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MJ(工事予定地)  作者: にわとり
英雄小話
8/8

英雄小話05 : 秩序の城

英雄機関本部最上階。

円卓状に配置された重厚な会議室。


耐爆ガラスの向こうには、復興途中の都市が広がっている。

歪にそびえる高層建築群と、未だ手つかずの瓦礫地帯。

その隙間を縫うように整えられた新しい街並みが、世界が完全には癒えていない現実を静かに語っていた。


すでに数名が席についていた。


真紅のフルフェイスヘルメットを被ったまま、足を組み、だらしなく椅子に沈み込む男。

第一支部長――MSDマン。


その正面。


背筋をまっすぐ伸ばし、微動だにせず座る女性。

銀髪ショートが陽光を受けて淡く輝き、氷の刃のような鋭さを思わせる。


第二支部長――マエル・シュヴァリエ。


腕を組み、椅子にもたれかかるように座る巨漢。

筋骨隆々の身体と、抑える気すらない荒々しい空気。


第三支部長――ギョーム・ラヴォワイエ。


その隣には、モノクル越しに静かに場を見渡す初老の女性。

泰然自若とした佇まいは、この場の空気そのものを掌握しているかのようだった。


第四支部長――ンジンガ・アム・トゥワナ。


そして、まだ若さの残る精悍な男。

姿勢は正しく、軍人のような緊張感を漂わせている。


第五支部長――マーカス・レヴィン。


最後に、白いスーツを軽く着崩し、余裕の笑みを浮かべる優男。


第七支部長――サーダナ・カマド。


(第六支部長は欠席)



「全員揃ったようだな」


ンジンガの低く落ち着いた声が響く。

それだけで、会議室の空気は自然と引き締まった。


「定例報告に入る。各管轄エリアのヴィラン組織の状況を」


真っ先にギョームが鼻を鳴らし、豪快に笑う。


「ウチのエリアで本部に名前挙げられてた連中はよ、俺様が残らず潰した」


太い指で円卓を叩く。


「よえーよえー。拍子抜けだぜ」


マーカスは軽く手を上げ、苦笑混じりに肩をすくめる。


「私のところは、そもそもヴィランに組織的な活動などさせていませんね」


「動きが見えた時点で潰す。それだけです」


サーダナが楽しそうに頷いた。


「同感だよ、マーカス君」


「我々第七支部は効率主義だからね」


「組織を作らせてから叩くなんて、回りくどいことはしないさ」


その瞬間。


「てめぇら……」


ギョームが机を叩き、立ち上がりかける。


「喧嘩売ってんのか!?」


筋肉が盛り上がり、椅子が悲鳴を上げる。


だが――


「ギョーム」


氷のように冷たい声。


マエルだった。


「落ち着きなさい。ここは戦場ではないわ」


鋭い視線が突き刺さる。


ギョームは舌打ちしながら腰を下ろす。


「……ちっ」


「で?」


「お前のとこはどうなんだよ、氷女」


マエルは眉一つ動かさず答える。


「私のエリアでは、改造人間型ヴィランによる犯罪が前月比で急増しています」


「英雄因子の闇流通が活発化している兆候も確認済みです」


サーダナが大げさに目を見開いた。


「それは大変だ、麗しの姫」


「もしよろしければこの後、私がお力をお貸ししましょうか?」


パチリ、とウインク。


「結構です、ミスター」


マエルは視線すら向けずに言い放つ。


「奥様をお大事に」


「……手厳しいなぁ」


サーダナは苦笑する。


マエルは続けた。


「また、前月問題として報告した子どもの連続誘拐事件は解決しました」


ンジンガが静かに頷く。


「よくやった」


「引き続き警戒を続けてくれ」


「承知しました」


ンジンガの視線が円卓の端へ移る。


「――では、第一支部は?」


「あん?」


MSDマンが気怠そうに顔を上げる。


「ウチか?」


「えーっとなぁ……」


突然、指を一本立てた。


「まず一つ」


「最近力つけてきてる組織がある」


「クライシスゲート」


一瞬、空気が張り詰める。


だが本人は気にも留めず、次の指を立てる。


「それとは別に、違法因子の売買ルートが二つ」


「あと、小規模だけどクソしぶといギャングが一つ」


「それから――」


三本、四本、五本。


指が次々に立っていく。


「えーっと……あ、そうだ」


「生きたまま人間バラす殺人鬼が一人いる」


沈黙。


会議室の空気が凍りついた。


だが――


MSDマンは満足そうに指を眺める。


「……今んとこ五つだな」


円卓を囲む全員の視線が、じっとりと突き刺さった。


ギョームがぽつりと呟く。


「……多すぎねぇか?」


マーカスも引きつった笑顔で続ける。


「それ、もう“治安維持できてない”のでは……?」


サーダナは額を押さえた。


「普通さ、報告って“ありません”って言うものなんだけどなぁ……」


だが当の本人はケラケラ笑う。


「何言ってんだよ」


「ちゃんと把握してるだろ?」


「これから潰す予定ってだけだ」


マエルが冷たい声で刺す。


「……他支部は“潰し終えている”のよ」


「第一支部だけが、これからなの」


「あぁ?」


MSDマンは首をかしげる。


「そうとも言うな」


「まとめて相手した方が燃えるだろ?」


さらに指を折り直す。


「まあ、正確にはまだ増えそうだけどな」


「六つ目ができそうな気配もある」


完全にアウトな発言だった。


ンジンガが深くため息をつく。


「第一支部……相変わらずだな」


ギョームが腹を抱えて笑う。


「色物支部って言われる理由がよく分かるぜ」


「戦場そのものじゃねぇか」


「うるせぇな」


MSDマンは肩をすくめる。


「世界が悪ぃんだよ」


「俺のとこに厄介なのが集まるだけだ」


マエルは静かに睨む。


「それを誇るように報告する神経が理解できないわ」


「誇ってねぇよ」


「ただ数えてるだけだ」


そのあまりの開き直りに、情けなさが限界を越え、会議室には思わず笑いが漏れた。


ンジンガも口元を押さえながら、穏やかに締めくくる。


「――それでも問題ない、という結論で良いか。第一支部長、MSDマン?」


指を立てたまま答える。


「問題ねぇよ」


「次までには五つのうち一つか二つは片付けとくわ、ババア」


「全部解決しなさい、馬鹿者!!」


マエルの鋭いツッコミが会議室に響いた。



「ま、結論としては」


マーカスが場をまとめる。


「現状維持ですね」


「支部間の均衡は崩さない」


「第一支部も潰さない」


「第二支部の戦果には引き続き期待」


「異議は?」


「ねぇよ」


ギョームが即答。


「賛成」


サーダナが軽く手を挙げる。


「問題ありません」


マエルも静かに頷く。


ンジンガが締めくくった。


「では、次回まで各自の管轄を守れ」


「この世界の秩序は、我々が支えている」


その言葉に、誰も反論しなかった。

次回予告


第二支部の氷の女傑――マエル・シュヴァリエ。

刀身のない、虚ろな剣を握り、彼女は祈る。


許されよ。許されよ。

罪深き悪人どもに、永遠の赦しと安息を。


それは、彼女の心に立てかけられた司法の剣。

人を斬らず、肉を斬らず。

音はなく、慈悲もない。


ただ――

幽かな救いを与えんがために走る、白の刃


英雄小話06 : 正義の剣

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