第3話
僕達は6人で広場を出ると、外から来た者が最初による建物へと向かっていた。
その名も冒険者ギルドだ。
ここでは、僕達みたいな外からやって来てモンスターを狩って生活する者のことを冒険者、あるいは探索者と呼んでいる。 ここで冒険者として登録することで、モンスター素材を買い取ってくれるようになったり、モンスターの討伐クエストを受けたり出来るようになる。
さらに、先を行く冒険者の情報だったり、攻略済みのフィールドの情報も得られたりと冒険に役立つ情報を知ることが出来るようになるが、塔に入った者がまず始めに冒険者登録をする最大の理由は他にある。
それは.......
「あぁ、楽しみだなユニークスキル。 どんなスキルが貰えるんだろうな.....」
「せやなぁ.....隼人のことやから、猪突猛進とか悪運体質とか面倒事を起こすスキルがくるんやないか?」
「あ、それ隼人にピッタリだ」
「むしろ、それしかないだろうな」
「残念ながら.....」
「否定出来る要素がないよね」
「何だよ、何だよ! 皆して俺のことバカにして.....皆俺のことなんだと思ってんだよ....」
「トラブルメーカー?」
「チンピラ?」
「問題児?」
「不良少年?」
「単なるバカ?」
「「「「それだ」」」」
「しくしく....俺の扱いが酷い件について....」
と、まぁ、結論から言うと冒険者として個人情報を登録することで自分専用のユニークスキルが貰えるだよ。
このユニークスキル、能力が他のスキルに比べ強力なのは勿論のこと同じ物が二つと存在しない自分だけのスキルになる。 スキルの能力は、選択した種族だったりジョブだったり外の世界にいた頃の性格だったりを元にして生成されるので、まさに自分だけのスキルだと言える。
運試しの要素が強いのかもしれないが、兎に角ここに来て最初の楽しみがこれだろう。
「ここがそうみたいだね」
「よっしゃ、早速行こうぜ!」
「こら! アンタが一人先に行ったら、また問題起こすやろうが!」
ギルドに駆け込んでいく隼人の後を、雪奈が急いで追いかけが、僕達はそれを何時ものことのように焦らずゆっくりと追いかける。
すでに隼人はギルドの受付に辿り着き受け付けのお姉さんと話し込んでいたが、僕等が来たのを見つけると大きな声で手を振って僕等を呼ぶ。
「おーい、悠真こっちこっち!!」
「そんなに広い場所じゃないんだから、大声で人の名前呼ばなくても分かるって......恥ずかしい。 で、隼人はもう登録終わったの?」
「いや、まだだぜ。 登録自体はこの水晶玉に触れるだけで簡単に出来るらしいんだけど、これから一緒に冒険するならパーティ登録も一緒にしたらどうかって言われてさ」
「どうせ一緒に行動する予定何だからしとけばいいんじゃないの? それとも、誰かこのメンバー以外で行動しようって人いる?」
確認の為皆にも聞いてみるが、皆首を横に振って一緒に行動することに異存はないらしい。
「だってさ隼人」
「了解。 ならパーティ申請のついでに、注意事項も俺が聞いとくから悠真達は先に登録だけ済ませといていくれ」
「あいよ~」
普段は一人突っ走って皆に弄られてる隼人だけど、何だかんだでこういう纏め役を率先して引き受けて僕達を引っ張ってくれる。
僕達の中でリーダーは誰かと聞かれれば、それは間違いなく隼人だと皆答えるだろう。
「そう言うわけで、僕達は先に冒険者登録してしまおう。 誰からいく?」
「ここに来た順番でいいんじゃないか」
「なら、僕が最初だね」
僕は水晶玉の前に立って片手を水晶玉の上に乗せた。
すると、水晶玉がパァっと明るく光った。
『木之本 悠真 の個人情報が冒険者ギルドに登録されました』
『木之本 悠真 は固有スキル『万物創生』を習得しました』
冒険者登録が出来たことを告げるメッセージが頭の中に聞こえた後、今度は固有スキルを覚えたことを知らせるメッセージが同時響いた。
「登録完了したよ。 ついでに固有スキルもちゃんと貰えたよ」
「おぉ~、やったやん悠真。 ほな、次はうちの番やな」
僕の後に続いて雪奈が、その後アスナ、クロ、リンの順番で冒険者登録を済ませ、皆無事に固有スキルを獲得することが出来た。
そして、タイミングを見計らったかのようにパーティ登録を済ませた隼人が合流してきた。
