訓練場での戦い2
訓練生の小さな体がみるみる膨らんでいく。突き刺さった矢は勢いよく太ももから飛び出し、腹の傷も同時に塞がっていった。そして雄叫びを上げた瞬間、鋭い爪の生えた両腕を同時に降り下ろした。
「グワァァァ」
「きゃぁー!」
闇士の悲鳴が訓練広場に響いた。俺たちの方へ背を向けて歩いていた闇士は、気づくのに遅れ風圧だけで壁に叩きつけられてしまった。俺は、交差した両腕で風圧から自分を守るのが精一杯だった。
くっ。まだこんな力を残していたのかよ。
回復したってことか?
「ハッ!」
あれは…何だ?
「これは!!…チッ。」
ナイクさんが身を引きながらがく然としてる。
あれも悪魔だって言うのか?確かにバイライン(悪魔)も信じられないくらい筋肉が盛り上がった。でも、訓練生は筋肉どころか体が3メートルはあるじゃないか!
さらなる危機を感じた俺は、すぐさま闇士の救出へ向かった。
「マリーナ!しっかりしろ、マリーナ!!」
ダメだ、気絶してる。
「マウア!奴が完全に魔人化する前に、マリーナを連れてそこから逃げろ!」
魔人化!?
「グワァァァ」
「うおっ…。」
すげぇ圧力。動けねぇ…。
「早くしろ!」
「はっ、はいっ!!」
「くそっ、嫌な記憶がよみがえるぜ。」
俺は、なんとか闇士を背負って走った。
バイラインの時は、魔人化なんてなかったぞ…。リホがいたから?わからねぇ…。今はとにかくマリーナを…。
「本当に最悪になっちまった…。シフ団長、見守っていて下さい!」
走りながらナイクさんを横目で見た俺は、ナイクさんがあの剣を抜いた姿を目にした。
「くっ、やはりこの剣はキツいか…。だが俺が…片付けるしかない!」
「グオォォァァァ」
「チッ!長くはもたねぇな。」
「ナイクさん!俺もやります!」
「なっ!?」
闇士を訓練生に任せた後、俺は再び戻った。
ナイクさんの覚悟を無駄には出来ない!俺だって、やれるはずなんだ。
「お前、なぜ戻ってきた!その剣では通用しないぞ!」
「…。」
「聞こえてないのか?ダメだマウア、止めろ!!このバカヤロー!」
ブシュ
「なにっ!?奴の左手から出血だと?…信じられん。本当に傷をつけやがった…。」
どうやったんだ?また記憶がない…。でもいける。この化物相手でも、俺は闘えるんだ!
「プッ、アハハ。相変わらず無茶な奴だ。マウア!魔人の弱点は尻尾だ。俺が援護する。お前はその隙を狙え!」
「はいっ!」
「いくぞマウアー!」
「うぉぉぉぉ!」
俺はジャンプして魔人の腕を上へ誘導した。すぐに下からナイクさんが魔人の両足首に素早く斬りかかり、魔人が一瞬怯んだ。着地した俺は、その隙に背後へ回り込んだ。すかさずナイクさんめがけて魔人の両腕が降り下ろされる。しかし、ナイクさんは狙い通りとばかりに両の手のひらへ剣を刺し貫いた。
「よし!動きは止まったぁ!今だマウアー!」
ナイクさんの合図と同時に、俺はしっぽを確認した。勢いそのままに斬りかかる。
しっぽ…
「グッ、グオゥァァァ」
やったか?
俺の目に、地面へ落ちたしっぽが映る。
よし!やった。やったよナイクさん!
「ナイクさん!」
反応がない。ナイクさん?
「ハッ!」
俺の目に、魔人の足元に大量に流れる血が映った。
「ナイクさーん!」
叫びながら正面へ回ると、魔人はナイクさんの剣から右手のみを引き抜き、鋭い爪でナイクさんの胴体を貫いていた。俺はすぐに魔人の爪を斬り裂き、血まみれのナイクさんを運ぼうとした。
急げ!出血が多い…爪を抜いたらさらに血が…くそっ。
「ナイクさん!しっかり…、ナイクさーん!!」
「いいんだ。よくやった、マウア…。」
「ナイク…さん…」
「この剣を抜いた時から、俺は死を覚悟していた。この剣は…うっ、普通の人間が使ってはいけない。なっ、7年前…、マリーナの父シフ団長も、それを知りながら…闘った。この世界を…守る為に…うぐっ。これでやっと、シフさんに顔向けできる。あの時止めてくれた恩返しが、少しはできた…か…な。」
「何言ってんだよ。全然足りねーよ。俺とだって、また勝負してくれるんだろ?勝ち逃げなんて…許さねーよ…。」
涙が止まらねぇ…。
「ばっ、バカヤロー。ちゃんと…教えただろ?敵を確実に倒す時は、力なきものが援護に…回れと。」
「そんなの、納得…できないよ…。」
「うぐっ。後は頼む。この国を…みんなを…頼んだ…ぞ。」
ナイクさん?
「うわあぁぁぁぁぁ!」




