固有スキルも発動したみたいだけど、今はちょっとそれどころじゃない......。

 クロはあまりの衝撃に思わず膝をついてしまったが怪我はしていない様子、反対にクロが膝をついたことで焦ってヒールを飛ばしてしまったアスナは自分の失敗に落ち込んでいる。 最初から上手く出来るわけじゃないのは分かっていたので、誰もアスナを責めることはしない。  それよりも、普段はオドオドしているリンが、今はアスナの側に寄り添ってアスナを励ましている。 結果的、リンは周りの情況をよく見て一番冷静に動いていたと思う。


 まぁ、今回の反省点を挙げるなら経験不足だろう。

 初めてのモンスターに、初めての連携、初めて尽くしで何をどうやったら良かったのか皆分かっていなかった。 それでも、個々に出来ることを理解して次に繋げようという思いは皆持っているので次からは大丈夫だと思いたいけど......


「さて、自分のした事が理解出来たかい?」


 僕は雪奈に怒鳴られ、むくれて納得がいっていない隼人に問いかける。


「俺は.....悪くない」


「そうだね。 何時もなら隼人が先走って暴走して、雪奈が文句を言ってそれで終わりかもしれないけど、分かってる? ここは外の世界じゃなくて、塔の中の世界なんだよ隼人」


「・・・」


「確かに結果から見れば、今回は何もなかった......でもそれは結果論であって、何か一つ遅れてれば誰かが怪我したかもしれないし、下手したら死んでたかもしれない。 そうなってたら、その責任は全て君にあったはずだよ隼人。 君が僕の話をちゃんと聞いて先走らなければきちんと陣形は取れたし、慌てて対応する必要もなかった。 今回の乱れは、すべて君の暴走から始まったてるんだよ隼人」


「.......俺は、皆を傷つけるつもりは何てなかった.....ちょっと目立ちたかっただけだ」


「隼人のいい所は、その行動力と前向きな姿勢だけど、ここじゃそれは返って皆の足を引っ張ることに繋がってしまう。 ソロなら自己責任ってことでいいけど、僕等はパーティーだ......誰かの失敗が死に繋がるかもしれない、だから皆失敗しないように慎重に行動してるし、誰かが失敗してもそれを補えるように注意してる。 それがチームワークでありパーティーで動くってことだと僕は思ってる。 だからあえて厳しい言い方をするけど、隼人が自分の失敗を悪いと感じてないならパーティーから抜けてくれないかな? 正直、今の君がいると僕達の命が危ないからね」


 厳しい言い方をしたけどこれは必要なことだ。

 僕達は仲間である前に、ここで生きている。 死と隣り合わせのこの世界で、自分の力で生きているのだ。

 生きてこその冒険であり、死んでしまっては何も残らないのだ。 

 その証拠に、厳しいことを言ったはずの僕に「言い過ぎだ」と言うものはいない......。


「......俺は、皆と一緒に冒険がしたい.....じゃないと、ここに来た意味がない......」


「そうだね。 僕も隼人と一緒に冒険がしたいよ。 だから、他に言うことがあるでしょ?」


「......皆、今回は俺が先走って危ない目に合わせて悪かった。 俺、分かってたつもりだけど、どっかでここは外の世界と同じなんだって勝手に思ってたのかもしれない......だから、誰かが怪我をする前に今の俺じゃダメなんだって気づけてよかったよ。 これからは俺、一人勝手な行動をしないようにして周りにも気をつける。 だから......一緒に冒険してもいいかな.....」


 そこで皆はフッと笑い、


「せやなぁ、誠意が感じられとなぁ?」


「ならば坊主にするのが一番だな」


「バリカンってこの世界にありましたっけ?」


「はさみならあるんじゃないかな?」


「最悪手で毟り取ればええやろ」


「「「それは流石に......ありかも?」」」


「しくしく.......パーティー内でいじめ起きている件について.......」


 

 そこで僕達には自然と笑顔が戻っていた。

 仲良き事は美しきかなってことだね。


「よっしゃ! 名誉挽回の為にも、モンスターを狩って狩って狩りまくるぞ!」


「切り替えの早いやっちゃなホンマに」


 そう言いながらも隼人の後を追いかえる雪奈はうれしそうだ。

 僕達のパーティーの冒険は始まったばかり、まだまだ問題はありそうだ。


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