表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の輝き  作者: ぴん
1章
9/53

終わりの始まり

「マウア、あんたも少し休みな。マリーナはあたしが見てるから。」


「うん。」



裏士(リーナ)さんの気づかいで、俺は自分の部屋に行った。部屋に入った瞬間、緊張が解けたのか疲れがドッと出た。閉めたドアにもたれたが、背中がずれ落ちてその場にへたれこんだ。そのまま、ただじっと窓の外をボーッと眺めていた。ふと気がつくと、辺りが暗くなり始めていた。


リホに、会いに行くか…。


一階で食事の支度をしていた裏士(リーナ)さんに挨拶をして、俺は店を出て約束の丘へ向かった。



今思えば、リホと共にバイラインと戦った時から、気持ちは決まっていたんだろうな。デリーの見舞いに行った時もそうだ。そして、ナイクさんの死…。リホにハッキリ口に出して言えなかったのは、俺の心の弱さだ。怖かったし、信じられなかったし、現実をどこかで認めたくなかったんだろう…。



「はぁ…。もうすぐコロシアムの見える丘か…。」



帽子(キャペリン)からスッ伸びた薄桃色の髪を風になびかせながら、座ってコロシアムを見下ろしている天士(リホ)を見つけた。


あの帽子、マリーナの言った通りだな。



「リホー!」


「マウア…」



「遅くなってごめん。昼間、色々あってさ。」



気持ちを切り替え、天士(リホ)の隣に座って明るい声で言ったつもりだったが、天士(リホ)の表情は雲ってしまった。



「また、悪魔が出たのね。」


「うん…」



知ってたんだな…。



「あ、あのさリホ。リーナさんから聞いたんだけど、これだけ悪魔が出現するって事は…やっぱり異常なのか?」


「うん。復活の儀が迫っていると思う。」



復活の…儀…。



「なんか、名前からしてヤバそうだな。」


「私は、封印の儀を行う為に存在しているの。それが、天士として生まれた私の宿命だから…。」


「そっか。」



あの時…私に命を頂けませんか?と言ったリホは、自分に言い聞かせる意味もあったんだろうな。俺の命を頂く…か。



「リホ。俺たちは、世界の犠牲になるんだな。」


「うん…。」


他に方法は…希望はないのか…。



「数百年前、初めて悪魔がこの地に現れてから、何度も何度もこの世界は救われてるの。多くの命を犠牲にして、天士は悪を封印した…。今はまた、その悪が甦ろうとしているの。」


「俺たちの命を引き換えにして、悪魔を封印するって事か…。それで、リホは納得してるんだよな?」


「うん。」



天士(リホ)の目に迷いはない。



「そうだよな。やっぱり覚悟は出来てるんだよな。アハハ。」


「マウア?どうして笑うの?」



「ごめんな。あれから色々あって、正直自分でもどうすればいいのかよくわからなかったんだ。でもリホを見て、なぜかホッとした。俺のやることがハッキリ見えたからだと思う。そしたら、悩んでいたのがバカかしくなっちゃって、つい笑っちまった。」


「怖くはないの?」


「そりゃー怖いさ。不安でどうしようもない。俺が本当に世界を救えるのか?なんて思うと、逃げられるなら逃げたい。でも、どうやら逃げられそうにないから、それなら俺は笑っていたい。リホにも、笑顔でいてほしい。だって、俺たちはヒーローじゃん?」


「フッ、ウフフッ。」


「だろー?」



「あなたでよかった。私は運命だって諦めていたけど、あなたとなら前向きでいられる気がする。ありがとう、マウア。」


「そ、そっか…。なんか照れるな。」


「フフッ。」



「あっ、そうだ!リホ腹減ってないか?リーナさんからさ、本人自信作のパンを貰って来たんだ。はいっ、これ。食べてみろよ。うまいぜ!」


「うん。ありがとう。わぁ~、これおいしーい!」



「リーナさん特性、キャラメルバターロール。

うまいだろ?」


「うん、初めて食べた。」



「コーヒーもあるぞ。えーっと、砂糖とミルクはどこだっけ…」



「私、ブラックでいいわよ。」


「え?」



「うん?変な事言ったかしら?これおいしーぃ!」


「あ、いや、何でもないよ。そっか、リホがブラック好きでよかったよ。砂糖もミルクも忘れちゃったみたいで。ちっ、ちなみに俺も、ブラック派だからなっ!」


「じゃあ、いつか家に来て!私がコーヒー入れてあげる。」


「そっ、そりゃ楽しみだなー。」



うっ、やっぱりブラックは苦いな…。



「マウア見て、試合が始まったわ!」


「ホントだ。ちょっと遠いけど、ここって意外に見えるんだな。」



「私ね、あなたの試合は全て見てるわ。ここからだけどね。」


「マジ?じゃあ、コロシアムに来たのは、偶然じゃなかったのか?」



「そうよ。あなたに会いに行ったの。」


「そうだったのか…。」



「こんなことになる確信はなかったけどね。ただの天士(てんし)の感?かな。」


「また感かよー!」


「え?また?」


「あ、いや。リーナさんにも同じことを言われたからさ…。で、リホ、これからどうするんだ?」


「うん。復活の儀はまだ先だと思うの。だからそれまでは、悪に操られる魔人もそうだけど、魔物も何とかしなくちゃいけないわ。」



「魔物もいるのか…。そいつも封印するのか?」



「封印はできないの。倒すしかないわ。」


「そうか…。あのさリホ。バイラインを倒した時、リホが放った光が弾けただろ?あれが封印か?」



「ううん。あれは浄化よ。あのようになってしまった人間は、もう手遅れなの。残念だけど仕方ないわ。」


「そっか…。」



俺は、バイラインと訓練生の命を奪った。


手遅れと言われても、辛いよな…。



「じゃあ、魔物には何か手がかりとかあるのか?」


「魔物は、普段は力を隠してるの。だからわからないわ。」


「大変そうだな…。」




「リホ様、お迎えにあがりました。」



突然、後ろから声をかけられた。


リホ…様?この人たちは誰だ?



「初めまして。私は、堕天士長(だてんしちょう)のミラと申します。」




堕天士(だてんし)?」


「マウア、ビックリさせてごめんね。私の護衛の方たちよ。」



「じゃあ、やっぱり昨日の追っ手って…。」


「そう、堕天士よ。私も確信がなかったから、ごめんね。」


「いや、俺の方こそごめん。護衛か。さすがは天士様だな。だけど、あの(バイラインを倒した)時、コロシアムにはいなかった…よね?」



「申し訳ありません。あれは我々の責任です。どうかお許しを。」



「あれは私が勝手にコロシアムに行っちゃったの。どうしてもマウアに会いたくて…その…。もっ、もうこの話はおしまいにしましょ。ね?マウア、またね。」


「あ、あぁ。」



天士(リホ)は数人の堕天士(だてんし)と共に、街とは違う方向へ帰って行った。


よくわからない…。リホが慌ててた上に、天士(てんし)闇士(やみし)裏士(うらし)に、今度は堕天士(だてんし)か…。うーん…天士に近づくなとも言われたのに、何もなかったけどいいのかな?とりあえず、俺も帰るか。





「リホ様、生け贄に対してそのような感情は、封印の儀に支障を招きかねません。」


「ミラさん…わかっています。わかってるけど…」



「以後、お気をつけ下さい。」


「…。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