「隼人以外登録は終わったよ。 まだ、それぞれのスキルの確認はしてないから隼人も早く済ませて来て」
「お、マジか.....ならちゃっちゃと済ませてくるかな」
最後の隼人が登録し終わるのを待って、僕達6人は晴れてこの世界で冒険者となった。
「そんじゃ、スキルの確認は最後のお楽しみにして、俺が聞いた冒険者だったりパーティーの説明を先にするけどいいか?」
「「「「「異議なし」」」」」
「よっしゃ。 そんじゃまずは冒険者についてだな。 皆、手の甲に印があるか確認してくれ」
僕達は、隼人に言われた通り手の甲を確認する。
すると登録の際に水晶玉に触れた方の手の甲に、剣と盾が交差した絵のが印されていた。
「この印が冒険者としてである証明だな。 ギルドでクエストを受けたり、街に出入りする時に身分の証明になるらしいから皆無くすなよ」
「無くすなってこれ、刺青なんか同じで既に身体に刻まれてるもん何やら無くしようがないやろ......」
「そこはあれだ.....ギルドに登録した時のお約束って奴だな」
「アホだ」
「アホだね」
「時間の無駄」
「時間が勿体無いかな...」
「バ~カ」
「しくしく......俺の扱いが酷い件についてその2.......って、最後の奴完全に俺の悪口だよな!」
と、まぁ、隼人の話が長いので要約すると、冒険者に登録したことでギルドの受付の横にあるクエストボードからクエストを受けることが可能になった。 クエストとは、モンスターの討伐だったり指定されたアイテムの納品だったりをこなすことで、お金やスキルが貰える仕事のことだ。
現状のことを言えば、僕達が外の世界で使っていたお金はこっちの世界では当然使うことが出来ないので僕達は今無一文で武器や防具すらない状態であるが、冒険者として登録したことで街の外のフィールドに出られるようになったし、ギルド二階の冒険者ようの部屋を無料で借りられるようになった。 さらに、初心者装備の武器と防具もギルドから貰えるそうなので一先ずの冒険者としての体裁はこれでとれたことになる。
お金の話が出たのでついでにこの世界での通貨についても説明しておくと、通貨単位は|G≪ゴールド≫で硬貨は全部で6種類ある。
鉄貨一枚1G → 銅貨1枚10G → 銀貨一枚100G → 金貨一枚1000G → 大金貨一枚10000G → 白金貨一枚100000G となる。
次にパーティーについてだけど、パーティーの最大人数は6人まで。 僕達はちょうど6人なのでピッタリだ。
パーティーの特徴はパーティースキルが使えるようになることだろう。
パーティースキルとはパーティーメンバー内で使える冒険に役立つスキルで、念話・配置確認・パーティーボックスの三つが使えるようになる。
念話は、パーティー内でのみ言葉を話さずに相手に意思を飛ばすことで会話が可能になるスキルだ。 モンスターの出るフィールドでは音に敏感なモンスターがいたりするので役に立つだろう。
配置確認は、範囲内にいるパーティーメンバーの位置を確認するスキルだ。 範囲は大体1k程度だが、何らか原因で仲間と逸れた時や生死の確認に役に立つだろう。
最後のパーティーボックスは、パーティー内で自由に出し入れが出来る空間収納だ。 容量は、パーティーメンバーのレベルの合計分なので今だと6種類のアイテムが収納可能だ。今後一番お世話になるスキルだろう。
ついでなので塔の話もしておくと、塔の内部の世界はアークザラッドと言う。 塔アークザラッドの世界は文字通り上に向かって一つ一つの階層で形成される塔型の強大なダンジョンだ。
僕達が今いるのは一階層で、一階層のフィールドの何処かにいるボスモンスターを倒すことで2階層に通じる階段が開放され2階層に行けるようになる。
最も、先を行く冒険者によって攻略された階層はギルドにあるワープ装置を使って飛ばして進むことが出来るので、いきなり最前線から攻略を始めることも可能だ。 ただ、ここはリアルであってゲームではない.......限りなく、ゲームに近い創りをしているのは確かだが死んでもやり直しが出来るわけではないので、そんな無茶なことをする人はまずいないだろう。
