小話01 : 真昼 ーまひるー
リファイン予定のMJでやる予定のない小話です。
酒場を出ると、夜風が心地よかった。
安酒の酔いと、久々に親父殿と語った余韻が、足取りを軽くしている。
「いやぁ、今日はいい酒だったな……」
マイアヒーは伸びをしながら、人気のない裏路地へ足を向けた。
――その瞬間。
空気が、変わる。
背後、左右、前方。
五つの殺気が、示し合わせたように立ち上がった。
「……あ?」
軽い声。
だが次の瞬間、路地を埋め尽くすように現れたのは、武装した五人のヴィランだった。
黒い装甲服。
手には淡く光る刃――
分子結合を分解する新型・光刃ブレード。
「おいおい、マジかよ」
リーダー格の男が笑う。
「元・英雄機関の看板が一人歩きだぜ?
平和ボケしたか? 」
「五人同時なら、神でも切れる」
マイアヒーは、ため息をついた。
(……楽しい気分に、水を差しやがって)
静かに、怒りが沈殿していく。
「……やれ」
五人が一斉に踏み込み、
光刃が同時に振り下ろされる。
――だが。
止まった。
金属でも、結界でもない。
マイアヒーの身体で、
光刃は“触れたまま”、微動だにしない。
「……は?」
次の瞬間、焦ったヴィランたちは距離を取り、
サブマシンガンを乱射した。
「バラせ! 肉片も残すな!!」
爆音。
粉塵。
硝煙。
だが――
煙が晴れた先に立っていたのは、
服の焦げ一つないマイアヒーだった。
「……しらけるな。」
声が、低い。
酒場での軽口とは、まるで別人だった。
「弾と、技術と――」
視線を細める。
「命の、無駄だ」
ヴィランの一人が、震えながら叫ぶ。
「な、なにを……!」
マイアヒーは、ゆっくりと歩み寄り、
その男の鎧に、指先をそっと滑らせた。
――音もなく。
空間が裂けたように、
男の身体は肩口から腰まで、綺麗に分断される。
血が噴き出すより先に、
“結果”だけが確定した。
「今の俺の人差し指はな」
マイアヒーは、淡々と言った。
「『不変』だ」
空気が、凍りつく。
「どんな現象よりも、
どんな法則よりも、
どんな運命よりも――優先される」
彼は指を、空中で軽く振る。
シュッ、と。
指の軌道に沿って、空間そのものが裂ける。
線の先にいたヴィランが、
紙細工のように解体されていく。
「や、やめろ……!」
残った者たちは、武器を捨て、泣きながら膝をついた。
「た、助けてくれ……神様……!」
マイアヒーは、冷たく言い放つ。
「――もう遅ぇ」
指先が、たおやかに動く。
「神を切れるなんて滅多なこと言うんじゃないよ。」
心底鬱陶しそうに、髪を掻いて動かなくなった敵を見据える。
それは戦闘ではなかった。
ただ、指先が、いずれ滅びゆく定めの者の身体を通り過ぎただけ。
やがて――
ヴィランたちは二度と動かなくなった。
静寂。
マイアヒーはしばらく、その場に立ち尽くしていたが、
やがてスマホを取り出し、通話を繋ぐ。
「……ああ、親父殿?」
血の匂いが漂う中、
声はいつもの軽さに戻っていた。
「なぁ、呑みなおさねぇか」
『――嫌じゃ』
即答。
「えー、あんた偶には後輩の我儘を聞く度量を見せろよ」
『……やれやれ』
通話を切り、マイアヒーは踵を返す。
路地に残されたのは、結果だけ。
そして夜は、
何事もなかったかのように、静かに流れていく。




