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MJ(工事予定地)  作者: にわとり
英雄小話
5/8

小話 03 : 夕月 ーゆうづきー

BAR ドレイク


くすんだ白熱電球の光が、夜の底に沈むように店内を照らしていた。

静かに回るレコードから、湿り気を帯びたジャズが流れている。

時間は進んでいるはずなのに、この店ではそれが信用できなかった。


カウンターの端。

高価そうなスーツを着た老年の男が、紫煙をくゆらせながらグラスの氷を遊ばせている。

英雄機関最高戦力――三光の一人、夕月のシジミトーゴロー。

今夜はただのシジミトーゴローだった。


「一人飲みですか」


いつの間にか背後に立っていた男が、細い眼鏡を指で押し上げ、その隣に腰を下ろす。

マスターに視線も向けず、短く言った。


「マスター、ウィスキーをロックでくれ」


老年の男は一瞥もくれず、天井に向けて煙を吐いた。


「猫彦か。久しぶりじゃな。

……どういう風の吹き回しじゃ」


「アンタに言われたくねぇよ」

猫彦は軽く笑い、グラスを受け取る。

「アンタ、場末の飲み屋で飲んだくれてる身分じゃねぇだろ」



猫彦は整った顔で皮肉っぽく笑いながら新聞を一部、カウンターに落とす。


パサ。


薄い夕刊記事の、さらに小さな記事枠がシジミトーゴローの目に入る。


「……ああ。そういや、死んだな」


淡々とした声だった。


「サイレンスとかいう、ヒーローの“紛い物”だそうです」

猫彦が新聞を指でなぞる。

「英雄機関に登録していないアマチュアのヒーロー。

無償で人助けをしていたとか」


「あぁ、聞いておる」


「青臭い子どもは、大人に殺されてしまうんですかね」


カラン、と乾いた音。

猫彦のグラスの中で氷が鳴った。


「純粋さを捨てられなかった大人は――殺されるな」


「でも、美しいものですよ」


「生き様がか?」

シジミは煙を吐く。

「ワシは汚くても、生き延びたいがな。

……ワシは“それ“を捨てた。お前は違うじゃろ」


「――誰に言ってんですか」

猫彦は呆れたように笑った。

「俺が誰だか、知ってるでしょ。アンタ」


シジミは猫彦を見ず、タバコの箱の尻を指で叩く。

飛び出した一本を慣れた手つきで咥え、火をつけた。


「美しい生き様。純粋な生き様。正しい生き様。

全部が全部、遠くで見た、一睡の夢じゃ。

……夢になってしまったな」


猫彦はもう、残り少ないウィスキーを眺めている。

二人の視線は、最後まで交わらなかった。


「夢はいつか覚めるもんですよ」

静かな声で言う。

「アンタは、いつまで寝てるつもりですか」


次の瞬間。

猫彦は懐から拳銃を抜き、シジミのこめかみに銃口を当て、引き金を引く。

瞬間、レコードの針が、一瞬だけノイズを噛んだ。


カチリ。


渇いた撃鉄の音だけが、店内に残る。


「躊躇いがないのう」

シジミは何事もなかったかのように言う。

「場数も踏んでおるようじゃ。昔よりも動作が速い」


グラスを揺らし、酒を流し込む。


「じゃが――

“弾が入っていない確率が1.56%もある”ようでは、

ワシ相手には不十分じゃな」


「……ですね」


猫彦は小さく息を吐いた。

「わかっちゃいたが、安心しましたよ。

アンタは、まだちゃんとした化物だ。」


拳銃をくるりと回し、コート裏のホルスターに納める。

そして立ち上がった。


「今日は……今日の飲み代は俺が出します」

ポケットからカードを一枚置く。

「マスター、請求書はここに送ってくれ。

じゃ、おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


ドアが閉まる音が、レコードの隙間に溶けた。

シジミは一人、煙草をくゆらせたまま、グラスを見つめていた。



――ショートメッセージ(猫彦)


いくら何でも飲みすぎです。

伝票見てびっくりしました。

何、一番高い酒から順番に5本ボトル開けてるんですか。

馬鹿じゃねぇの?

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