一般的に、階層×10レベルが通常モンスターのレベル範囲だとされ、ボスはそれよりもさらに10レベル前後高くなる。
なので、一階層を攻略するには安全マージンを考えた上で、最低でも30レベルは必要だが、先を行く冒険者によって攻略された階層は、ほぼ安全とも言えるほど情報が出尽くしている為、それに従えば危険になることは少ないが絶対ではない。
僕達の当面の目標は、レベルを上げて2階層を目指すことだろうけど焦る必要はない。
隼人から聞いた話を纏めるとこんなところだ。
「そんじゃ、お待ちかねの固有スキルの確認といきますか。 まずは俺からな.....俺の固有スキルは【不屈の闘志】、残りのHPに応じてApとDPが上昇する能力アップ系のスキルだ」
「へぇ、思ってたよりも隼人にしてはまともだね」
「まとも過ぎて面白くないな」
「笑いを取ってこその隼人やろ」
「空気ようもうよ」
「えっと.....ドンマイ?」
「しくしく......結局なにをしても俺の扱いが酷い件について......」
「あれはほっといて次はうちやな。 うちの固有スキルは【自由の意思】、ソロで行動する時に覚えているスキルの効果が上がるスキルやな」
雪奈戦闘スタイルでは、斥候としてソロで動くこともあるだろうから中々に相性のいい固有スキルだ。
「次は俺だな。 俺のは【堅牢なる盾】だ。 効果は、自身を含めパーティーメンバーの数だけ自分のDPが上昇するだな」
初期の段階でDP+6はかなり大きい。 元々クロはタンクをする前提で、DPの高いジョブと種族を選んでいることもあって守りに関してはまさに壁だ。
「つ、次は私ですね.....私のは【断罪の剣】、自身を含めパーティーメンバーの数だけ自分のAPが上昇するスキルです」
リンはクロの攻撃版だね。 あれだけ正反対な道に進んでいる二人だけど、何故かすれ違いは起こらず仲がいいから不思議なものだね。
「次は私の番だね。 えっと、私の固有スキルは【親愛の絆】で、私を含めたパーティーメンバーの経験値が2倍になるスキルだね」
「マジか! 経験値アップ系はかなりレアだぞ!」
「これはあれやな、気をつけんと「アスナが歩けばナンパに合う」をこっちでもやりかねへんな」
「容姿に加えスキルもいいとなれば引く手数多だな」
「悠真君も大変ですね....」
「大丈夫、私は悠君一筋だから浮気はしないよ!」
「うん。 アスナは僕が守るからね」
「おうおう、相変わらずラブラブだなお前等は......結婚式は何時だ?」
「そのうちね。 最後は僕のだけど、僕のは【万物創生】で、効果は倒したモンスターの特性を活かした武器・防具・アイテムをランダムで一つ貰えることだね。 貰えるのは、一種類のモンスターに対して最初に倒した一回だけみたい」
「それはまた、悠真らしいと言うか変わったスキルだな」
「せやな、悠真の万能性に磨きが掛かったきがするわ」
「良くも悪くも僕は器用貧乏だからね........さて、固有スキルの確認もすんだけどこれからどうする?」
と、僕が皆に聞くと、
「そんなの決まってるだろうが悠真......冒険に行くぞ!」
隼人がそう言うと、皆もそれを待っていたみたいで特に文句を言うものはいなかった。
「それじゃぁ、お金もないことだし今日は慣らしがてら簡単なクエストを幾つか受けてみようか」
「任せろ! 俺が飛びっきりのクエストを探してきてやるから、皆待ってろ!」
「こら隼人! 一人で勝手に動くなって何時も言ってるやろが! 待て!」
隼人がクエストボードのあるカウンターに向かった後を、雪奈が急いで追いかける。
あっちは雪奈に任せとけばいいかな。
「僕達は手分けして装備の貸し出しとフィールドの情報を調べようか」
「そうだな。 なら、装備の方は俺とリンが行こう。 皆の分もパーティーボックスに入れておくぞ」
「じゃぁ、そっちはお願いね。 僕はアスナと一緒に情報収集するから終わったら知らせてね」
クロとリンは、ギルドの倉庫に装備品を取りに向かっていった。
残された僕とアスナは.....
「行こっかアスナ」
「うん♪」
二人きりになれてうれしそうなアスナを連れ、僕とアスナはフィールドの情報を得る為に受付に向かった。
クエストボードの前で、隼人と雪奈が騒いでいたけど.......どうなることやら......。