訓練場での戦い
最悪…やっぱり、また悪魔が出たってことかよ!
「マウア、悪いが先に行って様子を見てくれ。俺もすぐ行く。」
「わかりました。マリーナはここにいて。」
「マウちゃん、何言ってるの?アタシも行くよー。」
「はぁ?」
そりゃ、珍しいものかもしれないけど、野次馬じゃないんだからさ。これは遊びじゃないし、相手は悪魔かもしれないんだ。頼むから言うこと…。
「って、おい!マリーナ!」
「マウちゃん、おいてくよー。」
マリーナは走って先に行ってしまった。
あのバカ、殺されに行くようなもんだぞ!
「まっ、待てよー!マリーナ!」
すぐに後を追った。建物の出口に近づくと、訓練生たちがざわついている。扉を開けて訓練場広場に目をやった瞬間、すぐに俺は確信した。
「グオゥゥゥゥ」
一人の訓練生が苦しみにも似たようなうめき声をあげている。
マリーナはどこだ!?
「マウちゃん、こっちこっち!」
マリーナは広場の隅に座っていた。悪魔と思われる訓練生とマリーナの距離は、離れてこそいるが危険だった。
「マリーナ、のんきな事言ってる場合じゃないだろ!みんなも早く、そいつからもっと離れるんだ!これ以上説得しても意味はない!」
あの充血した目…。バイライン(悪魔)と同じ目だ。ここには護衛団はいないし、ナイクさんの連絡待ちか…くそっ、足が震える。でも、俺が逃げる訳にはいかない!
「君、剣借りるぞ。」
「あ、はい。」
実戦用の剣を取った俺は、苦しみながら動けない訓練生を前に、少し距離をおいて身構えた。
襲ってきたらやるしかない。ちくしょう…まだ混乱してるって時にこれかよ。
「マウア先輩!」
先程会った後輩が、木刀ではなく真剣を持って俺の横に走って来た。
「お前も早く逃げろ!」
「何言ってるんですか。俺の実力、見てて下さいよ!」
まだ動こうとしない訓練生に、後輩は斬りかかってしまった。
「ばっ、待てっ。」
「うわぁぁぁぁ!」
後輩を払い退けるように、訓練生は後輩の腹部に裏拳をいれた。
奴は警戒していなかったはず…。本能なのか?反射速度が恐ろしく速い。
俺は、倒れて気絶した後輩を抱え上げ、他の後輩へその身を託した。
リホはいないし、一体どうすれば…。
「えいっ!」
なっ!?
俺の耳に甲高い声が響いた瞬間、訓練生の右太ももに矢が刺さった。
「グウゥ…」
誰だ?何が起きたんだ?
「マウちゃん邪魔邪魔。当たっても知らないからねー。えいっ!」
「マリーナ!?」
再び放たれた矢が、今度は左太ももへ突き刺さる。
「グウゥゥ」
奴が苦しんでる。マリーナの矢が効いているのか?
「トッドメー!」
叫んだマリーナは、いつの間にか持っていた2本の短剣で襲いかかった。左右の腕を横に伸ばし、マリーナは飛び跳ねるように素早く近寄る。両手に持つ短剣を逆さに持ちかえ、矢の激痛で暴れる訓練生の腹をクロスに切り裂いた。
「はい。お疲れ様。」
訓練生は力なく倒れた。
マリーナってこんなに強かったのか?でも、悪魔を倒したってことは、マリーナもリホの言う特別な人間??
「彼女は闇士さ。」
「ハッ?ナイクさん?え?闇士って何…?」
「ナイクさん、遅い遅い。アタシがもう片付けちゃったよー!」
混乱する俺を無視するかのように、闇士は勝ち誇った顔で俺たちの方へ歩き始めた。
「助かったよマリーナ。出来ればこれは、使いたくなかったからな。」
ナイクさんが、背負っていた剣を地面に置いた。
「ナイクさん、その剣は何か特別なものですか?」
「これはな、闇士と同じ能力が宿る剣だ。俺には通常扱えない代物…何っ!」
急に驚いたナイクさんの目線を追った。そこには、闇士が倒したはずの訓練生が、異様な姿で立っていた。




