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MJ(英雄小話)  作者: にわとり
英雄小話
13/24

英雄小話07 : 他我合一(ワンネス)(前編)

今回短いです。前編と後編の間に別の小話が挟まります。

第六支部庁舎前。


重厚な建造物の正面に、黒塗りのリムジンが静かに滑り込む。


タイヤが止まると同時に、運転手が素早く降り立ち、後部シートのドアを開いた。


深く、恭しく頭を下げる。


その前にはすでに、第六支部の所属ヒーローたちがずらりと隊列を組み、微動だにせず直立している。

誰一人として視線を逸らさない。

空気そのものが張り詰めていた。


ゆったりと。


まるで時間の流れだけが彼女の周囲では違うかのように。


リムジンから降り立ったのは――

ンジンガ・アム・トゥワナ。


初老とは思えぬほど背筋は真っ直ぐ伸び、動きに一切の無駄がない。

モノクル越しの視線は静かでありながら、周囲を完全に掌握していた。


第四支部長。

英雄機関において“盟主”とさえ呼ばれる存在。


その一歩が地面を踏むたび、空気が引き締まる。


隊列の先頭に立つ男が一歩前へ出た。


第六支部所属ヒーロー――龍啓タン。


顔には明らかな緊張が浮かんでいる。


「ンジンガ様……」


喉を鳴らし、深く頭を下げる。


「わざわざご足労いただき、誠に恐縮です。病床の第六支部長に代わり、心より感謝申し上げます」


「良い」


短く、柔らかな声。


だが、そこに感情の揺れは一切ない。


「状況の説明を」


歩き出すンジンガ。


龍啓タンは慌てて後を追い、早口気味に報告する。


「はっ! 第六支部内の最大派閥が結託し、離反の動きを見せました!」


「我々も当然抵抗しましたが、力及ばず……現在、庁舎内部は完全に占拠されています」


「支部長不在とはいえ、ここまでの失態。申し訳ありません!」


ンジンガは歩みを緩めることなく問う。


「英雄機関を軽く見過ぎだな」


静かな声。


「それとも、先がないと分かった上での決死隊か」


「そこまでの覚悟があるようにも思えんが」


わずかに視線だけを向ける。


「要求や目的は?」


龍啓タンは首を振る。


「いえ……現時点では何も」


「ただ、英雄因子の横流しを、どこかのヴィラン組織と行っていた形跡は掴んでいます」


「既に保護の密約が結ばれている可能性も……」


「なるほど」


ンジンガの声は変わらない。


「それまで保つとでも思ったか」


一瞬の沈黙。


「敵ヒーローのランクの最大値は?」


「Bプラスが一人」


龍啓タンは即答した。


「オレグ・カラディン。次期支部長候補と目されていたほどの使い手です」


ンジンガは足を止める。


ほんの一瞬、庁舎を見上げた。


巨大な建物の奥に広がる、反乱の巣。


「分かった」


振り返る。


「もう良い。下がれ」


「……は?」


龍啓タンの目が見開かれる。


「い、いえ! そうおっしゃられても――!」


「流石にお一人では危険です!」


声が上ずる。


「支部長不在を理由に、全支部でも指折りの高ランクヒーローが多数集められているのですよ!」


「一人で突入など――」


その言葉を遮るように。


ンジンガは、ほんのわずかに微笑んだ。


「お前は」


静かで、優しい声。


「優秀なヒーローだ」


「巻き込んで殺したくはない」


その瞬間。


龍啓タンの背筋を、冷たいものが走った。


慈愛に満ちた言葉。

だがそこに含まれるのは――


“巻き込めば死ぬ”という、絶対の前提。


この人は、戦うことを危険だとは思っていない。

ただ、自分以外がそこに居れば死ぬと判断しているだけだ。


だからこそ、下がれと言った。


龍啓タンは喉を鳴らし、動けなくなる。


ンジンガは静かに踵を返した。


「待機していろ」


「すぐに終わる」


その背中は、あまりにも穏やかで――

これから大量の死が訪れるとは、とても思えなかった。

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